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岩堂(いわどう) 一心(いっしん)

性別

男性

表の職業

建築業(非正規)

虚仮の一心(アンブレイカブル)

自身の肉体を操作、強化し、意のままに操る能力。

骨が折れようが腱が切れようが本人の気力が持つ限り強引に動かし続けることができる。
また、操作によって筋力を底上げすることも可能で、一心は主にこの用途で利用することを好む。
ただし、耐久面への補正は特にないため自身の肉体強度を超える筋力で動かせばその分だけ体が傷つく。

限界を超える力で殴れば拳は砕けるし、無理な角度に動かせば関節が外れる。その状態でも無理やり動かせるのがこの能力だが、千切れてしまえばそれまでである。

能力原理

「気合で動かせ」の究極版。物理的な肉体によらず、気合という名の意志の力で体を動かす能力。
なので、本質は強化ではなく操作。自身の肉体にのみ作用する念動力、がニュアンスとしては近い。

参戦動機

強い奴とケンカするため。
ついでに生活費を稼ぐため。

会員との契約内容

試合に参加すると給料が貰え、勝つとボーナスが貰える。

キャラクター説明

髪をリーゼント風のオールバックでキメた強面の20代男性。
今時珍しい、腕っぷしだけで1人突っ張っているタイプの元不良かつ、少し前まで魔人闘技会で活躍していた元闘士。

隻腕。
闘士時代のある時、魔人闘技会とは関係ない野良ゲンカで敗北し、右腕の肘から先をバッサリ失った。
この負傷により闘士としての実力を疑問視され、魔人闘技会への参加資格を一時剥奪されていたが、今回の選考会で復帰を果たす。

戦闘は基本ステゴロで、能力によるフィジカルとタフネスゴリ押しケンカスタイル。
腕を失って以降は甲冑の小手のような見た目の金属製の義手を身に付けている。

1度決めたことは頑として曲げない頑固な性格で、良く言えば芯が強く根性があり、悪く言えば融通が利かず向こう見ず。あと、めっちゃアホの子。一応、本人にもその自覚はある。

その性格から、数年前まで日夜ケンカに明け暮れる荒んだ生活を送っていたが、ある日その無鉄砲さを会員の1人に買われ、スカウトされる形で魔人闘技会に参戦。闘士デビュー。
以後はその会員に金銭的な支援をしてもらいながら生活している。

この金銭支援が闘士としての契約内容だが、その会員は余程一心のことを気に入っているのか、腕を亡くした療養期間中も自身の経営する会社で彼を雇うなどして魔人闘技会の内外問わず支援を継続していた。
2人はもうほとんど身内同然の仲であり、一心の今の勤め先も当然この会員の経営する事務所である。
愛称は千波のオジキ。

一心が腕を失った時には本人よりも悲しみ、ぶち切れ、2人で大喧嘩した。

プロローグSS

夜風がざわざわと街灯に照らされた木々を妖しく揺らす。
ここは繁華街の狭間に位置する深夜の公園。
本来であれば深夜であろうと人の息遣いが絶えることのないこの場所は今、異様なまでの静寂と物々しい雰囲気に包まれ、戦場と化していた。

今宵は魔人闘技会への参加を賭けた選考会。
この公園こそがその戦場であり、今まさに2人の闘士候補者が参加資格を賭けて鎬を削る死闘の真っ只中だ。

対峙するのは2人の大柄な男。
片や中世のガントレットを思わせる金属製の義手を右腕に付けた隻腕の男。
片やメガネを掛けた理知的な風貌。それでありながら首から下ははち切れんばかりの筋肉でミチミチな白衣を身に付けた学者風の男。

そんな正反対な見た目の両者だが、闘士としてのファイトスタイルは奇しくも同じ。
どちらも無手にて拳を構え、一足一拳の間合いにて相対している。
同じ得物。同じ構え。
しかし、対面する表情は風貌同様異なっていた。

試合が始まってすでに少なくない時間が経過している。
両者の趨勢を分けるには十分な時間が。

「――チッ」

と、額に汗を流し苦悶の表情で拳を振るうのは隻腕の男、岩堂一心だ。
一心は今日何度目か分からない己の拳が空を切る感覚に思わず舌を打つ。

その間にも素早く腕を引き戻し、続けて数度。ボクサー顔負けの速度で片腕のジャブを立て続けに放つ。が、

「当たらねえ……」

すべての拳を紙一重で躱され、一心は苦虫を噛み潰す。
対して、相対する白衣ピチピチ筋肉メガネ男、与宗ガイは余裕の笑みを浮かべた。

「では、ボクからも」

「っ――」

お返しとばかりにガイが放つのは一心と同じく左拳。
一心はその拳の回避を試みるが……。

「ガッ――」

それは間に合わず、あっさりと拳が顔面に突き刺さった。
遅れて鋭い痛みが鼻頭を襲い、たまらず後退。思考する。

あれは本来、当たるはずのない1撃だった。
拳で毎日殴り殴られが彼の日常。その経験則が言っている。回避は間に合っていた、と。
なのに、現実ではこの認識を覆し、当たった。
つまり、

