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《キリストと『邪悪』とに、何の調和があるか。信者と不信者とに、何のかかわりがあるか。
神の宮と偶像とに、何の一致があるか。》
(新約聖書『コリント人への第二の手紙』より)
ワルドは杖から疾風を放って驚く観衆を吹き飛ばすと、
呆然とするルイズを攫い、グリフォンに乗って飛翔、逃走する。
「『ウェールズの命』、『アンリエッタの手紙』、そして『虚無の担い手』ルイズ。
三つともこの僕が、そして『レコン・キスタ』が頂戴した! ハハハハハハ」
朝の空は雷雲に覆われ始め、城の外では『レキシントン号』が号砲を放ち、総攻撃の合図とする。
松下は『魔女のホウキ』に飛び乗り、グリフォンを追った。
「きょ、『虚無』? 伝説の? 担い手って、私が? …ワルド、放して! あなたは騙されてる!」
「いいや、可愛いルイズ。きみの起こす魔法での爆発、それにあの人間の使い魔。
彼の『右手』に刻まれたルーンは、伝説の『ヴィンダールヴ』のもの。
きみは確かに『虚無の担い手』さ。まだ使いこなせていないだけのこと」
ワルドは真赤な眼を見開いて、取り憑かれたようにしゃべり続ける。
「そして僕はきみを手に入れる! 世界を我が物にできるんだよ! 素晴らしいだろう」
「何を言っている、貴様に世界はもったいない。『レコン・キスタ』とか言う貴族連中にもだ」
松下がホウキで追いすがり、『黄色い粉』を撒いて空中に香辛料の霧を発生させる。
霧は風に逆らって進み、ワルドの眼に生き物のように入り込むが、疾風でまた吹き飛ばされる。
「使い魔くん、この僕に敵うとでも? きみには呟くか、逃げることしかできないさ」
「じゃあ呟いてやろう。『呟き』は『呪詛』だ」
松下が地面を指して呟き、念を凝らすと、大きな『土精』の片腕が伸びてグリフォンの後脚を掴む。
そのままグリフォンは地面に叩きつけられるが、ワルドはひらりと飛び降り、『飛翔』で飛び去ろうとする。
「『風のスクウェア』相手に遠距離射撃や追撃戦は無謀だな。キュルケたちが来てくれていれば…」
瞬間、松下の目の前に『もうひとり』ワルドが現れた!
「何!? うわっ」
ワルドは杖から『雷雲』を放ち、松下を撃墜する!
「『風』の上位魔法、分身を作り出す『遍在』だ…これで邪魔者も片付いたな」
そう呟くと、『遍在』も風のように姿を消した。
砲撃が始まった。ワルドたちは城の裏側へ回るが、そこにも敵兵が満ちている。
「hoら、るイズ。あそkoが僕たちの…」
ぐにゃり、とワルドの口、いや『顔』が歪み、融けるように崩れた。気化している。
ルイズは全身に鳥肌が立つ。『直感的』な言葉が口をついて出る。
「あ、悪魔だわ! あなたは『悪魔』に憑かれているのよ!」
「何wo言うんだルイズ。酷いじゃあナいka」
『ワルドの形』が崩れていく。それは黒い霧のように、ルイズを冷たく抱きしめる。
「あ、あ、あああああああ、いやああ」
凍えるほど寒い。夢の中で見た憧れの子爵様、ワルド子爵の姿が醜く崩れていく。
霧というより『煙』か。悪臭のする煤煙がルイズの肺を満たそうとする…。
「悪魔よ、しりぞけっ! 『照魔鏡』だ!」
雷撃で重傷を負いふらついた松下だが、『占い杖』でルイズの居場所は分かる。
落ちたグリフォンを操って城を飛び越え、ワルドを『照魔鏡』で照らし出す。
すると『光』が闇を撃ち払い、ワルドの体からぶわっと黒い煤煙が剥ぎ取られる。
「きゃああああ!!」
ワルドは、いた。老人のように痩せこけ、白髪だ。眼だけが炯炯と輝いている。
その眼を光に潰され、ぎゃっと叫んでルイズを放す。
