抱きしめていた細い体が、身じろぎした。繊手には、くだんの扇が握られていた。
小袖で包んだ体は、まだ熱い。
汗も、涙も、全てが芳しく感じられた。
小袖で包んだ体は、まだ熱い。
汗も、涙も、全てが芳しく感じられた。
長曾我部元親の自慢の武器は、他の誰も扱いきれないような大きさと重さの銛や碇に似た得
物である。それを易々と振り回す怪力の持ち主は、懐の繊細な女人をビイドロ細工のように
優しく抱え込んでいた。
もっとも、眠っていれば手弱女にしか見えないその当人の得物は、幾多もの罠と、扱いが難
しい輪刀を己が手足のように自在に操る手練であるのだが。
物である。それを易々と振り回す怪力の持ち主は、懐の繊細な女人をビイドロ細工のように
優しく抱え込んでいた。
もっとも、眠っていれば手弱女にしか見えないその当人の得物は、幾多もの罠と、扱いが難
しい輪刀を己が手足のように自在に操る手練であるのだが。
「……気が付いたか。元就」
「……………」
まだ焦点の合わない切れ長の瞳が、元親の眼帯の外された左の眼を見つめていた。
「……傷など、ないのだな」
「左眼か?」
「そうしていたほうが、男前だ。我の、想うた男らしい。元親」
言いながら、元就は再び眠りに落ちていった。
「元就!本気で言ったのか!?」
嬉しそうな元親の問いに、返事はなかった。
「……………」
まだ焦点の合わない切れ長の瞳が、元親の眼帯の外された左の眼を見つめていた。
「……傷など、ないのだな」
「左眼か?」
「そうしていたほうが、男前だ。我の、想うた男らしい。元親」
言いながら、元就は再び眠りに落ちていった。
「元就!本気で言ったのか!?」
嬉しそうな元親の問いに、返事はなかった。
後日、言った、言わないで長槍と輪刀を打ち合わせる大喧嘩になるのだが、その頃には、瀬
戸内の鴛鴦夫婦として二人は中国と四国を完全に支配下に置いていた。
竹中半兵衛の謀とはいえ、期せずして、豊臣との盟約はしばらくの間は守られるのである。
戸内の鴛鴦夫婦として二人は中国と四国を完全に支配下に置いていた。
竹中半兵衛の謀とはいえ、期せずして、豊臣との盟約はしばらくの間は守られるのである。
「あんた、鬼か人か、わかんなくなる時があるな」
濁り酒の盃を舐めながら、政宗は隣りの半兵衛に声をかけた。
「僕は、鬼なんかじゃないよ」
「ふん。どうだか。……でも、長曾我部と毛利は、よかったな。どっちも、一歩前へ勧めな
いような連中だったし。手前のやり方は気に入らないが、今回は褒めてやる」
ご機嫌の政宗をちらりと眺めて、半兵衛も小さめの盃を口に運んだ。
濁り酒の盃を舐めながら、政宗は隣りの半兵衛に声をかけた。
「僕は、鬼なんかじゃないよ」
「ふん。どうだか。……でも、長曾我部と毛利は、よかったな。どっちも、一歩前へ勧めな
いような連中だったし。手前のやり方は気に入らないが、今回は褒めてやる」
ご機嫌の政宗をちらりと眺めて、半兵衛も小さめの盃を口に運んだ。
「……まあね。……どっかのお調子者じゃないけれど、恋せよ、乙女、ってのは、当たって
ると思う。君も、素直に片倉君に気持ちを打ち明けたほうがいいよ。……戦場に立っても、
立たなくても、命には限りがあるんだから」
いつものように、はぐらかすような口ぶりではなかった。
ると思う。君も、素直に片倉君に気持ちを打ち明けたほうがいいよ。……戦場に立っても、
立たなくても、命には限りがあるんだから」
いつものように、はぐらかすような口ぶりではなかった。
政宗にさえ、何か、生き急いでいるような、と感じることがある竹中半兵衛の、本音が洩れ
たのかもしれない。
たのかもしれない。
「さて。雨も止んだようだ。座興は、終わりにいたしましょう。侍女たちが控えております
ゆえ、酒肴などはお命じ下さい」
裾を払い居ずまいを正し、半兵衛は謙信とかすがのほうへ一礼をした。
ゆえ、酒肴などはお命じ下さい」
裾を払い居ずまいを正し、半兵衛は謙信とかすがのほうへ一礼をした。
「おおざかのぐんしよ。あなたも、じぶんにしょうじきに」
謙信の言葉に、半兵衛は深く礼をした。
「仰せのとおり…今宵は、秀吉の所へ参ります」
はにかんだように微笑い、衣擦の音は静かに廊下へと消えていった。
謙信の言葉に、半兵衛は深く礼をした。
「仰せのとおり…今宵は、秀吉の所へ参ります」
はにかんだように微笑い、衣擦の音は静かに廊下へと消えていった。
「かすが。わたしと、わかきりゅうにさけを……」
「あ、はい。どうぞ、謙信様。伊達殿」
かすがに酌をされ、それぞれの表情で盃を空ける。
「あ、はい。どうぞ、謙信様。伊達殿」
かすがに酌をされ、それぞれの表情で盃を空ける。
「いいなあ。明ければ、後朝か。あの二人、覗いて見たい気もする」
「これこれ。おうしゅうひっとうが、いたずらはなりませんよ」
「…はい、はい」
「これこれ。おうしゅうひっとうが、いたずらはなりませんよ」
「…はい、はい」
雨夜の品定め 終




