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概要
熱中症とは、高い気温(暑さ) によって体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして、体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす病気のことである。
一般的に人間における症状に対してつかわれることが多いが、ほかの動物も熱中症にかかることがある。
かつては、熱射病や日射病などとも呼ばれ、熱けいれんや熱疲労など症状別の呼び名も一般につかわていたが、昨今では暑さが引き起こす一連の症状を総称して熱中症と呼ぶことが一般的となっている。
特徴
人間は恒温動物に分類され、気温が上下しても体温を一定に保つ機能を持っている。例えば暑いときは汗をかいたり血流が増えたり、寒いときは毛穴が閉じたり体が震えたりといったものである。
しかしながら、体温調節は汗や尿といった形で水分や塩分を排出、消費される形で行われることも多いため、体内の水分や塩分が失われたり、湿度が高く汗が蒸発しないなどといった理由で体温をうまく下げられない状況に陥ることがある。また、体内に蓄えられている水分や塩分が足りなくなることによる直接的な影響も含めて熱中症と呼ばれる。
症状としては
- めまいや顔のほてり
- 筋肉痛や筋肉のけいれん
- 体のだるさや吐き気
- 汗のかきかたがおかしい(異常発汗、もしくは汗をかかない)
- 体温が高い、皮ふの異常
- 呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けない
- 水分補給ができない
などがある。
対策
暑さに体をさらさない
まず、当然のことにはなるが、体を暑さにさらさないことが一番の対策となる。
一言に暑さといっても、気温の事ではなく、体が感じる暑さの事であることから、一般的な指標としては
WBGT(暑さ指数)がよく用いられる。
WBGTの求め方と基準については当該ページを参照のこと。もっとも、人によって感じる暑さも発汗などの代謝量も変わってくるため、基準はあくまでも参考程度にとどめ、自分が暑いと感じたり、熱中症の症状が出始めたりするようであれば我慢せずに対処する必要がある。
- 「気温と湿度を」いつも気にする
- いま自分のいる環境の気温や湿度をいつも気にしておく。屋内の場合は、日差しを遮ったり風通しを良くすることで、気温や湿度が高くなるのを防ぐこと。WBGTの測定についてはこちらでいくつか測定機器を紹介しているので参考に。一般的な温度計と湿度計、あるいは時計にそのような付属機能がついているものでもよい。
- 「室内を」涼しくする
- 扇風機やエアコンで室温を適度に下げること。過度の節電や「この程度の暑さなら大丈夫」とガマンしてはいけない。消費電力が気になる場合は、エアコンと併用して扇風機や冷風扇、除湿機能付きの空気清浄機などを併用すれば全体の電力が下がることがある。また、打ち水も効果的であることが実証されているが、少量ではかえって逆効果で蒸し暑さが増してしまう。ふろの残り水などを活用し、地面がすぐに乾かない程度に撒いておくのが良い。
- 「衣服を」工夫する
- 衣服を工夫して暑さを調整する。衣服は麻や綿など通気性のよい生地を選んだり、下着には吸水性や速乾性にすぐれた素材を選ぶとよい。ただし、日焼けや虫刺されが気になる場面では長手袋をしたり、薄い長袖のシャツを上から一枚羽織るのも手である。体を直射日光から守ることで、状況によっては却って暑さを感じないこともある。
- 「日ざしを」よける
- ぼうしをかぶったり、日傘をさすことで直射日光を避けること。また、なるべく日かげを選んで歩いたり、日かげで活動したりするように。大都市では地下街、田舎では並木やアーケードなどを活用するのが良い。
- 「冷却グッズを」身につける
- 冷却シートやスカーフ、氷枕などの冷却グッズを利用する。毎日の生活で使えるものから夏の寝苦しさをやわらげるようなものまで、さまざまなグッズが存在する。ちなみに、首元など太い血管が体の表面近くを通っているところを冷やすと、効率よく体を冷やすことができる。そのため、最近ではネッククーラーなどの商品も販売されている。
ネックファン(首掛け扇風機タイプ)の例
ネッククーラー(冷却プレートタイプ)の例
