娘は佐助が種を飛ばした方を見た。
何故草ばかりで折角芽吹いても蔓を絡ませるものが無い所に飛ばしたのか。
「お前って何処の生まれ?」
何気ない問いに琥珀色の瞳が伏せられ金の髪に埋もれた。
「分りません。拾われたのは戸隠でしたけど」
親を亡くしたのか逸れたのか、或いは捨てられたのか――雨の中泣いて居た幼い娘は拾われた。
あの庭に連れて行かれるくらいなら野垂れ死んだ方がマシだったかもしれないと思う。
「戸隠の事は何も知りません。庭の外の事は私には分らないんです」
「ふぅん……」
二人の間をスダジイの葉を戦がせながら風が通り抜ける。
短い沈黙の後、突然佐助が「良し!」と言って起き上がったので何事かと娘は顔を上げた。
その頭に佐助はポンと掌を乗せる。
「お前も俺も同郷出身って事にしておこう。――な?」
娘は二三度目を瞬かせると真顔で尋ねた。
「それに何の意味が有るんですか?」
「別に意味なんて良いじゃない。敬語も止してよ。お互い、名前も呼捨てにしてさ」
「何故です?」
娘が首を傾げる。
「だって馴染みにそんな事しないだろ?なぁ、『佐助』って呼んでみて」
「でも…」
「良いから良いから」
「……佐助」
ためらいながら小声で言うと佐助は鼻の下を伸ばした。
「やっぱりこっちの方がしっくり来るな。様だの殿だの背中がむず痒くて俺の柄に合わねぇや」
格好崩して喜ぶ佐助を見て初めて娘は笑った。
「変な方」
何故草ばかりで折角芽吹いても蔓を絡ませるものが無い所に飛ばしたのか。
「お前って何処の生まれ?」
何気ない問いに琥珀色の瞳が伏せられ金の髪に埋もれた。
「分りません。拾われたのは戸隠でしたけど」
親を亡くしたのか逸れたのか、或いは捨てられたのか――雨の中泣いて居た幼い娘は拾われた。
あの庭に連れて行かれるくらいなら野垂れ死んだ方がマシだったかもしれないと思う。
「戸隠の事は何も知りません。庭の外の事は私には分らないんです」
「ふぅん……」
二人の間をスダジイの葉を戦がせながら風が通り抜ける。
短い沈黙の後、突然佐助が「良し!」と言って起き上がったので何事かと娘は顔を上げた。
その頭に佐助はポンと掌を乗せる。
「お前も俺も同郷出身って事にしておこう。――な?」
娘は二三度目を瞬かせると真顔で尋ねた。
「それに何の意味が有るんですか?」
「別に意味なんて良いじゃない。敬語も止してよ。お互い、名前も呼捨てにしてさ」
「何故です?」
娘が首を傾げる。
「だって馴染みにそんな事しないだろ?なぁ、『佐助』って呼んでみて」
「でも…」
「良いから良いから」
「……佐助」
ためらいながら小声で言うと佐助は鼻の下を伸ばした。
「やっぱりこっちの方がしっくり来るな。様だの殿だの背中がむず痒くて俺の柄に合わねぇや」
格好崩して喜ぶ佐助を見て初めて娘は笑った。
「変な方」