◆
身体が、酷く重い。
視界が、震える。
意識が、陽炎のように揺らぐ。
疲弊と消耗が、延々とこの身を苛む。
そのうえで、駆け抜けていくしかない。
今はただ、我武者羅に往くしかない。
この先に、“彼ら”が居るのだから。
己のマスターとその同盟者が、待っているのだから。
蝗害と幻術の王。彼らとの“死線”を潜り抜けた。
これまでに経験したことのない、熾烈な戦局へと身を投じた。
援護を得た上で乗り越えたものの、傷も疲労も間違いなく大きい。
こうして動けるのも、“戦闘続行”スキルの恩恵によるものであり。
何より、英傑としての並外れた気力によって果たされていた。
万全の状態のように、迅速な移動は出来ない。
マスター達もまた“撤退戦”に縺れ込み、移動し続けている。
己が身の疲労を顧みれば、即座の合流は行えない。
恐らくは、暫しの時間が生じることになるだろう。
それでも、少しでも早く――辿り着かなければならない。
彼らは今まさに、窮地に追い込まれようとしている。
そんな中で、彼らは抗い続けている。
だからこそ、己が立たねばならない。
マスター達の奮闘を信じつつ、彼は無我夢中で進み続ける。
あの交差点での混沌の死闘を経て。
“将軍”は休む間も無く、次なる舞台へと向かう。
◆
ぶろろろろろろろろろろ――。
日没を経て、夜へと突入した東京の市街地。
その上空――数十メートルの高度を、複数の影が勢いよく飛翔する。
アサシンのサーヴァント、ベルゼブブ。その眷属である悪魔。
それぞれナシロと河二を抱え、夜空を駆け抜けていく。
そんな彼女らを追跡する、白い巨影――白い機体。
けたたましいプロペラ音を掻き鳴らしながら、ヘリコプターが追跡する。
搭乗者、ライダーのサーヴァント。カスター将軍である。
代々木公園に端を発する戦局を経て、この追走劇は幕を開けた。
街の上空が戦場と化す。地上から見上げる世界が、撤退戦の舞台と化す。
星の海を思わせる街の輝きを眺める余裕など、彼らにはなかった。
逃げるベルゼブブの片手から、振り向きざまに次々と放たれる光弾。
ろくに狙いは定まっていないが、それでも撹乱気味に連射すれば十分な脅威となり得る。
「ふはははははは!!闇雲に撃ちまくっても無駄だ!!
君のタネは既に理解しているからな、悪魔よ!!」
しかしカスターはまるで臆さない。怯みもしない。
勇猛なる“カスター・ダッシュ”の敢行。
そしてスキル『ラストスタンド』の恩恵により、彼には強運が憑いている。
「先の公園で私を退かせた“あの一撃”は奇跡に過ぎない!!
当たれば怖いが、君は“当てられない”のだろう!?
当てるだけの技量も経験もないのだろうッ!!」
照準も定まらずにあちこちへ飛び交う光弾に惑わされることなく、ヘリコプターを操りながら高速前進を続けていた。
時には一部の光弾が機体へと命中しかけるが、それらも巧みな操縦技術によって機敏に回避していく。
「当たらない砲弾など恐れるに足らず!!この私は決して臆さない!!ハッタリで私に挑もうなど、百年早いと言えるッ!!」
必死に乱射するベルゼブブの感情を逆撫でし、翻弄するようにカスターは弁舌で煽り続ける。
その振る舞い、その言動、その堂々たる姿さえも武器として振りかざす。
「――撃て!!撃て!!弾の節約はもはや必要ないッ!!」
そして、反撃と言わんばかりに――兵士達が再びライフルを連射した。
放たれる数多の鉛玉は、空へと散る光弾の嵐よりも遥かに正確にベルゼブブ達を狙う。
『アサシン!!怯むことはない、ただの銃弾だ!!』
『わかってますよぉ!!』
念話でナシロからの鼓舞を受けながら、迫る銃弾をベルゼブブは躱し続ける。
放たれた鉛玉は風を切り、獲物を捉えることもなく虚空へと消えていった。
動きを止めれば、敵の銃弾が襲い来る。
地上へ逃げれば、騎兵隊との連携攻撃が叩き込まれる。
故にベルゼブブ達は、飛び続ける他ない。
1秒間に200回もの羽ばたきを行い、瞬きの数百倍の瞬発力で危機を回避する――。
そんなハエの特性が曲がりなりにも英霊のスケールに押し込まれたことで、ベルゼブブは高い機動力を発揮していた。
そして飛び道具による攻撃手段を持たない眷属は徹底して回避行動に専念し、河二を守り続けている。
眷属もまた、代々木公園では騎兵隊の銃弾を躱せるだけの敏捷性を備えていた。
「はっはっはっは!!逃げ足が早いようだが――――」
ベルゼブブ達は飛翔しながら攻撃から逃れている。
カスターはヘリコプターへの被弾を避けるべく一定の距離を保ったまま追撃を続けている。
膠着状態、互いに攻め手に欠けたまま数分程度の駆け引きを繰り広げていた。
しかし、より攻勢へと出る余地があるのは、明確にカスターの側である。
「――――私も、逃げる敵を追うのが好きだッ!!!」
当てに行く感覚を取り零したまま、飛行と攻撃を同時に行わねばならないベルゼブブとは違う。
