"あなた"の住む世界から約500年後。人類は宇宙へと進出し、太陽系のほぼ全ての惑星・衛星に入植を行なう程の繁栄を手にしていた。しかし、その繁栄は1つのナノマシンを発端とする暴虐的なものを経ていた。
生物に暴力的なまでの"進化"を引き起こすナノマシン「ORO」。そのOROを取り込み超常的な力を手に入れた者達によって、世界中の国家は統一した「大帝国」となった。人の手に余る技術を次々と生み出し、永劫の命にまで手を出した。
その代償なのか、ある日突然「大帝国」は滅んだ。皮肉にも、滅ぼしたのは「大帝国」によってOROを取り込まれた戦士達だ。彼らは自身の力の強大さと恐ろしさ、それを持つ者が全てを支配している事の"異常さ"に気づいていたのだ。
「大帝国」に関するあらゆる物を破壊した事により、文明レベルごと技術力は大きく低下、一時期の人類は世紀末と呼ぶに相応しい生活を送る事となった。その中でも人類は諦めず、「大帝国」以前の技術を用いて技術力の復元を行った。
西暦2000年代ほどの文明レベルと技術力にまで回復したものの、人類は本能的にそれ以上の技術発展を望むことはなかった。…"一部"を除いて。
その"一部"を監視し、必要とあらば介入して鎮圧する秘密組織が存在する。当時「大帝国」を滅ぼした戦士の子孫達で構成される、宇宙の均衡を保つ組織…「睡蓮の種子」。
これは、「睡蓮の種子」に所属する一人の少年の物語だ。
Side:B
本来4人で運用する航宙船「レールジャック」の中には、想定の3倍…12人の人影があった。
「こ、今回の任務に参加させて頂きました、天野ブレストと申します!皆様の足手纏いにならないよう最善を…」
「お兄ちゃん硬いって!もう…女の人にはいつもこうなんだから…」
船内の一角で、一か所だけ入れた赤いメッシュが口調の青い髪と赤と青の瞳を持つ一人の青年が緊張しながら女性に自己紹介をしていた。青年の名は天野ブレスト。16歳の頃OROの力に覚醒し、18歳から「睡蓮の種子」内で武力介入や潜入を行なう職、エージェントとなった。そんなブレストの隣では、彼に似た髪色と赤と緑の瞳を持つ少女が彼の肩を叩いていた。彼女は天野アトラ。ブレストの妹で、つい最近エージェントになったばかりである。
「宜しくお願いしますっ♪私も、精一杯頑張らせて頂きます!」
相手の女性がそう答えると、ブレストは全身の力を抜く。女性が苦手な為、任務前の挨拶回りの時には頻繁に起きる事なのだ。そもそも、基本的にこういった大人数を要求する任務に出向く事自体が少ない。つまり、この任務には直接指名されたのだ。
挨拶回りを終えて、展望スペースで休んでいると、金髪で翡翠と紫の瞳を持つ、外国人といった感じの顔立ちの少女がやってきた。
「二人共、そろそろミーティングするらしいわ。メインデッキに集合って」
「ん、分かった。…んじゃ、行くか」
ブレストからは年下の先輩に当たるエージェントの少女、アメリー・アルルカンへ返事を返せば、妹と共に下へと降りていった。
◇◇◇
「今回の標的は木星宙域にある非公認の研究艦だ。スリーマンセルの4部隊による任務を行なう。A班は占有して情報入手とシステムの破壊工作、B班はリアクターの妨害、C・D班は陽動と要救助者…艦内に囚われて実験体として扱われている者達の捜索だ。対朝は分隊以外にマルチで俺との回線も繋ぐように。これで以上だ。分隊内でのブリーフィングに移ってくれ」
任務の総指揮を務める男性の声がメインデッキに響いた後、各分隊ごとに分かれたブリーフィングに移る。戦闘能力に秀でたブレスト達はD班である。気が置けない仲で構成され、尚且つ戦闘経験も多いので特段話すようなことは少ない、のだが…
「改めて、僕らD班はひたすら荒らす…まぁ、いつもの事なんだけど、それに加えて救出と…"コレ"、忘れないようにね」
「貴方が一番忘れそうだけど…」
