「やはりかすが殿か!いやはやこんな所でお会い致すとは!」
「…真田、幸村。何故、貴様がここにいる」
「ここの甘味はとても美味で、某の行きつけでな。お館様にも献上したところ、大いに気に入られなさった!かなりのお墨付きだぞ!」
「…真田、幸村。何故、貴様がここにいる」
「ここの甘味はとても美味で、某の行きつけでな。お館様にも献上したところ、大いに気に入られなさった!かなりのお墨付きだぞ!」
――情報源は貴様かっ!
つまり、真田が武田信玄に薦め、気に入った信玄が謙信に教え、謙信がかすがを使いに出したのである。
確かに考えられなかったことではない。
浮かれて、注意力が散乱していたかすがの失態である。
確かに考えられなかったことではない。
浮かれて、注意力が散乱していたかすがの失態である。
面倒だ。放っておこう。
幸い、やたら絡んでくるあの真田の従者はいない。とっとと話を切り、彼女は用を済ませようとした。
「そうかそれはよかったな。ゆっくりしていけ。私はかえ…」
「まぁそう急がずとも。ここで会ったのも何かの縁でござる。
某が馳走する故、しばし休憩していかれてはどうだ?佐助は今城にはいないぞ」
「は?」
「かすが殿は佐助に会いに来たのでござろう?」
「ちょっと待て。どうしてそうなる」
「かすが殿と佐助は恋仲なのでは?佐助がそのようなことを」
「まぁそう急がずとも。ここで会ったのも何かの縁でござる。
某が馳走する故、しばし休憩していかれてはどうだ?佐助は今城にはいないぞ」
「は?」
「かすが殿は佐助に会いに来たのでござろう?」
「ちょっと待て。どうしてそうなる」
「かすが殿と佐助は恋仲なのでは?佐助がそのようなことを」
一寸置いて、かすがの佐助への苛立ちが高まった。身に覚えのない仲にされているのだから、至極当然のことである。
「何故、私が奴とそんな関係にならなければならない!貴様もそんなことは嘘だと見抜け!」
「…佐助の嘘なのでござるか?」
「当たり前だ!」
「…佐助の嘘なのでござるか?」
「当たり前だ!」
真田に誤解だいう否定と鬱憤を吐き散らす。
それでもかすがの怒りは収まらず、某のはやとちりだったのかと、真田は平謝り状態だ。
それでもかすがの怒りは収まらず、某のはやとちりだったのかと、真田は平謝り状態だ。
「本当にすまぬ!…しかし、それほど着飾っているのでてっきりそうなのかと」
「…着飾る?」
「その小袖、とてもかすが殿に似合っておられる。そういう恰好をされていると、お持ちの華やかさが際立たれますな」
「……ッ!!??」
「…着飾る?」
「その小袖、とてもかすが殿に似合っておられる。そういう恰好をされていると、お持ちの華やかさが際立たれますな」
「……ッ!!??」
ただの、よくある、一般的なものだというのに、この男は何を言っているだろう。そんなこと、言われたことがない。
詫びの意味も込めて、馳走させてくれと手を引く真田を、かすがは何故か拒むことが出来なかった。
◇
「ささっ、遠慮なく!」
腰掛けるかすがの膝の上には、饅頭の皿が乗せられている。初めはやはり、薄皮饅頭が良いであろうと真田に半ば強制的に薦められたものだ。
かすがが無意識にため息を漏らす一方、真田の方は既に五皿完食し、次の注文に移っていた。相変わらずの食べっぷりで!と女将に絶賛されるので、毎度のことなのだろう。
とりあえず、ぱくりと一口。
かすがが無意識にため息を漏らす一方、真田の方は既に五皿完食し、次の注文に移っていた。相変わらずの食べっぷりで!と女将に絶賛されるので、毎度のことなのだろう。
とりあえず、ぱくりと一口。
「…!」
美味しい。甲斐の虎が気に入ることだけある。
ふわりとした黄土色の生地の中には甘すぎないこしあん。舌で潰せばすぐに溶けてしまうそれは、口の中に柔らかい甘みを残す。
しつこくない後味は、次の菓子を求めた。
ふわりとした黄土色の生地の中には甘すぎないこしあん。舌で潰せばすぐに溶けてしまうそれは、口の中に柔らかい甘みを残す。
しつこくない後味は、次の菓子を求めた。
「ようやく、笑顔になられたな」
かすがの顔をやや下から覗き込み、真田が言う。
突然の真田の行動にかすがの身体はピクッと跳ねた。どこか嬉しそうに笑う男と、必死に取り繕う女。
突然の真田の行動にかすがの身体はピクッと跳ねた。どこか嬉しそうに笑う男と、必死に取り繕う女。
「やはり、かすが殿にはしかめっ面よりもそういう顔の方が似合いますぞ!」
「誰も笑ってなどいない!でたらめを言うな!」
「確かに“笑顔”という表情は違うかもしれませんな…。しかし、実に柔らかい表情をされておった」
「~~っ!!う、うるさい!貴様は余程目が悪いのだな!
一度医者にみてもらえ!」
「某の眼は武田の武士の中でも1、2を争う良さでござる!お館様にもお褒め頂いた!」
「ッ、ご馳走になった!!私はもう帰る!」
「誰も笑ってなどいない!でたらめを言うな!」
「確かに“笑顔”という表情は違うかもしれませんな…。しかし、実に柔らかい表情をされておった」
「~~っ!!う、うるさい!貴様は余程目が悪いのだな!
一度医者にみてもらえ!」
「某の眼は武田の武士の中でも1、2を争う良さでござる!お館様にもお褒め頂いた!」
「ッ、ご馳走になった!!私はもう帰る!」
このままじゃ拉致があかないと悟ったかすがは勢い良く立ち上がる。本来の目的、謙信への菓子を買い、店から出ようとした。
「かすが殿!」
「まだ何かあるのか!」
「もうしばらくすると、栗をふんだんに使った菓子が沢山売られるでござる!
それもまた美味で!また寄られると良い!」
「まだ何かあるのか!」
「もうしばらくすると、栗をふんだんに使った菓子が沢山売られるでござる!
それもまた美味で!また寄られると良い!」
また何処かで!とこどものように叫ぶ幸村の声を後に、かすがは去っていった。
町を出たら、小袖を脱ぎ捨て全力疾走。金色の髪の間から垣間見えれる彼女の頬は朱く染まっていたようだった。
町を出たら、小袖を脱ぎ捨て全力疾走。金色の髪の間から垣間見えれる彼女の頬は朱く染まっていたようだった。
帰還後、謙信との幸福なひとときを過ごすかすがは、虎の若子と食べた饅頭が、謙信と共に食べたそれとは別の美味しさがあったと頭の片隅で思うのだった。
以上です。
お粗末さまでした。
お粗末さまでした。