桜が舞い散り、運動部の掛け声があちこちから聞こえてくる。
やたらあちこちから聞こえるのは、新入生勧誘のために体育系のクラブが
縦横無尽に駆け回っているせいだ。
「やってるねぇ」
椅子に後ろ向きで座った姿勢で階下の景色を見て、猿飛佐助はにんまりと笑った。
「いやー、若いっていいなぁ。ね、どう思う?」
窓を閉め、壁に目をやる。くるくるとよく動く表情が、壁際の男を捕らえる。
「それは俺に対する嫌味か?」
防音のための穴だらけの壁に背中を預けた片倉小十郎が渋い顔をして、
プリントを佐助に渡した。
学園には様々なクラブが存在するが、佐助は放送部に所属していた。
高校野球地方大会のウグイス嬢から明るく元気なお昼のDJまでなんでもこなす芸の広さと
面倒見のよさを買われ、部長を勤めている。
「コレ何?」
「今度のNコンの規定だ。読んでおけ」
Nコンとは、放送部が参加する大会である。朗読からテレビドキュメントまで幅が広い。
「はーい。今年は優勝したいねぇ」
「そうだな。本番でトチったりしなければいいな」
佐助はへらっと笑った。
去年の大会、佐助は最後の一音を思い切り噛んだせいで優勝どころか入賞すら逃した。
「いや~参ったよねぇ。三島由紀夫だったもんねぇ」
小十郎はため息をついた。理由になるかそんなこと、と顔に書かれている。
「ご褒美も逃したし」
佐助は椅子から立ち上がると、小十郎を見上げた。襟のリボンを抜き、
防音のためにしかれた絨毯に落とす。ロクに掃除していないくすんだ白い絨毯の上に落ちる
赤いリボンが妙に目につく。
「今年こそ、俺優勝するよ。そうしたら」
「優勝したらな」
小十郎の太い指が、佐助の唇を押さえた。にやりと笑い、首に絡もうとした手をそれとなく止める。
「あと一年くらい待てねぇのか?」
「待てない」
「俺は教師で、お前は生徒だ。そういうことになったら、どうなるか……分かってんだろうな」
小十郎の指が当てられたまま、佐助は笑う。
「俺が無職になっちまうんだぜ?」
「大丈夫だって。バレなきゃいいんだよ」
「――悪い生徒だ」
「あんたもね」
小十郎の首に腕を絡める。熱い指が唇から離れ、耳をくすぐる。
佐助は目を閉じ、小十郎の唇を待った。
やたらあちこちから聞こえるのは、新入生勧誘のために体育系のクラブが
縦横無尽に駆け回っているせいだ。
「やってるねぇ」
椅子に後ろ向きで座った姿勢で階下の景色を見て、猿飛佐助はにんまりと笑った。
「いやー、若いっていいなぁ。ね、どう思う?」
窓を閉め、壁に目をやる。くるくるとよく動く表情が、壁際の男を捕らえる。
「それは俺に対する嫌味か?」
防音のための穴だらけの壁に背中を預けた片倉小十郎が渋い顔をして、
プリントを佐助に渡した。
学園には様々なクラブが存在するが、佐助は放送部に所属していた。
高校野球地方大会のウグイス嬢から明るく元気なお昼のDJまでなんでもこなす芸の広さと
面倒見のよさを買われ、部長を勤めている。
「コレ何?」
「今度のNコンの規定だ。読んでおけ」
Nコンとは、放送部が参加する大会である。朗読からテレビドキュメントまで幅が広い。
「はーい。今年は優勝したいねぇ」
「そうだな。本番でトチったりしなければいいな」
佐助はへらっと笑った。
去年の大会、佐助は最後の一音を思い切り噛んだせいで優勝どころか入賞すら逃した。
「いや~参ったよねぇ。三島由紀夫だったもんねぇ」
小十郎はため息をついた。理由になるかそんなこと、と顔に書かれている。
「ご褒美も逃したし」
佐助は椅子から立ち上がると、小十郎を見上げた。襟のリボンを抜き、
防音のためにしかれた絨毯に落とす。ロクに掃除していないくすんだ白い絨毯の上に落ちる
赤いリボンが妙に目につく。
「今年こそ、俺優勝するよ。そうしたら」
「優勝したらな」
小十郎の太い指が、佐助の唇を押さえた。にやりと笑い、首に絡もうとした手をそれとなく止める。
「あと一年くらい待てねぇのか?」
「待てない」
「俺は教師で、お前は生徒だ。そういうことになったら、どうなるか……分かってんだろうな」
小十郎の指が当てられたまま、佐助は笑う。
「俺が無職になっちまうんだぜ?」
「大丈夫だって。バレなきゃいいんだよ」
「――悪い生徒だ」
「あんたもね」
小十郎の首に腕を絡める。熱い指が唇から離れ、耳をくすぐる。
佐助は目を閉じ、小十郎の唇を待った。