全賭院 黒悪
性別
男性
表の職業
ギャンブラー
ギャンブラーの娯謬
ある事象が連続して発生している際、反対の事象が発生する確率を上げられる。
連続している回数が多いほど、確率アップの効果は大きくなる。
何が反対の事象であるかは、黒悪のそのときの本心によって決まる(黒悪自身が何が反対の事象であるかを、任意に決めることはできない)。
例:
コイントスで表が連続で出ているとき、裏が出る確率を上げられる。
3回連続で表が出ているときより、5回連続で表が出ているときの方が確率アップの効果は大きい。
能力原理
「ルーレットで赤が続いているから、そろそろ黒が来る頃だろう」「パチンコでこれだけハマったのだから、そろそろ連荘してもおかしくない」といったギャンブラーにとって都合の良い認識を世界に押し付け、運命を操作する。
参戦動機
借金を返済するため。
会員との契約内容
試合に勝利するごとに多額の報酬を得る。
会員の要請にしたがって魔人闘技会へ参加し続ける限り、借金の督促は止まる。
キャラクター説明
「不運。流石にそろそろ幸運が起きてもいい頃合いじゃないか?」
スクエア型の眼鏡をかけた黒髪のギャンブラー。
丈の短いパーカーにジャージのズボン、ラフなスニーカーという格好を好む。
見た目の雰囲気は、留年ぎみの大学生といったところ。
度重なる不運により莫大な借金を返済するチャンスを失い、大金を獲得するため魔人闘技会に参戦した。
指に挟んだカジノチップや硬貨を投擲する技と、勝負師の勘に頼った大振りな格闘術で戦う。
観察力に優れた緑色の瞳も武器の一つと言えるが、たいてい自分に都合が良いように解釈してしまうのが玉に瑕。
ギャンブラーとしての腕前はなかなかのものだが、大勝すると金遣いが荒くなるため、安定した生活を送れているとは言い難い。
会員との契約で得た賞金も大部分を浪費してしまうため、借金がなかなか減らない。
一人称は、オレ。
自分の置かれている状況を漢字二文字の単語でまずつぶやくのが口癖。
プロローグSS
「迂闊。それなりの手練れだな」
路地裏で追手の気配を感じながら、全賭院黒悪は誰に聞かせるでもなく呟いた。
何故追われているか、その答えは分かりきっている。
黒悪が抱える莫大な借金の取り立てのためだ。
返済期日を過ぎたにもかかわらず、利息すら支払っていないのだから、ひどく当然のことと言える。
無論、黒悪にも言い分がない訳ではない。
ギャンブラーとして返済金を稼ぐはずだったが、度重なる不運によって賭ける機会を失っていた。
目を付けていた穴馬が出走するレースは大雨で中止になり、ディーラーの癖を見抜いたカジノは小火騒ぎで閉店している。
いくら勝負の才覚があろうとも、賭ける場そのものがなければギャンブラーに成す術はない。
次の機会を待つため、黒悪は身を隠していた。
もし取立人に捕まれば、どんな目に遭うか分かったものではない。
奇跡的に支払いを猶予してもらえるとしても、今持っている種銭は回収されるだろう。
そうなれば、逆転のチャンスは潰えてしまう。
つまり、今は逃げ切ることが正解だ。
自分勝手な理屈だが、ギャンブラーとは得てしてそのような思考の生き物である。
「全賭院黒悪だな。債務回収のため、身柄を抑えさせてもらう」
ビルの裏口の扉を蹴り開けて、スーツ姿の男が黒悪の前に躍り出た。
右手にはアルミ合金の警棒、左手にはポリカーボネート製と思しき護衛盾。
力で押さえ付ける気満々の格好だ。
「拒絶。悪いが、そうは行かないぜ」
黒悪は懐から数枚のチップを取り出し、そのうち1枚を取立人へと投げつけた。
おそらく相手は魔人だろうが、出会い頭に特殊能力を発動してこなかったということは、受動的なものか発動条件を満たす必要があるものだろう。
分からぬものに対して臆していても仕方がない。
まずは攻めて情報を得ることが先決、そう黒悪は判断した。
(試打。まあ、これくらいは防ぐだろうよ)
その予想通り、取立人は黒悪が投げたチップを事も無げに盾で防いだ。
チップによる攻撃は、特殊能力によるものではない。
故に銃弾のような速さを持ってはいない。
ある程度の使い手であれば、軌道を予測して防ぐことは十分に可能である。
「止めておいた方が良い。私の特殊能力は、敵の攻撃を防ぐごとに武器の打撃力を強化する」
取立人は、そう宣言した。
魔人同士の戦いにおいて、特殊能力の情報は重要な要素だ。
それを自ら明かすとは、どうしたことか。
並の魔人であれば、一時的にであれ思考を止めてしまったかもしれない。
(不惑。本当だろうと、嘘だろうとさして違いはない)
しかし、黒悪が判断を迷うことはなかった。
取立人の言葉を気にしていないかのように、チップを連続で投擲する。
取立人が嘘を述べているなら、その言葉には意図が存在するはずだ。
偽りの能力を示すことで、こちらの行動を制御しようとする意図が。
打撃力の強化を避けるため、攻撃の手を緩めることを期待している。