カスターはあくまで操縦に徹し、攻撃は“騎乗”スキルの恩恵で安定した狙撃が行える使い魔の兵士達に専念させられる。
一定の制空圏を得たうえで余力を残すカスターは、ベルゼブブ達に対し幾らでも揺さぶりを掛けられるのだ。
『というか、ナシロさん!!あいつたぶんスキルとか持ってます!!』
『どういうことだ!?』
『わたし、さっきから小出しで“威圧”使ってたんですけど!!タネ割れてるの抜きにしてもあんま効いてないんですよ!!』
銃弾を躱していく中で、ベルゼブブはナシロへと念話を飛ばし続ける。
そう、小出しとはいえ悪魔は既に己の判断で“不穏の羽音”を発動させていた。
それは“威圧”による足止めを行い、敵にこれ以上の制空圏を握らせないため。
そして攻撃するか撤退するにせよ、こちら側が先手を打つための活路を見出すための判断だった。
しかし、敵はまるで怯まない。隙を見せない。
既にベルゼブブの本質を見抜きかけているのも要因としてあるが、それだけではない。
『なんていうか、あのライダー!!ええっと、あれ、あれです!!精神干渉耐性あります!!』
『――――分かった、なら尚更踏ん張ってくれ!!』
ベルゼブブからの見立てを伝えられ、ナシロは唇を噛みながら焦燥する。
思わぬ形での相性の悪さが露呈し、迫り来るヘリコプターを忌々しげに見据えた。
カスターの保有スキル『猛進の騎兵隊』は複合スキルであり、精神干渉を跳ね除ける『勇猛』の効果を内包する。
ベルゼブブのスキル『魔王(偽)』にはランクで一歩劣るものの、それでも魔王の権能によ“威圧”を大きく軽減していたのだ。
更にカスターはスキル『誉れ高き勇士』によって兵士達の士気も高め、軍勢全体に擬似的な精神耐性の効果を発生させていた。
ナシロは距離を取りながら追跡を続けるヘリコプターを見据えて、焦るように思考する。
敵は先程から明らかに間合いを取り続けており、何度か接近を試みても即座に離脱され反撃を仕掛けられるばかりだった。
(――危機察知のスキルか何かも持ってるのか?ヘリコプターの反応も機敏すぎる)
明らかにこちらの行動を読んでいるか、あるいは迫り来る危険を察知しながら動いている。
より至近距離への肉薄、あるいは死角に潜り込んで光弾を命中させることも考えた。
敵のスキルにもよるが、不可能ではないだろう。
だが基礎ステータスの低いベルゼブブでは、過度な接近戦を挑むことも命取りになりかねない。
されど、この場で有効な攻撃手段を備えるのもまたベルゼブブのみ。
ちらりと視線を動かし、ベルゼブブの眷属を見た。
ベルゼブブより更に格の低い眷属は、河二を守るためにとにかく回避に徹している。
そのうえ河二は徒手空拳の使い手――あのヘリコプターへの有効打を与えにくい。
――どうする。
ナシロは思案する。
このまま時間稼ぎに徹するか。
それとも攻勢に出るべきか。
焦燥の中で、鋭い夜風が頬をなぞる。
そうして、思考を重ねていた矢先。
ナシロ達の意表を更に突くように。
ヘリコプターの側面から、突如として“何か”が射出された。
「――――は……!?」
ナシロは目を見開く。
堪えていた驚愕を、表情に滲ませる。
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
それは、軍馬に乗った騎兵だった。
ヘリコプターの側面から、騎兵が勢いよく射出されたのだ。
ベルゼブブはぎょっと目を丸くしながら、機敏な飛行で騎兵を回避。
躱された騎兵はそのまま真っ逆さまに落下し、絶叫を上げながら霧散し消滅する。
――何だ、今の。
ナシロは思わず呆けたように思う。
そんな唖然の直後、立て続けに攻撃はやってくる。
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
空中にて疾走中の騎馬状態で召喚され、その勢いと共に射出される騎兵隊。
彼らは召喚時の推進力によって、ごく短距離のみ“滑空”を果たす。
無論、直後に待ち受けるのは地上への落下。そして消滅。
空中で召喚したからといって、彼らは自由に飛翔できたりはしない。
翼を持った訳でも、突如飛べるようになった訳でもないのだから。
しかし、騎兵が短距離とはいえ“勢いに任せて射出される”のだ。
ただそれを敵にぶつけるだけでも――質量を伴った飛び道具になり得る。
「高乃ッ!!」
「琴峯さん!!こっちは自力で対処する!!」
飛んでくる騎兵をベルゼブブに回避させながら、ナシロは河二へと向けて叫ぶ。
彼を抱える眷属もまた、飛来する騎兵達を躱していくが――連鎖的な攻撃により、回避が間に合わず。
激突しかけた騎兵の一体に、河二は霊木の義手によるカウンターの一撃を咄嗟に叩き込む。
魔術礼装の拳撃を受けて、騎兵は消滅する。
されど激突の衝撃により、河二達もまた空中で後方へと仰け反る。
「騎兵隊!!我が伝説の象徴であり、魔力の続く限り召喚可能な使い魔でもある!!
