※ 超人病でちゅうに病でおれTUEEEEEEなのは仕様です。戦闘有。多少の流血、残酷描写を含みます。
肉を裂く重い音。ぶちまけられる赤色。
──だが、それは、暗殺者連中にとっては予想外の相手から生まれた。ターゲットである筈の俺、ヴェイバロートは未だ悠々と壁を背に立っている。
胸から血を流して転がる破目になったのは先鋒の黒服に少し遅れて続いていた暗殺者。直接の下手人は俺じゃない。
俺に向けて刃を振り上げていた暗殺者が、唐突に矛先を変え仲間を刺したのだ。
刺された方は悲鳴を上げなかったのは及第点。だが、予想外の相手にナイフを突き立てられて咄嗟に反応できない辺り、まだまだ甘い。
仲間なナイフを突きたてた先鋒の暗殺者は、次いで別の黒衣へと襲い掛かる。
その黒衣は既に、一番後方を勤めていた仲間に刃を向けられており、二対一という状況になれば捌くだけで精一杯。
突然己に切っ先を向けてきた仲間との同士討ちを演じる破目となる。
六人の暗殺者が唯一人を追い詰めていた。その状況はいまや一変していた。
これまで一糸乱れぬ統率を誇っていた黒衣どもは互いに互いを傷つけあう状況に陥っている。
「ドウイウ、事ダ。……グッ!?」
最早沈黙を守る余裕は無いようだ。どうしてこうなったのか理解し切れていない様子の茶色の眼をした暗殺者にも、横合いから仲間が襲い掛かる。
それは、先刻までケット・シーを人質にとっていた黒衣だった。
「なーに、驚いた顔してんだか。標的のことくらいちゃんと調べた方がいいぜ」
皮肉って嗤う俺の瞳は、ねっとりとした蜜色に輝いていることだろう。
事象すらその美しさで従える"傾天の魔魅"、"高貴なる腐敗"。物騒な二つ名を持つ先祖のロゼばあさん程とはいかないが、その血や淫魔の血脈が混ざる俺にも魅了の力は備わっている。異性同性は問わない。その心を奪い、思うように操る魔性の業。それが、今襲撃者どもが急に仲間割れを始めた理由だ。
どうやら軍用の護符の類を身につけていたようで、多少時間はかかったがギリギリ殺される前には精神掌握が済んだ。
視線、声、僅かな身振り。香り。俺みたいな生き物にとっちゃ、その全てが魅惑の為の手段だ。一番手っ取り早いのは直に触れることだが、流石にそれはこの状況では難しいので、その分声で補った。
正直この力をバリバリ使うと周囲の心象を悪くするんでできるだけ使わない、知られないようにしているんだが、自他の命の危機だ。是非も無い。
「言ったろ? 虹の街の顔役を嘗めねえ方が良いってさ。──後は身内同士で存分に遊べよ。ごゆっくり」
口にするのはそれだけ。混乱したまま斬り結び合う連中に、いちいち種明かしをしてやるつもりはなかった。手の内を正直に晒してやるほど俺は親切じゃないのだ。
全員魅了してそれで終りにしてもよかったが、それでは腹の虫が収まらない。こいつらは何の関係も無い
蜜月通りの住人に手を出した。その報いは多少なりと受けてもらわねばならない。
好き勝手をした連中だ。好き勝手にされても文句はないだろう。
同士討ちを横目にすり抜け、俺は一刻も早く猫妖精を助けるべく駆け寄った。
俺の声が未だすることと、自分が解放されたらしいことに驚いて、おそるおそるといった風に目を開けたケット・シーは、近づいた俺に縋るように抱きついてくる。尻尾はやはり足の間に入ったまま、緑の猫目はすっかり涙ぐんでいた。
落ち着かせてやろうと、俺は猫妖精の頭をヨシヨシと撫でて慰める。
「……悪ィ、完全に巻き込んじまった。ごめんな」
「にゃあはいいんです、にゃ! それより、それより、サムが、廊下で、刺されて……!!」