ASINが有効ではありません。
- 暑いときは「激しい運動を避ける」
- 暑いときは安静時においても大量に汗をかき、熱中症にかかりやすい。運動といってもスポーツなどに限らず、屋外での作業、特にアスファルト舗装作業やアスファルトの上での交通整備などといった作業はアスファルトによる照り返しで更なる暑さにさらされることとなる。
- 特に暑いときはこのような作業を原則中止したり、涼しい室内などでできる作業や練習で代替するなど、トップダウンで対処することが求められる。特に子供や高齢者においては大人以上に気を遣うこと。
- 急激な「暑さの変化」を避ける
- 例えば、クーラーで過剰に冷やした部屋から外に出ると体が熱さに対応できず、異常発汗や思いがけない体調不良(場合によっては熱中症ではなく、ヒートショック) につながることがある(熱中症ではないが、逆に外からクーラーで過剰に冷やした部屋に入るとヒートショックに陥ることがあるため、こちらにも注意が必要)。
- 特に10度以上の急激な気温変化は体に悪影響を及ぼすため、空調の温度を下げすぎないことや、どうしても気温差が大きいときに外出するときは衣服で調整したり冷却グッズを身につけるなど、体を少しでも冷やす工夫をすること。車から車外に出たり、長い間炎天下で放置していた車の中に戻るときも注意が必要。
- 外出時の「避暑スポット」を確保する
- やむを得ず外出しなければならない時は、経路上にある公共機関やショッピングセンターなど、気兼ねなく入れる涼しい場所を把握しておくとよい。また、外出が長くなりそうな場合は喫茶店など水分を補充できるスポットに立ち寄ることを行程にあらかじめ組み込んでおくとよい。
暑さに負けない体づくり
また、シーズン前、シーズン中を通して暑さに負けない体づくりが必要となる。
「体を徐々に暑さにならす」ということに限らず、暑さに対し必要な栄養や水分などを積極的に摂取することで暑さに対抗する体づくりをしていくことも重要である。
- 体を徐々に「暑さにならす」
- 本格的な夏のシーズンの到来前(大体5月ごろ) には多くの地域で夏日や真夏日となることがある。このころはまだ空気も乾燥していることも多く、夏本番よりまだ過ごしやすい暑さであるため、すぐに空調に頼るようなことをせず、段階的に体を暑さに慣れさせていき、夏本番の暑さに備えることが大事である。ただ、本格的な暑さではないとはいえ、熱中症の危険性はあるため、無理をしない程度にならしておくことが大事。
- また、まだ暑くなるシーズンの前から軽い運動(ジョギング)などで軽く汗をかくことにより、体を慣らしておき、日ごろから暑さに体を慣らしておくとよい。
- 本格的な夏のシーズンの中であっても、例えば急に外の作業に入る場合は最初から全力で作業をせず、徐々に体の負担を増やしていき、体を暑さに慣れさせることが必要である。現場における新規入場者に対する安全教育の一環として、熱中症の危険性や対策について徹底的に周知しておく必要がある。
- 「水分を」こまめに摂取する
- のどがかわいていなくても、こまめに水分をとること。スポーツドリンクなどの塩分や糖分を含む飲料は水分の吸収がスムーズにでき、汗で失われた塩分の補給にもつながる。
- ただし、一度に吸収できる水分の量には限界があるため、一度に大量の水を飲んでも効果が薄い。長い間隔で水をがぶ飲みするのではなく、こまめに適量を吸収することでより効率的な水分補給が可能となる。
- スポーツ飲料で水分を補給する場合は状況によって適した飲料が変わってくる。暑いときの水分補給についてのページを参考に。
- なお、カフェインやカリウム、アルコールなどは利尿作用があるため、熱中症対策としてこれらが多く含まれる飲料での水分補給は避けること。(例:コーヒー(カフェイン)、カリウム(トマトジュース)、アルコール(ビール))
- スポーツ飲料に関しても糖分が多く含まれるため、飲みすぎると「ペットボトル症候群」にかかり、糖尿病のリスクが高まることから、飲みすぎには注意すること。
- 「塩分を」ほどよく取る
- 日本人は一般的に塩分摂取量が高いといわれている関係上、過度に塩分をとる必要はないものの、毎日の食事を通してほどよく塩分を取ること。大量の汗をかくときは、特に塩分補給を。ただし、かかりつけ医から水分や塩分の制限をされている場合は、よく相談の上、その指示に従うこと。
