「アアン?もう一度言ってみろ。この田舎モンが!」
「ha!そういう科白言うヤツが、ホントの田舎モンだって事、未だ判んねぇの
かよ」
「ha!そういう科白言うヤツが、ホントの田舎モンだって事、未だ判んねぇの
かよ」
杯に移すのももどかしいのか、酒瓶から直飲みという、「年頃の女として、それ
はどうなのよ」状態のまま、酒にも強く相当なのんべえである政宗と元親は、何
本目かの空き瓶を傍らに転がせていた。
「ったく、オトコ出来ていい気になってんじゃねぇのか?いいのかよ、ソイツそ
っちのけで俺のトコになんか来てて」
酒の勢いに任せながら、政宗は多少の妬みも含んだ言葉を、元親にぶつける。
「…んなの、関係ねーだろ。お前こそ、えり好みしてねぇで、さっさとオトコ捕
まえりゃいいじゃねぇかよ。大体、いつも段平6本も持って、気に入らないヤツは
片っ端から斬りまくってるクセに、気に入るオトコはひとりも手に入れられない
ってな、どういう了見だよ?」
「な…っ、そ、それこそテメェにゃ関係ねーだろーが!ご自慢の碇槍で一本釣り
はしたものの、釣った魚に餌やらずにこんなトコ来てるヤツになんか、言われる
筋合いねぇ!」
「……そうかよ。悪かったな」
はどうなのよ」状態のまま、酒にも強く相当なのんべえである政宗と元親は、何
本目かの空き瓶を傍らに転がせていた。
「ったく、オトコ出来ていい気になってんじゃねぇのか?いいのかよ、ソイツそ
っちのけで俺のトコになんか来てて」
酒の勢いに任せながら、政宗は多少の妬みも含んだ言葉を、元親にぶつける。
「…んなの、関係ねーだろ。お前こそ、えり好みしてねぇで、さっさとオトコ捕
まえりゃいいじゃねぇかよ。大体、いつも段平6本も持って、気に入らないヤツは
片っ端から斬りまくってるクセに、気に入るオトコはひとりも手に入れられない
ってな、どういう了見だよ?」
「な…っ、そ、それこそテメェにゃ関係ねーだろーが!ご自慢の碇槍で一本釣り
はしたものの、釣った魚に餌やらずにこんなトコ来てるヤツになんか、言われる
筋合いねぇ!」
「……そうかよ。悪かったな」
てっきりムキになって反発してくるかと思いきや、何処か強張った表情のまま、
元親は低く小さい声で返してきた。
訝しげな顔をする政宗の隻眼に、元親の傍に立て掛けてある碇槍が映る。
(あれ?あいつの武器、いつもと違う……?)
元親は、余程の強敵と戦う場合を除いては、馴染み深い『八流』を、必ず携えている
のに、今政宗の目の前にある元親の碇槍は、見た事のないものであったのだ。
「なあ、元親。いつもの『八流』はどうしたんだよ」
「…あ?ああ…あれは……捨てた」
「Why?あんなに大切な武器だって、しつこいくらい俺に言ってたじゃねぇか?」
「──うるせぇな!俺が捨てたっつってんだから、いいじゃねーかよ!」
「…元親?」
そう言い捨てながら、俯いた元親は、僅かに震えながら己の手首を擦り始めた。
元親は低く小さい声で返してきた。
訝しげな顔をする政宗の隻眼に、元親の傍に立て掛けてある碇槍が映る。
(あれ?あいつの武器、いつもと違う……?)
