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(たわら) 城平(じょうへい)

性別

男性

表の職業

土木作業員

葉桜(はざくら)季節(きせつ)

自身の所有物を捧げることで身体能力を30分向上させる能力。

■大切な物であればあるほど能力の効果は上がる。
大切な物、とは相対的に見ての価値である。
所有資産1億円の時に1万円捧げるのと
所持資産1万円の時に1万円捧げるのでは効果がまるで違う。

仮に腕一本を捧げた場合、その肌は銃弾を通さず、その歯は刃すら噛み砕き、その拳は巨木を微塵にするレベルとなる。現在最高峰の近接戦闘型魔人相手でも真正面から殴り合える領域に達する。

■捧げ物の重ね掛けはできない。
仮に1万円捧げた後に5万円捧げた場合、効果は6万円分ではなく5万円分となる。
捧げた物のなかでもっとも大切な物の価値が適用される。
ただし最初から6万円を捧げれば6万円分の効果が発揮される。

■捧げ物は二度と戻ってこない。
力の代償として捧げた物は戻ってこない。
何をしても。どうあがいても。決して。

能力原理

「これだけのものを捧げたのならば報われなくてはおかしい」
という城平の深層心理が発現した能力。

参戦動機

妻と娘に良い暮らしをさせるため

会員との契約内容

試合に勝利することで報酬が妻と娘に送られる
(城平本人は知らないが、仮に負けたとしても負けっぷりが無残で惨めで満足のいくものであれば報酬は支払われる予定である)

キャラクター説明

年齢:40歳
身長:186㎝
体重:120kg
同い年の妻:小百合
6歳の娘:睦月(むーちゃんと呼ばれている)


■外見
太い眉、針金のような無精ひげ。
作業の邪魔にならないベリーショートには少し白髪が混ざっている。
顔つきも体つきも全体的にゴツゴツとした四角い岩のような印象。
働きやすさ重視の作業服と安全靴を身につけている。

■背景
土木作業員として長年働いてきた巨漢。
気は優しくて力持ちを形にしたような、皆から信頼されるベテラン。
能力による身体強化を生かし重機の入りにくい現場などで活躍。
中学からの同級生である愛する妻と、可愛い娘のために懸命に汗水たらして働いてきた。

しかし世界的に蔓延した伝染病のせいで大口の依頼が複数なくなり勤め先が倒産。
更に連帯保証人になっていた信頼する親友が膨大な借金を残したまま高跳び。
桁違いの負債を抱えてしまう。

幸い土木作業員としての実力と信頼は確かであったため、次の勤め先はすぐに見つかった。
しかし朝から晩までボロ雑巾のようになるまで働き続けても借金返済の目処はまったく立たない。
そんなとき、かつての勤め先で知り合った社長から声をかけられて闇格闘技の世界に足を踏みこむこととなる。
社長は 魔人闘技会の会員であった。
最初は素人の殴り合い程度の見世物だったが、城平はより金の稼げる試合を求めた。
素人の殴り合いが、セミプロの混ざる試合になった。
セミプロの混ざる試合が、裏プロで構成された興行になった。
闇格闘技に足を踏み入れて数年。気が付いたら城平は
【殺しアリ】【魔人能力アリ】の最もアンダーグラウンドな格闘大会、魔人闘技会まで来てしまっていた。
大切な物を捧げながら戦い続ける俵城平を会員である社長は満面の笑みで見守っている。

プロローグSS



何も悪いことはしてこなかった。
誠実に、懸命に働いてきた。
自分には不釣り合いなほどに美しく優しい妻にも
鈴のような声で笑うあまりにも儚く守ってやりたくなる娘にも
俺は惜しみなく愛を注ぎ何も間違った生活はしてこなかったはずだ。

ああ、ならば何故、俺はこんなところにいるのだろう?



■■■


「すまねぇ!ジョウさん!この現場、足場が脆くて重機は入れねえんだ…お願いしていいか?」

現場監督からの依頼に、俵城平は笑顔でうなずいた。
よく日に焼けた肌は小麦色を通り越して焦げ茶色で、城平という男がどんな働き方をしているか如実に表していた。

「任せろって。この鉄骨をトンネルの奥に…大体10万ありゃ足りるぜ」

城平の見積もりに従い、現場監督は10万円を差し出した。
城平は受け取った10万円に魔人能力『葉桜の季節に』を発動。
捧げ物とされた10万円は光の粒子となり城平の身体に染み込んでいった。

