どうしてだ
と幸村は問う。感情を抑えたいのに抑えきれないのか声が震えていた。酷く傷ついた
顔で佐助をみているが、その瞳には悲しみよりも激しい怒りがこもっている。
「どうして生かしている」
「あれは敵だぞ」
「お館さまの敵だ」
「敵ならば滅せよ」
「お前は真田隊の忍ではないか」
そう幸村は激しく捲くし立てた。佐助は顔を上げて幸村の顔を見る事が出来ずに俯
き、ただ黙って聞くばかりである。幸村の放った、敵、という言葉が耳に重く響く。佐助
にもこれは裏切り行為だとは分かっていた。勝利したとはいえ、敵は敵、残党は残党
だ。それに今の状態の幸村には言い訳は通用しないだろう。しばらくの沈黙の後、力
無げに佐助は言葉を発した。
「……わかってるよ、旦那」
「ならば!」
さらに強い口調で幸村は叫び、拳を畳にたたきつける。その拍子に側にあった湯呑
みが倒れて彼の袴を汚したが、気付いていないようであった。茶が畳に小さな水溜りを
つくる。視線は佐助のほうを真っ直ぐ向いたままだが、激昂していた幸村の表情が急
に落ち着きを取り戻し、能面のように感情が表から消え去った。最近は常にそうであ
る。信玄が病に臥せってからは幸村の感情は波のようにうねっており、不安定な状態
であった。
「ならば、殺せ」
冷たく言い放つそれは、命令であった。上から下される絶対的な命令。忠誠を誓う
部下としてはそれに逆らえるはずも無かった。
「了解しました」
言葉だけはすんなりと口から出た。
顔で佐助をみているが、その瞳には悲しみよりも激しい怒りがこもっている。
「どうして生かしている」
「あれは敵だぞ」
「お館さまの敵だ」
「敵ならば滅せよ」
「お前は真田隊の忍ではないか」
そう幸村は激しく捲くし立てた。佐助は顔を上げて幸村の顔を見る事が出来ずに俯
き、ただ黙って聞くばかりである。幸村の放った、敵、という言葉が耳に重く響く。佐助
にもこれは裏切り行為だとは分かっていた。勝利したとはいえ、敵は敵、残党は残党
だ。それに今の状態の幸村には言い訳は通用しないだろう。しばらくの沈黙の後、力
無げに佐助は言葉を発した。
「……わかってるよ、旦那」
「ならば!」
さらに強い口調で幸村は叫び、拳を畳にたたきつける。その拍子に側にあった湯呑
みが倒れて彼の袴を汚したが、気付いていないようであった。茶が畳に小さな水溜りを
つくる。視線は佐助のほうを真っ直ぐ向いたままだが、激昂していた幸村の表情が急
に落ち着きを取り戻し、能面のように感情が表から消え去った。最近は常にそうであ
る。信玄が病に臥せってからは幸村の感情は波のようにうねっており、不安定な状態
であった。
「ならば、殺せ」
冷たく言い放つそれは、命令であった。上から下される絶対的な命令。忠誠を誓う
部下としてはそれに逆らえるはずも無かった。
「了解しました」
言葉だけはすんなりと口から出た。