雨の中、いつものようにその男は立っていた。
小さな寺の軒先に気だるそうに身をもたれ、はしばみ色の瞳はどこかの虚空を睨んでいる。
若草色の着物の裾に点々と泥跳ねがしていた。いつもの陽気ななりを消し去った、その姿は人をぞくりとさせた。
これがあいつの本当の姿だ、とかすがは己に言い聞かせた。上杉の忍びが使う京屋敷から離れた古寺が、密会の場所だった。
「待たせたな」
かすがは門をくぐり、泥に下駄の歯を埋めながら佐助の元へと歩いていった。潜伏中のかすがは、流水紋を散らした白の小袖に青い帯を締めていた。
「よっ!」
佐助が手を上げて応える。その袖も湿って色が変わっていた。
「濡れただろうに。急に呼び出して何の用だ?」
「雨は予定外だよ。こないかと思った。会えてよかったぜ」
高い声をあげる男をかすがは見上げた。なぜそんなにあけっぴろげに笑うのか、かすがにはわからない。
「それで」
「言ってただろう、一向宗の動きを知りたいって。顕如が本願寺に戻る日がわかったぜ。知りたい?」
「いいのか!」
かすがの声に、得意満面に佐助は懐から小さく折り畳んだ紙を取り出した。
「構わない。ただし、条件がある。覚えてるな」
「……条件?」
「一向宗の情報を流したら一晩遊ぶって、約束したろう」
かすがは金色の眉をはねあげた。
「なんだそれは」
「覚えてないの?」
「覚えていない」
小さな寺の軒先に気だるそうに身をもたれ、はしばみ色の瞳はどこかの虚空を睨んでいる。
若草色の着物の裾に点々と泥跳ねがしていた。いつもの陽気ななりを消し去った、その姿は人をぞくりとさせた。
これがあいつの本当の姿だ、とかすがは己に言い聞かせた。上杉の忍びが使う京屋敷から離れた古寺が、密会の場所だった。
「待たせたな」
かすがは門をくぐり、泥に下駄の歯を埋めながら佐助の元へと歩いていった。潜伏中のかすがは、流水紋を散らした白の小袖に青い帯を締めていた。
「よっ!」
佐助が手を上げて応える。その袖も湿って色が変わっていた。
「濡れただろうに。急に呼び出して何の用だ?」
「雨は予定外だよ。こないかと思った。会えてよかったぜ」
高い声をあげる男をかすがは見上げた。なぜそんなにあけっぴろげに笑うのか、かすがにはわからない。
「それで」
「言ってただろう、一向宗の動きを知りたいって。顕如が本願寺に戻る日がわかったぜ。知りたい?」
「いいのか!」
かすがの声に、得意満面に佐助は懐から小さく折り畳んだ紙を取り出した。
「構わない。ただし、条件がある。覚えてるな」
「……条件?」
「一向宗の情報を流したら一晩遊ぶって、約束したろう」
かすがは金色の眉をはねあげた。
「なんだそれは」
「覚えてないの?」
「覚えていない」