「腐敗神話」塚 克勝
性別
男性
表の職業
元チャンピオン
ニケー・ネクロポレオス
足裏に何かが触れている時、接触面から垂直方向に向けて"碑"を立てる。
n秒後に能力が発動するように指定すれば、接触から能力発動までの間に時間差を設けることも可能。
"碑"
特殊な石を素材にした直方体の柱。
顕現の瞬間には世界の何よりも硬く、音よりも速く体積を増し、実在するあらゆる物質よりも重い。
時間の経過とともに脆く、遅く、軽くなっていく。
縦横の辺の長さは作成前に大体10〜100cmの範囲で設定可能。
発動時に指定した長さに到達するまで、まっすぐに伸び続ける。
能力の解除、あるいは脆弱化の末の風化で消滅する。
初速を落として"碑"を伸ばすこともできるが、通常同様、速度は徐々に落ちる。
伸ばしている途中で改めて加速するようなことはできない。
能力原理
足裏が接触した面に術者の存在を刻みつけ、勝者の栄光と敗者の墓標を象徴する"碑"を打ち立てる。
"碑"は死滅した珊瑚礁の如く白く、花冠の如く眩い。
参戦動機
力の証明、栄光、女、金、勝利
会員との契約内容
1.会員は誰もが認める強い闘士とのマッチングが成立するように働きかけること
2.会員は闘士が強敵を徹底的に下すための協力を惜しまないこと
3.闘士へのファイトマネーは十分に支払うこと
4.闘士は他所の会員や闘士にプライベートで迷惑をかけないこと
5.会員は闘士の呼び出しには必ず応じること
キャラクター説明
日に焼けた褐色の肉体。
白髪混じりの髪をワックスで固めた壮年の男性。
素肌の上に白いジャケットを羽織っている。
かつて存在した魔人格闘興行団体、『パンクラチオン・クラブ』にて最も多くの勝利を飾った「不敗神話」。
十年間の無敗記録は八百長への関与疑惑で打ち止めとなり、表舞台を去ることとなる。
度を過ぎた素行不良については、競技者だった当時から噂されていた。
引退後には白熱した報道を受けて、格闘に興味を持たない人々の話題にも上げられるようになる。
プライドの高さと人間性の破綻は連日記事に取り上げられることで加速した。
フラストレーションが更に過激な報道を呼ぶスパイラルに陥り、やがて人目を忍んだ彼は裏社会へと姿を隠す。
現在はフリーの用心棒としてチンピラや反社会勢力の手先となった。
俯瞰視点での試合運びと演技力、超一流の格闘技術によって頂点を極めたとは本人の談。
大抵の武器は扱えるが、戦場に持ち込む装備は基本的に防刃グローブのみ。
勝利への執念が人一倍強い。
彼にとって勝利とは、「弱者を嬲り」、「観衆を震えさせ」、「運命を支配する」こと。
敵対者、観客、勝利の女神の全てが自ら彼に勝利を捧げることでしか満足できない。
現在の雇い主であるチンピラ達に対しては彼のことを舐め切った態度が透けているため、殺意を抱いている。
傭兵業は部隊や統率者に功績が奪われるうえに、兵士が殺す一つ一つの命の価値が少ないため、魅力がない。
表の格闘技は階級やジムの政治力など、実力の他にマッチングに影響する要素が多い。
強盗は勝利条件が逃げ延びることの他に勝利条件がないため、性に合わない。
結局のところ、塚克勝には闘技場の外に生き場所などなかった。
『パンクラチオン・クラブ』:
公然に開催されていた民間の魔人格闘団体。
国内でも特に大きな団体で、ファンではなくても主要選手の顔や名前を知っているほどだった。
ルールは魔人闘技会と大きく変わらないが、医療や報酬の体制には限界があったとされている。
塚克勝の報道を受けて人気が低迷し、やがて活動を休止した。
元関係者や当時のファンの中には「腐敗神話」の不正に今も不平を漏らす者は少なくない。
塚克勝本人は「不敗神話」が当団体を隆盛させたと認識している。
彼にとって多くの非難は不当であり、切り捨ては裏切りだった。
⚫︎落・オーチャード
魔人闘技会の若手女性会員。
『パンクラチオン・クラブ』時代に人気を誇った選手の一角、落人・オーチャードを父に持つ。
