第3話 親和の行先1

 夏も終わりかけている。
だが得てしてこんな時期が一番暑く、人間やその他の市民も夏に飽いている。道を歩けばだらしなく木陰や店先で寝そべる半妖精の姿がそこかしこで見られ、火蜥蜴の飼い主はペットを地下に隠す。アルコイリスの晩夏はいつもそんな風だ。
蜜月通りでも、それに合わせて各店が冷たい酒だの涼を呼ぶ趣向を凝らして商売に余念がない。
 表通りから少し外れた古い通り。古い道具屋や中古武器屋、老人相手の地味なカフェ、何故商売として成立しているのか不明な革紐屋などが並ぶ養骨通りでは喧噪も遠く、暑気をものともせずに走りまわる人間と異種族の子供の足音だけが良く響く。
 虹の都市の中でも静かに過ぎて行く夏もある。が。
 その一角、通りも半ばを過ぎた辺り、街路樹の木立の並ぶ一角。本来なら夏の静寂がひときわ物憂げな夏を彩っていたに違いない一軒の店。今はその店にはぎらぎらと毒々しい色に塗られた鉄の看板が大きく「親和する金属工房」と夏の日差しを照り返し、さらに魔化され自動でぐるぐる回るハンマーががっつんがっつんと看板を打ちならして店の所在を通行人に知らせている。良く見るとちょうどハンマーの激しくぶつかる場所には塔の査問委員に連なる導師達の顔が描かれ、何より雄弁に店の主人の人格を物語る。
 静けさもけだるさも風情もぶち壊しである。隣の靴屋の老人は店の前に椅子を置いて街路樹の陰で涼むのが好きだったのに、かわいそうに今年は店の裏で狭苦しく涼を求めている。

 そんな店にも客は時折来るようで、夏の日差しを背に人影が入口を開ける。金属板を連ねただけのチャイムが涼しげに鳴った。
 作業革靴が木床を叩き、ごとんごとんと武骨な音を立てて来客が店内に歩を進める。鍛練を重ねたことが見て取れる長身の男が、興味深げに店内に一瞥をくれた。紙袋に包まれた長い荷物を抱えている。
 店内はすっきりとした調度にいくつかの棚と卓が並び、金属製の製品とその図面が並ぶ卓が店の目的を饒舌に語る。その奥、カウンターの店番が「いらっしゃい」客に声をかける。
 灰色の髪をした少女が書き物をしていた手を止めて来客のために立ち上がった。オリーブ色のジャケットに短いネクタイのギャルソンヌスタイルで、狭く古ぼけたカウンターを守っている。
 「ここが、新しく出来たと言うアーティファクトの店で間違いないか。」
 来客はそう念を押す。念を押さなければいけない程度には看板は妖しげだった。
「はい。“親和する金属”の店では金属具、魔具の製作を承っています。何かお探しですか」
 「いや、俺は遣いだ。ウィドと言うが夕煌通りのグリューエンから荷物を届けに来た」
 「はい……いつもは別の人が来てましたよね」
 やや不思議そうに店番――ザナが問う。武具工房のグリューエンが扱う鋼の品質はちょっと他にはなく、何度か無理を言って武具を打つ前の素材を分けて貰っていた。何度か配達に来たのは、黄色い髪の若者だった。
 「忘れものだ。まったく手間をかけさせる。」
 口調はのどかで、怒っているようでもない。
 「それは御苦労さまです。どうぞ、そこの卓に置いてください」
 言われてウィドは片手で軽々と鋼の塊を音もさせずにそっと置く。力強く正確で、どこか優美な仕草だった。
 「利き手を空けてるんですね」
 ザナは変な所に感心する。手はカウンターの上で受け取りを記している。流暢な字だった。
 「ああ。癖だな。」
 言われて初めて気がついたように苦笑して書類を受け取り、もう一度店内を見渡した。
 「ここにあるものは、全部アーティファクトなのか。ずいぶん色々とあるようだが。」
 「そうです。店主のラザロ先生が設計し、私が魔化しました」