ケット・シーが泣きそうになりながら口にした言葉は、ある意味予想していた。はじめにこの黒毛の猫妖精が俺たちのところに来たとき、給仕猫は二匹だった。それが一匹しか居ない理由。片割れが襲われたという可能性が高いだろう、と。
だが、予測が当たったからといって爽快感などあるはずもない。ぐしゅぐしゅと鼻を啜りながら、ケット・シーは更に言葉を続ける。震える声は、必死に頼る響きだった。
「にゃあはそれで捕まって、脅されて、あとどうなったか見てにゃい。でもまだサム、生きてるかもしれにゃい! ヴェイのだんにゃ、サムを助けてほしいのにゃ……」
「解かった。廊下だな? 一緒に行こう。……多少だけどよ、治癒術の心得がある」
暗殺者に刺されたとあっちゃ、生存は絶望的かもしれない。そんな考えが脳裏を掠めたが、様子を見る前に口にするほど野暮でも冷血でもない。
室内では未だ戦闘が続いている。見れば茶色の目をした暗殺者が三対一に追い込まれていた。二対一だった戦闘が終わり、手の空いた奴らが加勢したからだ。
こうなれば多勢に無勢。数の暴力を押し返すには圧倒的な実力差って奴がいる。直にケリがつくだろう。
なら、その決着を待つよりも、もう一匹の猫妖精の安否を確かめる方が先決。小柄な黒猫妖精を片手で抱き上げると、俺は急ぎ、廊下へと駆け出た。
※※※
予測は誤りではなかった。私──
フィロスタインたちは無事元居た場所に帰ることが出来た。
核を壊すと共に瓦解する空間ごと潰される可能性も無きにしも非ずだったのだが、なんとかなったようだ。
魔力を追いすぎた所為で、眼の奥に違和感があるが、頭を軽く振って払う。まだ緊張を緩めるわけにはいかない。
一面の白から柔らかな琥珀色が囲う個室に視界が切り替わったところで、私は惨状に目を見張った。
テーブルが跳ね上げられて食器がそこかしこに散らばり、床に広がる血の泥濘に折り重なるようにして、五人の黒衣が倒れ伏している。全員同勢力と見えるが、得物と傷の具合からして互いにやりあったようだ。何人かにはかろうじて息があるようだが、新たに部屋に現れた私を襲うほどの気力はない様子だ。
襲撃してきたとおぼしき相手が倒れているにも拘らず、ヴェイの姿は室内にない。
同士討ちの理由はなんとなくだが推測できる。リリアローゼが不埒者に囲まれた時、互いに潰し合わせて事なきを得たという話を聞いたことがあった。遠い子孫であるというヴェイもそれに近いことが出来るだろう。ならば彼は何処へ行ったのか?
室内に姿が見えないのなら、順当に考えれば部屋の外だろう。助けを求めに行ったのかもしれない。
気配の残滓を手繰り、廊下に続く扉をくぐった私は──先程とは違う理由で目を見開く破目になった。
廻廊の、部屋から離れた位置で倒れている黒い猫妖精の傍に屈み込み、こちらに背を向けているヴェイ。隣には、やはり背を向けて座るもう一匹のケット・シー。
そんな二人に音もなく迫るのは黒衣の人物。先程倒れていた連中の生き残りか。手には鋭い艶消しの黒刃。確実にヴェイの首を狙っている。問答無用で掻き切るつもりだ。
「──ヴェイッ!!」
一足でこの距離を詰めるのは流石に不可能。それでも危機を促す声と同時、私は飛び出す。声にヴェイが振り返る。刃が薙がれかけ、金色の瞳が驚いたよう、僅かに瞬く。
駆けながら私の指先は腰に下げた"黒帳"の柄頭に触れている。その動作で忠実な黒い魔剣は私の意を汲み、異空間では温存していた力を存分に振るってくれた。
"黒帳"が操る見えない力が暗殺者の腕に集中。圧縮。容赦なく武器を握る手をへし曲げ、叩き折る。
それと同時だった。──襲撃者の首が、あっさりと飛んだ。
