…捨てる?
出来ない、と元就は思った。そうしたら、この身には何も残らなくなる。
もともと何の才もないちっぽけで不細工な子供が、虚勢を張っているだけなのだから。
終わってしまった過去にしがみつく為だけに夥しい命を奪ってきた。
だからこうして罰を受けるのは当然なのだけれども、(否、ここで死ねばそれこそ命は浮かばれぬ)
空っぽな『松寿』に、ぎゅうぎゅうと『毛利の主』を詰め込んだ自分は、
果たして鬼の飢えを満たすことが出来るか。――答えは、それも否だろう。
(だってこんなに痩せっぽちで)
(だってこんなにぶさいく)
満足出来ない鬼はきっと、毛利の兵をみんな食い散らかしにいくのだろう。
それは駄目だ。守らなきゃ。
ああ、でも情けないことにさっきから足の震えが止まらない。
武器も強い拳も何にも持っていない。
守れない。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!
もともと何の才もないちっぽけで不細工な子供が、虚勢を張っているだけなのだから。
終わってしまった過去にしがみつく為だけに夥しい命を奪ってきた。
だからこうして罰を受けるのは当然なのだけれども、(否、ここで死ねばそれこそ命は浮かばれぬ)
空っぽな『松寿』に、ぎゅうぎゅうと『毛利の主』を詰め込んだ自分は、
果たして鬼の飢えを満たすことが出来るか。――答えは、それも否だろう。
(だってこんなに痩せっぽちで)
(だってこんなにぶさいく)
満足出来ない鬼はきっと、毛利の兵をみんな食い散らかしにいくのだろう。
それは駄目だ。守らなきゃ。
ああ、でも情けないことにさっきから足の震えが止まらない。
武器も強い拳も何にも持っていない。
守れない。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!
元就が懺悔で脳内を満たしていると、鬼はどうしてか体を少し離した。
やんだ体を撫でる手の動きに少し驚いて鬼の顔を恐る恐る見上げると、鬼がにやりと笑って言う。
「もう…いいな?元就…」
もういい?この世に未練はないな、という事?
悔恨は終わったか。言い残すことは。
鬼はひょいと元就の右足首をつかんで、自分の肩に乗せた。より不安定な格好。
怖い。
元就の唇が震える。怖い、恐ろしい。では一体何がそんなに怖い?
(まだ死ねない。)(毛利を守らなきゃ)――思い出の住まう場所を。
やんだ体を撫でる手の動きに少し驚いて鬼の顔を恐る恐る見上げると、鬼がにやりと笑って言う。
「もう…いいな?元就…」
もういい?この世に未練はないな、という事?
悔恨は終わったか。言い残すことは。
鬼はひょいと元就の右足首をつかんで、自分の肩に乗せた。より不安定な格好。
怖い。
元就の唇が震える。怖い、恐ろしい。では一体何がそんなに怖い?
(まだ死ねない。)(毛利を守らなきゃ)――思い出の住まう場所を。
おもいでを。
ふわりと、泣いた元就の頭を撫でてくれる兄の匂いがした。