それから一戦どころかまた夜中過ぎまで、元就はすっかり気を良くした慶次に体をすみずみまで貪られた。
もはや最後の方はよく憶えていない。
次の日、元就は熱を出した。
寝込んでいる最中は、吐いたような憶えもうっすらとあるのだが、それはきっと二日酔いの為だろう。
まつに、ねぎやら何やら、いろいろなものを解熱と言われて尻の穴に突っ込まれたような気もするが、
それはきっと夢かなにかに違いない。
そんな病人に鞭を打つようなひどいことを、はたしてあのまつがするだろうか。
するかもしれないとも思うが、元就は、しないと思うことにする。
まつは、きらきらとした普通の女人だから、きっとそんなことはしないに決まっているのだ。
体調を崩している時、二人の客人が見舞いに来たような気がする。
長曾我部は少しすまなさそうな風情ではあったものの基本的には普段通りの上機嫌で、
下世話な話を聞きたがるので元就は苛々した。
そして仕返しをしようと心に決めた。
そう思う理由はもう一つあって、二人で夜這いしようと勇んで出て行ったあの後、
結局あの西海の鬼は目標の布団に潜り込むこともなかったのだという。
用はなんだ、と、徳川家康に無邪気に聞かれて、適当にお茶を濁して帰ってきたというのだから腹立たしい。
その件について嫌みを言えば、「あいつの鈍さはどうかしてるんだよ」と、
狸めいた小男が鈍いせいにされてしまった。
曰く、以前、戦場で、後ろをついてこい、と、家来扱いしようとしたので、
隣ならいてやってもいい、と、逆求婚したら、友達認定されたことがあったらしい。
「それは家康殿が鈍いというより貴様が鈍くさいのだ」、と、元就は言ったが、
元親は、「あんたに鈍くさいなんて言われたくねえ」と、返されてしまった。
言い訳がましく、
あの夜、元就の部屋から出て行った後に、実はもう一度家康の元に行ったと言ったが、
それも結局、夜を徹して碁を打っていただけらしい。
なにがどうしてそうなるのかは分からないが、恋敵に負ける訳にはいかないんだよ、と、
ぶつぶつと、元就にはよく分からないことを呟いていた。
家康が昔世話になった家で、よく、徹夜で碁の相手をさせられていた相手がいるらしいんだと元親は言っていたが、
それは別に恋敵でもなんでもないのではないかと元就は思う。
ただ、世話になった相手、というだけの話ではないか?
さておき、この者と我はひょっとしたら互角、なのかもしれない、と、ちら、と、元就は考えたが、
深く考えれば考えるほど不愉快になりそうだったのであまり深く考えないことにした。
とりあえず家康に元親のあることないことを吹き込んで恥をかかせてみよう、と、元就は思う。
手始めとして、元親は相手に蝋燭を垂らす性癖があることを多少誇張して伝えておいた。
後は野となれ山となれで、策に引っかかった獲物を見物しよう、と、元就は思っている。
二人が三河に帰る時、元就は元親を力一杯睨み付けたのだが、
元親は慶次の方を一瞥すると、元就の肩をどんどんと押して、慶次の後ろに連れて行き、
慶次の服の裾を掴ませると、五歩ほど離れてそれを見て、はあ、と、溜息を一つついて、
「俺もせめてあんたくらい背が低かったらなあ」と、呟いた。
元就は元親が何故そんなことを思うのかがよく分からない…と、思うことにした。
自分に無いものを求めてうらやましがるのが人の常なのかもしれない。
それを見ていた慶次が、「仲直りしたの?」と、頓珍漢なことを聞いてきたので元就は適当に相づちをうった。
この男はどこまでもおおらかだ。
だが多分、自分はそこが気に入っているのだろう、と、元就はぼんやりと思う。
慶次は以前のようによく笑うようになった。
もはやそれだけで元就の心は満たされている。
幸せだ、と、元就は思った。
もはや最後の方はよく憶えていない。
次の日、元就は熱を出した。
寝込んでいる最中は、吐いたような憶えもうっすらとあるのだが、それはきっと二日酔いの為だろう。
まつに、ねぎやら何やら、いろいろなものを解熱と言われて尻の穴に突っ込まれたような気もするが、
それはきっと夢かなにかに違いない。
そんな病人に鞭を打つようなひどいことを、はたしてあのまつがするだろうか。
するかもしれないとも思うが、元就は、しないと思うことにする。
まつは、きらきらとした普通の女人だから、きっとそんなことはしないに決まっているのだ。
体調を崩している時、二人の客人が見舞いに来たような気がする。
長曾我部は少しすまなさそうな風情ではあったものの基本的には普段通りの上機嫌で、
下世話な話を聞きたがるので元就は苛々した。
そして仕返しをしようと心に決めた。
そう思う理由はもう一つあって、二人で夜這いしようと勇んで出て行ったあの後、
結局あの西海の鬼は目標の布団に潜り込むこともなかったのだという。
用はなんだ、と、徳川家康に無邪気に聞かれて、適当にお茶を濁して帰ってきたというのだから腹立たしい。
その件について嫌みを言えば、「あいつの鈍さはどうかしてるんだよ」と、
狸めいた小男が鈍いせいにされてしまった。
曰く、以前、戦場で、後ろをついてこい、と、家来扱いしようとしたので、
隣ならいてやってもいい、と、逆求婚したら、友達認定されたことがあったらしい。
「それは家康殿が鈍いというより貴様が鈍くさいのだ」、と、元就は言ったが、
元親は、「あんたに鈍くさいなんて言われたくねえ」と、返されてしまった。
言い訳がましく、
あの夜、元就の部屋から出て行った後に、実はもう一度家康の元に行ったと言ったが、
それも結局、夜を徹して碁を打っていただけらしい。
なにがどうしてそうなるのかは分からないが、恋敵に負ける訳にはいかないんだよ、と、
ぶつぶつと、元就にはよく分からないことを呟いていた。
家康が昔世話になった家で、よく、徹夜で碁の相手をさせられていた相手がいるらしいんだと元親は言っていたが、
それは別に恋敵でもなんでもないのではないかと元就は思う。
ただ、世話になった相手、というだけの話ではないか?
さておき、この者と我はひょっとしたら互角、なのかもしれない、と、ちら、と、元就は考えたが、
深く考えれば考えるほど不愉快になりそうだったのであまり深く考えないことにした。
とりあえず家康に元親のあることないことを吹き込んで恥をかかせてみよう、と、元就は思う。
手始めとして、元親は相手に蝋燭を垂らす性癖があることを多少誇張して伝えておいた。
後は野となれ山となれで、策に引っかかった獲物を見物しよう、と、元就は思っている。
二人が三河に帰る時、元就は元親を力一杯睨み付けたのだが、
元親は慶次の方を一瞥すると、元就の肩をどんどんと押して、慶次の後ろに連れて行き、
慶次の服の裾を掴ませると、五歩ほど離れてそれを見て、はあ、と、溜息を一つついて、
「俺もせめてあんたくらい背が低かったらなあ」と、呟いた。
元就は元親が何故そんなことを思うのかがよく分からない…と、思うことにした。
自分に無いものを求めてうらやましがるのが人の常なのかもしれない。
それを見ていた慶次が、「仲直りしたの?」と、頓珍漢なことを聞いてきたので元就は適当に相づちをうった。
この男はどこまでもおおらかだ。
だが多分、自分はそこが気に入っているのだろう、と、元就はぼんやりと思う。
慶次は以前のようによく笑うようになった。
もはやそれだけで元就の心は満たされている。
幸せだ、と、元就は思った。
おわる