- スポーツ飲料で水分を補給する場合、適切に飲用していれば必要な塩分量はスポーツ飲料で補えるため、さらに塩タブレットや塩飴を使った塩分補給は不要であり、場合によっては塩分過多に陥る場合がある。逆に、緑茶や水で水分補給を行っている場合は、そういったもので必要に応じ塩分補給を行っていくこと。
塩タブレットの一例
- 「睡眠環境を」快適に保つ
- 通気性や吸水性の良い寝具をつかったり、エアコンや扇風機を適度に使って睡眠環境を整え、寝ている間の熱中症を防ぐと同時に、日々ぐっすりと眠ることで翌日の熱中症を予防すること。
- 寝ている間にも汗によって水分や塩分は失われていくため、快適な睡眠環境は体調を整え、体力を回復させることによる翌日の熱中症対策だけでなく、寝ている間の熱中症対策にもなる。また、先述の理由により寝起きは水分が体より失われているため、起き抜けに水を一杯飲んでおくと安心である。
- ただし、おなかを過剰に冷やすことは「下痢」を引き起こすことがあり、下痢によって水分を奪われたり、体力を奪われることにつながる。空調をするにあっては、おなか周りを冷やしすぎないように注意すること。
- 「丈夫な体を」つくる
- バランスのよい食事やしっかりとした睡眠をとり、丈夫な体をつくること。体調管理をすることで、熱中症にかかりにくい体づくりをすることが大切。
- また、夏野菜には体を冷やす効果があるものも多く、暑い時期には欠かせない。夏に限らず、旬のものを食事に取り入れることが体を丈夫に保つことにつながる。
- 「過度な飲酒は」控える
- アルコールはストレスを解消したり、生活の質を上げるために大事なものである。また、ワインに含まれるポリフェノールなど、体にいい効果をもたらす成分が含まれている場合もある。が、飲みすぎに注意すること。アルコールは利尿作用があるため水分補給としては不向きであるうえ、飲みすぎは二日酔いなどといった翌日の体調不良をもたらし、熱中症にかかりやすくなる。熱中症になりやすい日の前日はお酒は控えめに。
暑さから身を守る行動を
- 「飲み物を」持ち歩く
- 出かけるときは水筒などでいつも飲み物を持ち歩き、気づいたときにすぐ水分補給できるようにする。
- 屋外の現場などで長時間持ち歩く場合は、水筒など保温性がある容器に入れるか、あるいはクーラーボックスなどに入れて常に冷やしておくとよい。ペットボトルを暑い路上に長時間放置した場合は破裂の危険性があるほか、中身が想像以上に高温になることもあるため、冷やしすぎに注意しつつ、適切な温度を保てるようにする。
- ペットボトルなどは特に車内など、暑くなりやすい密閉空間には放置しないこと。破裂の危険性がある。
- 「休憩を」こまめにとる
- 暑さや日差しにさらされる環境で活動をするときなどは、こまめな休憩をとり、無理をしないようにする。風次第では木陰や水辺での休憩でも十分効果がある。
- 先に述べたように、屋外での活動時には避暑スポットを確認しておき、長時間歩くときなどはそういった場所への立ち寄りなどをあらかじめ計画として考慮しておくとよい。(その時間を見込んだうえで早めの外出を心がける)
- 屋外での現場作業の際、現場の期間が長くなる時は特にプレハブなどで休憩所を用意したり、そうでなくても近くの木陰などにサーキュレーターや冷風扇を用意するなどして快適に休憩できる場所を確保する。そのうえで暑いときは通常時より休憩時間を多めに設け、作業員の体調確認を怠らないようにすること。
- 「暑さ指数(WBGT)を」気にする
- テレビ、Webなどで公開されている暑さ指数(WBGT)で、熱中症の危険度を気にすること。
- ネット上における主な公開サイトは次の通り
- 同じ気温であってもWBGTが異なると、暑さの感じ方がかなり変わってくる。予想最高気温だけにとらわれず、WBGTを確認することで、実際に感じる暑さにより近い数値を知ることができ、より正確な暑さ対策に結びつくことになる。
- また、屋内外問わず、直射日光を受けるような場所、アスファルト上や熱の逃げ場がない都心、空調のない体育館、温室、プレハブ小屋、倉庫などの密閉空間、熱源の近くなど暑くなりやすい場所、水辺や水回りなど湿度が高くなりやすいような場所など、WBGT値が高くなりやすい環境下ではWBGT計を携帯するなど、正しいWBGT値を把握できるように努めること。