「"ギアコーダー"、だよね…使い方は覚えたけど、実戦で壊れたりしないかな?」
「大丈夫だろ。事前テストはしっかりやってたみたいだし…まぁ実戦で壊れるような事は無いんじゃない?」
アトラ、アメリーと共に確認しつつ、ブレストは懐からギアコーダーと呼ばれた市販品よりも小さめの拳銃のような道具を取り出す。今回の任務は過酷環境下での戦闘補助や能力を強化する新型ツールの実戦テストも兼ねているのだ。OROへの高適合が要求される物であり、ブレスト達はOROとの適合率が極めて高い為に選ばれたのである。また、正式採用が予定されている為に道具に取り付ける武装パーツの検証も任されている。
『目標ポイント視認。エージェントは出撃準備をお願いします』
「よし…!行こう!」
流れたアナウンスに反応し、装備の最終確認を軽く済ませて出撃ポットへと向かった。
この後、衝撃的な再開をする事も知らずに。
Side:C
小さい頃から、私はこの艦の中で暮らしていた。うるさいアラームで起き、簡素な食事を取った後は身体をひたすら弄られて、起きたらロボットによる戦闘訓練。そうして疲れ切った身体のまま自分の部屋へと戻り、沈み込むように眠る。それがずっと続いていた。親の顔は思い出せない。人の顔なんて、この艦の主であるあの研究者と、年々連れて来られてきた子供達しか覚えていない。私は子供達の世話を任せられ、不安や恐怖の顔を浮かべる子供達を必死に慰めた。彼らを見て、私もそんな理由でここに来たのだと思ったから。
この艦は巨大な牢獄だ。子供をモルモットのように扱い、望む物にならなければ容赦なく使い捨ての兵士として使うから。でも、私だけ何故か大事に扱われていた。腕の"01"の刻印や、頬に付けられたバーコード。強くなった聴力で遠くから聞こえた研究者の「最高傑作」という言葉が頭から離れなかった。この艦で必要なのは私だけ…子供達は用済みだという事を知ってしまった。
私は、私達は…この艦から出なければならない。だから…早く、助けて。
Side:B
研究艦内。
天井のダクトを足で蹴り飛ばし、D班の3人は床へ降りる。降りた部屋は倉庫として使われているのか、人気はなくコンテナなどが置かれている。中は一般的に広まっているCORPUS社の様式のようで、恐らく迷うことはない。
「…D班、侵入完了しました」
『D班侵入了解。…作戦開始だ!』
「了解!…さ、派手に暴れるよ!」
ブレストは指揮官へそう伝えた後、剣を取り付けたギアコーダーを手で遊ばせながら気合を入れ、ドアを開ける。その先は通路となっていて、横を向けば少し離れた所に人…この研究艦で働く研究員の姿があった。丁度、自分達の方は向いていない。
「…どー、もッ!!」
身体に電気を流して身体能力を上げ、素早く足音を立てずに背後に近づく。そして刃を相手の首元に当てれば、一気に振り払う。「ギャッ」という悲鳴と共にごとり、と首が落ちた。それと同時に艦内に警報が鳴り響く。同時に、通路の床や壁に穴が開き、そこから鳥を模したような戦闘ロボットが大量に出現する。
「良いね。試し斬りには丁度良い相手だ!」
そう啖呵を切れば、剣を構え、銃口を向けるロボット達に向かって走って行った。
「…これ、思ってたより使えるね。精度も良いし…」
「だな。こっちも金属をこれだけ切っても刃こぼれ全然だし…よっぽど設計者の頭が良いんだろな」
戦場を転々としつつ、広い空間に出た所でそんな軽い会話を零す兄妹。
ギアコーダーに取り付けられた武装は使用している本人達の想像以上だった。ギアコーダー本体は電気ショック程度の光弾しか撃てないのだが、ブラスターパーツを取り付けた場合、一般的なビームアサルトライフルの弾丸よりも正確かつ高速で飛んでいく上に、散弾のようにそれらを撃つ事が出来るスプレッドモードが搭載されている。遠近のレンジを問わずに戦闘を行なえるのだ。セイバーパーツを取り付けた場合、超高周波振動機能を持つ刃によって合金すらも容易に切り裂く程の切断力を得ている。剣術の達人が使えば、この剣1つであらゆる任務をこなせるだろう。
