すこし乾燥しているものの、男の唇は存外やわらかく、温かかった。かすがは目を閉じたが、
佐助の唇はその直後に離れていってしまった。それに釣られるように開いたかすがの目には、すぐ近くで笑う佐助がうつる。
照れたように笑う男の表情は、かすがにとって新鮮であった。今までに見たことがない、
屈託のない笑い方。
また唇を合わせると、今度はすぐに佐助の熱い舌がかすがの唇をなぞってきた。されるままに
かすがが唇を開けば、唇をなぞっていた舌が口内に入り込む。舌は口の中をゆっくりと
撫ぜまわしていった。頬の内側、上顎、下顎、歯列、歯茎。それからかすがの柔らかな舌を
掬いあげる。お互いの舌と唾液がまじりあい、身体の芯が震えた。人と触れあうことが、
こんなにも温かだったなんて――
頬から佐助の手のひらの感触が消えた。必死に舌を絡ませながらそれを名残惜しく感じていた
かすがだったが、まもなく自身の胸部に、さきほどまで頬にあった感触が
這いはじめたのがわかった。
佐助の手のひらが、装束の上から左の乳房をさわっている。そう意識すると、ただでさえ
速まっていた鼓動がさらに速まるようで、それを佐助に悟られるのではないかと不安になった。
「……!」
息を呑んだ。這っていた佐助の手のひらが、装束の切り込みから滑り込んできて、直接肌に
触れはじめたのだ。慌てて体を離そうとするが、胸部に置かれていないほうの佐助の手が
かすがの後頭部にまわされているため、なかなか離れることが出来ない。そうこうしているうちに、
かすがの左乳房は佐助の手によって外気にさらされてしまった。
「ちょ……ッ、ちょっと待てっ!」
興奮してやや火照った肌を風が撫ぜる感触を気恥ずかしく思いながら、かすがは佐助の胸板を
両手で押しやって体をはなした。なかば無理やり離されたせいで急に相手の熱を感じなくなり、
佐助はわずかに不満そうな表情になった。
相手と触れあっていたいのはかすがも同じではあったが、
今はそれどころではない。
「いくらなんでも、い、いきなりすぎる!」
剥き出しになった胸を手で隠した。
「いきなりィ? なに言ってんだか、俺様にとっては全然『いきなり』じゃあないって」
言うと、佐助はかすがの手をとり、自分の胸にあてる。
「かすがが俺のこと、すこしも意識してくれてなかっただろう間も、俺はずっとかすがのこと
考えてた。ずっと前からこうして、かすがと触れ合いたかった。だから、全然『いきなり』じゃあない」
佐助の胸にあてられた手から、彼の鼓動がつたわってくる。その鼓動は、かすがが自分の胸に
ふれているのかと一瞬勘違いするほど速かった。
同じなのだ。興奮しているのも、どこか緊張しているのも、お互いに触れあっていたいのも。
それが、男の鼓動から教えられたようだった。
黙ったまま、かすがは抱きすくめるように腕を男の背面にまわした。佐助の胸に耳を当て、
彼の心音を直に聞き入れた。ふだんより速いと思われる心音はあたたかで、佐助のなかで
抑えられているはずの情念が微かに感じとれる。かすがは安心感に似た感情を覚えた。
目をつむり、この場所に自分たち以外の気配がないかどうか確かめた。そして、
いきなりじゃない、と、その一言を心のなかで反芻させる。
「いきなりじゃない、か……」
口に出してみると、自身の心に重く響いた。それは苦しい重みなどではなく、
心地好い重みであった。
佐助の唇はその直後に離れていってしまった。それに釣られるように開いたかすがの目には、すぐ近くで笑う佐助がうつる。
照れたように笑う男の表情は、かすがにとって新鮮であった。今までに見たことがない、
屈託のない笑い方。
また唇を合わせると、今度はすぐに佐助の熱い舌がかすがの唇をなぞってきた。されるままに
かすがが唇を開けば、唇をなぞっていた舌が口内に入り込む。舌は口の中をゆっくりと
撫ぜまわしていった。頬の内側、上顎、下顎、歯列、歯茎。それからかすがの柔らかな舌を
掬いあげる。お互いの舌と唾液がまじりあい、身体の芯が震えた。人と触れあうことが、
こんなにも温かだったなんて――
頬から佐助の手のひらの感触が消えた。必死に舌を絡ませながらそれを名残惜しく感じていた
かすがだったが、まもなく自身の胸部に、さきほどまで頬にあった感触が
這いはじめたのがわかった。
佐助の手のひらが、装束の上から左の乳房をさわっている。そう意識すると、ただでさえ
速まっていた鼓動がさらに速まるようで、それを佐助に悟られるのではないかと不安になった。
「……!」
息を呑んだ。這っていた佐助の手のひらが、装束の切り込みから滑り込んできて、直接肌に
触れはじめたのだ。慌てて体を離そうとするが、胸部に置かれていないほうの佐助の手が
かすがの後頭部にまわされているため、なかなか離れることが出来ない。そうこうしているうちに、
かすがの左乳房は佐助の手によって外気にさらされてしまった。
「ちょ……ッ、ちょっと待てっ!」
興奮してやや火照った肌を風が撫ぜる感触を気恥ずかしく思いながら、かすがは佐助の胸板を
両手で押しやって体をはなした。なかば無理やり離されたせいで急に相手の熱を感じなくなり、
佐助はわずかに不満そうな表情になった。
相手と触れあっていたいのはかすがも同じではあったが、
今はそれどころではない。
「いくらなんでも、い、いきなりすぎる!」
剥き出しになった胸を手で隠した。
「いきなりィ? なに言ってんだか、俺様にとっては全然『いきなり』じゃあないって」
言うと、佐助はかすがの手をとり、自分の胸にあてる。
「かすがが俺のこと、すこしも意識してくれてなかっただろう間も、俺はずっとかすがのこと
考えてた。ずっと前からこうして、かすがと触れ合いたかった。だから、全然『いきなり』じゃあない」
佐助の胸にあてられた手から、彼の鼓動がつたわってくる。その鼓動は、かすがが自分の胸に
ふれているのかと一瞬勘違いするほど速かった。
同じなのだ。興奮しているのも、どこか緊張しているのも、お互いに触れあっていたいのも。
それが、男の鼓動から教えられたようだった。
黙ったまま、かすがは抱きすくめるように腕を男の背面にまわした。佐助の胸に耳を当て、
彼の心音を直に聞き入れた。ふだんより速いと思われる心音はあたたかで、佐助のなかで
抑えられているはずの情念が微かに感じとれる。かすがは安心感に似た感情を覚えた。
目をつむり、この場所に自分たち以外の気配がないかどうか確かめた。そして、
いきなりじゃない、と、その一言を心のなかで反芻させる。
「いきなりじゃない、か……」
口に出してみると、自身の心に重く響いた。それは苦しい重みなどではなく、
心地好い重みであった。