つまり、補給を気にせず撃ちまくれる砲弾のようなもの!!なんでも活用するのがアメリカ式だ!!」
射出される騎兵隊に翻弄されるナシロ達。
そんな彼女らを愉快な様子で眺めるカスター。
カスターの召喚する騎兵隊は、魔力の許す限りは自在に召喚が出来る。
軍団戦を挑む騎兵隊の性質に加え、カスター自身の霊格の低さも相俟って、その規模に反して魔力のコストが小さい。
よってある程度無策に呼び出しても魔力は枯渇しにくいし、単独行動スキルによって自前の魔力も幾らか回せる。
つまり、カスターは遠慮なく騎兵隊を射出できるのだ。
「喰らえッ――――『騎兵ミサイル』だ!!!」
そして、カスターが叫ぶ。
彼に躊躇いはない。使えるものは何でも使う。
ただ、それだけである。
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
直後にヘリコプターの周囲から、“栄光の砲弾”が次々に放たれる。
つまり、肉弾である。無限弾の特攻兵器である。
空中で射出された騎兵隊が、回避を続けるナシロ達へと迫った。
『ナシロさん!!あいつ何なんですか!?ナントカ将軍!!マジで訳わかんないですよ!!』
『同感だよ、さっきから無茶苦茶だ……!!』
質量と勢いを伴った騎兵の肉弾が迫っては、それを必死で回避していく。
時おりヤケクソの光弾による当てずっぽうで騎兵を吹き飛ばしているものの。
それでも次弾がすかさず放たれる。それらを躱し、凌ぎ続けるしか出来ない。
「――そうら、撃て!!撃て!!」
そして、波状攻撃が飛んでくる。
騎兵ミサイルを回避した矢先に、銃弾が放たれた。
隙を突かれたベルゼブブの身体に、何発かの弾丸が掠る。
「アサシン、大丈夫か!?」
「ちょ、直撃は何とかっ!!」
幸い命中はしなかったが、ベルゼブブも焦っている。
回避だけに専念すればいい眷属とは違う。
彼女の場合、攻撃も回避も共にこなさねばならない。
ベルゼブブの火力のみが、ヘリコプターを撃墜する余地を備えるのだから。
「どうした!!先の戦いのように当てたまえよ、悪魔め!!
それともこの程度で限界かね!?ふははははははは!!」
しかし、いずれは限界が訪れる。
猛攻と追撃に集中するカスターが有利であることに変わりはない。
このままではジリ貧は避けられない。
逃げ切る前に、敵の猛攻がこちらを押し潰すだろう。
ギリ、とナシロは歯軋りをする。
上空の冷たい風に吹かれながら、敵を睨む。
全く予期しなかった空中戦に追い込まれ、じりじりと追い込まれている。
ランサーはいずれ到着する。しかし、それまでに耐え切れるのか。
あの騎兵隊長の攻撃を、切り抜けられるのか。
――そんな思考を重ねてながら。
――ナシロは、河二へと視線を向けた。
その時、ナシロは気づいた。
河二もまた、こちらへと視線を向けていたことに。
何かを訴えかけるように、目配せをしている。
空中。宵闇。その彼方で、垣間見えた眼差し。
河二がこちらに向けて送ったアイコンタクト。
それが意識へと焼き付いて、ナシロは目を丸くする。
やがてナシロは、察したように。
意を決するように、表情を引き締める。
何をすべきなのかを、彼女は受け取った。
――高乃。
――そういうことで、いいんだよな。
この判断が正解なのか。
それさえも、分からない。
だけど――今はただ、信じるべきで。
河二から受け取ったものは、信じるに値する。
ただ、それだけだった。それで十分だった。
故にナシロは、念話を送る。
『アサシン』
『は、はい』
『ガンガン行くぞ。強気に出る』
『はい?』
◆
聖杯戦争で、普通はヘリコプターを飛ばさない。
高火力戦闘を行えるサーヴァントに対し、ヘリという代物は基本的に不利である。
的が大きく、小回りも効かず、死角からの攻撃にも対処し切れない。
その割に防御も耐久もサーヴァント相手には紙同然、一撃を貰えば沈む可能性が高い。
しかもプロペラのせいで常に騒々しい。
普通は飛ばさない。飛ばす強みが薄い。飛ばす意味も乏しい。
神格の域に到達する英霊からすれば、この偉大な文明の利器は“鉄屑”に等しい。
それも空を飛ぶだけの、デカくて騒がしい鉄屑である。