 「君が?まだずいぶん若いようなのに。」
 「いえいえ、まだまだ修行中の身です」口ではそう言いながらザナ腰に手を当てて胸を張る。「良かったら見て行って下さい。良い品ばかりですよ」
 勧められて奇妙な形の魔具どもをいくつか見るともなく手に取るウィド。その手元をふんわりした白く丸い霧の塊がすりぬけて行った。
 「おっと。これは?」
 棚を跳び下りたふわふわした霧が来客の靴のまわりをぽんぽんと駆け回る。子犬のように元気な謎の霧を踏まないようにウィドは足をどけた。
 「こらカレス!」
 少女が叱ると、ちょろちょろと白い霧が少女の方に転がっていく。ちろりと白桃色のやわらかそうな小さな爪が霧からのぞく。
 「失礼。魔術士はみな一匹のけものを飼っているものです。カレス、その林檎を食っていいぞ」
 「ふうん。大した魔術士なんだ。」
 褒められて実にわかりやすく得意げな顔。なるほど。看板こそ頭がおかしな感じがするが、面白い店が出来たのかもしれない。
 と、来客が思った時だった。
 「おいッ!なんだこの仕上げはッ!莫迦弟子、ちょっとこっちに来い!」
 全てをぶち壊すどなり声が店の奥から聞こえて、言われた莫迦弟子は硬直する。
 「……誰か呼んでいるようだね。」
 「はて、誰のことでしょう」
 ぎくしゃく誤魔化すザナの背中に噴火か何かのよな勢いで悪罵の声が降り注いだ。
 「何をしている、さっさと来い!阿呆!貧民!ええい早くしろ!味音痴!犯罪傾向!カゲロウ!メイジブラスター!黒猫のしっぽ!灰色!小銭!死んだ海老!灰皿!黴チーズ!カゲロウ!」
 「先生、今行きます」
 しぶしぶ答えて、一転して死んだ目で「すみません、所用が出来ました。よろしければまた来てください。」
 面白い店と言うよりはやはり奇妙な店だ、と評価を修正しつつウィドは店を後にした。まだ通りは暑気の沈滞昼下がりだった。

 接客を済ませ店の戸に鍵をかけ地下の工房に続く細い階段を下りる。この店は作りは古いが地下がむやみに広く、ラザロは工房に使えるのでこの店を借りたのだった。大きな部屋が三つに小さな部屋が一つ、おそらく遺跡の一角を地下室に改装したのではないだろうか。
 「死んだ海老が参りました」
 「何が海老だ。ふざけているのか」
 理不尽な罵声を浴びせ顎で製作台の上の金属塊を示す。工具やメモや金属の削りクズの溢れる机の上に、大振りな金属製の杖が置かれている。というか突き刺さっている。新作の、ラザロ本人が使用するための武具である。
 「どうしました」
 「俺が我慢ならないのは、作動しない機構が作動するふりをしていることだ」
 「あ」
 ザナは思い当たる。複雑なアーティファクトを魔化する際にはいくつかのパートに分けて個別に作業を行うが、どうもそのうち一つしっくりこないものがあった。強いて言うならば呪文手ごたえのようなものが無かった。後で調べようとは思って、そして結局忘れていた。
 「作動テストをしてみたらこの様だ」
 例えば他の機構は正常だがバランサーだけが作動しない、と言った場合に手から吹っ飛んでしまう。今回がまさにそれで、チェックをせずにいきなり実践使用したならば腕の一本も持って行かれれもおかしくなかった。
さすがにザナも胃が重くなる思いで頭を下げる。
 「すみませんでした先生」
 「せめて失敗するなら目に見えて失敗しろ。半端に機能するのが一番悪い」
 「はい」
 「まったく、池の金魚より愚かなやつだ」
 その調子で5分ほど罵られる。罵られながら再度魔化を行う。やらかした失敗を思えばそれで済むならマシな方だ。
 ラザロの弟子になってザナが学んだことは、師はヘマの重大さよりも過程を重視する。魔化が失敗するというのは比較的仕方ないことに属するらしい。