「武器の性能はだいぶ良いのは分かったけど、検証する物はあと一個残ってるからなー…」
「ギアの装着ね。確か貴方にだけ渡されているのよね?」
「そうだよ。…前に似たようなのを使ったからかもしれないけど」
アメリーの言葉でブレストは思い出したように白いジャケットのポケットからUSBメモリのような機械を取り出す。"メモリー"と呼ばれているその機械は、ギアコーダーへ装着することでエージェント補助アーマー"ギア"の展開・装着を行なえる物だ。ブレストは1年前、電脳世界でこれの試作版に近い物を扱った事があり、それもあって開発者から自分だけに渡されたのだ。渡されたメモリーも、その時に使用していた"GAUSS"という名称のメモリーだ。
「…まぁ、窓に穴でも空けられない限りは使わなくても良いとは思うけど…っと、リアクターは壊してくれたみたいだ」
そんな事を考えながら戦っているうち、ガシャン、という大きな音と共に艦内の電気が消えた。恐らくB班が船の動力源であるメインリアクターを破壊したのだ。少しして非常用電源に変わったようだが、長くはないだろう。
「それじゃあ、そろそろ見つけないとね。アトラ、足音とかは?」
「んー、戦いながら聞き分けてるんだけど…あ、あっちの扉の向こうから20人くらいの足音と、レーザートーチの音!」
「って事はあっちか…!行こう!」
そろそろ救助者を見つけなければならない…とアメリーが考えた時、五感に優れているアトラがそれらしき反応を見つけた。示した方向に向かって進むと、確かに20人程の少年少女の集団がいた。殿には年長らしき人物が銃を持って辺りを警戒しており、先頭に立つ女性は二振りの改造レーザートーチの電源を切ってブレストに目を向けた。
「貴方達は、誰?」
「君達を助けに来た」
Side:C
今日の実験が終わり、二人の研究員に拘束されながら収容室へと連れて行かれている最中、艦内に警報が鳴り響いた。研究員は焦った顔で怒鳴るように他の研究員へ指示を送りつつ、自分の腕を引っ張って急いで収容室へと連れて行った。
逃げるチャンスは今しかない、と私は考えていた。収容室の扉が近づき、カシャリ、と開いた瞬間、艦内が暗くなった。今だ、と身体が叫んでいた。暗黒の中、脚を鞭のようにうねらせて一人の研究員を蹴り飛ばして気絶させ、腕の拘束を壁に打ち付けて無理やり壊し、研究員が持っていた改造型レーザートーチを奪い取る。電源を入れ、柄から緑色の長い光を生み出せば、素早く後ろへ振り向いてもう一人の研究員を切り裂き、そのまま一回転して気絶させた研究員の胸に突き刺す。
非常用電源に切り替わり、艦内が明るくなっても、収容室の扉は開いたままだ。収容室では、自分の事を不安そうに見つめる多くの子供達がいる。私は皆に向けてこう言った。
「ここから逃げよう。今しかチャンスはない」
それからは大変だった。研究員から奪い取った二振りの改造レーザートーチを武器に、戦闘ロボットの光弾を弾いて守りながら進む必要があった。途中で研究員用の武器庫からビームライフルを調達し、殿を務める少女に預けてからはだいぶ楽になったが、それでも自分が先に敵を片付ける必要はあった。腕を広げ、背をかがめ、まるで鳥のように縦横無尽に飛び回りながら切り伏せる。文字通り籠から解き放たれた鳥の気持ちだ。
しかし、何故自分は教えられてもいない戦闘技術を当然のように行っているのだろうか。まるで過去にそんな出来事があったかのように、自然と身体が動く。私は一切そんな経験はしていないし、された事もないのに…頭に埋め込まれた機械のせいだろうか。
