「おまちどおさま」
二人を隔てる机の上に、硝子の器が置かれる。
鮮やかな寒天に彩られた餡蜜を前に、
まつは少女のようなうれしそうな目をした。
それでも“いただきます”と行儀よく両の手を併せ、
綺麗な所作で器を手に取った。
鮮やかな寒天に彩られた餡蜜を前に、
まつは少女のようなうれしそうな目をした。
それでも“いただきます”と行儀よく両の手を併せ、
綺麗な所作で器を手に取った。
「うまいか?まつ」
「ええ、とても」
「そうかそうかー!それはよかった」
「ええ、とても」
「そうかそうかー!それはよかった」
満足げに頷く夫は、頬杖をついてにこにことまつを見つめていた。
顔を上げると、ぱちりと一瞬互いの視線がぶつかる。
顔を上げると、ぱちりと一瞬互いの視線がぶつかる。
犬千代さまが、こんなにまつめを見つめていらっしゃる。
あんみつだなんて、子供みたいだったかしら。
せめて、お茶でもしませんか、とか、他の言い方があっただろうに。
途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
あんみつだなんて、子供みたいだったかしら。
せめて、お茶でもしませんか、とか、他の言い方があっただろうに。
途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
熱くなった手のひらに、硝子の輪郭がひやりとつめたい。
「と、ところで犬千代さま」
「ん?」
「犬千代さまは、お召し上がりにならないのですか?」
「ん?」
「犬千代さまは、お召し上がりにならないのですか?」
焦っていたとはいえ、何の気なしに口にした話題だった。
利家は頬杖をついたまま、きょとんとしてこちらを見た。
利家は頬杖をついたまま、きょとんとしてこちらを見た。
「いやぁ、それがしも、腹が減っていたはずなんだが…
まつが美味そうに食べる姿を見ていたら、それだけでもう腹いっぱいで幸せだ!」
まつが美味そうに食べる姿を見ていたら、それだけでもう腹いっぱいで幸せだ!」
ああ。
なんのためらいもなしに、
あなたさまは、
澄み切ったあおぞらのような笑顔で、そうおっしゃるんですもの。
匙が手から滑り落ちた。
犬千代さま、
あなたの甘いお言葉で
まつめも、お腹いっぱいでござりまする。
―了―