彼は競技の消滅後に生きる気力を失い、自堕落な生活の中で病気に倒れた。
かつての父に憧れた娘は今、魔人闘技会が悲劇を繰り返すことをないように願っている。
未成年の頃に三年間闘士を務め、当時の連勝記録を塗り替えた。
端正な顔立ちとスレンダーボディにも人気が集まり、関係者からの評価は高い。
リングを退いた後には立会人を務め、いくつもの名試合を実現させている。
戦闘魔人にとって格闘大会は替えがきかない自己実現の場所であることを選手時代から主張し続けている。
その立場を貫き、運営に直接関わるために下積みを重ねてきた。
彼女の姿勢に賛同するスポンサーも着々と増えている。
後援者達の勧めもあり、立会人から会員への道を進むこととなった。
会員となったからには最高の選手と契約を結び、闘技会に貢献したいと考えている。
魔人能力は「アシュロン」。
公開されているのは能力名のみ。
詳細は伏せられており、ファンの興味を今でも惹き続けている。
闘士としての二つ名は「落園」。
プロローグSS
「約束の時間に二十分の遅刻、ですか」
都内、歓楽街近くに作られたポケットパーク。
人気のない深夜である。
一人佇むスーツ姿の女性の前に、一人の男が現れた。
白いジャケットを素肌の上に羽織るその男。
見る者が見れば、嫌でもその名前を思い出さずにはいられない。
「腐敗神話」塚克勝。
彼は遅刻を悪びれもせず、薄荷味の棒キャンディの包装を破ると口の中に転がした。
「そりゃあ警戒もするだろう、闇討ちじゃねえかってさ。今の乃公、結構危ない仕事してるからね。キミがどれだけ魅力的でも足踏みしちゃうわけよ」
彼の瞳は女性、落・オーチャードの顔を、続けて身体を舐め回すように見た。
「危ない仕事、ね。チンピラや弱小暴力団の小間使でしょう。抗争や取引に関わることもできず、頭数を揃えるためだけに雇われている。老人一歩手前の人間、それも元チャンプががプライドを守るためだけに、一端の裏稼業を気取っているとは。なんとも滑稽、ですね」
落の視線は冷たい。
それは、克勝が待ち合わせの時間に大きく遅刻したことが理由ではない。
「失礼は承知の上で告げます。あなたは魔人闘技会に相応しい人間ではない」
「あ? あアア……? よく聞こえねえな嬢ちゃん。キミが言うべき言葉は『試合に出てください、お願いします。塚克勝様』だ。『何でもします』も添えてなァ」
「そういうところです。あなたには、決定的に品位が足りない。確かに闘士に興味はないか打診はしました。しかしそれは、昔の塚克勝に興味を持つスポンサーの意向を汲んだにすぎません」
落の会員昇格を祝う会合にて。
彼女が契約するに相応しい闘士について、スポンサー達と相談した。
最中、「不敗神話」の名前が上がったのだ。
『イカサマだったのかもしれないけどね、僕が魔人格闘技に興味を持ったのは彼がきっかけだったよ』
『あの伝説の年末試合には魅せられたなあ』
『塚克勝、彼が出場すれば間違いなく会場は沸く。ブランクはあるだろうが、チャンピオンである必要はない。話題性と試合作りにおいて彼に勝るものはいない』
酒の席で、冗談混じりな部分もあっただろう。
しかし、完全に無視することも躊躇われる。
「不敗神話」。
かつてそう呼ばれた男はとある週刊誌が取り上げた報道により、瞬く間に堕ちた。
「『パンクラチオン・クラブ』のチャンピオン、夜もK.O.続き!? 某闘士Aの恋人とホテルに入る瞬間を激写!!」
その記事は当初、単なる下品な下半身事情としか受け取られなかった。
チャンピオン、「不敗神話」塚克勝は不品行で有名だった。
度重なる風俗通いや人妻との密通、援助交際の噂などは既に皆の知るところで珍しくもなかったのだ。
彼は徹底した悪役だった。
あらゆる醜聞はいつかその存在を打ち砕く、最強の英雄を待ち受けるBGMにすぎない。
十年の無敗記録を誰かきっと終わらせる、その期待が数々の悪行が一種の魅力に変わっていたのだ。
