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ゼロと魔砲使い-06 - (2008/03/10 (月) 17:46:49) のソース
#navi(ゼロと魔砲使い) &setpagename(第五話 決闘) 「ね、一体なにがあったのよ」 騒ぎを聞きつけてルイズがこの場に現れたとき、真っ先に反応したのはギーシュだった。 「ルイズ、君の使い魔は正気か!」 「なによいきなり。人の使い魔になんて事言うのよ」 もっとも、続きを聞いたとたん、ルイズも青ざめた。 「決闘を申し込まれたぁ?」 「そうだ! 君の使い魔は、よりにもよって僕に決闘を申し込んだんだ!」 付いてきたキュルケとタバサも絶句する。 「ちょ、ちょっと、なのは! 一体なにがあったのよ! 平民が貴族相手に決闘を申し込むなんて! 冗談抜きに死んでも文句言えないのよ!」 「勇気と無謀をはき違えるのはよくないわよ」 キュルケもさすがに見過ごせずに忠告する。 だがなのはの返答は二人の予測を超えていた。 「ご主人様。そんなに自分が、自分の呼んだ使い魔が信用できませんか?」 ルイズの目がまん丸になった。 キュルケは思わず杖を握りしめてしまった。 その影でタバサの目が、学院では決してみせることの無かった光を放っていた。 そう、彼女の雰囲気は一変していた。 なぜだか三人は三人とも、目の前にいるのがメイドではなく、王に仕える騎士に見えてしかたがなかった。 「ルイズ、頼むから言い聞かせてくれ。いくら決闘を申し込まれたからと言ったって、女性に手を上げるわけにはいかないじゃないか」 「そうよなのは。なにがあったかはとにかく、わたしはあなたが傷つくところなんか見たくないわ!」 ルイズは思い出す。昨夜、彼女は言った。自分はむしろ護衛の方が得意だと。 軍に近い組織にいたとも。 おそらく、普通に戦えばギーシュに勝つのは簡単なのだろう。だが彼は。 当然のことながら、ルイズはギーシュが得意とする魔法を知っていた。一対一の決闘では、そう易々とは勝てない、ある意味卑怯とも言える彼の魔法を。 「あのねなのは。ひょっとしたらあなたは見た目によらず強いのかも知れないけど、それでもメイジに、貴族に挑戦するのは無謀すぎるわ! わたしみたいのならともかく」 ルイズは必死に説得する。 「たとえドットのメイジでも、平民とは雲泥の差なの。特にギーシュの得意な魔法って、腕に自信があったって平民じゃまず勝てないわ。相性が悪すぎるもの」 だがなのはは言い切った。彼女にしては珍しい、傲慢きわまりない言葉で。 「負けませんよ、この程度の相手に」 繰り返すが、元機動六課の同僚がこんな言葉を聞いたら絶対に逃げ出している。なのはが格下相手にこんな言葉を吐くとしたら、それは心底怒っているときしかあり得ない。百歩譲って何か思惑があってのことか。 そしてこの言葉に反応したのはギーシュだった。 さすがにこれは見過ごせない。たとえ相手が女性だろうが子供だろうが、これを無視するわけにはいかない。小さい子供が無邪気に言ったのだとしても尻を叩いて叱るくらいはしなければならない。 ましてや女性とはいえ、れっきとした大人に言われたのなら。 「いいだろう、その決闘、受けてやる! 場所はここではまずいな。残りの仕事が終わったらヴェストリの広場に来たまえ。君の思い上がりを打ち砕いて差し上げよう!」 「なのは!」 ルイズが蒼白になってなのはにすがりつく。これもまた珍しいことだった。今度はキュルケの目が丸くなる。 「嘘……そんなに気に入ったの? あのルイズが人前で弱音を吐くなんて」 そんなキュルケとルイズを、タバサは少し不思議そうに見つめていた。 そしてキュルケにささやき声で聞く。 「親友?」 