どさりとルイズは城内の地面に落ちる。ワルドはそのまま宙高く舞い上がり、煤煙がそこへ再結集する。
大気が震え、大地が揺らぐ。妖気が塊となる。
黒雲の中に現れたのは、巨大な『眼』であった。
毛むくじゃらの黒い球体のような、空間の裂け目から何者かが覗き込んでいるような、不気味な単眼。
眼を合わせるだけで、並みの者なら狂死してしまいそうな異様な魔力。
「あれは…バックベアード……!」
「な、何よあれ!!? 黒雲の中に『眼』みたいなものが…!」
「あれを見ちゃダメ。取り殺される」
キュルケ・タバサ・ギーシュは、どうにかフーケをやり過ごし、シルフィードでニューカッスル城へ追いついていた…。
「「『東方の神童』よ、始めまして。いや、『先代』にも会ったかな? はははははは」」
空中からエコーのかかった声が響き渡る。月ほどもある『眼』に驚いてか、敵勢の攻撃も止まった。
「「私は『バックベアード』。時空の隙間より世界を見張る、大いなる『眼』なり」」
「知っている。そのワルド子爵に取り憑いていたのは、お前か?」
「「左様。この者は両親の死後心身を病み、闇に取り憑かれた。『執着心』とも言おうか。
それで私が少々力を貸してやったのだが…生まれついての実力はあるが、器が小さいねえ」」
ルイズはきっと『眼』を睨み据え、きっぱりと言い放つ。
「ワルド様の体と心を、返して! 悪魔!!」
「「ははははは、小娘、私の『魔眼』を見据えて死なないとは。さすが『虚無の担い手』だけはある。
きみに免じて、と言いたいが、彼にはまだ利用価値があるのだよ」」
『バックベアード』は実に愉快そうに哄笑する。眼も嬉しげに歪む。
「「安心したまえ。今日はきみと戦う気はないよ。
私はそもそも『こちら』の存在ではない。ある者に呼び出されたまでのこと。
彼に借りを返さねば、私の面子が立たない」」
「誰だ!? そいつは」
妖気に圧されながら、松下が叫ぶ。
「「……おお、伝えていいと彼から『霊波』が来たぞ。
うむ、『悪魔ベリアル』だ。そいつが裏で糸を引いている」」
「『ベリアル』!!」
「「私は『悪魔』というより『妖怪』。悪巧みは愉しいが、操られるのは性に合わん。
…さて、『皇太子の命』と『王女の手紙』、たしかに頂いたぞ。小娘は返してやろう。
私はここらで、お暇するとするよ。さらばだ『東方の神童』マツシタくん」」
ごおおーーっという強風とともに、『バックベアード』はワルドもろとも消え去った…。
空の黒雲から雨が滴り落ち、遠雷も鳴っている。
先ほどの『魔眼』の出現で、不用意に見てしまった将兵が何百人となく死んだようだ。
敵も味方も混乱していた。さすがに松下も『雷雲』のダメージが深く、昏倒する。
(結局、今回出来た『コネ』は王女だけか。まあ、妖怪だの悪魔だのから挑戦は受けたが…な)
「マツシタ! マツシタ、しっかりして! こんな怪我…」
ルイズにはもう何も出来ない。『イーグル号』は混乱の中、急いで出発してしまった。
グリフォンも『ヴィンダールヴ』の支配を逃れ、敵陣へとワルドを追って行った。
「ルイズ! マツシタくん! 乗って!!」
救援が来た。キュルケとタバサとギーシュが、シルフィードに乗って迎えに来たのだ。
「ほら、早く!」
ルイズは怯えながら、松下を背負ってシルフィードに乗る。こんなに軽かったのか、このクソガキは。
降りしきる雷雨の中、風竜は悲劇と惨劇の舞台となった『ニューカッスル城』を飛び立つ。
「この雷雨で火薬も湿気ちゃうんじゃない?」
キュルケが軽口を叩くが、『レキシントン号』から轟音とともに砲弾が斉射され、城門が崩れ去る。
落城だ。誰も助かるまい。アルビオン王家は終わりを告げ、新国家が生まれる…。
(つづく)
