横になっているいつきに向かって、彼はさらに言葉を続ける。
「そなたらと戦って、民がどれほど戦で苦しんでいるか、某にも分かり申した」
農民たちは、名を上げたいのでも領土が欲しいのでもない。ただ苦しい生活に耐えられず訴え出てきただけ。一揆を起こすなどけしからんと最初は思ったが、農民の訴えを聞いてそれを理解したと彼は言った。
「そなたらと戦って、民がどれほど戦で苦しんでいるか、某にも分かり申した」
農民たちは、名を上げたいのでも領土が欲しいのでもない。ただ苦しい生活に耐えられず訴え出てきただけ。一揆を起こすなどけしからんと最初は思ったが、農民の訴えを聞いてそれを理解したと彼は言った。
「…にいちゃんも、分かってくれただな」
「だが今は苦しくとも、すぐにお館様が天下を取られる。ならばそなたらも苦しまずに暮らせる」
「だが今は苦しくとも、すぐにお館様が天下を取られる。ならばそなたらも苦しまずに暮らせる」
だからそれまで耐えられよ、と、語る彼の瞳は圧倒されるほど真摯で、いつきは思わず息をのむ。
それは、自分の主が絶対に平和な世を作ってくれると信じて疑わぬ瞳。
農民たちは本当にその言葉を信じて良いのか、未だ決着の付かぬ思いのままいつきは黙っていた。
彼もしばらく黙って何かを考えていたようだが、やがてふと思いついたように口を開く。
それは、自分の主が絶対に平和な世を作ってくれると信じて疑わぬ瞳。
農民たちは本当にその言葉を信じて良いのか、未だ決着の付かぬ思いのままいつきは黙っていた。
彼もしばらく黙って何かを考えていたようだが、やがてふと思いついたように口を開く。
「だが、戦をする必要のない世が来たなら、某はもう要らぬな」
「え?…なして…?」
「某は戦うことでしか、お館様の役には立てぬゆえ。戦が無くなれば、用済みぞ」
「え?…なして…?」
「某は戦うことでしか、お館様の役には立てぬゆえ。戦が無くなれば、用済みぞ」
寂しそうでも、不服そうでもない。
心から当たり前の笑顔でそう言う彼を、いつきは信じられぬ思いで見上げた。
心から当たり前の笑顔でそう言う彼を、いつきは信じられぬ思いで見上げた。
「お館様のために死ねるのであれば、某はそれで幸せだ。逆に…戦が終わってもまだ生きておった場合は、某は何をすれば良いのだろうな。今初めて、思い至った」
「……!!」
「……!!」
彼は呑気な台詞を言ったつもりらしいが、いつきはその言葉に言い知れぬ衝撃を受ける。
戦場で出会った彼の大将は決して、この人をただの戦力として扱ってはいなかった。
この人が居なくなれば、傍に居る大将も忍も悲しむと、初めて出会ったいつきでさえ分かった。
戦場で出会った彼の大将は決して、この人をただの戦力として扱ってはいなかった。
この人が居なくなれば、傍に居る大将も忍も悲しむと、初めて出会ったいつきでさえ分かった。
(本気でそう思ってるだか?戦をしないで皆で平和に暮らす、そんな事も思いつかないだか?)
すぐに口をついて出てくるはずの言葉が、何故か今は出てこない。
何かを言いたいのに声を出せずにいるいつきを見て、彼は不思議そうに首を傾げた。
何かを言いたいのに声を出せずにいるいつきを見て、彼は不思議そうに首を傾げた。