「悪友よ」 切って捨てるように、それでもどこか微笑みながら、キュルケは答えた。 ヴェストリの広場は、無数の野次馬で埋まっていた。よりにもよってあの[[ゼロのルイズ]]の使い魔が、無謀にもメイジに決闘を申し込んだというのだ。それもあの女には甘いギーシュが決闘を受けざるを得ないほどの侮蔑を受けてのことだという。 そしてその様子を、遠くからマジックアイテムを通じて見ている人物がいた。 オールド・オスマン。この学院の学長である。 その隣には、このことを知らせに来た女性が立っている。ミス・ロングビル。緑の髪も麗しい妙齢の美女である。 「なんとまあ、あのギーシュ・ド・グラモンがおなご相手に決闘とはのう。これはよほどのことを言われたと見えるわい」 「そんな悠長なことを言ってていいのですか? 学長。騒ぎを気にしている教師達から、『眠りの鐘』の使用許可を求められておりますが」 「放っておけ。子供の喧嘩にいちいち秘宝なんぞ使うな、馬鹿らしい」 「では、そのように取りはからいます……学長」 「ん? まだ何かあるかの?」 ロングビルはすっと足の位置をずらした。最後に幾分勢いを付けて踏み込まれたその足が、足下をうろついていたネズミの尾を見事に踏んづけた。 「あぎゃっ!」 奇声とともに尻のあたりを押さえて飛び上がる学長。 「が・く・ちょ・う、あれほど使い魔を使って下着を覗くのはやめてほしいと言いましたけど」 学長はあわてて逃げ帰ってきた使い魔のハツカネズミ、モートソグニルのしっぽを優しくさすっていた。 「むう……さわるのは自重すると約束したから覗くくらいいいではないか。減るわけじゃなし」 「減ります。わたしの心の忍耐という部分が減ります」 「ま、それはそれとして、どうやら始まるようじゃぞ」 そういわれてロングビルもマジックアイテム――『遠見の鏡』をのぞき込んだ。 「ギャラリーも充分集まったようだね。そろそろはじめようか」 ギーシュは待ち人がやってきたのを確認すると、巧みにアピールしつつ宣言した。 反対側からやってくるのは生意気な使い魔、タカマチナノハ。背後からルイズとキュルケとタバサが、介添人のように付いてくる。 先頭を歩くなのはの足取りにはおびえの色など全くなく、知らぬ人が見たらその姿は従者を三人引き連れた女騎士かと思っただろう。 さて、表面上は堂々とかっこつけているギーシュであったが、内心には一抹の、いや、かなり多量の不安が渦巻いていた。 ギーシュも武門の貴族だ。父はこのトリステイン王国の元帥。軍人としては超エリートの家系である。そのギーシュの拙い目でも、相手の女性はあまりにも堂々としていた。 ギーシュは、ギーシュだけは判っていた。 少し時間をおいて冷静になってみれば判ることなのだ。あそこまで露骨な挑発をしたということは、彼女はおそらく自分の勝利を確信している。驕りではなく、事実としてそのことを認識している。 何かまだ隠し球がある、ギーシュはそう睨んでいた。 一方、なのは達は。 「ねえ、本当に大丈夫なの?」 「ご主人様。あたしを、自分の召喚した使い魔を、もっと信じてください」 この期に及んでまだ不安がっているルイズと、それをいなすなのは。 そんな二人を温かく見守るキュルケ。 じっとなのはに注目するタバサ。 「あ、ここまでで。ここからは、わたし一人で」 みんなを後に残し、なのはは前へと進み出る。 ギーシュとなのは、二人の視線がぶつかり合った。 「さて、そろそろはじめようか」 ギーシュはそう言い放つとともに、いつも手にしている造花の薔薇を振るった。 ギーシュが小さな声で詠唱する中、はがれ落ちた一枚の花弁が地に触れる。 そのとたん、まるで大地から生えてくるかのように、見事な造形のブロンズ像が現れた。 ほぼ等身大の人型で、その姿は優美な戦乙女。 これこそが、ギーシュの最大にして得意な魔法であった。 