ともかく、脱出艇がある筈の離着陸ポートまで行かなければ。そう考えながらロボットを薙ぎ払っていると、扉の向こうで騒がしい音がした。怒鳴り声ではなく、悲鳴のようなビープ音と金属音。自分達が奏でている音と同じだ。もしかしたらこの騒動を引き起こしたテロリストか何かが暴れているのかもしれない。…本当にテロリストだとして、自分達に危害を加えてきたらまた問題だが、そのリスクを飲み込んでも合流する価値はある筈だ。そんな事を考え、音のする方向へと進む。
扉が開いた瞬間、そこにいたのは3人の男女だった。全員白いジャケットを着ていて、仲間なのだろうとすぐに分かった。向こうも自分達に気づけば、剣を持つ少年がこちらに近づいてきた。仲間の少女に武器を預けた上で。…そこまで敵意が無い事を示しているのだから、自分も答えるように持っているレーザートーチの電源を切って、こう言った。
「貴方達は、誰?」
「君達を助けに来た」
「…救助者を発見しました」
『でかした!こっちもデータの回収と破壊を確認した。すぐに脱出するぞ』
両者が邂逅した後、ブレストは指揮官に連絡を送る。アトラとアメリーもブレスト達の方へ向かい、彼に剣を渡す。
「了解!…今からこの船から脱出します。アトラとアメリーは前と後ろに付いて警戒を、貴女には僕と一緒に先行して貰います」
「分かったわ。足手纏いにはならないよう努力する」
ブレストが連絡を終え、剣を取れば仲間二人と実験体の中でリーダーと思しき女性に指示を送る。
3人とも答えて、ブレストは女性と共に離着陸ポートへ走る。道中に現れた敵は全て倒して。
「…ねぇ、貴方の名前は?」
「そういえば言ってなかった…僕は天野ブレスト。ブレストと呼んでください」
「ブレスト君、ね。私は…そうね、クロウ…クロウ・エーカムと呼んで頂戴」
進んでいく最中、女性はブレストに名前を聞いた。女性が彼の名前を聞くと、自分も名乗り返そうとするが、少し言い淀んでから返した。彼女は名前という物を持っていなかったのだ。自分の呼ばれ方は"01"という番号のみ。それに頭の中で急に浮かんだ"クロウ"という言葉を繋げたのだ。
「分かりました、クロウさん。…どっかで会った事あります?」
「え、そんな事はない筈よ?…多分。この船にいなかった頃の記憶がないから…」
次はブレストから質問をする。ブレストは電脳世界の戦いにおいて、彼女に似た風貌で"クロウ"という名前の女性と共に戦っていた。戦い方はその時よりも野性的で苛烈だが、あまりにも似すぎているが故に聞いたのだ。クロウは一応否定するも、少し曖昧な答え方をした。彼女は朧気だが、彼に似た風貌の少年の顔を覚えていた。今日になって浮かんだ筈なのに、何故かずっと前から知っているかのように感じていた。
「…そう、なんですか…いやすみません、変な質問しちゃって」
「良いよこの位。…と、そろそろ着くわよ?」
「分かった。これで20人以上入るやつがあれば――」
扉を開けた先は広い離着陸ポートだった。他の分隊や人員は既に脱出したのか、緊急艇の数はだいぶ少ないし、辺りにはロボットの残骸だらけであった。。密閉シールドが張られた先は宇宙空間であり、緊急艇に乗ればすぐに脱出が出来そうだ。
とりあえず目的地まで着いたので、2人は安心したように溜息をつく。
ガシャリ、ガシャリ。
「っ、何、この音…!」
「うわっ、と…!これは、あんまり想像したくないけれど…!」
溜息をついた瞬間、重々しい金属音が響く。床が揺れる程の振動に、2人よろめかせながらも何とか立ち続ける。…離着陸ポートから現れたのは、自分達の3倍はある大きさの四つ足の戦闘ロボット。"ジャッカル"と呼ばれるそのロボットは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。ミサイルの発射口を向けて。
「僕達を出させない気か…面倒な!」
「…どうするのよ。もう時間がないのに…」
「コイツを倒すしかないね」
