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沙機(サキ)

性別

女性

表の職業

なし

セパレート・マグネジョイント

 手足の関節部を分離する魔人能力。腕の射程はおよそ5メートル。足の射程はおよそ7メートル。分離された関節部は磁石のような性質を持ち、S極とN極を瞬時に切り替えることによって引き寄せたり反発させたりすることが出来る。ただし、分離した関節部を別の関節部に結合することはできない。(右手と左手を逆にしたり、手首の先に足をくっ付けるような真似はできない)
 能力によって分離した身体のパーツも自由に動かすことが出来る。(手首を分離した状態でモノを握ることが可能)
 あくまで魔人能力由来の磁力に似た力なので、鉄などの金属は吸着しない。

能力原理

 分離する関節部同士の空間だけを切り離し、その間に磁力めいた力場が挟まるイメージ。厳密には関節そのものが分離しているわけではないので分離した体のパーツは自由に動く。

参戦動機

幻の引退試合の実現と勝利。

会員との契約内容

闘士自身がが会員の魔人能力であるため、契約はない。

キャラクター説明

 魔人闘技会会員(メンバー)・スティール愛甲の魔人能力『沙機召喚』によって発現した魔人格闘家。魔人能力でありながら独立した自我を持つ。その正体は四十年前に一世を風靡した女性格闘家、『沙機』(サキ)の再現体。174cm/66kg
 マッシュボブの茶髪、ライトグレーのノースリーブパーカーと濃紺のスパッツを着用。戦闘の際は黒いオープンフィンガーグローブを装着する。外見年齢は20代前半のクール系。魔人能力を駆使した異常なリーチとトリッキーな打撃で相手を制するスタイル。通り名は【磁界のデスマシーン】

会員(メンバー):スティール愛甲
 元格闘家。『沙機』の押しかけ弟子にして付き人ポジションだった男。当時は非魔人であったが、四十年前に起こったある事件と最近発覚したある出来事をきっかけに魔人能力が覚醒。『沙機』の再現体を顕現させる能力を手に入れた。四十年後の現在は愛甲ジム会長にして魔人闘技会の会員(メンバー)

プロローグSS

——間合いが遠い。分離する手足が接近しようとする相手を容赦なく削り散らす。

——拳速が疾風(はや)い。異能由来の反発力を利用したノーモーションの拳が、反射神経を凌駕する。

——だが彼女の強さの根幹は異能頼りのものではない。厳しい鍛錬に裏打ちされた確かな技術がそこにはあった。

——俺はその完全無欠な強さと美しさに、ただ憧れた。

——その名は【沙機】。日本人女子の魔人格闘家としての草分け的存在(パイオニア)である。


 人の理から外れた数々の異能を持つ【魔人】は、普通の人間とは別カテゴリ。生物としての絶対的な性能差が存在する。
 言うなれば羆やゴリラとパワー比べをするようなモノ、【人】と【魔人】にはそれ程の大きな隔たりがある。

 格闘技の世界に身を置いて約十年。その男は既に自分の身の丈を知るのに十分な経験を積んでいた。こんなバカげた挑戦はナンセンスだ。頭ではわかっている。

 だが【人】であったその男は、気が付くとその最強の【魔人】に手合わせを願い出ていた。
 理屈ではない。勝てるとも思っていない。しかし自分の全てをぶつけるのには、この相手をおいて他にないと、そう思ってしまったのだ。
 男は限界が見えた今の自分を否定したかった。【最強】に挑むことで、一人の格闘家として、『何者か』になるという爪痕を残したかった。

 彼女は真剣な男の眼差しを受け止めると、こう言い放つ。

「どうやら本気みたいだね。だけど私に挑むのならば、勝つつもり(・・・・・)で来てね」

 見透かされた。そう思った。
 心の中で「勝てるわけがない」と思っている時点で、既に勝負は決している。彼女はそんな男の心の弱さを、的確に刺してきた。

 男は咆哮を上げる。わずかに残った固定観念と常識を捨てるために。

 そして男は、文字通り己の全てをぶつけるために、彼女に飛び掛かり——




「気が付くと病院のベッドの上だったわ! まあ当然の結果だがな!」

 BARカウンターのテーブルに置かれたバーボンを呷り、男はかつての敗北を豪快に笑い飛ばす。あれから四十年の時が流れていた。

「だが、その敗北をきっかけに、お前の快進撃が始まったのも事実だ」
「おう、彼女に弟子入りしたおかげで、俺は辛うじてこの格闘技界に名を残すことが出来た。感謝してもしきれねぇ」
「当時はちょっとしたニュースになっていたな。【磁界のデスマシーン】、無名の格闘家を弟子に取る、と」
「病院を勝手に抜け出して、彼女の元へ押しかけたときは滅茶苦茶怒られたけどな! わはは」