「改めて名乗ろう。僕はギーシュ・ド・グラモン。二つ名を『青銅』のギーシュ。君の相手は、僕の操る、この『ワルキューレ』がお相手いたしましょう」 初めて見たものはギーシュの造形の確かさと、ワルキューレの動きのなめらかさに驚嘆し、よく知るものは「うお、本気かよ」「いくら何でもやり過ぎじゃ」などと意見を交わしていた。 そして当事者のなのはは。 「見事ですね。確かにこのままでは勝てそうにありませんわ、ご主人様の言ったとおり」 「今ならまだ降伏を認めるよ」 一見弱気なことを言うなのはにすかさずギーシュが合わせる。もっともギーシュも、そんなことはないと判っている。 彼女のことだ。このままではない何かがあるのだろう。 「わたしも、本気で行かせていただきます」 そういうと、彼女は首からさげていたペンダントのようなものを手にした。よく見ると、それには真球と思われる真紅の貴石が付いている。 それを左手で持つと、その手をすい、と真横にのばした。 「風は、空に」 そしてその手をすっと真上に上げる。 「星は、天に」 次の言葉と同時に、その手はまっすぐ前方へ、腕を伸ばしたまま下ろされていく。 「輝く光はその腕に」 続いて伸ばしていた手を胸の前に持って行き、貴石を親指と人差し指でつまむように持つと残りの指を握り込んだ。 「不屈の心はその胸に!」 彼女の言葉とともに、ぼんやりと光を放ちはじめる貴石。 ギーシュだけではない。ルイズも、キュルケも、タバサも、まわりの観客も、そして遠見の鏡でその様子をうかがうオスマンとロングビルも。 なのはの一挙手一投足から目が離せなくなっていた。 そしてなのはは、最後の、そして決定的な言葉を口にした。 胸に当てた手を勢いよく側方に突き出すとともに、 「レイジングハート、セット・アップ!」 「Stand by Ready, Set-Up」 なのはの声とともに、貴石にほんのりと文字が浮かび、どこからともなく女性のものらしき声が響く。 そう思った瞬間、貴石は爆発したかのような強い光を放った。 あまりの光量に、その場の全員の目がくらむ。そのほんのわずかの間。 いち早く視力を回復したルイズは、目に飛び込んできた光景に唖然とした。 それは彼女に限ったわけではない。全員がそうであった。 なのはの姿は先ほどまでのメイド服と一変していた。 サイドポニーからツインテールに変わっている髪型。 白をベースに、青い縁取りのされた服。類似するものが思いつかない斬新な形態の上着に短めのスカート、そしてそれを取り巻く鎧のように、一回り長い覆いが前方のみを開ける形でついている。 だが、何よりも目を引いたのは。 先端に巨大な真紅の貴石をまるで浮いているかのように取り付けている、長大なまでの『杖』。 なのははそれを左手で軽々と振るうと、とん、と自分の左側に突き立てた。 「な、なのは、あなた、メイジだったの? 貴族だったの?」 ルイズが声を震わせながら問いかける。なのははいつもと変わりないまま答える。 「わたしは魔導師ですけど貴族ではないですよ。ほら、杖は持っていますけどマントはしていないでしょ?」 そう答えつつも、その脳裏には金髪の親友がバリアジャケットを纏った姿が映っている。 (フェイトちゃんがこっち来て変身したら、絶対貴族だと思われちゃったね) ちなみに親友の変身後の姿には、杖とマントが付属している。 (確かに。それとマスター) (なに? レイジングハート) みんながあっけにとられている間、なのははレイジングハートと念話で会話している。 (モード変換と同時に、左手の紋章が発動いたしました。そのため、この紋章との間に擬似的なコンタクトが成立。具体的な能力がある程度判明いたしました。とりあえず現状問題はありません。