濃姫は信玄の胸のあたりに指を這わせ、言った。
「だから、お前をこうやって辱めることで、私の心は癒えるのよ。上総介様のために、また
戦場に立つことができる。私は上総介様が天下をお取りになるその日まで、同じ戦場で戦うと
決めたのよ」
撫で回す指の感触に信玄は眩暈を覚える。
刀傷をなぞるしぐさは、今までの責め方と違っていた。
「ワシに、触るな……!」
「お黙り。命令するのはお前ではないの、私よ」
信玄の体に馬乗りになった濃姫は、弱者を弄ぶ嗜虐者の顔で笑う。黒目がちな瞳の輝きは、
この場にそぐわぬ無邪気さをたたえていた。
「ねぇ? 人の姿のままじゃ、お前は死んでも私に屈しないと分かったわ。だからお前を獣に
堕としてあげる。お前の一番ふさわしい姿、本来の姿に。うふふふっ」
「……――」
濃姫の言葉に、信玄は体を強張らせていた。
これ以上の屈辱に耐えられるのか、という疑問を己に問い、答えの出ぬまま戦慄する。
「楽しいわね。ついさっきまでは気位の高い男の面をしていたのに、まるでメッキがはがれる
みたいに情けない顔になっていく……あと一息かしら、お前の泣きわめく姿が見れるのは?」
いっそ舌を噛んで死んでしまおうか。
信玄の気持ちは揺らぎ、しかしすぐに否と叫んだ。
――それだけは、できん。
腹を切るなら潔い最期と思う。冥土で待つ家臣も納得するだろう。しかし、辱めに耐えられず
舌を噛んで死んだ男を君主と仰ぐ者などいまい。
「お館様」と慕われた男が舌を噛み切って果てるなど、冗談にしか聞こえないのだ。
「だから、お前をこうやって辱めることで、私の心は癒えるのよ。上総介様のために、また
戦場に立つことができる。私は上総介様が天下をお取りになるその日まで、同じ戦場で戦うと
決めたのよ」
撫で回す指の感触に信玄は眩暈を覚える。
刀傷をなぞるしぐさは、今までの責め方と違っていた。
「ワシに、触るな……!」
「お黙り。命令するのはお前ではないの、私よ」
信玄の体に馬乗りになった濃姫は、弱者を弄ぶ嗜虐者の顔で笑う。黒目がちな瞳の輝きは、
この場にそぐわぬ無邪気さをたたえていた。
「ねぇ? 人の姿のままじゃ、お前は死んでも私に屈しないと分かったわ。だからお前を獣に
堕としてあげる。お前の一番ふさわしい姿、本来の姿に。うふふふっ」
「……――」
濃姫の言葉に、信玄は体を強張らせていた。
これ以上の屈辱に耐えられるのか、という疑問を己に問い、答えの出ぬまま戦慄する。
「楽しいわね。ついさっきまでは気位の高い男の面をしていたのに、まるでメッキがはがれる
みたいに情けない顔になっていく……あと一息かしら、お前の泣きわめく姿が見れるのは?」
いっそ舌を噛んで死んでしまおうか。
信玄の気持ちは揺らぎ、しかしすぐに否と叫んだ。
――それだけは、できん。
腹を切るなら潔い最期と思う。冥土で待つ家臣も納得するだろう。しかし、辱めに耐えられず
舌を噛んで死んだ男を君主と仰ぐ者などいまい。
「お館様」と慕われた男が舌を噛み切って果てるなど、冗談にしか聞こえないのだ。




