(ダイヤモンドオンライン 2010年8月5日配信掲載) 2010年8月6日(金)配信
{「自室からほとんど出ない人」はわずか7%
我々が誤解しがちな引きこもりの実態}
我々が誤解しがちな引きこもりの実態}
前回も紹介したとおり、内閣府の「若者に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」は、これまで50万人とも100万人もといわれてきた日本の「引きこもり」の実情を初めて把握する上でも、注目されている。
『サンデー毎日』今週号でも特集記事を書いたが、「引きこもりの中高年化」が進み、「職場や就職上の理由をきっかけに引きこもりになる割合が多かった」という傾向が改めて裏付けられたのは、大変興味深い。
なかでも、小・中・高校の不登校から「引きこもり」になった人は、わずか12%。「大学になじめなかった」人を含めても、不登校が長期化して「引きこもり」になる人は、20%に満たなかったこともわかった。これらの結果から、「不登校」から「引きこもり」になる人が大部分ではなく、むしろ「引きこもり」になりやすい人の一部が、早い段階で顕在化した場合に「不登校」になると説明したほうが理解できる。
再度確認しておくと、内閣府の調査では、「引きこもり」について、次のように定義している。
≪「ふだんは家にいるが、趣味の用事のときだけ外出する」「近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」状態が、「6か月以上」にわたり続いていて、「(引きこもる)きっかけが統合失調症または身体的病気」や「家事・育児をする」人たちを除いた人数≫
このうち、「自分の趣味の用事のときだけ外出する」と「近所のコンビニなどには出かける」人を合わせると、「引きこもり」の88%に上るという、そんな全体像も明らかになった。一方、これまでの「引きこもり」像の典型的なイメージが強かった「自室からほとんど出ない」タイプは、わずか7%に過ぎなかった。
また、前回も触れたように、「家や自室に閉じこもって外に出ない人たちの気持ちがわかる」などと答えた「引きこもり親和群(潜在群)」が推計155万人に上り、社会に出ている人たちの中にも「引きこもり」に近い意識傾向を持った人たちが広がっている状況も浮き彫りになった。
{「引きこもり」と「一般の人たち」で
答えが異なる2つの質問}
答えが異なる2つの質問}
では、「引きこもり」と「一般」の人たちとは、どこに違いがあるのだろうか。調査結果を見てみると、「あなた自身に当てはまること」について聞いたうち、とくに次の項目で違いが見られた。
まず「初対面の人とすぐに会話できる自信がある」について、一般の人たちは「はい」と「どちらかといえばはい」を合わせて57%で、「引きこもり」の人たちは、合わせて23%と、初対面の人との関わり方に自信のない傾向が伺えた。また、「自分の感情を表に出すのが苦手だ」についても、「はい」や「どちらかといえばはい」と答えた人は、一般の44%に比べ、「引きこもり」の人たちは71%が、自己表現が苦手だと感じていたのである。
{対人恐怖症から引きこもりへ
10年間の空白を埋めたのは「花見」だった
}
10年間の空白を埋めたのは「花見」だった
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神奈川県に住む40代の加賀徳秋さん(仮名)は、小学4年がまもなく終わる、ある寒い朝、やかんで体温計の温度を上げて、学校を休んだ。以来、病気でもないのに、いろいろな理由を付けて、学校に行かなくなった。
物心ついた頃から怖がりで、対人恐怖がひどかった。とくに周りを気遣いながら遊ぶチームプレーが苦手だった。つい他の事を考え、ボーっとしてしまう。
加賀さんの母親も、外面はいいが、子どもにはヒステリーのようにわめき、きつく当たった。父親は学者で、学問には熱心だが、家庭に興味はなく、まったく子どもと話そうとしなかった。加賀さんが話しかけても、返事は来なかった。
中学時代は1日も教室に行くことができず、週に2~3日、校長室や教育委員会に登校。校長や校長経験者らから、戦争体験談などを聞かされた。それでも、高校は何とか卒業。専門学校を中退後は、何の気力も起きなかった。
夕方起きると外に出て、カフェで閉店まで本を読む。深夜に帰宅すると、居間に置いてある夕食を1人で食べ、明け方までネットに耽る。そんな昼夜逆転生活を10年以上続けてきた。
「何でだろう?」と自問自答し続ける毎日。しかし、原因はわからなかった。「自分は、神様に選ばれた特殊な人間なのではないか」と妄想したこともあった。
人恋しくなって、賑やかなカフェの中にいるだけで癒された。しかし、人と交流もなくパソコンばかりしているうちに、頭が重くなり、動悸がひどくなってきた。心臓病かと思って診てもらったものの、何も異常は見つからない。診断名は「自律神経失調症」だったが、医師から「よくわからない症状」といわれた。
