明智光秀と出会う前から、数え切れない程の兵を毛利元就は殺めてきた。
戦があるたび屍の山を築いて、手を血に染めて、配下を道具のように扱い、
しかしそれでも光秀のようには人を殺してはいなかった筈だ、と、元就は思いにふける。
それが、いつから。
戦があるたび屍の山を築いて、手を血に染めて、配下を道具のように扱い、
しかしそれでも光秀のようには人を殺してはいなかった筈だ、と、元就は思いにふける。
それが、いつから。
憶えていない。
美しいと感じ始めたのは何時からだったか。
戦の帰り、まるで初心な娘が惚れた男と初めて逢い引きしてきたような笑顔で
「愉しかったですねえ」と笑った時か。
それとも、元就の上に跨りながら、
静脈が透き通るほどに白くたわわに熟れた胸を揺らし
淫らに腰を振るさまを眺めた時か。
ひょっとしたら、天王山で、己の首もとに笑顔で鎌を突きつけられたあの日から
魅了されていたのかもしれない。
戦の帰り、まるで初心な娘が惚れた男と初めて逢い引きしてきたような笑顔で
「愉しかったですねえ」と笑った時か。
それとも、元就の上に跨りながら、
静脈が透き通るほどに白くたわわに熟れた胸を揺らし
淫らに腰を振るさまを眺めた時か。
ひょっとしたら、天王山で、己の首もとに笑顔で鎌を突きつけられたあの日から
魅了されていたのかもしれない。
しかしこの女に初めて見惚れた確たる瞬間は、憶えていないのだ。
「何を考えているのですか?」
自分の下から、低く、艶を含んだ女の声がする。
薄気味の悪い声だ、と、毛利元就は思った。
問いには答えずに突き上げれば、嘲りの色を含んだ目で見つめられながら、嗤われた。
薄気味の悪い声だ、と、毛利元就は思った。
問いには答えずに突き上げれば、嘲りの色を含んだ目で見つめられながら、嗤われた。
「そう…ちゃんと私を見ていて下さい。
いえ…私は、あなたが見ているのがあの娘でも別に構いませんが」
いえ…私は、あなたが見ているのがあの娘でも別に構いませんが」
黙れ、と、言外の意味を込めて、微かに青みがかった薄桃色の乳首をつねった。
光秀は痛がるでもなく、くすくすと笑いながら元就の首に手をかけて、ゆっくりと締めあげる。
元就が強く腰を揺さぶれば、
繋がっている部分から水音と共に肌と肌のぶつかる乾いた音が響いた。
ぱちぱちという松明のはぜる音がときおり聞こえる。
城の地下にあるこの場所に陽光は入ってこない。
息がつげず霞む目の前でにやにやと笑う光秀を見て、
元就は、この女には似合いの場所か、と思った。
光秀は元就の首にかけた手の力を緩め、首についた指の跡をなぞる。
苦しげに顔を歪め、空気を求めて咳き込む男の顔を見て、また、嗤う。
光秀は痛がるでもなく、くすくすと笑いながら元就の首に手をかけて、ゆっくりと締めあげる。
元就が強く腰を揺さぶれば、
繋がっている部分から水音と共に肌と肌のぶつかる乾いた音が響いた。
ぱちぱちという松明のはぜる音がときおり聞こえる。
城の地下にあるこの場所に陽光は入ってこない。
息がつげず霞む目の前でにやにやと笑う光秀を見て、
元就は、この女には似合いの場所か、と思った。
光秀は元就の首にかけた手の力を緩め、首についた指の跡をなぞる。
苦しげに顔を歪め、空気を求めて咳き込む男の顔を見て、また、嗤う。
「もっと頑張って下さい。
ほら、あの娘がこちらを見ていますよ」
ほら、あの娘がこちらを見ていますよ」
指し示された方向は、見ない。
そこには捕らえられ、きつく縛り上げられた女が転がされて居るはずだ。