後ろからは救助者を連れた仲間が来ている。特に約20人いる非戦闘員は早く脱出艇に入れなければならない。今の状況で脱出を行なうのはとても危険だ。
自分の持つレーザートーチでどこまで戦えるか…と不安げな顔を浮かべるクロウと裏腹に、ブレストは「よし!」と気合を入れ、一歩前に出る。
「絶体絶命だけど…"ギア"の試しには十分すぎる相手だ!!」
ブレストは左手でジャケットからUSBメモリのような機械…"メモリー"を取り出した。
《Kinetic Power》
ブレストは取り出した"メモリー"を剣を付けたギアコーダーの下部にあるコネクターに装着した。装着すると、電子音声が響いた。
ギアコーダーをジャッカルへと向け、引き金を引くと、銃口からは赤い光弾が放たれた。それは一度前方へ飛んだ後、大きく曲がってブレストへと飛んでくる。ブレストはそれをギアコーダーを持つ右手で殴るように受け止めた。
光弾を受け止めた瞬間、一瞬の閃光と共にブレストの身体は変化していく。2m前後はある身長と引き締まった身体となり、皮膚はゴム質と硬質の混ざった複雑な装甲になる。身体中にラジエーターやモーター等の機械が装着され、足先は蹄のような細く硬い物へと変化し、頭も顔を覆うようなヘルメット状になった。
閃光が収まった時、そこにいたのは特撮のヒーローを感じさせるような仮面の戦士だった。ブレストがエージェントの身体を変化させ、強固な鎧を生み出す"ギアシステム"を使用した姿だ。
『…ちょっとくすぐったかったけど、問題なさそうだ…!』
「ブレスト君、その姿…って、速い!?」
拡声器を通したようなブレストの声が戦士から漏れてくる。中身は間違いなく彼自身のままだ。
手を握って開き、身体の調子を確認すればジャッカルへと走り出す。その速さは生身の時よりも遥かに速く、離着陸ポート奥にいたジャッカルにすぐに辿り着いた。
《One》《Mach Rush》
『小手調べに…これだ!』
そのまま走り込みつつ、ギアコーダーのハンマーを1回倒し引き金を引くと電子音声が鳴る。瞬間、走る速度が目視出来ない程跳ね上がった。その際、ジャッカルの脚にぶつかるように走り抜けて、衝撃でジャッカルの体勢を崩す事が出来た。しかし、急に止められないのか大きな衝撃音を立てながら壁に激突した。
『痛…くない。凄いな…!なら次は…!!』
《One.Two》《Kinetic Plate》
『ぐ、…おぉ、そんなに痛くない!』
めり込んだ壁から起きる。あれだけの衝撃を受けて傷一つついていないブレストはギアの耐久性の高さに驚きながら、ミサイルの発射口を向けるジャッカルの次の行動に対応する。ハンマーを2回倒し引き金を引くと、身体の各部に配置された機械が振動し、体表に赤い障壁が展開される。ジャッカルはミサイルをブレストへ放った。全てブレストに命中し、幾度も爆発が起こる。しかし、黒い煙が晴れた後のブレストの身体は少し掠り傷があるだけで、抉れるような重症は無かった。事前に展開した障壁が爆発や熱といった運動的な力を防いだのだ。
「…っ、貴方、とんでもない隠し玉を持ってたのね」
『まさか。僕もここまで強いなんて思ってなかったよ…と、早く済ませなきゃ!』
《One.Two.Three.four》《Finisher Break!!》
『力が漲る…!!はぁっ!』
クロウがブレストの近くへ追いつき、怪しげな顔で見つめる。個人が持つには余りにも強大な力を持っている事が気になったのだが、彼自身にも想定していない以上、彼に聞き出すのは限界がある。いつかこれを作った研究者にでも問い詰めてみようかと考えながら、ジャッカルへ向き直す。
ジャッカルは丁度体勢を整えた所だったが、ブレストの行動の方が早かった。ハンマーを5回倒すと、身体中に力が漲っていく。フィニッシャーという電子音声の通り、この力をぶつければ確実に撃破出来る自信がついた。ブレストは力を脚に溜め、高く跳躍し、ジャッカルへ向けて飛び蹴りを放つ。しかし、機械であるジャッカルの様子はトドメの一撃を受ける最中でも変化しなかった。