"黒帳"がしたことではない。どうやら、蜜月の顔役の危機に咄嗟に動いたのは、私だけではなかったようだ。
首が刎ねられる直前、一瞬、ヴェイの身体から黒い影が疾るのが見えた。それは、気のせいではなかった。
暗殺者の落ちた首、倒れる身体。どちらもその下には異様に濃い影が広がり、焔のように起き上がって揺らめき、命を喪った肉は影に侵蝕され、飲み込まれていく。
瞬きの間に亡骸は影に喰われて、溶けて消え、血の一滴すら残さない。すべてを内に収め終わると、影は黒い、暗い異形の姿をとっていった。
瞳は紫電。菫の炎。うごめく生きた影とでも言うべき漆黒に塗りつぶされた体躯。狼か猟犬を思わせる輪郭を持っているが、冠のような無数の角と大きな翼がそれを裏切っている。
魔物、魔獣の類に慣れ親しんだ私でも、背筋が一瞬冷え、近づくのを躊躇したのは、その生き物が色濃い異界の気配と威圧を纏っていたからだ。
ケット・シーも気配の異常さは理解できるようで、ぷるぷる震えている。
「……ぁー、殺っちまったか。リオン」
そんな状況にあって、ヴェイだけがその影に似た生き物を親しげに呼んだ。長年連れ添った相手であるかのように。リオンと呼ばれた獣も声無くヴェイに近づき寄り添った。
わしわしとまるで普通の動物にするみたいな撫で方で、揺らめく漆黒の毛並みをヴェイの手が梳る。
撫でているヴェイの身からは何時の間にか上着が失せていた。それに気づいて、何処からこの獣が出てきたのか、私は理解した。
初めてヴェイを見た時、感じた違和感と寒気を思い出す。その正体こそが今、ヴェイがリオンと呼んだ目の前の獣だ。ようはこの生き物はずっと、衣服の形を取って誰より近くヴェイを守っていたらしい。先程の現れ方からしてもその体躯は変幻自在であるようだ。
そういえば、ヴェイバロートは"召喚術(サモーニング)"の使い手だと、リリアローゼがいっていた気がする。"召喚士(サモナー)"が身の回りに守護者を置くのはそう珍しいことではない。
もっとも、ヴェイがまるで愛犬にするみたいに可愛がっている様子の生き物は、私も知らない未知の強力な何かであったが。
「ずっと我慢してたって? そりゃ悪かった。俺も甘かったよ。多対一で仲間倒してくるたぁ、腕だけは一応一流だったみたいだな。見誤ってたわ。ありがとちゃん」
私たちには獣が話をしているようには聞こえないが、ヴェイには理解できるらしい。会話が成立しているようだった。とても仲が良さそうだ。私にとっての魔剣たちのようなものなのだろうか。
幾ばくか言葉をかけた辺りで、大人しく傍らに座った獣から視線を外し、ヴェイは私に笑いかけてきた。
「さて、お前たちにも紹介しねえわけわかんねえよな。……こいつはリオン。驚かせちまったと思うけどよ、俺のことを何時も守ってくれてる大事でかわいい相棒だ。ヨロシク頼むぜ?」
獣の背を緩くなでながら紹介する。燃え盛る紫色の瞳は、何を考えているかなどまるで読めない硝子の質感であったが、ヴェイが紹介するのにあわせて小さく礼をする程度の社交性を、リオンという獣は備えているようだった。
礼には礼を返さねばならぬ。確かに見目は多少厳しいが、恐ろしくも美しいそんな生き物だ。先刻の一撃は苛烈極まったが、主を案じてのことなのだろう。ヴェイが大事にしている様子からも、悪意のある存在ではないように思えた。私からも宜しくと伝えるようにぺこりと頭を下げて返す。
「……で、だ。フィロ。よく帰ってきてくれたな。色々言いたいこともあるけどよ。まずは、おかえり。守ってくれてありがとな」