 「まあ俺がやっても百回に一回はしくじることもある。問題は必ず一つづつチェックすることだ」
 そう締めくくってラザロは杖を受け取る。
 杖は極めて細くしなやかな金属の糸を複数、連続的に繰り出すギミックを搭載していた。以前に栗色の髪の少女に売った金属鞭を改良したもので、前方に肉でも鱗でも甲羅でもズタズタにしてしまう通過不能エリアを展開できる。爪でひっかくとかこん棒で殴るとか粘性の体で包み込むとか、とにかく近寄って何かする系の相手には絶大な威力を発揮するだろう、と設計したラザロは言う。
 「ふん。今度はまともに動くようだな」
 テスト用に買ってきた、ぼろぼろの皮鎧を着せた丸太を瞬時にチップ状になるまで解体し、ようやくラザロは満足した。
 「これなら使えそうだ」
 今までは武器の類は試みに設計、製造してきたにすぎないが、今回は危険地帯に持ち込み実際に使うためにラザロは設計し製造し、ザナが魔化したのだ。
 「これで、遺跡に潜れますね」
 「そうだな。だが、コレはあくまで俺の自衛用だ。遺跡で真に力を発揮するのはお前の魔術になるだろう、が」
 疑わしそうに弟子を見るラザロ。ザナは必死かつ無駄に腕を振って実力をアピールする。
 「それはもう大丈夫です。先生には鉤爪一本触れさせません」
 「そうあってほしいものだ。言っておくがかなり危険だぞ」
 遺跡には通常、前線を張る戦士や回復に長けた聖職者など多様な職種のつわもの共が相互支援をして挑む。それでさえしばしば重大な危機に陥る事があると言うのに、ラザロの計画では二人で遺跡に潜ることになっていた。魔術士二人、しかも魔術が使えないものとまったくの新人で遺跡に挑むなど通常なら無謀以外の何物でもない。
 ザナは勢いだけは力強く頷く。“世界視”に関する資料がどうしても必要なのだ、と師は言う。それが遺跡にあることをラザロは知っている。“世界視”についての秘密を守るため、どうしても他の人間を関与させる訳にはいかない……ならば、ザナに異論はあるはずはない。それにラザロの立てる計画は一件無謀に見えても成算がないはずがない。ザナはそう信じ切っている。
 「計画には万全を期したつもりだ。一つ二つのミスならなんとでもなるはずだが、偶然が重ならん保証はないぞ」
 「遺跡じゃなくても危険はあります。私の半分の年で脾臓刺されて悶え死んだ子とかも知ってますし」
 しれっと覚悟のほどを述べるザナに顔をしかめる師。
 「たまに生々しいな。お前は殺伐とし過ぎてるきらいがある。例えば、お前を狙う敵がいたらどうする」
 「殺します」
 即答するザナ。まさにノータイムで殺意を口にする。
 「俺を狙うやつがいたら」
 「殺します」
 「お前の魔術士の道を断とうとするものがいたら」
 「殺します」
 ラザロのため息。
 「殺意があり過ぎだ。率直に言って“世界視”がそのような性根では、魔術を教えるにも躊躇う。もう少しまろやかに生きろ」
 「あっ、やっぱりそうですよね。私も日々平和について考えているところです」
 「殺すぞ」
 「えっ」
 弟子との会話の不毛さにまたラザロの深いため息。
 「もういい。モラルについてはこのさい四半人前でかまわん。何にせよ早いうちに実力を身につけて貰わんことにはな。時間が無い、次の巡りの黄の日に遺跡に潜るぞ。準備をしておけ」


 一人前の魔術士はどんなのだろう。何が違うのだろう。
 ザナはあれこれ考えるがどうにもわからない。襲ってきたら倒す。間違っていないはずだ。大法典など良く知らないが、自衛ならおそらく罪にもならないだろう。少なくともこの街ではそうだ。