「それがお前の能力か」

「ええ……まあ、そうと言えばそうですね」

この予想は部分的に正しかったらしい。
一心の言葉にガイはあっさりと頷き、得意げに自身の能力の詳細を口にする。
それは自信の表れか。それとも余裕か。

「ボクの能力『ラプラス』はこの世のあらゆる物体、空間を構成する数値を観測する力です。故に――」

「シッ――」

ガイの説明の途中、その隙を逃すまいと一心は拳を振るう。
が、

「正確に観測されたあなたの打撃はボクには決して当たらず」

その拳はガイが僅かに身を捩るだけであっさりと躱されてしまう。
そして、

「正確に放たれたボクの打撃は必ず当たる」

しゃべりながら放たれたその拳を一心は回避しようと試み、

「っ――」

やはりこれも失敗。衝撃が左肩を襲う。
ガイの追撃は終わらない。続き放たれる。拳、肘、蹴り。一心はこれもすべて躱せない。
成す術もない一心の様子にガイは、

「ええ、データ通りです」

余裕の笑みで呟いた。まるで自身の勝利を確信しているかのように。
……舐められている。ガイの態度に一心は静かに怒りを燃やす。
しかし、

「知っていますよ。あなたの能力は純粋な肉体強化であり、能力込みでも運動能力は完璧に鍛え上げたボクの体とほぼ5分。そして――片腕がない」

「……」

「あなたが今、一方的にやられているのは、何もボクの能力のせいだけじゃない。――右腕がないから。むしろ、こちらの方が大きいでしょうね」

彼の傲慢な態度にも根拠があった。
この言葉に一心は黙る。自覚がないわけがない。

闘士としての2人のスタイルはよく似ている。
恵まれた体格を活かした素手での近接。
そんな2人の大きな差異は何か。
それは能力と、右腕だ。

似ている2人だからこそ、隻腕は両者を分ける明確なマイナス要素。
無論、義手は身に付けている。こちらで拳を放たないわけではない。しかし、不慣れな義手と文字通り手足な生身では天と地ほどの差があった。
もし、一心に両腕があればここまで一方的な展開にはならなかっただろう。

「だから、正直ガッカリですよ」

落胆を隠す様子もなくガイは告げた。

「あなたが万全なら闘いにもなったでしょうが……。今のあなたが私に勝てる可能性はゼロ。万に1つもありません」

「……」

一心は尚も黙る。
無論、舐められていることには腸が煮えくり返りそうだが、今自分が不利なのは事実だ。
ここでそのことに対して言い返しても、負け犬の遠吠えにしかならない。