しかしカスターは、そんな道理を平気で蹴り飛ばす。
目立つばかりの鉄屑さえも、嬉々として乗りこなす。
彼は騎乗スキルによって、機体の限界を超える程の卓越した操縦技術を発揮している。
そこに保有スキル『ラストスタンド』の効果を上乗せさせ、強引にドッグファイトを成立させていた。
カスターのスキル『ラストスタンド』はあらゆる攻撃の被弾率を大幅に低下させる。
更には自らに降りかかる致命傷を高確率で回避する効果を持つ。
その恩恵により、カスターのヘリコプターは驚異的な回避能力を発揮し続けている。
カスターはアサシンが“ハッタリの英霊”であることを見抜いている。
所詮は当たらぬ光弾しか放てぬ、ハリボテの悪魔に過ぎない。
そのマスター達も効果的な対空攻撃の手段を持ち得ないことを、先の戦闘で理解した。
故にカスターは、極めて強気だった。
大胆にして慎重に、敵を追い詰めていた。
自らの能力と状況に裏付けされた、勇猛果敢なる態度。
それこそが、この鉄屑を凶暴な騎馬へと昇華させていた。
兵士達の銃撃と、騎兵による特攻ミサイル。
二重にして無尽蔵の攻撃力を得たことで、カスターは一層攻勢を強めていた。
最早逃げては攻撃を凌ぐだけで手一杯のアサシン達を追い詰めるのは容易い。
そうしてカスターは、果敢な突撃を続けていたのだが――。
直後にカスターは、ほんの少しだけ意表を突かれる。
――光弾ではない。飛来したのは、黒い投擲剣。
その刃が勢いよく、フロントガラスに激突したのだ。
それは退魔礼装、通称“黒鍵”。
聖堂教会の刺客、代行者が使用する武装。
琴峯ナシロが唯一“投影”できる、過去との繋がりの証。
ナシロが放った“黒鍵”は、ガラスを僅かに傷付けたのみだった。
操縦席のカスターに届くこともなく、そのまま魔力として霧散する。
「何だね?この程度か――」
ナシロの投影魔術は、あくまでこの聖杯戦争で得た付け焼き刃に過ぎない。
彼女自身も戦闘者としての経験や鍛錬を積んでいる訳ではない。
“黒鍵”の投擲も半ば生来の感覚、そして魔術的なセンスによって行われていた。
「随分と軽い一撃だなぁ、お嬢さん!!」
その断片を見抜くように、カスターは嘲るように笑う。
膂力が足りない。魔力が足りない。
故にガラスを突き破ることが出来ていない。
光弾よりは的確に狙いを定めているが、威力が無ければ意味がない。
幾らヘリコプターを攻撃しようとも、撃ち落とせなければ無意味なのだ。
「投影(エゴー)、開始(エイミー)」
しかし――そんなことも厭わぬように。
ナシロは続けて、複数の“黒鍵”を投影。
両手にそれぞれ三本ずつ。
指先に“黒鍵”を挟み、照準を定める。
「はぁ――――――っ!!!」
そして、再び勢いよく投擲した。
その手に握った計六本の剣を、立て続けに放った。
「それが何だ!!?その程度で私を止められると!!?」
二度目の“黒鍵”を前に、カスターは高笑いで応える。
回避するまでもない。こんなもの、撃ち落とせばいいのだ。
機内から身を乗り出した兵士達が、すかさずライフルを連射した。
次々に放たれる弾丸が、六本の黒鍵を容易く撃墜していく。
「投影――――!!」
されど、ナシロは手を止めない。
再び“黒鍵”を投影。両手に握り、構える。
そのまま矢継ぎ早に、ヘリ目掛けて投擲を行う。
先程と同様に、カスターは兵士達に指示を出す。
容赦なき銃撃が、“黒鍵”を次々に撃ち落とす――。
しかしカスターは、その最中に気づく。
「投影――――!!」
諦めを振り切るように、“投影魔術”を繰り返すナシロ。
絶え間のない投擲。それもまた、騎兵の銃撃に防がれていく。
「投、影――――ッ!!!」
そして、彼女を抱えたベルゼブブは――ヘリコプターへと向かっていた。
ナシロが攻勢を強めると同時に、ベルゼブブもまた前へ前へと突き進んでいく。
「まだまだ、行くぞッ!!!」
ナシロが“攻撃”を務め、ベルゼブブが“足”に徹する。
そうして二人は、先程よりも遥かに鋭く飛翔を行う。
狙うは、カスター将軍。目指すは、ヘリコプター。
最早逃げるつもりはない。此方から、一気に仕留める。
――そう言わんばかりの姿勢に、カスターは不敵に笑う。
「攻めてくるか――その勇気、潔しッ!!」