 思い悩みながら蜜月裏通りのゴミゴミした街を歩く。すでに傾いた日は土を焼いたような淡い橙の色をしている。一日が終わる色合い。優しい色だとザナは思う。だが寂しい色だとも。
 以前はそうは思わなかった。ザナの仕事は夜で、夕暮れはこれから夜の煌めきに変わる前兆のひと時だった。
 夏の夕の空気はゆったりと甘い。肌に張り付くようにゆるゆると吹く風の中を人々がそれぞれに忙しげに歩いている。真昼の暑気から解放されてほっとしているようだった。
ザナは人とすれ違うたび手を挙げて挨拶をする。が、どういう訳か慣れたはずの住人はしばしば不審げな視線を返した。
 以前は誰に手を挙げても挨拶を返された。貧民街とはいっても蜜月裏通りは完全に終わってる虹影とは違い、連帯がある。住人であれば挨拶を交わし、何かあれば駆け付ける。それが裏通りの気風だ。
 何度か角を曲がった時、馴染んだユニオンの男を見かけた。またザナは手を挙げる。
 「あ?」
 「えっ」
 不審げに睨むユニオンの男。調子に乗った観光客などに取る態度だ。しばらくして警戒を解く。
 「なんだ偽酒売りか。気配が変わってたからわからなかったぞ」
 「そうかな。それで挨拶が返ってこないのかな」
 ややへこんでザナは問い返す。最近はラザロの用意したローブを着て出歩いている。本人に変わったつもりはないのだが。
 「ああ。前は似合わない格好してやがるってだけだったが、なんか最近は中身もいけ好かない感じになった。前は安酒の匂いがしてたのに」けっと道の敷石の欠片を蹴る。
 「なんだ。店の給金から付け届けもしているし、ユニオンに不義理は働いてないはずだ」
 「いけ好かねえってだけだ。別にどうこうしようとは言ってない」
 そんなことを言って、忙しそうに男は大通りの方に向かう。今でも男にとっては一日は今から始まるのだ。

 そんなことを言われたよ。そう語りかけられて、ボロじいは作業の手を止める。
 卓の上には淡く青色の付いた空き瓶が置かれている。中で稲妻がまたたく瓶は、傾ければどこからともなく酒が湧く。そういうモノを今作ろうとしていた。
 偽酒を並べた棚にもたれかかるザナを見て、ボロじいは落ち着かない気分になる。久しぶりに顔を出したかと思えば、ずいぶん見違えた。
 崩れかけの窓から差し込む夕日がザナの白いローブによく映える。伏し目がちに思い悩んでいる様子。そんな表情のザナをボロじいは初めて見た。怒るにも笑うにもわかりやすい娘だったが、今は一人前に憂い顔なんぞ作って。
 「確かに変わったよ。今のお前はスラムの娘っ子と言うには、複雑すぎる」
 「私が。そうかな」
 口元だけで笑うザナ。それだ。前はそう言う笑い方はしなかった。塔に巣食ってるような、頭の中に怪物を飼っている連中の笑い方だ。ほんの春先までどこにでも転がってる娘っ子だったのに。
 「ユニオンの若造の言うのも尤もだ。ここいらの連中はみんな安酒にはなじみがある。安酒の匂いがするやつは仲間ってことだ」
 「今の私は仲間じゃないのかな」
 「塔のお嬢さん連中」の、出来そこないみてぇだな。そう言いながらボロじいはまさに安酒を満たした杯を呷る。部屋の中にいると君が悪いとまでは言わないが、もう以前までのようにいるもいないも同じという訳にはいかない。
 「お嬢さんか」
 「見えないことはねぇよ、実際。なりたかったんだろ、魔術士。喜べよ」
 「そうだね」
 一つ頷いて、そのまま珍しいものでもあるみたいに部屋の中を見回すザナ。その様子に、老エルフはある種の予感のようなものを感じとる。ザナは本来は呆れるほど楽天的だ。ちょっと隔意を感じた程度、二歩歩いたら忘れるはずなのに。
 「あのさ、ボロじい」
 言いかけて、魔術士もどきは言いにくそうにまた黙る。