「いや、私はするべきことをしたまで。礼をいわれることはない。それより、其方の猫妖精は?」
「にゃあはジュリーですにゃ。そこで寝てるサムはにゃあの兄弟ですにゃ。突然やってきた悪い黒いひとたちに怪我させられて……でも、ヴェイのだんにゃが助けてくれましたのにゃ!」
気になっていたことを尋ねると、横の影の獣に対する怯えを隠せない様子ながら、真っ直ぐな尻尾を持つケット・シーが説明をくれた。今気づいたがこの黒毛の猫妖精は、始めに人質(猫質?)に取られていた給仕だ。どうやら助け出されていたらしい。心底安堵した。
サムと言う名であるらしい、眠っている猫妖精に視線を落とす。先刻倒れていた連中よりもずっと息が確りしている。傷も少なくとも表面上は塞がれているようだ。命に別状はあるまい。
「俺が助けたってか、はじめから急所外れてたんだけどな。トドメ刺されてたらやばかったよ」
「にゃ! 考えてみればにゃあたちケット・シーは死んだ振りが得意にゃのでしたのにゃ! あいつらが引っ掛かってくれてよかったのですにゃ」
安全だと解かってきたからなのか、猫妖精は明るさを取り戻してきたようだ。良いことだ。ほっと小さく笑みがこぼれたところで、身体の端々から痛みが走った。目の奥の違和感も強くなっている気がする。少し嫌な感じがする。私は自分がそういえば怪我をしていたことを思い出した。
「……ッッ、よかった、な」
引き連れるような痛みを堪えて笑顔を続けようとしたが、緊張の糸が一度切れて痛みを自覚してしまうと少し難しい。目ざといヴェイは早速気づいてしまったようだ。まあ、足にはハンカチも巻いているし、幾ら私の服が黒基調とはいえそうそう何時までも隠しきれるものでもない。
「って、オイ。なんかまた血の匂いがすると思ってたら、フィロも怪我してんじゃねえか!」
《……ヴェイ殿、卿は治癒術の心得をお持ちの様子、我らの皇子の怪我も見てはいただけませぬか?》
「うお、誰かと思ったらフィロの剣はそういや喋るんだったな。了解。医師や聖職者ほどじゃねえが、応急手当くらいはできる。人を呼ぶ前に診てやるよ」
これまで黙っていた"黒帳"がヴェイに頼みごとをする為に口を開いた。突然響いた声にヴェイは少し驚いたようだったが、そこはこの混沌たる七虹都市の顔役のひとりである。ヴェイは直ぐに順応した様子で"黒帳"に返事した。
《恩に来ます。宜しく頼み申した》
《いやあ、助かりまさあ。うちの坊はほっとくと怪我しててもほいほい飛び回りますんで。危なっかしくって》
「余計なことまで言わずとも良い。……ヴェイ、すまないな」
過保護な魔剣たちが面ばゆく、軽く牽制するように言ってから、ヴェイに向けて目礼する。ヴェイはひらひらと片手を振って笑った。
「いいって。俺こそ、フィロにゃ助けられてんだし、これでお相子だろ。とりあえず止血だけな。ちゃんとした治療は後で医者を呼ぶからそっちに任せてくれ」
「解かった。……しかし、この後はどうする? ひとが集まってきてもおかしくないと思うのだが……」
ヴェイの手が触れるごとに痛みが遠のき楽になっていく。正直、こうやって表面を塞いでもらえるだけで十分ありがたい。内心で感謝しつつ、今後のことについて問う。
「ご丁寧に"幻影(イリュージョン)"やら"沈黙(ミュート)"やらと準備してくれてたみたいで、未だ騒ぎにゃなってねえ。ここのオーナーは知り合いだからな、自警団に突き出す前にちっと時間を貰う」
「襲ってきたあいつらが何処の誰で、何が目的か尋問するのだな?」
部屋に残されていた内何人かに息があったことから予測して返すと、ヴェイは首を縦に振った。
