与えても良かった。
自ら奪っても良かった。
だが、もっとも辛い道を選び、その役目を果たすまではと魂を削るようにして付き従う娘を前にして、
幸村に添えとも、その身を任せよとも言えない。
自ら奪っても良かった。
だが、もっとも辛い道を選び、その役目を果たすまではと魂を削るようにして付き従う娘を前にして、
幸村に添えとも、その身を任せよとも言えない。
それは、あまりに男の道から外れよう。
北端の一揆を鎮めた後は、暫し休ませよう。
すべての任から解き放ち、魂が癒えはじめるのを待つより他に手だてなどあるまいよ。
すべての任から解き放ち、魂が癒えはじめるのを待つより他に手だてなどあるまいよ。
刀を手に取る。
身が細りゆくばかりだというのに、重さは余り感じなかった。
むしろ軽い。腰に六本も下げているとは思えないほど、身が軽い。
「一揆鎮圧なんてね、厭な仕事だよ、全く」
一揆をはじめた雪の寒村の偵察から戻った佐助が開口一番ぼやいた。
そのまま雪原に村のおおざっぱな見取り図と、見抜いた罠を指し示していく。
「ここの道は駄目、雪玉を転がり落とす仕組みがあるよ。
隊列乱れちゃうし、雪玉は転がる時にどんどん大きくなってくし、無駄に犠牲が増えると思う。
団結力はかなり高いみたいだね。親玉はー……すんません解らなかったです。
多分みんなと同じような姿してるか何かだと思うんだけど……なんかこう、農民の集団に紛れちゃってて」
農村か。村の規模は、北の地にしては大きい。
だが、自然の力を利用した防衛以外は何と言うこともないだろう。
「こう柵がいくつかあって、多分弓兵か何かを置いて来るつもりだね。山で動き回る獣狩る猟師だろうから、
あんまり油断できないよ。下手な射手よりよっぽど上手いと思う。で、一揆の煽動者がいるのは…作りからしたら、
きっとこのへん。一番前に出てきて応戦するようなことはないでしょ、柵も雪玉も無駄になるし」
防衛的にもっとも奥まった辺りを佐助の指が軽く突いた。
佐助の単純化された図では、かなりぽかりと開けた場所だった。
秋の収穫の祭りには、皆が集まり、実りを言祝いで騒ぐ場所なのだろう。
「ふむ。幸村よ。どう出る?」
信玄の言葉に、幸村の目がぱっと輝く。
雪中の行軍は糧食と体力を容赦なく奪うため、残りの軍は勝頼に纏めさせ、
落ち着きを取り戻したばかりの旧伊達領をにらませている。
信玄直属の部隊に幸村が率いる真田隊とその忍びの一隊、そして客将のような扱いを受ける政宗ひとり。
身軽な部隊だが、一揆鎮圧には有り余るほどの武威だ。
「は!山中の農村であれば整然とした行軍には不向き、ならば精鋭が中枢に切り込み、制圧あるのみかと!」
そうだな。家々は少しでも風を凌ごうと隣接して建てられる。
行軍の合間合間にその隙間から鍬や棒で殴られるのは真っ平だ。
風のように早く、時をかけずに終わらせたい。
「政宗、どう思う」
上田城の虜60/かんなびのさと5
身が細りゆくばかりだというのに、重さは余り感じなかった。
むしろ軽い。腰に六本も下げているとは思えないほど、身が軽い。
「一揆鎮圧なんてね、厭な仕事だよ、全く」
一揆をはじめた雪の寒村の偵察から戻った佐助が開口一番ぼやいた。
そのまま雪原に村のおおざっぱな見取り図と、見抜いた罠を指し示していく。
「ここの道は駄目、雪玉を転がり落とす仕組みがあるよ。
隊列乱れちゃうし、雪玉は転がる時にどんどん大きくなってくし、無駄に犠牲が増えると思う。
団結力はかなり高いみたいだね。親玉はー……すんません解らなかったです。
多分みんなと同じような姿してるか何かだと思うんだけど……なんかこう、農民の集団に紛れちゃってて」
農村か。村の規模は、北の地にしては大きい。
だが、自然の力を利用した防衛以外は何と言うこともないだろう。
「こう柵がいくつかあって、多分弓兵か何かを置いて来るつもりだね。山で動き回る獣狩る猟師だろうから、
あんまり油断できないよ。下手な射手よりよっぽど上手いと思う。で、一揆の煽動者がいるのは…作りからしたら、
きっとこのへん。一番前に出てきて応戦するようなことはないでしょ、柵も雪玉も無駄になるし」
防衛的にもっとも奥まった辺りを佐助の指が軽く突いた。
佐助の単純化された図では、かなりぽかりと開けた場所だった。
秋の収穫の祭りには、皆が集まり、実りを言祝いで騒ぐ場所なのだろう。
「ふむ。幸村よ。どう出る?」
信玄の言葉に、幸村の目がぱっと輝く。
雪中の行軍は糧食と体力を容赦なく奪うため、残りの軍は勝頼に纏めさせ、
落ち着きを取り戻したばかりの旧伊達領をにらませている。
信玄直属の部隊に幸村が率いる真田隊とその忍びの一隊、そして客将のような扱いを受ける政宗ひとり。
身軽な部隊だが、一揆鎮圧には有り余るほどの武威だ。
「は!山中の農村であれば整然とした行軍には不向き、ならば精鋭が中枢に切り込み、制圧あるのみかと!」
そうだな。家々は少しでも風を凌ごうと隣接して建てられる。
行軍の合間合間にその隙間から鍬や棒で殴られるのは真っ平だ。
風のように早く、時をかけずに終わらせたい。
「政宗、どう思う」
上田城の虜60/かんなびのさと5