「よっしゃ!始めるぜ!」

元々プロレスラーのような立派な体格をしていた城平の身体が更に艶と光を増す。
焦げ茶色の肌の下の野太い血管が目に見えて浮かび上がり脈動した。

城平は鉄骨の束を小脇に抱えるとあっという間に進んでいった。


「はは!うちの現場に重機はいらねえや!ジョウさんがいれば安泰よ!」


「よせやい、照れるぜ」


そのような形でみっちり働いた城平は小走りで家に帰る。
家で待っている愛する妻と娘の顔を早く見たいからだ。


「うぉーす!ただいま!!」


ややガサツな大声。築40年の中古のマンションの壁が震えた。
しかし城平の妻はいつものことと優しく微笑みながら「おかえりなさい」と答えた。
城平は真っ先に妻を抱きしめた。いつもの儀式のようなものだ。
平和で暖かな暮らしがそこにあることを確かめるかのように強めに抱きしめた。

仕事帰りの城平の身体は汚れていて汗臭さもあったが妻は嫌な顔一つせずに抱きしめ返した。

「パパおかえりー!」

「おーうただいまー!」

「あー!パパあせくちゃい!」

「なんだと~~!」

俵城平は経済的には決して豊かではなかったが、仕事と家族に囲まれ幸せだった。
この日々がいつまでも続くと思っていた。


■■■


転落などというものはあっという間の話だ。
世界に爆発的に広がった伝染病。
その余波で倒産した勤め先。
絶対に大丈夫と言っていたから保証人になったのにいともたやすく裏切った親友。

気が付けば城平は莫大な借金を背負っていた。
それを必死に家族に隠しながら早朝から深夜まで働き続けた。
しかし彼が死ぬ気で働いて得た金額は、莫大な借金の利子程度にしかならなかった。

そんなとき、かつての勤め先で知り合った社長に再会した。
その出会いが偶然だったのか、仕組まれたものだったかは城平には分からないし、分かったところで何の意味もなかった。

社長は城平に闇格闘技を勧めた。
城平は全く乗り気ではなかったが、社長の提示したファイトマネーを見て心が揺らいだ。
人を殴って金をもらうという行為を好きにはなれなかったが背に腹はかえられない。

幸いにして城平に喧嘩の才能はあったようだ。
最初は素人の殴り合い程度の見世物であったが、彼にはすぐにファンが付き、ファイトマネーも、対戦相手の強さも、試合の規模も、危険性も…一気に上昇していった。



「ただいま~…」



闇格闘技を始めて数年。
初めてプロの格闘家が混ざる興行を終え帰宅した城平は、嫌な疲労感に包まれていた。
身体の節々が軋んでいるのが分かる。

それでもなんとか笑顔を作っていつものように妻を抱きしめた。
妻に借金のことは隠しているが、薄々何かを勘づいているのか彼女はパートや内職を始めていた。そのせいか少し体が細くなり手も荒れていた。

「おかえりなさい。今日は貴方の好物のエビフライよ。むーちゃんも好きだもんね」

妻はいつもの優しい暖かな笑顔とともに揚げたてのエビフライを出してくれた。
娘は星のようなキラキラとした目でエビフライを見つめた。

「パパとね!うみいって!そのあとの!れすとらんさんのおいしかった!」
「またその話!むーちゃんはよっぽど初めての海水浴が楽しかったのねぇ」


幸せの象徴のような会話。
暖かで、泣き出したくなるような尊い景色。


────その会話が、俵城平には死神の笑い声にしか聞こえなかった。
────その景色が、俵城平には灰色の荒野にしか見えなかった。


楽しい海水浴。思い出の海水浴。美味しいエビフライと素敵なレストラン。
俵城平の脳髄には、そんな記憶はなかった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

俵城平は、今日の試合に勝つために、何か取り返しのつかないものを捧げたのだと今更に気が付いた。

(あ…俺…何を何を???何を捧げた?何故捧げた??)

何度自問しても記憶が欠落している。
『葉桜の季節に』により捧げたものは二度と戻ってこない。
仮に記憶を、思い出を捧げた場合。
何を捧げたのか思い出すことすらできない。
そこを覚えていては捧げていることにならないからだ。

裏プロの出る興行に参加してまだ一試合目。
残る借金はまだまだ莫大。

俵城平は、自らの進む道が暗澹とした光無き道であると知りながら、歩みを止めることが出来なかった。


■■■


まだまだ上がる。
ファイトマネーも。
危険性も。
捧げる物の価値も。

我が身を削り続けながら、城平は戦い続けた。
土木作業員の仕事はやめ、闇格闘技一本で稼ぐようになった。
ただ妻にそのことは言えず、作業着で家を出てジムでトレーニングをして試合に備え戦った。