 「辞めるんだろ。酒売り」
 やや驚いたようにボロじいの方を向くザナ。
 「うん。そう言おうと思って」
 「あのラザロってやつに言われたのか」
 「違う。そもそも先生は私が外で何やってるかなんて気にしないよ。そうじゃなくて」
 「同時に二つの世界にはいられない、ってか」
 「………うん」
 ラザロから見れば魔術士のまがいもの。裏通りではもう仲間には見えなくて。それでもそのどちらかを選ぶしかないのなら、ザナは魔術士を目指す。いずれ本物になれると信じて。
 ボロじいは手酌で杯に安葡萄酒を注ぐ。
 「まあせいぜい頑張れよ。無理だったらまた来い」
 淡泊な送別の言葉を送られて意外そうに「いいの?」
 「売り子ならまたユニオンに紹介してもらえばいい。儂の酒は売れ筋だ。お前じゃなくたって食うにはこまらねぇ」
 嘯く老エルフ。魔術士見習いの娘が机に歩み寄って尖った耳に囁く。
 「ありがとう。きっといつか恩に報いる。誓うよ。私が大魔術士になったら若返りでも金儲けでも何でもしてあげる。本当に思ってるんだよ」
 からから老人のしゃがれた笑い声が響く。
 「要るかよ。お前が大魔術士になる頃にはさすがにくたばってるだろうさ」
 「ボロじいが棺桶に詰まる前に立派になるよ。私、家族みたいに思ってる」
 「殊勝なこった。そんな事が言えるガキだったのか」
 「一生に一回だけだよ。多分」
 身を引いて酒を呷る老エルフ。片手でもう一つ杯を出して酒を注ぐ。
 「気を悪くすると思うが、あのラザロな、あいつに気を付けろ。ああ言う類の人間をまんざら知らないわけじゃないが、あいつらはまともな人間じゃない。塔の化物どもは何を犠牲にしても気にしないようなヤツだ。手元に何にも残らなくなるまで注ぎ込む」
 かすかに笑うザナ。それが妙に儚げに見えてボロじいは寒気を感じる。
 「先生は大丈夫だよ」
 不思議で薄気味の悪い確信に満ちた言葉。
 「ザナ、あいつはお前の親父にはならんぞ。お前のそれは尊敬とかじゃねぇ。執着っていうんだ」
 「そうだね」安酒を飲んで、その熱に軽くむせる。しばらく酒も飲んでなかった。「わかってる。でも、先生は私を見捨てなかった。今はそれで十分だよ」
 会話は少なく、杯を重ねるでもなく。また来るよ、と言ってザナはボロじいの家を辞した。嘘ではないとボロじいは思う。この後も何度かザナはこの家の戸を叩くだろう。そのたびに少しボロじいの酒を飲んで、いくらか話をするだろう。そして、ずっと先にはただの昔馴染みになる。幾たびも経験した別れ。死別などとは違う、曖昧で緩やかな別れ。
 それでも別れには違いない。もうザナがボロじいを必要とすることはない。
 静かになった部屋で何年ザナに“作品”を売らせていたか思い出そうとしたが、酒精で濁った頭では思い出せなかった。とにかくしばらくは前からだ。ずいぶん生意気なガキだと思った。世の中全てを斜め下から睨んでいるような。
 その生意気なガキはもういない。別のものになろうと自分で決めた。それは志というのだろう。夢とも言える。はるか以前にはボロじいだって持っていたものだ。
 そのために今後はボロじいではなく、あの塔の導師崩れに付いていく。
 しばらく黙然と杯を眺めていたボロじいは、やがて「あの野郎!」と一声呻く。そして激情のままに壁に投げつけられた陶杯が砕けて葡萄色の飛沫を散らす。

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最終更新:2011年06月13日 18:26
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