しあわせ料理人 ヒミコ
性別
女性
表の職業
料理人
イート・イット/ビート・イット
特殊能力の名称は「イート・イット/ビート・イット」という一塊ではなく、「イート・イット」と「ビート・イット」の組み合わせです。
彼女が「料理」あるいは「暴力」を行使をする時、される時に自動発動。暴力であれば料理、料理であれば暴力を振るう並行世界をその場に同時展開する。
その時行われる暴力/料理は、元となった行為と同一のクオリティとなる。 暴力→料理の変換は『イート・イット』、料理→暴力の変換は『
ビート・イット』によってなされる。その際、食材や調理器具、武器はある程度出現する。
能力によって出現しないレベルの準備を事前に行うことで、それに応じて『イート・イット』『ビート・イット』は強力になる。
例) ジャブを放つ→オードブルを作り、提供する 中華料理を作る→中国拳法を放つ
落ちていた巨大な鉄板を利用し、鉄板焼きをする→強力な銃火器によって射撃を行う
能力原理
彼女にとって、「暴力」と「料理」は同一のものである。料理を極めることは、暴力を極めることと同じ。
「並行世界をその場に顕現させる」という能力は、彼女の見る世界そのものとは少し異なる。彼女は、料理と暴力を併せ持つ一つの行動しかしていないからである。
その理解不能な行動を、周囲に理解してもらうために『イート・イット』および『ビート・イット』は彼女の行動を「分けている」のかもしれない。
参戦動機
お料理がしたいです!
会員との契約内容
「頑張ってね」って言われました!
キャラクター説明
コックコートにコックシューズで戦う、誇り高き料理人。服装はどちらの世界でも同じ。
青色のショートヘアーであるが、これは異物混入をいち早く発見するためである。本当はちょっとオシャレもある。口調や立ち居振る舞いは、ただの呑気な女の子。
料理の得意分野は和食だが、相手に合わせてなんでも作る。柔道などが得意だが、相手に合わせてなんでもやる、ということでもある。
料暴兼用のナイフセットを持っており、急に「マグロを捌け!」と言われても平気!人間も捌いちゃう。
「料理/暴力を食べてもらうこと」が至上目的であり、常に「料理/暴力を食べてもらうため」に腕を振るう。
店で出すのも好きだが、独特の体験(美食でリンチされる)に客が寄り付かず、残念ながら最近はもっぱら料理バトルで腕を振るう。
彼女にとって「料理」は「暴力」なのだ。これは比喩ではない。
なお、「暴力大好き!」と言うと怖がられるので、趣味を聞かれると「料理大好き!」と答えられるしたたかな面もある。みんなも「漫画が好きです」って言うのが恥ずかしい時、「読書が好きです」って言うよね。同じです。
プロローグSS
“魔人”同士の戦いに、外見は当てにならない。
それでも、一目見た時の感想は、「こんなんが戦えるのか?」だった。そう、なんていうか……殺気を感じない。緊張感がねえ。
俺は闘技会にはそれなりに常連だ。
今までの戦績は76勝73敗。若干勝ち越し。能力は身体強化で、戦闘スタイルは喧嘩殺法。なんでもありだ。
普通、魔人同士の裏コロシアムなんてのは、強い方が重宝される。金が動くからな。みんな、強いやつにベッドしたいもんだ。
でも、魔人闘技会は違う。客は闘いを見に来てる。それだけ。
何が言いたいかって?