 男の名はスティール愛甲。MMA元世界スーパーウェルター級3位、現在は愛甲ジムの会長を務めている男である。

「まあ、あの時の挑戦があったからこそ、今の俺がある。彼女が居なけりゃ俺の最大のライバルとなったアンタとの勝負も実現しなかっただろう」
「懐かしいな。お前のローキックの痛みは、今も脳裏にしっかりと刻まれている」
「俺もアンタのショートアッパーで顎を揺らされた記憶が蘇ってきた。あれはマジで効いたぜ」

 男と語らう紳士の名は神威。MMA元世界スーパーウェルター級チャンピオンで、現役時代に喫した唯二つの黒星は、いずれもスティール愛甲との対戦によるものだった。

 現在は老拳狐(ラオチュアンフー)と呼ばれる魔人格闘技界の重鎮が主催する会員制の魔人格闘大会の実行委員にして同大会の立会人(ジャッジ)を務めている。
 老拳狐(ラオチュアンフー)は会員達が集めた選りすぐりの魔人同士を戦わせ、最強を決める秘匿された格闘大会、【魔人闘技会】の主催を担い、表舞台の格闘イベントでは決して味わうことのできない興奮と刺激、そして偉大なる栄誉を会員達に提供している。

「まあ俺たちの話はさておき、彼女はその後も勝利を重ね続け、世界トップの魔人格闘家と渡り合ってきた」
「初の世界王者となった時は、日本中がお祭り騒ぎだったな」
「ああ、俺も彼女もその喜びを分かち合い、幸せの絶頂だったよ。あの時のことは今でも忘れられない」

 この時の彼女の活躍により、女子格闘技の裾野が一気に広がった。『沙機』は確かに世界を変えた(・・・・・・)格闘家となったのだ。

「彼女は当時世界と対等に戦える唯一の闘士(ファイター)だった。そしてその輝かしいキャリアの最後を飾る、あの運命の日がやってきた……」

 愛甲の声のトーンが落ちる。神威の脳裏にあの日の忌まわしい(・・・・・)記憶が蘇る。

「……心中お察しする。あの事故は格闘技界全体にとっても、大きな損失だった」
「……あれは俺の人生の中で、最も絶望した瞬間だった」

 それは彼女の引退試合の日であった。愛甲は打ち合わせの為、ロサンゼルスの試合会場へ前日入りして居たのだが、そこへ信じられぬニュースが飛び込んで来た。

「沙機さん……そんな……バカな……」

『帝都航空121便、離陸直後に墜落』
『乗客名簿の中に、魔人格闘家【沙機】の名前を確認』

 身体の震えが止まらなかった。自分の魂の大半を奪われたような錯覚に陥った。
 驚くほどに呆気なく、愛甲にとっての【最強】は永遠に失われてしまった。

「それから十年くらいは、何が起こったか記憶に残らないくらいあっという間に時間が過ぎて行ったな。とにかく彼女の築き上げたものを無にしないためにがむしゃらに働いたよ」

 愛甲ジムを立ち上げ、彼女から伝授された技術を後進に伝える為だけの十年だった。その甲斐あって、彼のジムからは魔人非魔人問わず、優秀な選手が何人も輩出された。

「まあそんな時期も乗り越えて、ここ最近はようやく落ち着いてきたところだったんだけどな。今度はその反動がきっちりと来ちまって」
「聞いているぞ。この前癌の手術をしたそうだな……」
「ああ、手術自体は成功したが、患部が比較的転移しやすい場所でなぁ。まだまだ予断を許さない状況さ」
「全く、そんな状態で会合の場所をこのBARに指定するとは。不摂生にもほどがあるぞ」
「わはは! 満を持してあの【魔人闘技会】にエントリーを頼み込むんだ。病院のベッドの上というわけにもいかんだろうよ!」

 笑いながら愛甲は、バーボンを再び喉に流し込む。そのどことなく痛々しい姿を見た神威は、彼の命がそう長くは無いことを悟った。

 愛甲は大きく息を吐きだし、鈍い余韻に浸る。そしてゆっくりと口を開いた。

「……なあ、アンタに一つ聞きたいことがあるんだ。仮にあの幻となった『沙機』の引退試合、実現したらどうなったと思う?」
「……勿論『沙機』が勝利し、引退の花道を飾っていただろうと言いたいところだが、正直どうなっていたか分からんな」
「だよな。相手は当時の女子格闘技界の伝説的存在、『ブラッディ・キャサリン』だ。彼女は半世紀先の戦闘技術で戦っていたと言われていたほど、圧倒的な存在だった」
「最強同士の激突。勝負の行方は誰にも分からない。そんな世界一エキサイティングな試合が実現するはずだったんだよ」
「ああ……そうだな」