詳細は後ほど) (ん、今はこっちに集中しないとね) そしてなのはは、改めてギーシュと視線を合わせ、少し胸を張ると、高らかに名乗りを上げた。 「時空管理局本局武装隊、航空戦技教導隊所属戦技教導官、高町なのは一等空尉、参ります」 ただの平民だと思っていた使い魔の変わりっぷりにルイズがおたおたしている脇で、キュルケは隣の親友の様子が少し変なことに気がついた。 「どうかしたの、タバサ」 「あの人、たぶんものすごく強い」 キュルケは親友の口調が、また固くなっていることに気がついた。 ちょっとヤバい方に気が行っている印だ。 「よく判るわね」 それをそらすべく話題を振る。固いままであったが、返事は打てば響くように帰ってきた。 「彼女、教導、っていった」 「言ったわね」 「ねね、それってどういう意味なの?」 タバサの言葉にルイズまで食いついてきた。キュルケはしめしめと思いつつするりとルイズに合わせる。ちなみにキュルケは教導の意味を知っていたが、そんな様子はおくびにも出さない。 「わたしにも教えて」 「簡単に言えば、教官の先生」 「教官? 軍の?」 「そう。先生に教えられるような人、つまり」 そこでタバサは不動の構えを取るなのはをじっと見つめる。 「所属する軍の中で、上から数えた方が早いくらいの腕利き」 「騎士隊長クラスって事ね」 「団長クラス」 キュルケの相づちを、タバサは訂正した。 「さて、ギーシュ君」 あっけにとられたまま、戦うことも忘れていたギーシュになのはは声を掛ける。 「今のうちに言っておくけど、それ一体きりじゃ、あなたの勝ち目はゼロよ。そうね……たぶん後六体くらいは出せると思うんだけど、さすがに操りきれない?」 「な、何故判った」 つい真面目に答えてしまうギーシュ。 「確かに僕の最強は七体のワルキューレによる一斉攻撃。でも何故それを」 「ふふ、答えはその薔薇よ。見たところ後六枚花弁が残っているから」 「く……その通りだ」 渋々認めるギーシュ。 「けど、あなたに魔法が使えると判ったからには、掛け値なしに全力で掛かりますよ」 そして再び造花の杖を振るギーシュ。 それに合わせて、六体のワルキューレが出現した。 「なら、一つだけこちらもあなたに合わせてあげる、ていうか、そうじゃないと決闘にならないし」 「なにを?」 聞くギーシュに対して、なのはは軽く杖を動かした。彼女の体が、ほんのわずかだが、ふわりと浮き上がる。 「これ以上高くは飛ばないようにするからね。あなたのワルキューレ、飛べないでしょ?」 図星であった。相手に飛ばれたらワルキューレの戦闘力は激減する。 「じゃ、はじめようか」 その後の光景は信じられないものになった。 なのはは超低空飛行というか、ホバリングしたような状態でゆらりゆらりと、立ちポーズを崩さずに移動する。ただそれだけなのに、七体ものワルキューレの攻撃がことごとく空を切る。 「もったいないなあ」 攻撃をよけつつ、なのはは言った。 「これ、すごい能力だよ。造形、召喚速度、操作。どれをとっても一流だと思う」 ギーシュは答えない。答える余裕がない。 「でも、わたし、よけるのは苦手なのに、それでもよけられちゃう。連携がダメダメ」 なのははワルキューレのパンチや体当たりを、巧みに時間差の機動でかわす。 「動きも画一的だし、陣形もおざなり。せっかく数の優位があるのに、これじゃ意味なしだよ」 そういうと彼女は、一度距離を取って静止した。 「……どういうつもりだ?」 ギーシュがいぶかしげに言う。対するなのはの答えは。 「ちょっと考え直さないと全然意味ないよ。仕切り直し、しよ」 そしてこんなことまで言った。 「今度はなるたけ動かないようにするから、ちゃんと考えて攻撃してね。君のこの『ワルキューレ』は、もっともっと強くなれるよ。ギーシュ君が魔法だけじゃない、いろいろなことをうんと勉強すれば」 「くそっ、負けるものか。