長曾我部元親が。
そこには捕らえられ、きつく縛り上げられた女が転がされて居るはずだ。
長曾我部元親が。
どんな目で見ているのかは予測がついた。
見ないのは、簡単に想像出来るからだ。
それ以外の理由などあろう訳もない、と、毛利元就は思う。
あの女海賊には不愉快にさせられてばかりいた。
厳島で再会した時には既に海賊の頭に収まっていて、
宝をよこせとあつかましくも要求してきた。
幾度も山陽の沿岸を襲い、毛利の領地を荒らし、退治に赴けば
顔を合わせるたびに説教じみた台詞を吐いてくる。
奥州と同盟を結んだと噂に聞いた時は、
これでもう煩わされることもない、と、安心したものだった。
それなのにこの片目の潰れた女海賊は
今もこうして毛利元就を苛立たせている。
見ないのは、簡単に想像出来るからだ。
それ以外の理由などあろう訳もない、と、毛利元就は思う。
あの女海賊には不愉快にさせられてばかりいた。
厳島で再会した時には既に海賊の頭に収まっていて、
宝をよこせとあつかましくも要求してきた。
幾度も山陽の沿岸を襲い、毛利の領地を荒らし、退治に赴けば
顔を合わせるたびに説教じみた台詞を吐いてくる。
奥州と同盟を結んだと噂に聞いた時は、
これでもう煩わされることもない、と、安心したものだった。
それなのにこの片目の潰れた女海賊は
今もこうして毛利元就を苛立たせている。
捕らえた、との報を最初に聞いたときは、特にどうとも思わなかった。
筈だ、と、元就は思う。
しかし、その時のことを思い出せば不愉快な気持ちにしかならない。
『さてどうしましょうか、毛利殿。
もうすぐ祝言の花嫁だそうですよ……
達磨にして嬲った抜け殻を塩漬けにして、奥州に送ったら、
独眼竜は怒るでしょうか?
考えただけでもゾクゾクします…本気で殺し合えそうだ』
もうすぐ祝言の花嫁だそうですよ……
達磨にして嬲った抜け殻を塩漬けにして、奥州に送ったら、
独眼竜は怒るでしょうか?
考えただけでもゾクゾクします…本気で殺し合えそうだ』
その必要は無い、と、言ったのは、今、奥州と事を構えることが
下策と判断したからだ。
その答えを聞いて、光秀は不思議そうな表情をし、次いで哄笑した。
それから元就の判断を上機嫌で受け入れた。
理由も聞かずに。
下策と判断したからだ。
その答えを聞いて、光秀は不思議そうな表情をし、次いで哄笑した。
それから元就の判断を上機嫌で受け入れた。
理由も聞かずに。
不思議なことに、明智光秀は、まだいまのところは
長曾我部元親を相手に本気で遊ぼうとは思っていないようだった。
ただ、気が向いた時に、嬲る。
名も知らぬ男共に股を開かされる惨めなこの花嫁の姿を、元就は何度見たか知れない。
そう、惨めだ。
惨めな姿だ。
まだ、手も足も爪も揃っているし、歯も折られていない。耳も鼻も削がれていない。
優しげな物腰の裏に隠された、光秀の本性を知る者にしてみたら、珍しいと言うに違いない。
しかしそれは何の慰めにもならないだろう。
長曾我部元親を相手に本気で遊ぼうとは思っていないようだった。
ただ、気が向いた時に、嬲る。
名も知らぬ男共に股を開かされる惨めなこの花嫁の姿を、元就は何度見たか知れない。
そう、惨めだ。
惨めな姿だ。
まだ、手も足も爪も揃っているし、歯も折られていない。耳も鼻も削がれていない。
優しげな物腰の裏に隠された、光秀の本性を知る者にしてみたら、珍しいと言うに違いない。
しかしそれは何の慰めにもならないだろう。