「『不敗神話』は『腐敗神話』!? 金で勝利と女を買う僭王、塚克勝の正体に迫る!!」
克勝と闘士Aの恋人の密通に関して続報が出た。
記者の取材に対して、選手Aの恋人は証言した。
「『不敗神話』の伝説は偽物である」
「彼は大金を積み、強敵であるAから試合の内容を購入した。ついでとばかりに、私も売られた」
己を売った闘士Aのことももう信じられず、離別を告げたという元恋人。
彼女の漏らした舞台裏は俄かに反響を引き起こした。
あの大悪党は金で勝利を掴んでいた。
試合にはブックがあった。
仮に「不敗神話」を破るものが現れたとして、それは本当に勝ったことになるのか。その者もやはり金を積んで王者の座を譲られたに過ぎないのではないか。
物議は喧々として止まず、彼には出場停止の命令が下る。
大規模な聞き取り調査が行われ、金銭や肉体的な授受を認める選手が明らかになった。
『パンクラチオン・クラブ』に信用を築き直す時間は与えられず、団体はやがて解散した。
魔人格闘家達にとって、『クラブ』は大切な居場所だった。
それを不正と不品行によって潰した塚克勝を、落は絶対に許すことができない。
「私の父は落人・オーチャードです。この名前に聞き覚えは?」
「ああ、嫁さんが美人のあの! 確かに面影あるじゃねえか」
「父はあなたの過ちに巻き込まれ、絶望の淵に落ちた。私は絶対に悲劇を繰り返すわけにはいきません。あなたが闘士失格だということを、ここで証明してみせます!」
「ったく……ンだよ、ムキになっちまってよお。挙げ句の果てに人様のことを闘士失格とは、乃公をなんだと思っていやがる……!」
「『腐敗神話』、伝説でいられるのは今日でお終い。今後は大ホラ吹きの敗残者として、惨めに暮らしなさい! 『落園』落・オーチャード、参ります!」
鞘から抜き出された刀身が街灯で青白く、鈍く輝いた。
低く構えた姿勢、飛び込みざまに落は武器を振るう。
剣閃が空を裂く。
克勝は背後へ移動している。
彼が先程まで立っていた地面には、白く輝く貝殻のように小さな直方体が三つ並んでいる。
『ニケー・ネクロポレオス』を用いたノーモーションの跳躍。
踵、土踏まず、爪先でインパクトを微妙にずらし、"碑"は彼を斜め方向へ打ち出したのだ。
「殺意満々の武器だな。警察の厄介になるつもりかよ?」
「心配は無用、優秀な医療チームを控えさせています。余計なことを考えずとも、あなたは屍を晒して無力を証明するだけで十分ですよ」
「そうかよ。ヤる気十分、結構なこった」
克勝が一歩、摺り足で身を引く。
彼と落の間、"碑"が扁平に並び立ち壁を形作る。
"碑"はかつて、巨人の歯とも呼ばれた白さで不気味に照り輝いている。
「だが嬢ちゃんよ、キミがしておくべきは乃公に全てを捧げる準備だけだぜ。乃公は誰かの下で戦う気なんて無え! 剣闘士みてえな奴隷待遇は真っ平ごめんだ! 乃公が主人で、戦士で、勝者でなきゃあ意味なんてねえんだよ!」
壁が消えた。
壁の裏側で横方向に移動していた克勝が、足元に生じさせた三連の"碑"で自らを射出する。
歳を食いブランクがあるにしては動けている。
「腐敗神話」の身のこなしに、落は少し感心した。
しかし問題はない。
勝負を決するのは速度ではなく総合力だ。
すれ違い様に見舞われる拳打をいなし、置き土産に残された"碑"の出現を事前に避ける。
振り向き、克勝の背を側面から回り込むようにして追いかける。
落の進路から離れた克勝の足跡から凶悪な石柱が次々と宙を突いた。
距離を離そうとする「腐敗神話」。
「落園」は追い、距離を縮める。
背後から落は斬撃を次々と見舞うが、克勝は前後左右に滑り跳ねる。
走りながら攻撃を当てるのは困難だ。
それでも今回選ばれた戦場は狭い公園、逃げる先に限りがある。
「私の魔人能力『アシュロン』から逃げ延びられるとは、考えないでくださいね。これでも私は"実力で勝ち取った"連勝記録者ですので」