はっきり言って決闘自体はもう明らかに僕の負けだけど、せめて一発はぶん殴る!」 なのはの言葉で何かに火が付いたのか、ギーシュは今までとは比べものにならないくらい真剣な表情で杖でもある薔薇を握りしめた。 決闘は長引いた。昼休みが終わってもギーシュはやめようとせず、大半の生徒が教室に戻ってもギーシュはなのはに向かい続けた。 そして決着が付いたのは夕刻。それまで受けに徹していたなのはに、ついに攻撃魔法を使わせた。 その戦いにおいては、なのはのアクセルシューターでワルキューレ六体を吹き飛ばされつつも、使い魔のジャイアントモール、ヴェルダンデの掘削能力とのコンボによる地下からの奇襲でなのはの隙を突き一撃入れるのに成功。 それを見届けたのと同時に、精神力切れでギーシュもぶっ倒れた。 この決闘を最後まで見続けていたのは、ルイズ、キュルケ、タバサの三人と、鏡を介して見ていたオスマンだけだった。 「やっと片が付いたの……どっちもタフなのね、意外と」 「ギーシュ、別人」 二人のツッコミも無視して、ルイズはなのはの元に駆け寄る。 「呆れた……むちゃくちゃ強かったのね、なのは。その気になってたら瞬殺だったんじゃない? それになんなの、この魔法。系統魔法でも先住魔法でもないわよね」 「一応、ミッドチルダ式魔法、といいますけど、ここでは見かけませんというか、根本から違うみたいですね」 「ま、それはちょっと置いとくわ。それより一つ聞いていい? なんで決闘なんかしたの。負けるわけ無いのはよ~~~~く判ったけど、それだけじゃないでしょ」 「どうして、そう思いました?」 ちょっと驚いたようになのはが問い返す。 「まだ一日しかつきあってないけど、何となく判るわよ。あなた、意味なくこういうことする人じゃないわ」 「ばれました?」 なのはは歳に似合わないいたずらっぽい笑みで答える。 「これで少しはご主人様の評価が改まれば、と思いまして」 「わたしの?」 「はい。彼が言ってました。『メイジの評価は使い魔をみれば判る』って」 「ちょっと! それじゃなに? あなたの強さを見せつければ、わたしも馬鹿にされなくなるって、そういうこと?」 「はい」 頷くなのは。ルイズは―― すこぽーん! なのはの頭を、容赦なく張り飛ばした。 「なによ! あのね、いくら使い魔が強くたって、それだけであたしの評価上がるわけ無いでしょ! そういうのは互いの力が拮抗していてこその評価なの! 今のあたしにあなたみたいな使い魔が居たって、『分不相応だ』って陰口たたかれるに決まってるでしょうが!」 あたた、と頭を押さえつつ起き上がったなのはは、ルイズの言葉を聞いてまた頭を垂れる。 「まずかったですか?」 ルイズはなのはの頬を、ぺち、と軽く叩いた。 「まずいわよ……でも、うれしかった」 そういってなのはの頭を無理矢理抱え込む。体勢が崩れてわたわたとなるなのは。 そんなご主人様に、なのはは小声で言った。 「ご主人様、本当は私、今の場で魔法を濫用するのはあんまりよくないことなんです。でも、必要となったらためらわないでください。私は全力でご主人様をお守りします」 「頼りにしてるわ」 その様子は、仲のよい姉妹か友人のように見えた。 「ま、なんというか。落ち着いたみたいね」 「でも、予想以上だった」 戦いの間、タバサはまったく目を離そうとはしなかった。あまりにも真剣すぎて、キュルケはタバサから目が離せなくなるほどに。 「特に最後、ナノハがついに攻撃魔法を使ったとき」 「ああ、あの光の玉。すごかったわね。どう見ても系統魔法じゃないわよ、あれ。先住魔法かしら」 「それは細かいこと。一番のポイントは」 ただでさえ引き締まっていたタバサの雰囲気が、キュルケですら滅多に見たことのない雰囲気――自分と決闘したときのそれに変わる。 