何が可笑しくて笑うんだろう――それが第一印象だった。
本当にしょっちゅうヘラヘラ笑っている奴だ。
――良い声だね。ファンになっちゃったよ
ユルく鼻の下を伸ばした軽薄な笑顔で言われたが、ステージで歌う時には後ろ姿が
みえるだけで滅多に笑わない。
――え?歌ならちゃーんと聴いてるって。曲名が分かんないけど
体の良い言い訳に聞こえて鼻白んだ。
それにしても毎回毎回飽きもせずバーテンと何を話しているのだろう。
――何って色々…別に良いじゃん。焼きもち焼いてんの?
プイと外方を向けば途端に慌てて取り繕う。
――ああゴメンゴメン。そんなに怒んないでよ。ね?
そしてまたこいつは笑う。
――じゃあね、お姫様
信号が青に変わった。
横断歩道に一歩踏み出す。
――さいなら
振り向くと既にあいつは消え、夏の夜の雑踏の中に独り取り残されていた。
いくら探してもあの笑顔は何処にも無くて見知らぬ人ばかりだった。
今まで「じゃあね」か「またね」しか言われた事が無い。
ハッキリ別れの言葉を口にされたのは初めてだった。
どうせまた店に来るだろうと軽く考えていたが、あいつはそれきり来なかった。
別にタダの客だ、足が遠のく事なんて幾らでもあるし寧ろせいせいしている。
あんな気に喰わないお調子者のヘラヘラした顔は二度と見たくもない。
大体持っていたDVDは皆ホラーだったんだぞ?全く信じられない。
「…そう言う割には」
長電話に付き合ってくれている古い友人は受話器の向うから
笑いを堪えた口調で言う。
「如何にも未練たっぷりな強がりにしか聞こえないのは、僕の気のせいかい?」
笑うな。
週末の仕事帰り、微妙に空いた右側に落ち着かなくて何故だか無性に泣きたくて、
ああもう私は一体どうしたんだろう。
本当にしょっちゅうヘラヘラ笑っている奴だ。
――良い声だね。ファンになっちゃったよ
ユルく鼻の下を伸ばした軽薄な笑顔で言われたが、ステージで歌う時には後ろ姿が
みえるだけで滅多に笑わない。
――え?歌ならちゃーんと聴いてるって。曲名が分かんないけど
体の良い言い訳に聞こえて鼻白んだ。
それにしても毎回毎回飽きもせずバーテンと何を話しているのだろう。
――何って色々…別に良いじゃん。焼きもち焼いてんの?
プイと外方を向けば途端に慌てて取り繕う。
――ああゴメンゴメン。そんなに怒んないでよ。ね?
そしてまたこいつは笑う。
――じゃあね、お姫様
信号が青に変わった。
横断歩道に一歩踏み出す。
――さいなら
振り向くと既にあいつは消え、夏の夜の雑踏の中に独り取り残されていた。
いくら探してもあの笑顔は何処にも無くて見知らぬ人ばかりだった。
今まで「じゃあね」か「またね」しか言われた事が無い。
ハッキリ別れの言葉を口にされたのは初めてだった。
どうせまた店に来るだろうと軽く考えていたが、あいつはそれきり来なかった。
別にタダの客だ、足が遠のく事なんて幾らでもあるし寧ろせいせいしている。
あんな気に喰わないお調子者のヘラヘラした顔は二度と見たくもない。
大体持っていたDVDは皆ホラーだったんだぞ?全く信じられない。
「…そう言う割には」
長電話に付き合ってくれている古い友人は受話器の向うから
笑いを堪えた口調で言う。
「如何にも未練たっぷりな強がりにしか聞こえないのは、僕の気のせいかい?」
笑うな。
週末の仕事帰り、微妙に空いた右側に落ち着かなくて何故だか無性に泣きたくて、
ああもう私は一体どうしたんだろう。