「…っ!危ないっ…!!」
理由はクロウがすぐに理解した。ジャッカルは背中から大型のレーザーキャノンを展開し、ブレストに銃口を合わせていた。いくらあの高耐久でも、このままでは負けるか相討ちになってしまう…そう考え、急いで詰め寄ってレーザーキャノンへ手を伸ばす。しかし、軌道を変えるのは一瞬の対応ではすぐ出来なかった。彼女は我武者羅に念じ続けた。"曲がってくれ"と。
そう念じた瞬間、彼女の掌から弱い突風が生まれた。しかし、瞬時に細く鋭い槍のように手の先…レーザーキャノンへと飛んでいき、ぐい、とその向きを大きくずらした。
『はぁぁぁぁぁっ!!!』
その結果、ブレストの大技は命中、金属の身体を貫通し、床に着地する。ジャッカルは金属の塊と化し、崩れ落ちた。
「っ、今の、は…」
「時間がもうない。早く脱出艇に乗るよ!」
「そ、そうね…」
クロウは自分の手を見つめながら、仮面の戦士の姿から元の少年の姿に戻ったブレストに続き、脱出艇に乗り込む。全員乗り込んだのを確認すれば、ブレストが脱出艇を操作し、全速力で研究艦から脱出した。少し離れた末、研究艦が大爆発を起こしたのを後ろを振り向いて見つめていたクロウは、改めて自身が籠から解き離れた自由の身になった事を感じた。
後日、月、「睡蓮の種子」月面支部。
白を基調とした無機質かつ広い研究室には、多くの研究員達がいた。その中にブレストと、彼と話している研究者らしき中性的な雰囲気の少女がいた。
「…作戦は成功。ギアシステムやそれに付随するアクセサリーも試験以上の成果を出してくれた、と…有難う。良いデータが取れたよ」
「こっちは大変だったけどね…で、結局コレは実用化するの?」
「勿論。これだけ良い成果が出たんだ。量産化は難しいけど、利用できる者にはどんどん供給するつもりさ」
くるくるとギアコーダーを回しながら話すブレストと、タブレットを確認しながら話す少女。口頭確認という事務的かつアナログな会話である。互いに若い年代で、少女の方からタメ口の方が話しやすいと頼まれたので砕けた口調で話を進めている。
「…あぁ、君が救助した実験体達、全員に微弱なOROの覚醒が確認されたよ。…特に、君が言っていたクロウ・エーカムという女性はギアシステムをすぐ使用できる程適合率が高かった」
「…え、じゃああの人は…」
「ちゃんと了承を得て、エージェントとして働いてもらう事になったそうだよ。他の実験体の子達も、身元が判明出来なかった場合はここで保護したり、希望があった子はエージェント訓練生になったよ」
「そっか…仕方ない、って諦めちゃ駄目なんだろうけど」
「現状はOROの覚醒を抑える事は出来ないからね…行き過ぎた段階だと、自分で制御して貰うしかないから」
本当は自分達のような非日常に生きる人間は増えてほしくない、というのはブレストも彼女も思っている事だ。しかし、実験で身体を弄り回された者達に普通の生活など送れる訳がない。そうした者達を保護するのも自分達「睡蓮の種子」の仕事なのだ。
「…まぁ、君は彼女に何か思い入れがあるんだろう?僕の"キラー"も、彼女に既視感を覚えているようだし。たまに会いに行くのが良いんじゃないかな?」
「余計なお世話…って言いたい所だけど、そうするよ。聞かないといけない事がいっぱいあるし…」
「あ、その時は僕も一緒という事で」
「…戦うってなったらどうするんだよ?」
「勿論戦うさ。僕を唯の研究者だと思っては……」
真剣な報告は終わり、"彼らにとっての"日常的な会話へと自然に変わる。一般人からしたら少し物騒に見えるかもしれないが、こうして軽口を言い合える事すら彼らにとっては日常を感じる行為なのだ。
最終更新:2021年03月14日 02:45