「そゆこと。どこの差し金か、おおよそ見当はついてっけど情報は出来るだけ欲しい。無許可の精神探査はともすりゃ犯罪だが。……あっちが、勝手に喋る分には自由意志だから、な?」
ぺろりと舌で唇を嘗めてみせたヴェイは、リリアローゼを思い出させる、ぞっとするような妖艶さを備えた微笑を浮かべていた。
「痛みに耐えられる人間は居ても、快楽を堪えられる人間ってのは少数派だからな。……"蜜月通り(うち)"らしいやり方で、存分に歓迎させてもらうぜ」
軽やかな声音に潜むのは狡猾で世長けた響き。
アルコ・イリスの七色の通り、それぞれを束ねる顔役は何れも一筋縄ではいかぬ。一癖も二癖もある人物揃いだ。諸外国からは通りの顔役たちは七つ頭の蛇に例えられるとか。頭それぞれ思想も、望みも違い時に対立することもあれど、アルコ・イリスという共通の胴を持つゆえに有事には団結する、恐るべき怪物であると。──若年とはいえヴェイもそのひとり。一端を垣間見た気がした。
「……私も手伝おうか?」
「良いって、怪我もしてんだし休んどけよ。必要なら幾らでも頼むけど。あんま不必要にフィロに力を使わせっと、お前の実家からクレームきそうだしな」
一応申し出てみたがやんわり断られた。そうか、と少し肩が下がってしまったのに気づかれたらしい。がしがしと頭を撫でられた。
何かもう、ヴェイにこうやって触れられることに対して抵抗がなくなっている。まともに会話を交わして一日も経たないのに本当に不思議な話だ。
「しょんぼりすんなって! 怪我人は大人しく労わられとけ。……フィロはよう、ちっと頑張りすぎなんだよ。お前はさ、」
ヴェイは困ったような、労わるような、そんな表情を浮かべて言葉を紡いだが、私は語尾まで聞くことが出来なかった。
──なぜなら、
それは何時だって、唐突に訪れる。
眼窩に指を突っ込まれて滅茶苦茶にかき回されているような、おぞましい痛み。
心臓が、ふたつに増えたように出鱈目に鼓動を刻み始める。
竜蝕の、はじまりだ。
暫く蝕が訪れていないことをおれはもっと警戒するべきだったのだ。
人の身で、とうさまの、古竜の力を借り受けている代償。地獄の痛苦を受けて対価をあがなうことに、なる。
ああ、地上で、人の目があるところで、この姿を曝す訳にはいかかったのに。思えば目の奥の違和感は、蝕が間近に来ているという警鐘だったのだ。
だが、一度始まってしまえばおれの意思ではどうすることも、できない。この痛みに、翻弄されるだけだ。
「…あ、ぁ、が……っ! い、ぁ゛…あ、ぁ……」
おれは悲鳴ひとつ、まともに上げることができなかった。「こう」なると、何時もそうだ。咽喉が痛みに引き攣れてまともな声なんて紡げない。
唇を吐いて出るのは、獣の唸りのような呻きばかり。どうしよう。迷惑をかけて、嫌われてしまう。でも、もうどうしようもない。
痛みの源である左目を押さえるように掌で覆った。そんなことをしても何の慰めにもならないと知っていたけれど。
ぐらりと倒れ込んだ身体を支えられたような気もしたし、床にそのままぶつかったような気もした。
ヴェイが、ケット・シーが、魔剣たちが何かをいっているような気もするけれど。
──もうわからない。
外を知覚することが出来ない。眼が痛い。身の内を満たす激痛だけが全てになる。
目眩。痛み。寒いのか。熱いのか。わからない。いたい。いたい。いたい。
たすけて、たすけて、いたい。こわい。いやだ。
ねがうこえも、さけびも、なにも、なにひとつ、ことばにならない。
おれのいしきはただただいたみにぬりつぶされ、ふつりとしろい、やみにしずんだ。
最終更新:2011年07月06日 23:06