元親は、余程の強敵と戦う場合を除いては、馴染み深い『八流』を、必ず携えている
のに、今政宗の目の前にある元親の碇槍は、見た事のないものであったのだ。
「なあ、元親。いつもの『八流』はどうしたんだよ」
「…あ?ああ…あれは……捨てた」
「Why?あんなに大切な武器だって、しつこいくらい俺に言ってたじゃねぇか?」
「──うるせぇな!俺が捨てたっつってんだから、いいじゃねーかよ!」
「…元親?」
そう言い捨てながら、俯いた元親は、僅かに震えながら己の手首を擦り始めた。
『頼む、それだけは…それだけは嫌だ…ぁ…!…いやぁ!いやあああぁぁ!』
『痛ぁ…やめてぇ……もうやめてよぉ…う…うぅ…っ…』
『お願い…助けて……誰…か……』
『痛ぁ…やめてぇ……もうやめてよぉ…う…うぅ…っ…』
『お願い…助けて……誰…か……』
武器や重機を収納しておく倉庫の中に反響する、自分の悲鳴と泣き声。
敵を絡め取り、打ちのめす愛用の武器が、皮肉にも持ち主の自由を奪う為に用いら
れた現実。
──ああ。先程までは、澄み渡った蒼穹が自分を見下ろしていた筈なのに。
今、見下ろしているのは、自分の身体を引き裂く男の……
敵を絡め取り、打ちのめす愛用の武器が、皮肉にも持ち主の自由を奪う為に用いら
れた現実。
──ああ。先程までは、澄み渡った蒼穹が自分を見下ろしていた筈なのに。
今、見下ろしているのは、自分の身体を引き裂く男の……
「な、なあ。俺、お前の気に触る事言ったか…?だったら、悪ィ。謝る……」
「……政宗?」
意気消沈した声を聞いて、元親は我に返ると感情に揺れる政宗の左目を見た。
孤独な幼少時代を過ごしてきた政宗は、不器用な形でしか人との接触の仕方を
知らない。
故に、無遠慮な言葉を並べる割には、いざ元親が本当に傷付いたような顔をす
ると、途端に不安になるのだ。
「…んだよ。塩ふられた菜っ葉みたいな顔しやがって」
「元親…」
「心配すんなって。お前の悪態にゃ、慣れっこだよ。こっちこそ悪かったな。ち
ょっとイラついてたんだ。えーとお前に言わせりゃ、な、なー……」
「──nervous?」
「あ、そう。それそれ」
元親に笑顔が戻るのを見て、漸く政宗も表情を和らげた。
杯を差し出してきた元親に、新たな酒を注ごうと酒瓶を傾けていると、不意に部屋の
外が騒がしくなった。
事態を察知した小十郎が部屋を出ると、使用人が新たな来訪者の出現を告げてくる。
「今、政宗様には先客がいる。日を改めて貰え」
「はぁ…でも、その客というのが、甲斐は武田の使いの者で…名前を真……」
「……政宗?」
意気消沈した声を聞いて、元親は我に返ると感情に揺れる政宗の左目を見た。
孤独な幼少時代を過ごしてきた政宗は、不器用な形でしか人との接触の仕方を
知らない。
故に、無遠慮な言葉を並べる割には、いざ元親が本当に傷付いたような顔をす
ると、途端に不安になるのだ。
「…んだよ。塩ふられた菜っ葉みたいな顔しやがって」
「元親…」
「心配すんなって。お前の悪態にゃ、慣れっこだよ。こっちこそ悪かったな。ち
ょっとイラついてたんだ。えーとお前に言わせりゃ、な、なー……」
「──nervous?」
「あ、そう。それそれ」
元親に笑顔が戻るのを見て、漸く政宗も表情を和らげた。
杯を差し出してきた元親に、新たな酒を注ごうと酒瓶を傾けていると、不意に部屋の
外が騒がしくなった。
事態を察知した小十郎が部屋を出ると、使用人が新たな来訪者の出現を告げてくる。
「今、政宗様には先客がいる。日を改めて貰え」
「はぁ…でも、その客というのが、甲斐は武田の使いの者で…名前を真……」
「政宗殿ぉ!真田源次郎幸村、お館様の使いで参上致しましてござりますうぅ!」
「──幸村!?」
屋敷中に響き渡ったあまりの大声に、正に政宗を筆頭に、全員が驚愕にどよめいた。
屋敷中に響き渡ったあまりの大声に、正に政宗を筆頭に、全員が驚愕にどよめいた。




