「もう少し年をとったら化けるんじゃないかしら?」
わざと答えを揺らすと、佐助は無言で目を細めた。
殺気に似たそれに、普通の姫なら悲鳴を上げたかもしれない。
しかし、濃姫は力なく嗤うだけだ。夫と過ごした時間は、そのまま戦場で過ごした時間。
『今日からそなたは濃と名乗れ』
『は、花をっ…そなたに、届けたくて…』
穏やかな時間も確かにあったはずなのに、思い出そうとすれば最近の幸村に塗りつぶされる。
『濃よ』
『奥方!』
耳慣れた低い声が、若く生命に満ちた声にかすれていく。
その事実がただ恐ろしかった。
殺気に似たそれに、普通の姫なら悲鳴を上げたかもしれない。
しかし、濃姫は力なく嗤うだけだ。夫と過ごした時間は、そのまま戦場で過ごした時間。
『今日からそなたは濃と名乗れ』
『は、花をっ…そなたに、届けたくて…』
穏やかな時間も確かにあったはずなのに、思い出そうとすれば最近の幸村に塗りつぶされる。
『濃よ』
『奥方!』
耳慣れた低い声が、若く生命に満ちた声にかすれていく。
その事実がただ恐ろしかった。
「旦那は、あんたのこと…わからないわけじゃないだろ?」
「わかりたくもないわ」
「わかりたくもないわ」
濃姫は手元の盃を傾けて酒をあおる。
こくりと、喉が鳴った。
こくりと、喉が鳴った。
「上総之介様を殺したボウヤを、私がどう思うかですって?憎い以外の何があるの」
わざと語気を荒げたのは、瞳が揺れていることを自覚してたからかもしれない。
そうであればいいと、縋るように握りしめられた手が白くなる。
ふ、と息を吐いて慶次はその手をほどいてやる。
そうであればいいと、縋るように握りしめられた手が白くなる。
ふ、と息を吐いて慶次はその手をほどいてやる。
「お濃ちゃん…そうやって自分を追い詰めるのはやめな」
「…お前に何がわかるの…」
「わかるさ。お濃ちゃんは魔王に恋してた…与えるばかりの恋を」
「ちがうわっ!私は、上総之介様は、与えてくださったわ…」
「…お前に何がわかるの…」
「わかるさ。お濃ちゃんは魔王に恋してた…与えるばかりの恋を」
「ちがうわっ!私は、上総之介様は、与えてくださったわ…」
視界が歪むが、涙をこぼすことは蝮の娘として、魔王の妻として矜持が許さなかった。
「あんたがさ」
佐助は静かに酒をあおる。
「あんたが、幸せそうじゃないから、つらそうな顔して戦場に立つから…旦那は織田を討とうと決意した」
もともと戦うしか道はなかったかもしれないけど、そう佐助は付け加えた。
武田の力は強大で、織田は唯一武田に対して平身低頭の外交を続けた。
織田が力を蓄える前に武田は動き、そして織田は壊滅した。
武田の力は強大で、織田は唯一武田に対して平身低頭の外交を続けた。
織田が力を蓄える前に武田は動き、そして織田は壊滅した。
「…惚れた女、助けたかったんだろ」
「…私を…?」
「…」
「…私を…?」
「…」
喧嘩でも始まったのか、喧騒が大きくなる。
桜の花びらがひらりひらりと濃姫の膝に落ちる。
桜の花びらがひらりひらりと濃姫の膝に落ちる。
「…頼みがある」
向き直った佐助の気迫に、濃姫はわずかにあとじさった。