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《キリストと『邪悪』とに、何の調和があるか。信者と不信者とに、何のかかわりがあるか。
神の宮と偶像とに、何の一致があるか。》
(新約聖書『コリント人への第二の手紙』より)
ワルドは杖から疾風を放って驚く観衆を吹き飛ばすと、
呆然とするルイズを攫い、グリフォンに乗って飛翔、逃走する。
「『ウェールズの命』、『アンリエッタの手紙』、そして『虚無の担い手』ルイズ。
三つともこの僕が、そして『レコン・キスタ』が頂戴した! ハハハハハハ」
朝の空は雷雲に覆われ始め、城の外では『レキシントン号』が号砲を放ち、総攻撃の合図とする。
松下は『魔女のホウキ』に飛び乗り、グリフォンを追った。
「きょ、『虚無』? 伝説の? 担い手って、私が? …ワルド、放して! あなたは騙されてる!」
「いいや、可愛いルイズ。きみの起こす魔法での爆発、それにあの人間の使い魔。
彼の『右手』に刻まれたルーンは、伝説の『ヴィンダールヴ』のもの。
きみは確かに『虚無の担い手』さ。まだ使いこなせていないだけのこと」
ワルドは真赤な眼を見開いて、取り憑かれたようにしゃべり続ける。
「そして僕はきみを手に入れる! 世界を我が物にできるんだよ! 素晴らしいだろう」
「何を言っている、貴様に世界はもったいない。『レコン・キスタ』とか言う貴族連中にもだ」
松下がホウキで追いすがり、『黄色い粉』を撒いて空中に香辛料の霧を発生させる。
霧は風に逆らって進み、ワルドの眼に生き物のように入り込むが、疾風でまた吹き飛ばされる。
「使い魔くん、この僕に敵うとでも? きみには呟くか、逃げることしかできないさ」
「じゃあ呟いてやろう。『呟き』は『呪詛』だ」
松下が地面を指して呟き、念を凝らすと、大きな『土精』の片腕が伸びてグリフォンの後脚を掴む。
そのままグリフォンは地面に叩きつけられるが、ワルドはひらりと飛び降り、『飛翔』で飛び去ろうとする。
「『風のスクウェア』相手に遠距離射撃や追撃戦は無謀だな。キュルケたちが来てくれていれば…」
瞬間、松下の目の前に『もうひとり』ワルドが現れた!
「何!? うわっ」
ワルドは杖から『雷雲』を放ち、松下を撃墜する!
「『風』の上位魔法、分身を作り出す『遍在』だ…これで邪魔者も片付いたな」
そう呟くと、『遍在』も風のように姿を消した。
砲撃が始まった。ワルドたちは城の裏側へ回るが、そこにも敵兵が満ちている。
「hoら、るイズ。あそkoが僕たちの…」
ぐにゃり、とワルドの口、いや『顔』が歪み、融けるように崩れた。気化している。
ルイズは全身に鳥肌が立つ。『直感的』な言葉が口をついて出る。
「あ、悪魔だわ! あなたは『悪魔』に憑かれているのよ!」
「何wo言うんだルイズ。酷いじゃあナいka」
『ワルドの形』が崩れていく。それは黒い霧のように、ルイズを冷たく抱きしめる。
「あ、あ、あああああああ、いやああ」
凍えるほど寒い。夢の中で見た憧れの子爵様、ワルド子爵の姿が醜く崩れていく。
霧というより『煙』か。悪臭のする煤煙がルイズの肺を満たそうとする…。
「悪魔よ、しりぞけっ! 『照魔鏡』だ!」
雷撃で重傷を負いふらついた松下だが、『占い杖』でルイズの居場所は分かる。
落ちたグリフォンを操って城を飛び越え、ワルドを『照魔鏡』で照らし出す。
すると『光』が闇を撃ち払い、ワルドの体からぶわっと黒い煤煙が剥ぎ取られる。
「きゃああああ!!」
ワルドは、いた。老人のように痩せこけ、白髪だ。眼だけが炯炯と輝いている。
その眼を光に潰され、ぎゃっと叫んでルイズを放す。
どさりとルイズは城内の地面に落ちる。ワルドはそのまま宙高く舞い上がり、煤煙がそこへ再結集する。
