もう限界なんだ、と電話の向うから切羽詰まった声がした。
「…そうか」
精一杯普通の声を出そうとしたが上手くいかずに掠れてしまう。
また連絡すると言って通話を切り、畳の上にゴロンと仰向けになって天井を睨んだ。
飾り気の無い照明がやけに眩しく光って見える。
カレンダーは三月になっていた。冬に逢ってから随分経っている。
簡単に逢えないとお互い納得して始まったはずだった。
ここから彼女の所までは新幹線でもたっぷり半日は掛かる。
メールや電話で誤魔化して来たが、距離を置いて関係を保つのはやはり生易しい事では無い。
(潮時ってヤツかな)
部屋のカーテンが夜風に揺れた。
「…そうか」
精一杯普通の声を出そうとしたが上手くいかずに掠れてしまう。
また連絡すると言って通話を切り、畳の上にゴロンと仰向けになって天井を睨んだ。
飾り気の無い照明がやけに眩しく光って見える。
カレンダーは三月になっていた。冬に逢ってから随分経っている。
簡単に逢えないとお互い納得して始まったはずだった。
ここから彼女の所までは新幹線でもたっぷり半日は掛かる。
メールや電話で誤魔化して来たが、距離を置いて関係を保つのはやはり生易しい事では無い。
(潮時ってヤツかな)
部屋のカーテンが夜風に揺れた。
「どうも有り難うございました」
表札に二つの名字が書かれた玄関から引越し業者が帰るのを見送った。
隣りには彼女が居る。
「今更だけどさ、後悔とかしてないの?」
「何がだ」
「だっていきなり知らない土地まで来ちゃったんだよ?不安にならないの?」
「別に」
素っ気なく返した彼女は荷物が運び込まれた部屋の中に入ってしまった。
今日から暮らす1LDKは二人分の段ボールで埋まっている。
「さっさと終らせるぞ」
腕捲りをして手近な段ボールを開けた。
「はいはい」
彼も倣ってテキパキ片付ける。
「あのさ」
手は休めずに呼び掛けた。
「こんなとこまで来てくれて嬉しいよ、ホント」
「偶然仕事の区切りが」
そこで彼女は一度沈黙し俯くと小声で呟く。
「離れ離れは嫌だったんだ」
気配を感じて顔を上げると唇を啄まれた。
「なっ…!?」
真っ赤になった彼女を見て鼻の下を伸ばす。
「へへっ。いつもこんなに素直なら可愛い――痛ぇっ!!」
つい本音を漏らした途端、脛を蹴られた。
「ヤメた。やっぱり帰る」
「嘘だろぉ!?」
情け無い声が響いた。
肩を聳やかして外方を向くとベランダの向うで二羽の雀がのどかに鳴いていた。
表札に二つの名字が書かれた玄関から引越し業者が帰るのを見送った。
隣りには彼女が居る。
「今更だけどさ、後悔とかしてないの?」
「何がだ」
「だっていきなり知らない土地まで来ちゃったんだよ?不安にならないの?」
「別に」
素っ気なく返した彼女は荷物が運び込まれた部屋の中に入ってしまった。
今日から暮らす1LDKは二人分の段ボールで埋まっている。
「さっさと終らせるぞ」
腕捲りをして手近な段ボールを開けた。
「はいはい」
彼も倣ってテキパキ片付ける。
「あのさ」
手は休めずに呼び掛けた。
「こんなとこまで来てくれて嬉しいよ、ホント」
「偶然仕事の区切りが」
そこで彼女は一度沈黙し俯くと小声で呟く。
「離れ離れは嫌だったんだ」
気配を感じて顔を上げると唇を啄まれた。
「なっ…!?」
真っ赤になった彼女を見て鼻の下を伸ばす。
「へへっ。いつもこんなに素直なら可愛い――痛ぇっ!!」
つい本音を漏らした途端、脛を蹴られた。
「ヤメた。やっぱり帰る」
「嘘だろぉ!?」
情け無い声が響いた。
肩を聳やかして外方を向くとベランダの向うで二羽の雀がのどかに鳴いていた。