カスターは操縦桿を巧みに操り、ヘリコプターを“戦術的に後退”させる。
迫るベルゼブブから迅速に距離を取りつつ、兵士達が銃撃で牽制。
そして今度はナシロは“黒鍵”の投擲によって銃撃を相殺した。
ベルゼブブは前へと出る。前へ、前へと。
耐えず“投影”を行うナシロと共に、進撃する。
銃撃を掻い潜りながら、彼女達はカスターへと到達せんとする。
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
《Garry Owen,Garry Oweeeaaahhhhh――!!》
そんなベルゼブブ達を阻むように、再び姿を現す“肉弾”。
空中で召喚されて射出される騎兵隊。そう、騎兵ミサイルだ。
彼らは勢いよく飛び出し、滑空し、その質量によって突進する。
「撃て、アサシンっ――!!」
直後、眩い閃光が迸った。
飛び出した騎兵達が、光に包まれて爆散したのだ。
至近距離まで肉薄した騎兵ミサイル。
彼らへと目掛けて、ベルゼブブが光弾を乱射した。
光弾に飲まれた騎兵達は、なすすべもなく粉砕され消し飛ばされるのみ。
ベルゼブブの光弾は、ろくに当てることができない。
コツを掴めば“いける”とはいえ、先の土壇場でそれすらも取り零してしまった。
しかし、威力の高さと規模に関しては常に安定している。
即ち、“当てれば破壊力が高い”ことに変わりはないのだ。
故にナシロは、光弾を咄嗟の防御手段として利用した。
眼前まで迫ってきた騎兵隊を突き破るための迎撃武器。
結果として功を成し、ベルゼブブは更なる突撃を続けた。
高速で飛翔して迫るベルゼブブは、真正面から光弾を連射。
エイムは滅茶苦茶だが、接近したうえで放てば撹乱の手段にもなり得る。
まるで火の粉が散るように飛び交う光弾を、カスターは舌打ちと共に見据えた。
「攻勢に出て、この私を翻弄する気かね!?
いいアイデアだ!!だが、甘いぞッ!!」
流星のように飛び交う光弾――しかしカスターは、敢えて正面へと突撃。
スキルによる危機回避と卓越した操縦技術を駆使して、射手であるベルゼブブへと迫る。
そのまま命中寸前になるまで迫ったところで、俊敏な動きで“すれ違っていく”。
暴風が吹き抜ける。荒れ狂う気流が駆け抜ける。
ベルゼブブの真横をすり抜けるように、ヘリコプターは通り過ぎていった。
「――――行くぞ、アサシン!!」
「わ、わかりましたってばぁ!!」
そうしてヘリは“背中”を晒す。
咄嗟にカスターが認識できない背面。
そのままベルゼブブは瞬時に振り返り。
そして間髪入れず――高速機動をする。
色んな焦りと不安と噛み殺しながら、小さな悪魔は飛ぶ。
この蠅の少女は、本来ならまともな戦闘センスを持たない。
しかしナシロの指揮が加わることにより、彼女は必死になりながらも戦い抜いていた。
「頑張れ、掠るくらいなら平気だ!!」
「掠っても割と痛いんですよ!?」
「ツバつけりゃ治るだろ――!!」
「治りませんからね――!?」
そしてベルゼブブは、兵士達の弾丸を躱しながら。
突進と共に高度を下げつつ、ヘリコプターの真下へと潜り込まんとした。
操縦によって機体の向きを転換させながら、カスターはベルゼブブの行動に気づく。
「ほう、機体の下から一撃を叩き込むつもりか!?」
機体の真下という、まさに死角からの攻撃。
そこまで肉薄すれば、あの光弾も命中させられるだろう。
カスターは敵の意図に気づき、咄嗟に操縦桿を操る。
狙うは高度の上昇。ベルゼブブの近距離からの離脱。
騎乗スキルの恩恵によって、限界を超える性能を引き出している。
これしきの迅速なる行動も容易い。所詮は無駄な足掻きだ。
「幾ら当てに来ようが無駄だ!!無駄なのだッ!!」
ベルゼブブから素早く距離を取りながら、カスターは高らかに告げる。
機体のプロペラが、猛速で回転を続ける。
「攻勢に出れば、いつかはチャンスを掴めると思ったかね!?」
カスターは考える――アサシン達は、とにかく攻撃を当てたいのだ。
一撃さえ叩き込めばヘリを撃墜できる。そのように考えているのだろう。
だから無謀な突撃を繰り返し、絶え間ない波状攻撃で攻め立てている。
「躊躇なき前進!!それは確かに美しいものだ!!
