小十郎が三度間合いを取る前に、今度は半兵衛が後退した。
その分を小十郎が踏み込むと、低い姿勢からいきなり旋風が巻き起こったかのように、何か
が閃いた。咄嗟に、大刀で首や顔面を防御する。
その分を小十郎が踏み込むと、低い姿勢からいきなり旋風が巻き起こったかのように、何か
が閃いた。咄嗟に、大刀で首や顔面を防御する。
「ぐはぁっ!」
無数の刃物が、小十郎の体を切り裂くような感じだった。
それが何か確かめた時には、小十郎は浅手ながらも、傷だらけになっていた。
無数の刃物が、小十郎の体を切り裂くような感じだった。
それが何か確かめた時には、小十郎は浅手ながらも、傷だらけになっていた。
鞭のように撓る仕込み刀、関節剣。
刃が連結を解くと、剃刀のような細かい刀身の鋭さと、それを繋ぐ鋼鉄の編糸自体が武器と
なる。
敵を切り刻む「沈黙の半兵衛」の本来の得物を、生きて見たのは小十郎が初めてだった。
刃が連結を解くと、剃刀のような細かい刀身の鋭さと、それを繋ぐ鋼鉄の編糸自体が武器と
なる。
敵を切り刻む「沈黙の半兵衛」の本来の得物を、生きて見たのは小十郎が初めてだった。
「…交わされたのは、君が初めて、かな」
小首を傾げながら、半兵衛が呟くように言った。
剣を一振りすると、風を切る音がする。
柄にからくりでもあるのか、剣は元通りに戻っていた。
小首を傾げながら、半兵衛が呟くように言った。
剣を一振りすると、風を切る音がする。
柄にからくりでもあるのか、剣は元通りに戻っていた。
「かかっておいでよ。…今度は、切り刻んでやるから」
半兵衛の挑発に、小十郎は迂闊には乗れなかった。
半兵衛の挑発に、小十郎は迂闊には乗れなかった。
あの武器では、近接戦闘に持ち込むのは難しい。
自分の剣の届く範囲に踏み込めば、確実にあれに切り裂かれる。
自分の剣の届く範囲に踏み込めば、確実にあれに切り裂かれる。
ぐっと、唇を噛み締めた小十郎を、くだらないものでも見るように半兵衛の冷たい視線が撫
でていった。
でていった。
「急いで後を追わないと、政宗君は小田原には辿りつけないよ。伏兵があちこちに置いてあ
る。進路が小田原とは違う方向へ向かうようにね。どっちに行ったか、気にならないかい?
片倉君。同じく小田原を狙う、誰と出くわすか……」
「貴様…!」
「君の主君は、馬鹿だから、罠に嵌めやす…」
小十郎は、皆まで言わせなかった。
る。進路が小田原とは違う方向へ向かうようにね。どっちに行ったか、気にならないかい?
片倉君。同じく小田原を狙う、誰と出くわすか……」
「貴様…!」
「君の主君は、馬鹿だから、罠に嵌めやす…」
小十郎は、皆まで言わせなかった。
「政宗さまを、愚弄するな!その汚き口を閉じろっ!竹中ぁっ!!」
半兵衛が、にたりと笑った。
間合いを詰めさせれば、半兵衛の勝ちである。
そして、その一瞬の油断を小十郎は待っていた。
剣を完璧に使いこなしていたはずの、半兵衛の腕が動かなくなった。
間合いを詰めさせれば、半兵衛の勝ちである。
そして、その一瞬の油断を小十郎は待っていた。
剣を完璧に使いこなしていたはずの、半兵衛の腕が動かなくなった。
「何!?」
突き出した小十郎の左手の大刀に、半兵衛の剣は絡みついていた。
わざと、きつく絡むように。
腕の何箇所かを切り裂かれた。
だが。
そのまま腕を引き、右手で小刀を抜き放ち、引き寄せた半兵衛の懐へと飛び込んだ。
初撃は首を狙ったが肩衣で防御され戦装束を切り裂くに留まり、返す二太刀目は下から上へ
と斬り上げた。
突き出した小十郎の左手の大刀に、半兵衛の剣は絡みついていた。
わざと、きつく絡むように。
腕の何箇所かを切り裂かれた。
だが。
そのまま腕を引き、右手で小刀を抜き放ち、引き寄せた半兵衛の懐へと飛び込んだ。
初撃は首を狙ったが肩衣で防御され戦装束を切り裂くに留まり、返す二太刀目は下から上へ
と斬り上げた。
「…やるね!!片倉君」
捨て身で剣を離し逃れた半兵衛の肩から胸にかけて戦装束が裂けたが、刀が短いゆえか、わ
ずかに浅かった。白い戦装束に、赤が滲む。
いや、小十郎の視界に飛び込んだ意外なものが、二の太刀の踏み込みを浅くしたのだ。
捨て身で剣を離し逃れた半兵衛の肩から胸にかけて戦装束が裂けたが、刀が短いゆえか、わ
ずかに浅かった。白い戦装束に、赤が滲む。
いや、小十郎の視界に飛び込んだ意外なものが、二の太刀の踏み込みを浅くしたのだ。
「何だと…?」
切り裂かれた衣の下には、晒しに潰されていたが、男にはない膨らみが隠されていた。
小十郎が半兵衛の動きを制しようとするが、どういうからくりか、手離した剣を手元に引き
寄せた半兵衛が再び打ち込んでくる。
切り裂かれた衣の下には、晒しに潰されていたが、男にはない膨らみが隠されていた。
小十郎が半兵衛の動きを制しようとするが、どういうからくりか、手離した剣を手元に引き
寄せた半兵衛が再び打ち込んでくる。
小十郎の咽喉元を、目掛けて。
剣を振りかぶると裂けた布と晒しから、女の乳房がわずかに見えた。
剣を振りかぶると裂けた布と晒しから、女の乳房がわずかに見えた。
「ま、待て!竹中っ!」
「うるさい!君の、愚かな主君の後を追えっ!」
政宗の悪口を言われると、小十郎は冷静ではいられなくなる。
だが、それもこの性悪な軍師の手であることもわかっていた。
ここで小十郎を足止めできないと策が狂うことを懼れ、せめて相討ちを狙って間合いを詰め
てきたことも。
「うるさい!君の、愚かな主君の後を追えっ!」
政宗の悪口を言われると、小十郎は冷静ではいられなくなる。
だが、それもこの性悪な軍師の手であることもわかっていた。
ここで小十郎を足止めできないと策が狂うことを懼れ、せめて相討ちを狙って間合いを詰め
てきたことも。
避けることもかなわず、伸びてきた剣を払い、辛うじて刀を返し峰を叩き付けた。
肩口から首を強打され、半兵衛の体が崩れ落ちた。
肩口から首を強打され、半兵衛の体が崩れ落ちた。