あの日、思いつめた表情で自分の所を訪ねてきた元親の顔は今でも忘れない。
最後に抱いた彼女の体の温もりと、己の名を呼ぶ切なげな声を。
最後に抱いた彼女の体の温もりと、己の名を呼ぶ切なげな声を。
綴られた文字にふと懐かしさを感じ、元就は紙の上を指でなぞってみる。
何を馬鹿なことを、と思いながら、内容へと目を通す。
いつもと変わらない日常の瑣末な出来事だ。
ふと口元に苦笑が浮かぶが、部屋のすぐ近くに人の気配を感じてそれを消した。
書状を抽斗へとしまうと、そちらの方へと視線を向けた。
何を馬鹿なことを、と思いながら、内容へと目を通す。
いつもと変わらない日常の瑣末な出来事だ。
ふと口元に苦笑が浮かぶが、部屋のすぐ近くに人の気配を感じてそれを消した。
書状を抽斗へとしまうと、そちらの方へと視線を向けた。
「入っても良いかい」
主の返答など聞く気もないのか、その人物は勝手に障子を開けた。
降り続く雨の音が大きくなる。
「こちらの拒否など関係ないのだろう、貴様は」
呆れた口調で彼女を一瞥し、小さく溜め息をついた。
「まあ、そうだけどね」
半兵衛は後ろ手に障子を閉めながら部屋に入ると、元就の前に座る。
「…何用だ」
顔も見たくない、とでも言うように、彼は視線を外した。
「言わなくても知っているんだろう?」
相変わらず元就は視線を合わせようとしない。
ふふ、と艶めいた笑いを浮かべながら、半兵衛の腕がだらりと絡みつく。
指先が胡桃色の髪を玩びながら耳朶を探る。
「……いつものように抱いて欲しいんだけど」
元就の耳朶へと囁きかけるように唇を寄せた。
視界の隅を過ぎる白銀の髪に、ふと既視感を覚える。
「安芸まで来ずとも、あれに頼めば喜んで抱いてくれるのではないか」
間近で睨む琥珀の瞳をじっと見詰めていた半兵衛は、元就の答えに困ったように眉を下げた。
「…秀吉には頼めないよ、だって友達相手に欲情出来ないだろう?」
主の返答など聞く気もないのか、その人物は勝手に障子を開けた。
降り続く雨の音が大きくなる。
「こちらの拒否など関係ないのだろう、貴様は」
呆れた口調で彼女を一瞥し、小さく溜め息をついた。
「まあ、そうだけどね」
半兵衛は後ろ手に障子を閉めながら部屋に入ると、元就の前に座る。
「…何用だ」
顔も見たくない、とでも言うように、彼は視線を外した。
「言わなくても知っているんだろう?」
相変わらず元就は視線を合わせようとしない。
ふふ、と艶めいた笑いを浮かべながら、半兵衛の腕がだらりと絡みつく。
指先が胡桃色の髪を玩びながら耳朶を探る。
「……いつものように抱いて欲しいんだけど」
元就の耳朶へと囁きかけるように唇を寄せた。
視界の隅を過ぎる白銀の髪に、ふと既視感を覚える。
「安芸まで来ずとも、あれに頼めば喜んで抱いてくれるのではないか」
間近で睨む琥珀の瞳をじっと見詰めていた半兵衛は、元就の答えに困ったように眉を下げた。
「…秀吉には頼めないよ、だって友達相手に欲情出来ないだろう?」
自分の理想を追い求め、彼を戦国の覇王に仕立て上げる。
彼とあまりに近しい人間になっては感情に揺さぶられて選択を誤るかもしれない。
それは嫌なんだ、自分が許せない、と気怠い声で囁く。
彼とあまりに近しい人間になっては感情に揺さぶられて選択を誤るかもしれない。
それは嫌なんだ、自分が許せない、と気怠い声で囁く。
もぞり、と体を動かして元就の膝に乗るように位置を変える。
肺を患っている為か、常に微熱を発している半兵衛の肌は熱い。
「詭弁を」
侮蔑の色を滲ませた声に半兵衛は紫瞳を伏せて笑う。
「ああ、そうかもしれないね…僕は怖いんだ」
残された時間は短く、命の炎がいつ果てるかなど分からない。
君には分からない感情だろうね、と皮肉を込めて言い返すと、上目遣いに元就の顔を見た。
「ふ…戦場に立ち、血煙に塗れても、顔色一つ変えぬ女が何を言うか」
「ひどい言い方だ」
やはり君しかいないよ、そう言いながら、頬を摺り寄せるようにして半兵衛から口付けてきた。
「…今日はちょっと喋りすぎたな」
これ以上無粋な事は言わないでくれ、と懇願するような声が溶けて消えた。
肺を患っている為か、常に微熱を発している半兵衛の肌は熱い。
「詭弁を」
侮蔑の色を滲ませた声に半兵衛は紫瞳を伏せて笑う。
「ああ、そうかもしれないね…僕は怖いんだ」
残された時間は短く、命の炎がいつ果てるかなど分からない。
君には分からない感情だろうね、と皮肉を込めて言い返すと、上目遣いに元就の顔を見た。
「ふ…戦場に立ち、血煙に塗れても、顔色一つ変えぬ女が何を言うか」
「ひどい言い方だ」
やはり君しかいないよ、そう言いながら、頬を摺り寄せるようにして半兵衛から口付けてきた。
「…今日はちょっと喋りすぎたな」
これ以上無粋な事は言わないでくれ、と懇願するような声が溶けて消えた。