「この生活パターンに限界が来ているのかな。心の病になりかかっていると、自分で気づいたんです」
どうしたものかなと思っているとき、たまたま母親が友人からもらった自助グループの花見のチラシが、わざとらしく居間のテーブルの上に置かれていた。
「いつもならスルーするのに、チラシにかわいらしい花見のイラストがあったんです。すごく楽しそうだったのと、場所が近かった。かなりあせっていたし、この機会を逃したら、もうないかもしれない」
そう一念発起して、花見に出かけた。行ってみると、皆、楽しそうで、また会いたいなと思える人とのつながりもできた。
その後、毎月、例会にも参加。会の1週間前から緊張して不眠症になったが、活気があって楽しかった。
毎回、ヘトヘトになって帰宅するのに、人と関われたことが嬉しくて、飲み会にも行けるようになった。
{働く意欲が芽生えても
埋めることができない「履歴書の空白」}
埋めることができない「履歴書の空白」}
「ようやくスタートラインに片足を乗せられたのかな。この機会を逃したら、人生終わりかなと思ったんです」
働くきっかけにつながったのは、別の居場所に顔を出すうち、役所のスタッフから「人を探しているんだけど、やってみない?」といわれたこと。加賀さんは「自分が求められている。ずっと、こういう日を待っていたのかな」と喜んだ。2週間くらい迷った末、生まれ初めての面接を受けた。
これまでのこともカミングアウトした。職場は、会社をリタイヤしてきた一世代上の人たちが多く、すべて受け入れてくれたこともよかったという。
その後、加賀さんは、正社員になろうと思い、2度、転職試験を受けた。ところが、面接では「この期間、何をしていたんですか?」と突っ込まれた。加賀さんは、正直に自らの体験を打ち明け、ボランティアをしていたと説明すると、面接官から、
「加賀さんの家って、お金持ちなんですねぇ」
と、嫌味を言われた。
「自分では、引きこもりはもう関係ない、と思っていた。でも、世の中の価値観は、何も変わっていない」と加賀さんは嘆く。
社会に出て、やり直そうと思っても、資格や検定を取らないと、「履歴書の空白」に対抗できない。加賀さんは、いまの日本の「社会のハードル」をそう痛感している。
{引きこもっていた過去への負い目
人間関係を苦に仕事が続けられない}
人間関係を苦に仕事が続けられない}
東京都に住む30代の大西早苗さん(仮名)も、高校時代、通学途中に「トラックに飛び込んだら、ラクだろうな」と思っていたことを覚えている。「いなくなりたい…」と、つらかった気持ちは常にあったものの、それ以外の記憶があまりない。
「クラスの男子3人くらいから、いじめというか、からかわれていたんです。私もいろいろ反論したりしてたんですが、もう限界に来てしまって…」
いま振り返れば、耐えられたかもしれないと大西さんはいう。
何とかいじめられないよう、変わっていると思われないように生きてきた。
公営住宅に住んでいたため、母親は、周りの目を気にして、「目立つことはしないように」「突出したことをしてはいけない」と厳しかった。
まったく外に出られなかったわけではなく、カウンセリングにはずっと通い続けた。
家では、部屋の障子を開けられないよう、つっかえ棒でバリケードした。読書が好きで、1日中、探偵小説などを読みあさり、ドラクエなどのゲームにハマった。
「いまの自分の状態と重ね合わせて、自分は何してるんだろうと思ってました」
自殺のマニュアル本を読みながら、睡眠薬自殺を実行したこともある。
自殺未遂を起こしてから、両親はこれまでとガラリと変わって、何も言わなくなった。
「すでに両親は高齢で、このままでは私が1人残される。でも、両親があまりに何も言わなくなり、動こうともしないので、こっちが逆にあせってきたんです」
その後、大西さんは、自ら面接試験に応募して採用された職場で、仕事の中味よりも、同僚から嫌われるんじゃないかという思いが強く、つらい状況が続いて、1年で辞めてしまう。
次に、派遣社員として入った大手介護会社は、倉庫内を歩き回るような仕事だった。しかし、そこでも「人間関係のことにすごく悩んでしまって…」、長続きしなかった。
「私は外には出ていたんですが、引きこもっていたという負い目から、自分はダメだという気持ちが強く働くと、もう仕事に行けなくなってしまうのです」
こうして、仕事はできるのに、人間関係に不安を感じて、職場に行けなくなってしまう人が、最近の「引きこもり」の中核になりつつあるという。いま、社会で働いている人たちの中にも、人間関係に不安や緊張感を抱えている人が少なくない。
ただ、個々は孤立していても、皆が同じような苦しみを共有している時代ともいえる。足を引っ張っているのは、誰でもないし、集団生活のできない自分でもない。ズレた社会の仕組みをどのように変えていくかを皆で議論していくときにきている。
ソース:ダイヤモンド・オンライン(Diamond Online) http://diamond.jp/articles/-/8974