- スポーツや現場での作業など、屋外などで激しい運動を伴う場合は特にWBGT値に注意し、危険な場合は予定を中止するなど、強い措置をとること。また、数値上は危険でなくても自分自身や仲間の健康状態をお互いに気づかい、無理はしない、させない意識を共有すること。
WBGT計の例
- 「暑さの変化に」気を付ける
- 一般的にWBGTで熱中症の危険性を把握し、啓発が行われていくわけではあるが、先述した通り「体の暑さに対する慣れ」というのも熱中症に大きくかかわってくる。
- そのため、梅雨明けシーズンや台風一過の好天、フェーン現象の発生による急激な温度上昇など、数日間単位で気温が低下していた後に急に気温が上昇するようなケースでは実際の暑さ以上に体に負担がかかりやすくなる。
- また、休日の間空調の効いた家で体を休め、週明けいきなり外出や運動、作業などを行う場合や、定期試験や病気などにおける部活中断の後の部活再開、長らくの事務作業から現場作業に入る時(新規入場時やブランクがあった場合) などにも同じようなことが言える。
- このような場合はWBGTの数値が多少低くても、いつも以上に熱中症に警戒する姿勢を大事にし、周囲にそのような人がいる場合は周りも気にかけておくこと。
- 「みんなで」気を付ける
- ここまででもいくつか挙げた通り、自分だけでなく、お互いに熱中症に対する意識を共有し、お互いに声を掛け合い、気遣う姿勢が大事。
- 部活や学校行事、仕事など集団で行動する場合は長い間一人になるひとを作らず(単独作業をできるだけ控える)、互いに声を掛け合ったりしながら、お互いの体調を気遣い、みんなで熱中症を防ぐ意識を持つこと。特に指導的・監督的な立場の人は行動や運動、作業などの開始時に全員の体調を確認しておき、集団の状況を常に把握し、少しでも異常を感じたらためらわずに声をかけること。
- 街中で熱中症の症状が出ている人を見かけたら、ためらわずに声をかけること。声をかけづらい場合は助けを求め、複数人で対処するのも良い。
症例
重症度によって、次の3つの段階に分けられる。
- Ⅰ度:現場での応急処置で対応できる軽症
- 立ちくらみ(脳への血流が瞬間的に不十分になったことで生じる)
- 筋肉痛、筋肉の硬直(発汗に伴う塩分の不足で生じるこむら返り)
- 大量の発汗
- Ⅱ度:病院への搬送を必要とする中等症
- Ⅲ度:入院して集中治療の必要性のある重症
- 意識障害、けいれん、手足の運動障害
- 高体温(体に触ると熱い。いわゆる熱射病、重度の日射病)
対処
熱中症が疑われる場合は、次のような応急処置を行う。
- 涼しい環境に移す
- 脱衣と冷却
- 衣類を脱がせて、体内の熱を外に出す。さらに、露出させた皮膚に水をかけ、うちわや扇風機などで仰いだり、氷嚢で首やわきの下、太ももの付け根を冷やし、体温を下げる。
- 血管が集まっている場所を集中的に冷やすことで迅速に体温を下げることができる。
- 水分と塩分を補給する
- 冷たい水、特に塩分も同時に補える経口補水液やスポーツ飲料などを。ただし、意識障害がある場合は水分が気道に流れ込む可能性があるため、無理に飲ませない。
- また、吐き気や嘔吐の症状がある場合には、すでに胃腸の動きが鈍っていると考えられるので、口から水分を入れることは避ける。
また、次のような場合は医療機関へ。
- 熱中症を疑う症状があり、意識がない、または呼びかけに対する返事がおかしい場合は、すぐに救急車を呼ぶ。
- 意識があっても、水分を自力でとれない場合は、医療機関へ。
- また、水分を自分でとれ、必要な応急処置を行ったものの、症状が改善しない場合も、医療機関へ。
補足
子供は代謝がよく、体の体積に対して表面積が大きいため、暑さの影響を受けやすい。ペットも熱中症にかかることがある。体調には大人以上に気をつかい、水分補給を怠らないようにする。
きつい日差しの中ではアスファルトは50度を超える高温になることもあり、頭が近い子供やペットはその影響を強く受けやすい。子供を伴う外出やペットの散歩などは早朝や夜間など、日差しがないか、まだそれほどまでに強くない時間帯に行うことが望ましい。夕方も日差しは和らいでいるものの、昼間の影響でアスファルトの温度が下がりきっていないことも多いため、気を付けること。
また、ペットを熱いアスファルトの上で無理にはだしで歩かせると肉球にやけどを負うこともある。散歩の際はペット用の靴を履かせるなどの対策をとることが望ましい。
出典
最終更新:2022年07月04日 00:25