 愛甲が神威のグラスにビールを注ぐ。

 あれから半世紀とまでは行かないが四十年の月日が流れた。魔人格闘技の戦闘技術も当時からアップデートを繰り返し、今の格闘技界は強者ひしめく群雄割拠の時代となっている。
 常識的に考えれば、規格外の化け物でない限り、昔の格闘家が現代の格闘家に敵う道理はない。だが——

「俺は今でも『沙機』が最強だと信じている。今の格闘家相手でも、きっとその強さを証明してくれる。そう思っているんだよ」
「愛甲、それは……」

 それは永遠に叶わぬ泡沫の夢。神威がそう言いかけた、その時だった。愛甲の身体が光を帯び、店内を眩しく照らし出す。

「なっ……!?」

 光輝く愛甲の身体から、膨大なエネルギーの塊が放出され、人の姿を形作る。次の瞬間、愛甲の側に、一人の女が立っていた。
 背が高く、短髪が似合う細身の女。それは神威にとっても懐かしい、かつての【最強】そのままの姿だった。

「これは……『沙機』!?」

「紹介するぜ。次の【魔人闘技会】で俺が出す闘士(ファイター)、【磁界のデスマシーン】『沙機』だ」
「愛甲……お前、まさか魔人に……?」
「ああ、病気で自分の死を強く意識した時、この世に残った未練が具現化しちまったんだ。俺自身、この年で魔人に覚醒するなんて思ってもみなかったがな」

 愛甲はにやりと口角を上げる。その姿を見た神威の背筋が不意に凍りつく。愛甲の目に言い知れぬ静かな狂気が宿っていたからだ。

「お初にお目にかかります。Mr.神威。私は愛甲と『沙機(オリジナル)』の悲願であった幻の引退試合、その実現を望んでいます。どうか私達にそのお力を貸していただけないでしょうか?」

 その声も、当時の彼女そのままだった。神威の心臓の鼓動が高鳴る。

「闘技会の話をどこかしらで聞きつけ、私にアポを取り付けた時にはお前のジムに余程の才の者が入門したのかと思っていたが……なるほど、そう来たか」

 あの飛行機事故によって、皮肉にも神格化されてしまった伝説の魔人格闘家『沙機』。四十年の時を超え、真の最強を決する【魔人闘技会】にて再び蘇る。格闘技を愛する者にとって、胸が熱くならざるを得ないシチュエーションだった。 

「死にかけのクソジジイの妄想といえばその通りとしか言えねぇんだけどよ。どうだい、何だかワクワクしてこねぇか?」
「全く、お前という男は……。こんな隠し玉を出されては、私も期待に応えねばならなくなったではないか」

 斯くして、魔人闘技会に究極のレジェンド闘士(ファイター)、【磁界のデスマシーン】『沙機』が登録されることとなったのである。




 話が纏まり、神威との会合を終えた後、愛甲のスマートフォンから着信音が鳴り響く。


「何だよ、わざわざ迎えに来たのかよ?俺は大丈夫だって言っただろ?」
「……」
「ああ、分かったよ。車は北口に止めてんだな? 今からそっちに行く」
「……」
「馬鹿言え。そんな店、もう数十年も前に卒業したっつの」
「……」
「何言ってんだよ? お前もしかして若い時の『自分』に嫉妬してるのか?」
「……」
「はいはい分かりました。ちゃんと愛していますよ『沙機』さん」
「……」
「全く、いい歳してへそを曲げるなって、バカヤロウ」


 全く当然のことを確認すんなよ。俺の人生はお前の為に最後の一秒まで使い尽くす。あの飛行機事故でお前が死にかけた(・・・・・)ときに、俺はそう誓ったんだ。
 今回の引退試合だってそうさ。これは俺だけの未練の消化じゃない。お前が目指した【最強】の完結編を、二人で見届けたいんだ。

 愛甲の傍らに佇む『沙機』は、愛甲が憧れた理想の姿のまま。だがあの日に止まった刻は、ここから動かさねばならない。



——だから『沙機』、俺の最後の挑戦(わがまま)に、少しだけ付き合ってくれよな。
最終更新:2026年05月02日 01:13