しかしッ、無意味である!!この私の前ではな!!」
カスターはそう推測した。故に、それを無意味だと断じる。
所詮は悪あがき。ただの時間稼ぎに過ぎない。
ハッタリの英霊に過ぎないアサシンと、投影以上の攻め手を持たないナシロ。
彼女達の攻勢など、恐れるに足りない。
「付け焼き刃の勇猛さで、私を超えることはできない!!」
結局は当たらなければどうということはない。
自分には強運が憑いていると、カスターは自負している。
アサシン達の稚拙な攻撃を凌いだ末に、こちらが再び反撃に転じればいいだけのこと。
「尤も、その度胸は誉めてやりた――――」
勝ち誇るように、不敵に笑うカスター。
しかし、唐突に――機体がガクンと揺れた。
「――――む!!?」
カスターは、違和感に気づいた。
機体が揺れた瞬間、打撃のような音が聞こえた。
「何だッ!!!」
奇妙な胸騒ぎが、去来した。
そして、次の瞬間だった。
「無意味な努力なんかじゃない」
声が、割り込んできた。
少年の声が、鮮明に。
「彼女達のおかげで――――」
カスターは咄嗟に振り返った。
飛び込むように機内に乗り込んだ“影”がいた。
それから、間も無く。
「――――拳が届く距離まで、辿り着けた」
機内の兵士達が、宙へと吹き飛ばされた。
若き拳士の放った、閃光のように鋭い掌底。
その連撃が、カスターの使い魔達へと叩き込まれたのだ。
琴峯ナシロの同盟者、
高乃河二。
彼はヘリコプターの機内へと飛び込んだ。
そして奇襲と共に、瞬く間に兵士達を体術で制圧したのだ。
ベルゼブブ達が囮を務める中で、彼は眷属と共に距離を取っていた。
彼女らが陽動を務めて注意を引く中で、隙を窺い続けた。
そしてベルゼブブによる死角への接近をカスターが回避した直後、河二は行動に出た。
カスターがベルゼブブ達に意識を向け切った隙に、眷属にヘリの側面へと接近させ。
そして――河二を勢いよく、放り投げさせたのだ。
自身が空中戦に割り込む余地を持たないという敵側の認識を逆手に取り、大胆な奇襲へと乗り出した。
義手の防御によって弾丸を凌ぎつつ、飛び込むように機内へと突撃。
突入の際に吹き飛ばした兵士に加え、残りの兵士達も次々に斃したのである。
――“先程と同じように、自分は機を伺う”。
高乃河二は先のアイコンタクトで、琴峯ナシロにそう伝えていた。
ほんの一瞬、僅かな視線の交錯。刹那の合間の伝達。
それだけのアクションに過ぎなかった。
しかしナシロは、河二の意図をすぐさま理解した。
河二が何を為そうとしているのかを、彼女は察したのだ。
それは両者が互いの信念と意志を共有し、死線を乗り越えたからこそ。
二人の間には、確かな信頼と共鳴が存在していた。
故にナシロは、ベルゼブブと共にすぐさま攻勢へと出た。
ヘリに対する攻撃手段を持つのはベルゼブブのみ――そんなカスターの認識を利用し、陽動役を引き受けた。
“黒鍵”の連続投影から、ベルゼブブの機動力による接近。
積極的に攻勢へと出たことでカスターの意識を集中させ、河二が攻めるための隙を作り上げたのだ。
結果として、その目的は果たした。
ナシロ達が囮を務め、隙を見出した河二が機内へと突入。
奇襲からの鉄拳によって、銃の射手を務めていた兵士達を瞬く間に鎮圧した。
「乗り込んでくるか、少年――ッ!!」
カスターはすぐさま拳銃を抜いた。
操縦席の背もたれから身を乗り出すように、銃を構える。
そのまま引き金を弾き、背後にいる河二へと目掛けて発砲した。
――しかし、それは咄嗟の行動である。
それ故に、その動きは精細を欠く。
銃弾が、河二を捉えることはなかった。
否、違う。瞬きの間に河二が肉薄し、その右腕を振るっていたのだ。
そして銃を抜いたカスターの左腕を、疾風のような動作で瞬時に逸らした。
英霊の虚を突き、拳士は攻撃を凌いだ。
それ自体が修行器具。それ自体が魔力礼装。
