2009年8月18日
上越市内の男性(33)はしんみりと話す。「『派遣』が長いと、抜け出したくても抜け出せない」
●まず年齢の壁
糸魚川市内の工場で派遣社員として製品検査をしていた。昨秋に景気が悪化。契約が切れ、11月末で無職になった。春までに数百人が失業した。
上越市内で仕事を探した。ホテルなど10社に断られた。まず年齢だ。「年齢不問」という会社は多いが、実際には壁がある。はっきり言われてはいないが、長い派遣歴も否定的にみられていると感じた。「なぜ正社員になれなかったの?」と、面接で聞かれることもあった。
94年に宮城県の高校を卒業。難関大を目指して2浪したが不合格。就職もできず、派遣会社に登録した。当時は残業があり手取りで25万円ほど。同年代の正社員より高い。十数年、東北、北陸で派遣などで働く日々が続いた。
派遣は不安定だ。糸魚川の工場では、収入は額面で23万円ほどだが、寮費4万5千円、家具のレンタル料は5千円。健康保険などを引かれると、手元に残るのは10万円強だ。
だいたい1年の契約。労働者派遣法では、「正当な理由」がない限り中途解約は無効とされるが、実際には泣き寝入りが多い。正社員と同じ仕事で給料は低い。
男性は7月から、タクシー会社の正社員の運転手として働いている。70万円の貯金も尽きた。「身分が不安定でとても結婚する気になれない。お金も使わないし外食もしない」
新潟労働局によると、昨年10月から7月21日までに「雇い止め」された県内の非正規労働者数は3582人。うち派遣は6割強でほとんどが製造業だ。月ベースの増加数は約100人で、300人を超えた2月ごろよりは落ち着いた。しかし、求人は減っており厳しい状況は続く。
●改正案は廃案
派遣など正社員以外で働く人は約1800万人。20年前の2.3倍で、働く人の3分の1を占めるまでになった。
不況下の99年、派遣労働の対象業務が自由化された。企業が人件費を減らしたかったからだ。小泉政権下の04年には製造業への派遣も解禁された。受け入れ側には(1)労働者の保険類や年金費用を負担しなくていい(2)有期雇用なので、生産が減った時などは契約を延長せずに、人を簡単に減らせる、などの利点があり急速に広がった。働く側にも「多少条件が悪くても少しでも働き口があった方が良い」との意見もあった。
ただ、00年代に入り、中国の急成長で日本企業が厳しい競争にさらされると、少しでも人件費を安くするため違法な雇用形態がはびこった。いわゆる「偽装請負」などだ。
立場や収入が不安定な人が増えることに懸念も広がる。結婚する人が減り、少子化が進む。収入が減り、車が売れないなど経済にも影響する。
最近の国会では労働者派遣法の改正が焦点となった。雇用の調整弁として使われてきた製造業への派遣と、派遣先の仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ不安定な登録型派遣だ。政府は、30日以内の短期派遣を禁じる法案を08年11月に提出した。製造業派遣や登録型派遣は規制しない。
一方、民主など野党3党も今年6月に改正案を提出。製造業派遣は、免許や資格が必要な専門職種を除き禁止、登録型派遣も通訳など専門職種に限るもの。結局、衆院解散で両改正案は廃案になった。
県内の労働関係者は「野党案も製造業派遣を一部認めていて不完全」とする。一方で派遣経験者の中には「能力的に厳しい人でも派遣会社を通じて仕事が見つかる時もある」との声もある。
◇
現場をみて政策をおさらいする中、背景にある2点を実感した。まず長引く不況の問題。90年代以降バブル崩壊、金融危機などで経済が縮小。給料が減り、税収も減り、国や自治体もお金がない。さらに小泉政権下での財政再建。地方へのお金を減らしたため医療、教育に影響が出ている。国と地方の借金は800兆円超。限られた国のお金を何に優先させるのかが問われる。
各党が掲げるどの政策に1票を投じるのか。総選挙は18日、公示される。(小山田研慈)
=終わり
■非正規雇用に関する主要6政党の主な公約
<自民>
日雇い派遣を原則禁止。年長フリーター(25~39歳)を重点とした正規雇用化支援
<公明>
製造業派遣、登録型派遣のあり方については1年程度をめどに検討。「雇い止め」に対する派遣先の賠償責任強化
<民主>
原則として製造現場への派遣の禁止。2カ月以下の雇用契約について派遣を禁止。日雇い派遣も原則禁止
<共産>
製造業派遣は禁止、登録型派遣を原則禁止。「同一価値労働同一賃金」の原則に基づいた待遇改善を法制化
<社民>
製造業・登録型派遣を原則禁止。日雇い派遣禁止。有期雇用の原則禁止
<国民新>
労働者派遣法を改正し、雇用の安定化を図る。正規雇用転換奨励金の大幅拡大