大気が震え、大地が揺らぐ。妖気が塊となる。
黒雲の中に現れたのは、巨大な『眼』であった。
毛むくじゃらの黒い球体のような、空間の裂け目から何者かが覗き込んでいるような、不気味な単眼。
眼を合わせるだけで、並みの者なら狂死してしまいそうな異様な魔力。
「あれは…バックベアード……!」
「な、何よあれ!!? 黒雲の中に『眼』みたいなものが…!」
「あれを見ちゃダメ。取り殺される」
キュルケ・タバサ・ギーシュは、どうにかフーケをやり過ごし、シルフィードでニューカッスル城へ追いついていた…。
「「『東方の神童』よ、始めまして。いや、『先代』にも会ったかな? はははははは」」
空中からエコーのかかった声が響き渡る。月ほどもある『眼』に驚いてか、敵勢の攻撃も止まった。
「「私は『バックベアード』。時空の隙間より世界を見張る、大いなる『眼』なり」」
「知っている。そのワルド子爵に取り憑いていたのは、お前か?」
「「左様。この者は両親の死後心身を病み、闇に取り憑かれた。『執着心』とも言おうか。
それで私が少々力を貸してやったのだが…生まれついての実力はあるが、器が小さいねえ」」
ルイズはきっと『眼』を睨み据え、きっぱりと言い放つ。
「ワルド様の体と心を、返して! 悪魔!!」
「「ははははは、小娘、私の『魔眼』を見据えて死なないとは。さすが『虚無の担い手』だけはある。
きみに免じて、と言いたいが、彼にはまだ利用価値があるのだよ」」
『バックベアード』は実に愉快そうに哄笑する。眼も嬉しげに歪む。
「「安心したまえ。今日はきみと戦う気はないよ。
私はそもそも『こちら』の存在ではない。ある者に呼び出されたまでのこと。
彼に借りを返さねば、私の面子が立たない」」
「誰だ!? そいつは」
妖気に圧されながら、松下が叫ぶ。
「「……おお、伝えていいと彼から『霊波』が来たぞ。
うむ、『悪魔ベリアル』だ。そいつが裏で糸を引いている」」
「『ベリアル』!!」
「「私は『悪魔』というより『妖怪』。悪巧みは愉しいが、操られるのは性に合わん。
…さて、『皇太子の命』と『王女の手紙』、たしかに頂いたぞ。小娘は返してやろう。
私はここらで、お暇するとするよ。さらばだ『東方の神童』マツシタくん」」
ごおおーーっという強風とともに、『バックベアード』はワルドもろとも消え去った…。
空の黒雲から雨が滴り落ち、遠雷も鳴っている。
先ほどの『魔眼』の出現で、不用意に見てしまった将兵が何百人となく死んだようだ。
敵も味方も混乱していた。さすがに松下も『雷雲』のダメージが深く、昏倒する。
(結局、今回出来た『コネ』は王女だけか。まあ、妖怪だの悪魔だのから挑戦は受けたが…な)
「マツシタ! マツシタ、しっかりして! こんな怪我…」
ルイズにはもう何も出来ない。『イーグル号』は混乱の中、急いで出発してしまった。
グリフォンも『ヴィンダールヴ』の支配を逃れ、敵陣へとワルドを追って行った。
「[[ルイズ!]] マツシタくん! 乗って!!」
救援が来た。キュルケとタバサとギーシュが、シルフィードに乗って迎えに来たのだ。
「ほら、早く!」
ルイズは怯えながら、松下を背負ってシルフィードに乗る。こんなに軽かったのか、このクソガキは。
降りしきる雷雨の中、風竜は悲劇と惨劇の舞台となった『ニューカッスル城』を飛び立つ。
「この雷雨で火薬も湿気ちゃうんじゃない?」
キュルケが軽口を叩くが、『レキシントン号』から轟音とともに砲弾が斉射され、城門が崩れ去る。
落城だ。誰も助かるまい。アルビオン王家は終わりを告げ、新国家が生まれる…。
(つづく)
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