「あの人、フライを維持したまま光の球を撃った」 「あ」 指摘されてキュルケも気がついた。そういえばワルキューレの攻撃を光の盾で防いだときにも、彼女はずっと浮き上がっていたままだった。 「それって確か超高等技術よね」 「滅多に出来る人はいない」 普通のメイジは同時に二つの魔法を使うことは出来ない。フライを維持したまま攻撃魔法を放つことは、ほとんど「不可能ではない」というレベルの技術だ。 「決めた」 殺気に近い気を纏わせたまま、タバサは短く言う。 「はいはい。好きになさい……あ、ギーシュ、ほっとくわけにはいかないわね」 キュルケにはタバサがなにを決めたかなどお見通しであった。 「ちょっと! そこの二人もじゃれ合ってないで手伝って!」 「誰がじゃれ合ってるって!」 何のかんのと言いつつも、四人は仲良く気絶したギーシュを医務室へと運び込むのであった。 一部始終を午後いっぱいつきあって眺めていたオスマンは、思いっきり伸びをした。 「やれやれ、なんちゅう腕前じゃ、あの娘」 「終わったのですか?」 さすがにロングビルは仕事があったので途中で鏡からは離れている。 「ああ。たいしたものじゃ。その気になれば、三秒でギーシュの負けじゃったわい」 「ならば何故あのように延々と戦っていたのでしょうか、彼女は」 ずっと見ていたわけではないが、何しろ午後いっぱい戦っていたのだ。折に触れ彼らの戦う姿は目に入っていた。 「さての。まあ、強いて言えば、まるで特訓でもしているかのようじゃった」 「特訓……ですか?」 いぶかしむロングビル。 「二人は決闘しているはずなのに、何でまた」 「わしにも判らんよ」 その時、ノックの音がした。 「学院長、よろしいでしょうか。コルベールです」 「ああ、入りたまえ」 入室したコルベールは妙に興奮しているようだった。 「何事かねコルベール君」 「こ、これを」 差し出されたのは一枚のスケッチと古ぼけた書物。タイトルは『始祖ブリミルの使い魔』。 「これが?」 「見比べてください」 コルベールが本のページを開いて指し示す。 それを見比べたとたん、オスマンの顔が引き締まった。 「ミス・ロングビル」 「はい」 呼びかける声と、答える声。それは昼間のセクハラ親父とお色気秘書のそれとは別人のようなやり取りであった。 「すまんが席を外してくれたまえ」 「かしこまりました」 打てば響くように、ロングビルはオスマンの命令通りにその場を辞す。 彼女が部屋を出たのを見届けると、ことさらに声を潜めて、オスマンはコルベールに話しかけた。 「こういうときにサイレンスが使えるといいのじゃがな……しかし、ガンダールヴじゃと?」 「はい。タカマチナノハ嬢の左手のルーンは間違いなくこの記録のものと一致します。場所も記録通りの左手。間違いはないかと」 「なんとまあ。それであの身のこなしか。元々の才もあった上に、か」 「これは大変なことです……至急王室に報告を」 「せんでいい」 「は?」 いきなり予想外のことを言われて惚けるコルベール。 「落ち着きたまえコルベール君。ただでさえナノハ嬢は、先ほどまで行われていた決闘で、あれだけの技量と、未知の魔法を使って見せたのだぞ?」 「確かにあれはとんでもなかった……フライを使ったまま攻撃魔法まで使うとは」 コルベールもまた、なのはの技量が超一流であることを理解する者であった。 「おまけに伝説なんぞというてみい。女王はともかく、まわりの貴族どもがなんというか判らん君ではあるまい?」 「――確かに」 これまた別人のように真面目な表情になるコルベール。 「彼女たちのことはしばらく様子を見る。出来うることならそっとしておくのが一番じゃ。過ぎた力は身を滅ぼす元じゃからな」 「判りました」 コルベールも力強く答えた。 #navi(ゼロと魔砲使い)