「………貴様が、このような辱めを黙って受けたのは、なぜだ。政宗さまに危害を加えるつ
もりは、なかったのであろう」
「…決まっている。秀吉を守るためだ。策は、黙っていたほうが効き目がある」
わかりきっている答えに、小十郎は低く唸る。
もりは、なかったのであろう」
「…決まっている。秀吉を守るためだ。策は、黙っていたほうが効き目がある」
わかりきっている答えに、小十郎は低く唸る。
秀吉のため。
秀吉のために。
秀吉のために。
この美しい女は、その本来の姿を隠し、血生臭い戦場に出て、なおもただ一人の男のために
策を弄するのか。
どれだけの敵がこの竹中半兵衛を殺したがっているのか、知っているのだろうか。
策を弄するのか。
どれだけの敵がこの竹中半兵衛を殺したがっているのか、知っているのだろうか。
「貴様、この刻限に、政宗さまがこちらに伝令を出すことまで、読んでいたのか」
「なぜ、そう思う?」
今度は、半兵衛が尋ねた。
「なぜ、そう思う?」
今度は、半兵衛が尋ねた。
小十郎が、ちらりと獣脂の蝋燭を見た。
「貴様が、あれを気にしていた。最初、俺の隙を狙って反撃するために蝋燭を見ていたのか
と思ったが……。蝋燭に関心があることを気取られまいとして、下手な芝居を打ったな?」
「…下手、だったかな」
「俺に囚われた時刻から、日の沈む外の様子、そしてあの蝋燭が燃えた長さで、正確に刻限
を測っていた。貴様のことだ。各陣営の戦道具も調べ上げているのだろう。…貴様は、じっ
と時を待っていた。政宗さまと、豊臣が出会い、何事も無かったかのようにすれ違う刻限を」
「………ご明察。打てるだけの手は打ったから、秀吉と政宗君が、どう動くかは読み切れて
いた」
嘲るように言う半兵衛に、小十郎は無性に腹が立った。
「ならば、そう言えばよいではないか!」
「軍師が、言えるか。そんなこと。君だって、言わないだろう?」
と思ったが……。蝋燭に関心があることを気取られまいとして、下手な芝居を打ったな?」
「…下手、だったかな」
「俺に囚われた時刻から、日の沈む外の様子、そしてあの蝋燭が燃えた長さで、正確に刻限
を測っていた。貴様のことだ。各陣営の戦道具も調べ上げているのだろう。…貴様は、じっ
と時を待っていた。政宗さまと、豊臣が出会い、何事も無かったかのようにすれ違う刻限を」
「………ご明察。打てるだけの手は打ったから、秀吉と政宗君が、どう動くかは読み切れて
いた」
嘲るように言う半兵衛に、小十郎は無性に腹が立った。
「ならば、そう言えばよいではないか!」
「軍師が、言えるか。そんなこと。君だって、言わないだろう?」
その体を引き摺り起こし、小十郎は自分の陣羽織を横へと払った。
「軍師、か。…確かに、見上げたものだよ。竹中」
「軍師、か。…確かに、見上げたものだよ。竹中」
胸と咽喉元に生々しい赤味を残した白い肌は、容易く小十郎の腕の中に収まった。
手に吸い付くような肌のその背のしなやかさに、小十郎は血が下へと集中するのを感じた。
力をこめて、女の体を抱きしめる。
手に吸い付くような肌のその背のしなやかさに、小十郎は血が下へと集中するのを感じた。
力をこめて、女の体を抱きしめる。
女。
竹中半兵衛は、確かに女人だった。
抱きしめると、甘い匂いがする。
竹中半兵衛は、確かに女人だった。
抱きしめると、甘い匂いがする。
怪訝そうに、半兵衛は小十郎を見る。
「何をする…」
「俺は、女を手にかけない。……だが、容赦なく貴様を殺せる男は、いるだろう」
「君がやらなくても、誰かにやらせるということかい」
「俺は、女を手にかけない。……だが、容赦なく貴様を殺せる男は、いるだろう」
「君がやらなくても、誰かにやらせるということかい」
「ああ、そうだ。だが、…貴様は、俺を煽り過ぎた」
「……君も、ただの男……かい」
ため息混じりの、声が暗かった。
「貴様も、ただの女になるといい。……その前に、ひとつ、聞きたい」
紫紺の瞳が、小十郎の鋭い目を見つめた。
「……君も、ただの男……かい」
ため息混じりの、声が暗かった。
「貴様も、ただの女になるといい。……その前に、ひとつ、聞きたい」
紫紺の瞳が、小十郎の鋭い目を見つめた。