────そんな暮らしの果てに、遂に城平は魔人闘技会に至った。


“会員”の支払うファイトマネーはどんどんと高額になっていたので、この魔人闘技会で一回勝利さえすれば借金をチャラにできるところまで辿り着いた。

ここで勝利した後、また更に勝利を積み重ねれば。

“会員”は高額のファイトマネーを出し続けてくれる。
妻と娘は平和で豊かな暮らしが出来るだろう。

築40年の中古マンションなんておさらばだ。
今まで見たこともない夜景を眼下にした高級マンションに住めるだろう。
海水浴場近くのレストランのエビフライなんてお遊びに思えるような最高の伊勢海老だって食べられるだろう。妻はパートに出て手を荒らす必要なんてない。どこまでも若々しい美しい妻でいられるだろう。

だが、その豊かな暮らしの中には、かつての俵城平はいない。

過酷な闘技場で勝ち残るには、大切な何かを捧げ続けねばならない。
それは、俵城平が俵城平でなくなるということだ。
妻と娘が愛した俵城平ではなくなるということだ。
少しずつ欠落し“何か”に成り果てるということだ。


────何もかも摩耗した化け物が、平和な家にいることは許されない。
────そして何より、いつか妻と娘が、【俵城平ではないもの】を見る目で自分を見る日が来ることに耐えられなかった。


城平は“会員”である社長に直談判をした。

「社長…俺はあと何回か強敵と戦えばもう俵城平ではなくなってしまうでしょう。妻と娘の愛する優しいパパではなくなってしまうでしょう…」

社長は、城平の訴えを嫌らしく値踏みするようなニタニタした笑顔で聞いた。

「会員の、貴方の力で俺を死んだことにしてください。何もかもうまく情報操作して、妻と娘が一番悲しまないで済む結末にしてください。そうして…俺が俵城平でなくなりながら戦って得た金を、彼女たちに渡してください…!」

社長は楽しくてたまらないという顔で頷いた。
こんなにも面白い見世物に木戸銭を払わない道理はなかった。

「グフフ…良い。良~いのう。儂は銭金や勝負にはもはや退屈しとる。お前のような一生全てを賭けて散る輝きだけが儂を潤す…!勿論お前の望むとおりにしてやろう。約束は必ず守る。死んだことにした後のお前の生活の面倒も見てやる。お前が何かを捧げ、“何か”に成り果てながら戦い続ける限り、お前の妻と娘は豊かで平和な暮らしができる…!」

その言葉を信じ、俵城平は初めての魔人闘技会を快勝した。
多くの、多くの物を捧げることによって。



「ただいま…」



俵城平は家に帰った。
もう自分の思い出も何も穴だらけ。
自分が欠けているのが自分でもよく分かった。

「おかえり!」

そんな城平に妻はいつものような笑顔を向けてくれた。
だから、城平もいつものように妻を抱きしめた。

暖かないつもの感触。腕の中に納まる楽園。

それすらも、俵城平からはなくなっていた。
城平は…触覚を捧げてしまったようだ。
最愛の妻を抱きしめても、何も両腕に、胸に伝わらない。


「あ…あ…あああぁぁぁぁ…!」


俵城平は叫んだ。
しかし涙は一滴も出なかった。
そんなものは既に捧げてしまっていた。


翌日。俵城平は作業現場の事故で死亡した。
職場の誰も、家族も、彼のために心から悲しみ泣いた。
誰からも惜しまれる死だった。
彼の死後、彼がこっそり購入していた大量の仮想通貨が爆発的な利益を上げていることが分かった。彼の信頼していた大企業の社長(・ ・)は自ら残された妻子にあいさつに訪れ、利益を適切に運用して渡すことを約束した。


“そういうこと”になった。


今日も俵城平は妻と娘のために命がけで戦い、莫大な金を送り続けている。
もはや妻と娘の顔も声も思い出せなくなった。
それでも俵城平は戦っている。戦っているのだ。














余談ではあるが。

俵城平の左薬指には鈍く光る婚約指輪がある。
懸命に働いて購入した、当時の自分からしたら精一杯の金額の指輪。
大半の思い出が消え失せても、これが大切な、自分を支える何かであることを俵城平は理解している。

俵城平の胸ポケットには、金の折り紙で作られたメダルが入っている。
娘がまだ3歳のころ、ぎこちない手つきで必死に作ってくれたものだ。
「パパいつもありがとう!」
娘が渡すときにかけてくれた言葉を既に城平は忘れている。
しかしこの紙の金メダルが、決して手放してはいけない何かだと俵城平は感じている。


もしもの話ではあるが。
これらを捧げた時、俵城平はこの世の何物にも勝る鬼神となるだろう。

だがそのとき、彼は。



“会員”はそのときまで彼を応援し続けるだろう。


最終更新:2026年05月01日 22:49