空は晴れ晴れと明るく、元就の好いた太陽は今回の勝ち戦を約束しているようだった。
少なくとも、彼女はそう願っている。そして事実、敵方である浅井の要塞・小谷城は
砦を全て落とされ、今や城主の首をとるばかりにまできているのだ。
少なくとも、彼女はそう願っている。そして事実、敵方である浅井の要塞・小谷城は
砦を全て落とされ、今や城主の首をとるばかりにまできているのだ。
(浅井の君主、長政は自分本位な正義を振りかざす若造だと聞き及んでいたが、
やはり脆かったな。)
やはり脆かったな。)
元就はいささか退屈すら覚えて陣地にて勝利の報告を待っていた。
しかし。何やら慌てふためいた伝令兵が運んできたのは、自軍の兵が次々と戦意喪失し、
浅井の軍に下ろうとしている、という耳を疑う言葉だった。
しかし。何やら慌てふためいた伝令兵が運んできたのは、自軍の兵が次々と戦意喪失し、
浅井の軍に下ろうとしている、という耳を疑う言葉だった。
あとは総大将ただ一人を落とせばいい、というのに何をしているのか。
眉間に皺を寄せて元就は愛用の武器、輪刀・天照を手に取り、敵本陣へと駆け出した。
伝令兵が更にいう事には、長政の他に、細君である小谷の方・お市も武器を手に出陣しているそうだが、
…だからどうしたというのだ。元就は苛つく頬を引き締めて進んでいく。
たかだか女ひとり増えたところでどうてこずるというのか。
『お市の方は…非常に、美しい女人で…
その声を聞いた者は、寝返りを勧める言葉に逆らえなくなっており…』
駆けながら、伝令兵の言葉を思い返して苛立ちを深める。馬鹿馬鹿しい。
帰ったら厳重な処罰が必要だ。
敵本陣へたどり着き、慌てた様子の自軍の兵を一瞥して、元就は浅井夫婦と対峙する。
浅井の家紋を大きくあしらった布を地面にひき、炎を頂く柱を四方に配した広場に、
やたら瞳が輝く……まるで狂気をそのまま光に変えている様な…若武者・浅井長政と、
問題の美女・市がいた。
眉間に皺を寄せて元就は愛用の武器、輪刀・天照を手に取り、敵本陣へと駆け出した。
伝令兵が更にいう事には、長政の他に、細君である小谷の方・お市も武器を手に出陣しているそうだが、
…だからどうしたというのだ。元就は苛つく頬を引き締めて進んでいく。
たかだか女ひとり増えたところでどうてこずるというのか。
『お市の方は…非常に、美しい女人で…
その声を聞いた者は、寝返りを勧める言葉に逆らえなくなっており…』
駆けながら、伝令兵の言葉を思い返して苛立ちを深める。馬鹿馬鹿しい。
帰ったら厳重な処罰が必要だ。
敵本陣へたどり着き、慌てた様子の自軍の兵を一瞥して、元就は浅井夫婦と対峙する。
浅井の家紋を大きくあしらった布を地面にひき、炎を頂く柱を四方に配した広場に、
やたら瞳が輝く……まるで狂気をそのまま光に変えている様な…若武者・浅井長政と、
問題の美女・市がいた。
確かに、うわべの容色は優れた女なのだろう。
長い漆黒の髪と、すべらかな薄い桃色の肌を持っている。
背が高く、長い脚をこれ見よがしに見せ付けるような衣装をまとっていた。
(汚らわしい。こんな女のどこが美しいことか。)
元より自軍の兵に労わりの心を持たぬ元就であったが、この時はますます侮蔑した。
長い漆黒の髪と、すべらかな薄い桃色の肌を持っている。
背が高く、長い脚をこれ見よがしに見せ付けるような衣装をまとっていた。
(汚らわしい。こんな女のどこが美しいことか。)
元より自軍の兵に労わりの心を持たぬ元就であったが、この時はますます侮蔑した。
そしてひっそりと、心の片隅で想う。
美しい女人、というのは…既に儚い人となった、
実の母や養母、そして兄の妻のように…優しく、穏やかな人々のことであろう、と。
実の母や養母、そして兄の妻のように…優しく、穏やかな人々のことであろう、と。
少なくとも、目の前の女や自分のように、刃を手に取り戦場へ出る血濡れの女ではないだろう。
元就は、苛立ちとも自嘲とも取れる感情を、かすかに唇の端をあげて表す。
元就は、苛立ちとも自嘲とも取れる感情を、かすかに唇の端をあげて表す。