俺みたいな“普通の”戦い方ができる奴はちょうどいいんだよ。特殊なスタイルと特殊なスタイルを闘わせると、良い時はいいが、悪い時は一瞬だ。見応えがねえ。
だから運営は、変なのが入ってくると俺みたいなごく“普通”のやつにぶつけて、様子を見るんだ。
そこでついたあだ名が闘士。つまりモブAってこった。
だが、これは俺にとっちゃ最大級の賛辞だ。俺は盛り上げるのが好きだし、勝っても負けても関係ないしな。
で、記念すべき俺の150戦目。
目の前に立つのは中学生か、高校生くらいの子供。
胸はないが、おそらく女だ。
白いコックコートに、白いコック帽。そして真っ黒なコックシューズ――。若いは若いが、「服に着られている」という印象はない。料理をする姿は、さぞ映えるだろう。――ここが戦場であるなら、かなり場違いだが。
転送された先は、相手にあつらえたようにだだっ広い厨房だ。鍋にコンロ、冷蔵庫に流し台。
実際にあつらえているのだろう。
闘士はつらいぜ。
今回の主役は、向こうだ。
「おいおい、ここはレストランか? 俺ぁ味にうるさいぜ」
リップサービス。相手の出方によっては、悪役も務めるぜ。
警戒はする――だが、構えは解いて、気安い笑顔を浮かべた。
転送後、目の前に敵がいるのは「すぐには闘いにならない」パターンが9割だ。
理由なんて考えるまでもない。相手がすぐに首元狙ってくるようなやつだったら、索敵から観戦した方が楽しいからだ。だからこの場合――。
「わぁっ! 良い人そうでよかったです! 今日はよろしくお願いします!」
女は、嬉しそうに軽く跳ねて、手を差し出した。
俺はどう出るべきか一瞬思案してから、彼女の手を握り返す。
「……よろしくな!」
タイプ:孫。こういう元気なちっちゃい姉ちゃんに悪役をやると、あとから自分をこいつの祖父だと勘違いした会員から、長文のダルいクレームが届く。俺は咄嗟に、悪役を引っ込めて近所の優しいニイちゃんになった。
「名前なんてんだ?」
「ヒミコです!」
「そうか、ヒミコ。あのな、これからは戦場で、握手なんてしちゃダメだぞ。『握手したら死ぬ能力』の悪いやつだったらどうするんだ?」
くそ、俺は新人教育係じゃないんだぞ。
「考えもしませんでした……」
「くっくっく、俺は今まで、ここで76勝もしてるからな! 百戦錬磨なのだよ」
「すご〜い! 私は、今回が初めてです!」
だろうと思ったよ。
「よし! お話はおしまいだ。どうする? 一度離れて、ゲリラ戦にするか?」
殺そうと思えば30回くらいは殺せるような相手だが、すぐには殺さない。バトルは演出が命だ。
「お兄さんが良ければ、このまま始めてもいいですか?」
「よしきた! ……いつでも来な!」
こういう手合いは、好きにやらせるのが一番だ。この闘技会はその特性上、即死能力の類を持つ奴はほぼ出てこない。
ヒミコは、嬉しそうに握った手を上下させて、ぺこりとお辞儀をしてから背を向け、(背を向け!? 敵に背を向けるな!)数歩、俺から離れた。
そして、俺に向かって一度、にこっ、と微笑んでから真剣な表情を作り、深く、ゆっくりと深呼吸を始めた。
さて、俺に与えられた役割はなんだろう?
いたいけな少女を残酷な血祭りに上げるショーマンか?
いたいけな少女を残酷な血祭りに上げようとして返り討ちにあう三下か?
あるいは、考えづらいが……同程度の実力で拮抗する好敵手か?
「では……よろしくお願いします!」
役割不明の少女は高らかに声を上げ、俺に向かって足を踏み出し……。
その姿が、ブレた。
—Eat it!—
ヤングコーン。
もちろん、気の抜けた安い缶詰のものではない。
ヒミコが差し出した前菜の皿は、旬のヤングコーンを皮付きで茹で、厚い皮だけを取り除いたものだ。
ヤングコーンはとうもろこしと同様、周りに緑色の包葉がある。
成熟したそれを食べることは出来ないが、ヤングコーンであれば薄いものは柔らかく、食べられるのだ。ヒゲと一緒に、食感のアクセントとして楽しめる。
俺は湯気を上げるそれを、一口、食べる。
「な……なんて食感だ! ヤングコーンは未熟すぎると食感が柔らかすぎ、熟しすぎると固くなってしまう。だが、このヤングコーンは粒感はありつつ、歯で引っかかるような硬さはない。まさに理想的な瞬間に採られたものだ!」
シャキッとした歯応えは申し分なく、コース全体の期待感を否応なしに高めてくれる。ソースも最低限の簡素なものだが、かえって食材の味の輪郭を際立たせる。皮やヒゲをユニークにあしらい、ヤングコーンだけで芸術品のような品格を感じさせる一品だ。
「ええ! 植物のエネルギーが最も高まる、朝方……。暗い夜を乗り越え、甘みをいっぱいその身に蓄えた、新鮮な朝採れヤングコーンです!」
「ああ、そうだ。甘い……! い、いやしかし、あれ……?」
俺は違和感に気付く。何かがおかしい。
言語化できない何かが、俺の喉元で悲鳴を上げている。
「そ……そうか! 『甘すぎる』んだ!」
ヒミコはその口角をニヤリと上げ、「気付きましたか」と呟いた。
「砂糖じゃない……砂糖ではこんな自然な甘さにならない! この甘さの正体は、一体……!?」
「塩、ですよ」
—Beat it!—
「毒、ですよ」
ヒミコの正拳突きそのものは、本来であれば防げる程度のスピードだった。が、何か、何かに気を取られ、まともに腹に受けてしまう。
――こいつ、強い。
人間だったら即死、その辺の魔人でも、まともに受ければ意識はないだろう。俺の能力はシンプルな身体強化――特に防御については自信がある。それでも、一瞬意識がぐらついた。
そして、拳に仕込まれた毒針。
――だが、そんなことより。
(……変な能力だ!)