それに、片腕を責められるのは何も初めてのことではない。

誰もが言った。
かわいそうに。
腕さえあれば。

あるものはあからさまに失望した。
期待していたのに。
しかも、それを試合とはなんの関係もない私闘で失うなんて。

そんな声に一心が答える言葉はたった1つと決めている。
それは、

「ふざけるな」

この1言。
無論、怒気を込めて吐き捨てる。

「どいつもこいつも知ったようにペチャクチャと……」

しかし、この怒りは舐められているから、ではない。
先ほども思考した通り、事実は事実だ。これは受け入れる。

だから、こうして己の対戦相手へ怒りを向けるのは、舐めた態度にプライドを傷つけられたからでも、自分への無力感からでもない。

「あの戦いでオレは――オレは、何も失っちゃいねえ」

片腕であるということを軽んじられた――ただ、その1点。

「ありゃあ、いいケンカだった」

一心にとって、あの戦いは得難いものだった。
失った腕さえ誇らしい、そんなケンカだ。
故に、我慢ならない。

「腕がねえからガッカリだと? ふざけるな! お前は、この結果を! あのケンカを汚すのか!」

それだけは許せない。
こればかりは誰にも譲れない。

だから宣言する。
あの時敗れ、腕を失った。
そんな自分こそが。

「今のオレが、1番強い……!」

そんな一心の表明に呆気にとられたのか、ぽかんと口を開けた後ガイが笑う。

「……ふふふ、そうですか。結構ロマンチストなんですね」

「ああ?」

「しかし、言うは易し。現実のあなたは実際にこうして不利益を被っている」

「……言われるまでもねえ」

事実は事実。吠えるだけなら誰にでもできる。
だから、一心がこれからやることはたった1つ。
証明だ。
そのために、

「では、そろそろ終わりにしましょうか」

「……ああ、そうだな」

ここより先は問答不要。
そう両者は再び拳を構える。

しかし、結果はすでに見えている。
一心の体はすでに限界。

「シッ――」

「ぐっ……」

故に、一心はあっさりとガイに捕まり、組み伏せられた。
そして、

「ほら、これで終わりです」

「ガッ――!」

その左腕の関節を外される。
それでも、

「っ――まだ、終われるかよ!」

「ははっ、やはりタフですね」

そう吐き捨てながら、一心は足の力だけでガイを振りほどき、立ち上がる。
しかし、右腕は不自由な義手。左腕は脱臼。誰が見ても勝負ありだ。

「――おら!」

それでも、一心は続けて脱臼してだらりと伸びた左腕をガイへ向けて力任せに振り回す。

「そんな苦し紛れの1撃、ボクには――」

ただの悪あがきにしか見えない1撃。実際、外れた腕の打撃にどのような危険があるのか。
故に、迫る一心の左腕を迎え撃つように構えながらガイはあざ笑い、

「ガッ――!?」

次の瞬間、一心の左拳によって力強くぶん殴られ、吹き飛んだ。

――そう、結果はすでに見えている。
ガイが腕を外したその時点……ではない。
ガイが一心を無力と断じた、その時点で。

「なっ!」

驚愕するガイへ、一心は得意げに言った。

「知ってるか? 外れた腕って伸びるんだぜ」

「知ってますよそれくらい! っていやいやいや」

思わず、と言った様子でツッコミながらガイが叫ぶ。

「そもそもどうやって動かしたんですか!?」

「ああ? 動くだろう、気合があれば」

「動きませんよ!?」

そもそもとして負傷した箇所で殴ることが異常だが、関節の外れたそれが当たり前のように拳を作り、力いっぱい殴りかかって来たのはもっと異常だ。
しかも、それだけではない。
今もなお一心の左拳はガイの胸元を掴んで離さない。関節が外れ、人の物とは思えないほど伸び、ボロボロなその腕が、だ。
明らかな異常。つまり、

「これが、あなたの能力っ」

「ああ」

ガイの言葉に一心は頷く。

「気合があれば、動かせる。例え骨が折れようが、関節が外れようが。千切れるまでは、な」

「バ、バカな……! そんな情報ボクのデータにはないぞ!?」

一心の説明を耳にし、驚愕するガイ。
しかし、それは当然だ。

「言ってねえし。つか、オレが知ったのも最近だし」

「え? ……あ」

この言葉にガイはある可能性に思い至ったらしい。恐らくそれは正解だ。

「あ、あなた、もしかしてその腕……」

「おー、分かるか」

顔を青くするガイへ、意趣返しも兼ねて一心はにやりと笑う。

「あいつとんでもなく強かったからよ、オレも力んじまって。うっかり全力で殴ったら腕が吹っ飛んじまったんだよな。いやー、そこまでしたのに負けるし散々だったぜ」

「バ、バカ……。底抜けのバカ……」

それが一心の能力だ。
自身の体がどんな状態だろうと、気合さえあれば動かせる。
だから、普通だったら腕が捥げるような力であろうと気合で出せる。
例え、その力に腕自体が耐えられず、千切れようとも。

それでも、あの相手には力及ばず負けてしまった。
だが、

「お前は、どうだ?」

「っ……」

これから起こる事態を察し、ガイは必死の形相で暴れるがもう遅い。
彼がどんなに暴れようと。
頭や腹を殴り、結果一心の骨が折れ、肉が飛ぼうと。
掴んだ拳は梃子でも外れず、微動だにしない。
まるで見えない力によって支えられているかのように。

決して壊せず、砕けない。
1度食いついたそんな拳を、一体誰がどう外せるというのだろう。
だから、一心はゆっくりとした動作で。

「歯、食いしばりな」

宣言と共に義手を嵌めた右腕を振り上げる。
右腕があった時と同じように。
右腕があった頃よりも力強く。
能力をフル活用して。

肘から先はないが、関係がない。
拳がなかろうが義手があり、二の腕があり、背筋があり、腹筋があり、踏ん張る足も2つある。
なら、なんの問題もない
能力によって全身の筋肉を操作、強化する。
そうして、全身の筋肉を精密に操り、たった1つの動作のために集約。
そして、

「ぶん殴る!」

限界まで力んだバネを開放するように、一心は一気に拳を振り下ろす。
瞬間、振り下ろされた拳を中心にとてつもない衝撃波が周囲を襲い、

「――――ッ!」

義手と与宗ガイの体が爆散した。




「ああー、やっぱりぶっ壊れちまったか」

試合後、一心は粉々になり成り果てた自身の義手を片手に独り言ちる。
一応自分の全力にも耐えられるようにと作った義手だったのだが……案の定ダメだった。
能力によって動かせる生身と違い、壊れたら使えなくなるのが義手の難点だ。

「まあ1回だけとはいえ全力で殴れるようになったのは前進だよな、うん」

そんな問題点を一先ず棚上げし、一心は1人頷く。勝てたからヨシッ!

そして、一心は早くもその瞳を次の戦場へ向ける。
ガイに勝ち、これで一心は晴れて闘士復帰。
故に、次に控えているのは復帰戦だ。

そこで、必ず勝つ。
それが何よりの証明になるからだ。

隻腕でも勝てるのだと。
否、隻腕だからこそ勝てるのだと。

それは並大抵な道ではないだろう。
あらゆる困難が付きまとうだろう。
それでも、

「さあ、リベンジだ」

隻腕の拳士は不敵に笑う。
決して折れぬ、不屈の闘志を燃やして。
最終更新:2026年04月30日 22:34