高乃の一族に伝わりし霊木製の義手――『胎息木腕』。
霊的な“呼吸”によって使用者の鍛錬を促し、そして高効率での自己強化を実現する。
武術の才を持つ河二は、その力を最大限に引き出して行使してみせる。
気功によって高められた体術は、例え一瞬だけでも英霊を出し抜いたのだ。
「さあ、後は――――」
カスターの隙を突くも、河二は深追いはせず後退。
そのまま彼は、何の躊躇いもなく。
――野晒しにされたドアから、機外へと飛び降りた。
「――――任せたぞ、ランサーッ!!!」
河二の呼び掛けが、虚空に木霊する。
風を切るように、空中を落下していく。
そんな彼の身体を受け止めるべく、ベルゼブブの眷属が先回りするように飛翔していた。
既に織り込み済み。“そう動いてくれる”ことを、彼は信用していた。
故に躊躇いも何なく、行動に出たのだ。
そして河二は、指示を下した。
帰還を果たした“英霊”へと、最後の攻撃を委ねた。
陽動役を務めたのは、ナシロだけではない。
河二自身もまた、最後の囮だったのだ。
河二に気を取られていたカスターは、咄嗟に周囲の状況を確認しようとした。
次の兵士を召喚している暇はない。
己の五感を頼らなければ、恐らく間に合わない――。
そして、次の瞬間。
ヘリコプターの機体が、大きく揺れ動いた。
「何だ――――!?」
カスターは、驚愕と共に声を上げる。
滞空状態だった機体が安定を失い、その振動に揺さぶられる。
鉄や機器が軋むような音が、各所から木霊する。
その矢先、ヘリのフロントガラスが砕け散る。
何処からともなく飛来した槍が、窓を突き破ったのだ。
カスターは目を見開きつつ、咄嗟に強運での回避を果たす。
しかし、それだけではない。
まるで獲物を仕留める獣のように、幾つもの槍がヘリコプターの機体を穿っていた。
鋭い刃の群れが鉄製の胴体を抉り、亀裂が入る勢いで喰らいつく。
それは生半な武器とは違う。その一振り一振りが英霊の神秘、伝説の具現。
空を飛ぶ“人類の叡智”を撃ち落とすことさえも、不可能ではない。
ヘリコプターが攻撃を受けた矢先。
地上より空中へと目掛けて躍動する影が、機体へと向かってくる。
円盤のように飛び交う“足場”を蹴り続け、その影は跳躍を繰り返す。
彼は指揮を取る。円盤――否、複数の“丸盾”の軌道に乗り続ける。
その男が命ずるままに、横向きの盾たちは縦横無尽に宙を飛ぶ。
そして男は、機敏に浮遊し飛び回る盾を蹴っていくことで空へと挑む。
「随分と、粋な英霊じゃないか――――」
跳躍の連続。人の身で、空へと翔ぶ影。
その男は、大きな疲弊と消耗を背負いながらも。
眼前の敵――騎兵が搭乗するヘリコプターを見据えていた。
「人の叡智を操り、天を掴みに行くとはなッ――――!!」
そして男は、機体の正面まで跳び上がった。
跳躍の勢いと共に、砕けたフロントガラス部分を掴む。
そのまま身を屈めた姿勢で、勢いよく機体の前面へと乗り出した。
深蒼の騎兵服とは真逆の、真紅の外套を纏った“将軍”が参戦する。
彼こそはランサー――テーバイの指導者、
エパメイノンダスである。
「その出で立ち!!貴殿はもしや、“将軍”かッ!!」
「聞いたぜ、あんたもそうなんだろう――カスターッ!!」
カスターは、視線を交錯させた。
咄嗟にサーベルを抜くべく、腰に手を掛けた。
しかし、その行動は叶わず。
ガラスが砕け散った前方の窓より、幾つもの槍と盾が飛来する。
そのまま怒涛の勢いでカスターへと激突し、その動きを封じ込める。
拳銃やサーベルを抜く暇など与えない。
いや、この場から抜け出すことさえ認めない。
カスターは必死に抵抗するものの、神聖なる精鋭達は彼の行動を決して許さない。
「ぐ、おおおお――――ッ!!!」
そのままカスターは操縦席へと強引に抑え込まれるように、盾の障壁によって制圧される。
制御を失ったヘリコプターから抜け出すことも、態勢を立て直すことも出来ない――!