俺は闘いながら、料理を食っている。陳腐だが、夢を見ているようだ。そうとしか言えない。
ヒミコの攻撃を受けた瞬間、俺は料理を食った。幻覚じゃない、舌の上に、まだ味を感じる。
もっと妙なのは、違和感がないことだ。夢を見ている時のように、「こういうものだ」と脳が判断している。殴り合いと料理バトルを同時に行う能力、とでも言えばいいのか?
そして……俺の攻撃もまた、そうなのだ。
—Eat it!—
「“筍の土佐煮”だ!」
「土佐煮って、醤油ベースのだし汁に鰹節を加えて煮込む和食ですね。筍はだし汁を含みやすいから、土佐煮との相性は抜群なんですよね〜!」
ヒミコは言いながら、皿を覗き込む。
「あれっ! だし汁が全然ありません……どちらかと言うと、土佐和え?」
「いいや“土佐煮”で合ってる。食ってみな!」
ヒミコが首を傾げながら、筍を口に入れる。
「わっ! 確かにこれは、“土佐煮”です! だし汁が中に凝縮されて、鰹節の香りが口いっぱいに広がります〜っ!」
それだけじゃない。
「ただ……旨みと香りは申し分ないんですけど、私なら、醤油をもう少し入れる、ような?」
……そうだ!
—Beat it!—
上段から放った大振りな拳が、横に逃がされる。ダメージが入っていないわけではないが、かなり受け流されている。
「シッ!」
俺の大振りな攻撃の隙をついて、ヒミコが前蹴りを放った。
—Eat it!—
「に、肉汁が溢れてきます〜ッ!」
俺の料理――“鰐肉の山賊焼き”を食べたヒミコは、驚愕のあまり白目を剥く。
「ニンニク、胡椒がガツンと効いてます! こんなにダイレクトな味なのに、食べる手が止まらない! 味のインパクトは強いのに、肉が調味料に負けてない……!」
豪快にかぶりついた肉の断面から、ポタポタと透明な汁が滴り落ちる。
「でも、一体どうして!? 鰐肉は本来、もっと淡白なはず! この強烈な肉質、コクのある肉に、どうやってこんな油を閉じ込めたんですか!?」
「ふふ……これだよ!」
俺は注射針を掲げる。
「“インジェクション”! これは、安い牛肉を柔らかくするだけの技術じゃねぇ! 自分で調味液を配合し、油との比率を完璧にすれば、肉のポテンシャルを最大限に引き出すことができるのさ!」
「な……なるほど!」
「だが、どうしても塩味が強くなってしまう。だからこそ、筍の土佐煮は塩味を抑え、次の山賊焼きが際立つようにしたんだ!」
—Beat it!—
ヒミコの蹴りが俺に当たる前、俺の繰り出した手突が、脇腹に突き刺さる。大振りな攻撃は、ヒミコの柔軟な動きに受け流されてしまう。しかし鋭く、一点に集中する突きは、対応が一瞬遅れる。
全てに対応しようとするからこそ、最速で繰り出す技に対応できない。
フェイントもかなり有効だ。彼女は目がいい。――そこが弱点でもある。
「が――はッ!」
しかしその瞬間、カウンターの蹴りが俺に突き刺さる。
—Eat it!—
「そら豆のスープです!」
ヒミコが出したスープは、鮮やかな薄緑色だ。
「う……うまい! だが、この爽やかな香りの具材は一体……!?」
—Beat it!—
ヒミコの投げたナイフを、すんでのところで避け――そのまま柄を掴み、弧を描くように、相手に投げ返す!
—Eat it!—
「カニ爪のフライ……! 衣にはカダイフを使っていますね。そしてこのソース!」
「「アメリケーヌソース!」」
—Beat it!—
—Eat it!—
—Beat it!—
—Eat it!—
「はぁっ……! はぁっ……!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
あと、一撃だ。
実力は拮抗。二人とも満身創痍。
あと一撃、まともに食らった方が負ける。
「なぁ」
「……はいっ」
ヒミコは、楽しそうに笑う。
「楽しかったなぁ。あと、美味かった。ありがとな」
こんなに満たされたのは久しぶりだ。心も、腹も。
「……どういたしましてっ!」
ヒミコも、俺と同じ気持ちなんだろう。
二人が、交差する。
俺が最後に放ったのは、下段蹴り。相手の腹具合を見通しての一品。
対してヒミコが出したのは、なんの変哲もない、正拳突き。
俺の心を見通した一品だ。
「はは……もう腹一杯だって、ばあちゃん」
青森のばーちゃん、ずっと会ってねぇな。
飯もいっぱい食ったのに、「お腹すいてるだろ」って言って、おはぎを用意してくれんだ。
「今度……会いに行くか」
はち切れそうな腹を抱えて、俺はその場に倒れた。
ヒミコが、満足そうな顔で俺を見ていた。
「……お粗末、さまでした!」
ヒミコ、1勝0敗。
ヒミコの料理は、続く。
最終更新:2026年05月01日 18:35