取立人が真実を述べていたとしても、結局は同じこと。
明かす必要のない情報をわざわざ明かしている以上、何らかのメリットがある。
相手を威嚇して楽に仕事を済まそう、そんなところだろう。
もちろん、宣言することが発動条件である場合やこちらの裏をかこうとしている場合もある。
だが、その確率は低く、考慮する行為の期待値は少ない。
黒悪は都合良くそう考え、攻撃の継続を選択した。
「愚かな。その程度の攻撃、何発撃たれても当たることはない」
取立人は、次々に迫るチップを盾で弾いていく。
チップを弾くたびに、もう片方の手に握る警棒が禍々しいオーラを纏っていった。
「否定。そろそろ一発くらい当たってもいい頃合いだぜ」
黒悪の放った言葉の通り、1枚のチップが命中した。
取立人が盾での防御にしくじった、というわけではない。
盾で弾いたチップが偶然にも別のチップとぶつかり、その軌道を変えていた。
軌道の変化を引き起こしたもの、それは黒悪の特殊能力《ギャンブラーの娯謬》である。
ある事象が連続して発生している際、反対の事象が発生する確率を上げられる能力。
攻撃を外し続けていたが故に、攻撃の命中率を上げる効果をもたらしたのだ。
「なるほど。報告書にあった通り、攻撃を防ぎ続けることは不可能というわけだ」
取立人はぶつかったチップの痛みに少しだけ顔を歪めながら、そう言った。
「納得。流石にそれくらいは調べが付いているか」
目の前の男が債権者に雇われている以上、黒悪の情報をある程度受け取っていることは予測の範囲内だ。
黒悪は自らの特殊能力を隠匿しているわけではない。
必要があれば、人前で使うこともある。
つまり、その内容をある程度把握されていても何もおかしくはない。
「だが、そうと分かればやりようはある」
そう言うや否や、取立人は距離を詰めて警棒を振るった。
打撃は空を切るも、轟音がその恐ろしい威力のほどを伝える。
黒悪はチップによる攻撃を諦め、格闘術による反撃を試みた。
勝負師の勘に頼った、非合理的にも思える大振りな拳撃。
拳の方向も振るう強さもバラバラな、独自の接近戦スタイルだ。
一見すれば命中しそうにない攻撃は、取立人に見事命中した。
これは《ギャンブラーの娯謬》の恩恵か?
いや、そうではない。
取立人は黒悪の拳撃の中から弱い拳打を選び、あえて喰らった。
「攻撃を外し続ければ、命中しやすくなる。それなら弱い攻撃だけを受け続ければ、強打は命中しにくくなるという寸法だ」
取立人の理屈は、こうだ。
黒悪の拳撃を防ぎ続ければ、やがて高確率で痛打を喰らうことになる。
それならば、ダメージの少ない打撃をわざと受けてやればよい。
攻撃が当たり続けば命中率は下がり、致命的なダメージを受けることは避けられる。
「否定。攻撃が当たり続けているなら、次の一撃も当たる……そうだろう?」
取立人は黒悪の特殊能力を、ギャンブラーというものの性質を見誤っていた。
不運が続けば、なぜ幸運が訪れないのかと嘆く者たち。
しかし、幸運が続いたときには、この幸運はずっと続くのだと夢想する愚か者たちなのだ。
故に《ギャンブラーの娯謬》は、都合の良いときだけ任意で発動できる。
自分に有利な事象が続いたからと言って、不利な事象が起きやすくなるわけではない。
「ごはっ」
モーションの大きい滅茶苦茶な拳撃が、取立人の腹に叩き込まれる。
嗚咽とともに取立人は警棒と盾を取り落とし、その場に崩れた。
魔人の特殊能力とは関係のない、ただの一撃。
本当に運が良いだけの一撃が、勝負を決めた。
「素晴らしい!見事なものだ!」
路地裏に大きな声が響く。
いつの間にやら、そこにはサングラスをかけた大男が立っていた。
(驚愕。いつからそこにいた?!)
黒悪は、驚きを隠せない。
いかに戦闘中であったとはいえ、大男の存在にまるで気付くことができなかったからだ。
だが、それだけではない。
真に驚くべきは、大男から伝わるプレッシャー。
逃げの一手を打てば終わる、そういう感覚がひしひしと感じられる。
「ああ、そんなに警戒される必要はないですよ!私は貴方に良い仕事を持ってきただけですからね!」
「笑止。良いと言われる仕事が、良かったためしはないぜ」
「いえいえ!貴方の借金をチャラにできる実に良い話です!もちろん、受けるかどうかは話を聞いてからで構いませんよ!」
厄介。
大男の言葉に対する黒悪の印象は、それに尽きる。
なぜなら大男にこちらを騙そうという意図が感じられなかったからだ。
誠実な交渉相手というのは、好ましいように思える。
だが、誠実で自分の提案に自信を持つ奴には、駆け引きが通じない。
条件を知れば受けざるを得ない仕事……そういう仕事の先にあるのは、たいてい信じられないほどのトラブルだ。
しかし、黒悪は大男の話を聞くことに決めた。
(好機。これだけ外れが続いているんだ……そろそろ当たるぜ)
ルーレットの出目が赤か黒か、知るものはまだいない。
最終更新:2026年04月17日 19:00