そして、エパメイノンダスが跳躍した。
しがみついていた機体の前面を蹴り、勢いよく空中へと離脱した。
直後、ヘリコプターが大きくバランスを崩した。
完全にコントロールを失い、無造作に回転しながら宙を舞っていく。
「さあ、堕ちろ――――ッ!!!」
もはや、離脱は不可能。
どれだけ足掻いても、盾がカスターを押さえつける。
墜落へと向かう機体と共に、彼もまた地へと落ちてゆくしかないのだ。
一瞬の交錯。一瞬の対峙。
その果てに、勝敗は決した。
エパメイノンダスは、跳躍の勢いで滞空しながらヘリコプターを見下ろす。
徐々に高度を下げる機体。制御の余地など無く、回転と共に傾き続けていく。
地上に激突するのも時間の問題だろう。幸い、この辺りは今は人気が少ない。
とはいえ他の“神聖隊の盾”に指示を出し、地上の被害を最小限に食い止めることも当然思考に入れている。
ヘリコプターの墜落に巻き込まれた程度で、一騎のサーヴァントが消滅へと至ることは無いだろう。
それでも、飛行能力という厄介な足を奪えただけでも十分な戦果である。
敵は飛行による追跡能力を失う。アサシンとその眷属による離脱は一気に容易になる。
疲弊を背負いながら、エパメイノンダスは安堵を抱く。
熾烈な連戦を経て、虚脱感が押し寄せてくる。
跳躍の勢いは落ち、既に落下は始まっているが、無事に着地を果たす程度の気力は何とか残されている。
エパメイノンダスは、視線を動かした。
それぞれアサシン達に抱えられて飛翔する河二とナシロの安否を確認する。
彼らもまた、エパメイノンダスの帰還を安心と共に受け止めていた。
「コージ、嬢ちゃん、待たせちまったな――――」
そして、その直後。
轟音が、響き渡った。
――落下しつつあった機体が。
――突如として、空中で爆散したのだ。
宙を舞っていた矢先のことだった。
赤熱と衝撃が、波紋のように轟いた。
ヘリコプターは、瞬く間に爆炎に包まれ。
機体の破片や残骸が、周囲へと四散する。
エパメイノンダスは、不意を突かれるように目を見開く。
瞬時に思考を動かす。眼の前の状況を把握する。
「――――YeeeeeHaaaaaaaw!!!!」
そして、カスターが爆風と共に飛び出した。
――――そう、乗馬状態である。
咄嗟に茶毛の軍馬を召喚し、纏わりつく盾を強引に跳ね除けながら機体を突き破った。
そのまま彼は墜落へと向かうヘリコプターを犠牲にし、空中へと勢いよく跳躍したのだ。
「これが――フロンティア・スピリットだァァァァァアアアアアアア!!!!!」
騎兵ミサイル、最後の一発。
それはカスター自身である。
跳躍と爆風の勢いに乗ったカスターは、空中で鋭く迫る。
驚異的な滑空を果たし、エパメイノンダスの至近距離まで肉薄した。
緩やかに滞空しながら落下していたエパメイノンダスは、眼前へと飛び出してきたカスターを目の当たりにする。
それはもはや、火事場の根性だった。
自らも超人であると吼えるような、傲岸なる意地だった。
「ランサー!!!」
河二が咄嗟に叫び、令呪を使わんとする。
ナシロは焦燥と共に、黒鍵を放たんとする。
されど――――間に合わない。
カスターは既にエパメイノンダスを“射程圏内”に捉えている。
エパメイノンダスもまた、迫り来るカスターを見据えている。
両者の交錯は、最早避けられない――。
そして、エパメイノンダスは察知した。
魔力の流れが、揺らいだ。
魔力の気配が、迸っている。
それが意味することを、理解した。
目を見開き、そして己も腹を括った。
“真紅の将軍”は、即座に判断する。
――来る。敵の宝具が解き放たれる。
生半可な攻撃や防御では、凌ぎ切れない。
故に、ここで勝負に出なければならない。
”蒼騎の将軍“は、有無を言わさず断行する。
――来た。意地によって敵へ食いついた。
最早、出し惜しみなどしない。
故に、ここで一気に勝負を仕掛ける。
そう、二人の英雄は共に決断した。
ほんのコンマ数秒。須臾の狭間。
迷いは無い。迷いを抱く余裕など無かった。
彼らは、刹那の死地へと踏み込んだ。
「集え!!神聖なる必勝の勇士達よ!!」
「我々は何者だ!?勝利と自由の使徒だ!!」
そして、時が収束する。
「友誼と愛情こそが我らの力!!我らの祖国!!」
「我らはアメリカだ!!アメリカなのだッ!!」
星々の下、墜ちゆく戦場の中で。
「どんな苦境も、共に笑って乗り越えようぜ!!」
「今なお繁栄し、君臨し続ける、世界最強の国だ!!」
二つの“伝説”が、解き放たれる。
「なあ――――そうだろ、みんなッ!!!」
「降伏せよ――――さもなくば、殲滅あるのみ!!!」
魔力が迸る。神秘が駆け抜ける。
交錯する詠唱が、狼煙を上げる。
脈打ち、時を刻む、秒針の鼓動。
その果てに、“将軍”が激突する――――!
「『神聖なる愛の献身(テーバイ・ヒエロス・ロコス)』!!!」
「『朽ちよ、赤き蛮族の大地に(インテンス・ソルジャーブルー)』!!!」
英傑を庇う数多の盾と、彼らを護るべく放たれる無数の槍。
四方八方の虚空より次々に飛来する、無慈悲なる鉛玉の嵐。
決着は一瞬――――そして、雌雄は決する。
◆
最終更新:2025年02月09日 10:18