「……その戦い方、乃公と戦ったことがある奴の動きだ。経験のインストール、動作のオートメーション、修練の超蓄積、……どれもしっくり来ないな。ああ、分かった。知識と情報の再構築、と言ったところか?」
『アシュロン』
闘士、落・オーチャードの魔人能力だ。
その効果は完全な形での過去回想。
この力はその時点で目や耳に入れていなかった情報、覚えていなかった事象も含め、体験した過去を欠落なく鮮明に復元する。
身体感覚は深部感覚からコンディションに至るまで全て認識下に置かれ、技や武器は一度の成功を何度でも再現できた。
他人の技や戦術も、ハイスピードカメラを超えた解像度、複数のドローンを超えた広角視で分析。
攻略の糸口を難なく探り当てる。
格闘競技において、ESP系(感覚能力強化)の能力は地味でつまらないと考えられがちだ。
彼女はこの能力の詳細を隠し通すことにした。
秘匿された神秘性は演出としても作用し、彼女の人気を押し上げた。
「落園」の強み、それは己の正体を掴ませず、一方的に敵を分析する情報戦にある。
「腐敗神話」は短時間の戦闘で、既に彼女に関する何かを掴んでいた。
落は自身が敗北する可能性など頭には無かったが、それでも相手に恐るべきものを感じていた。
フェンスで区切られてはいるが、幸い彼の背後には切り立つ崖がある。
落ちれば魔人でも無事では済まない。
逃げの選択肢は限定されていた。
落が仕掛ける。
勢いをつけ身体を捻り、鋭く円を描く斬撃。
速度と威力の乗った、横方向の回避と防御が困難な必死の一撃である。
克勝は宙へと逃れた。
伸ばした"碑"を足場にするのは、高低を自在に掌握できるということでもある。
彼は、超人的なバランス感覚により、心許ないほどに狭い足場の上から蹴りを見舞った。
それこそは、喉首を刈るローキック。
しかし、『パンクラチオン・クラブ』時代に幾度も披露する機会のあった得意技は、落には通用しない。
落も『腐敗神話』の身体能力と身のこなしが突出していることは既に認めていた。
しかし、真実の舞台で闘う戦士と役者の殺陣とは異なる。
命を削り合う場で使う技術、そして客を魅せるための技術は全くの別系統だ。
かつて母に連れられ、観客席で彼の試合を見たことがある。
『アシュロン』は今でもその時の様子を再生できた。
闘士と立会人を務めた今ならば分かる。
「腐敗神話」の試合には、殺意も覚悟も足りていなかった。
迫る克勝の革靴目掛け、落は正眼、突きの型を構える。
「腐敗神話」の軸は足だ。
能力の起点となるのも、足捌きも、全てが下半身に依存している。
片足を潰すだけでも、天秤は傾く。
研ぎ澄まされた意識、沈滞する時間。
落は刃をソールに向け突き出す。
赤く裂く一本の線を入れる。
はずだった。
手首が酷く痛んだ。
咄嗟に『アシュロン』で回想を行う。
刀が背後、吹き飛ばされている。
想定以上に蹴撃に威力があったのか?
しかし徒手であっても問題はない。
あらゆる武器を修めたとて、最後に頼る先は拳のみ。
落は「腐敗神話」を分析し、弱点を発見している。
"碑"を足場に高所へ登った場合、飛び降りるにしても足場を消失させるにしても、克勝は空中へ投げ出されることになる。
この時、彼は短時間のみ無防備な隙を晒すことになる。
落は待った。
敵が飛び降りる瞬間を、あるいは"碑"が崩れる瞬間を。
そこに響く。
悪魔が歯を軋るが如く。
克勝の足下。
柱状の"碑"を割り砕き、杭のような"碑"は重力方向へと割り進んでいる。
柱は破片に散り、杭は斜めに倒れる。
克勝は僅かな足場から、三点の射出で加速する。
落の肩に遅れて衝撃があった。
倒れた彼女の脇腹に、彼は足をかける。
「試合じゃ使わなかったな。下向きに生やすってのは。隠してる技は他にもあるけどな」
「ぐぅ……それだけの技があって、何故八百長などしたのです」
「ハハっ、乃公が持ちかけたのは、試合で見せ場を作るのと引き換えにテメエの女を抱かせろって取引だ。恋人、姉妹、娘、友人。身内に美人がいる奴にゃ大抵持ちかけたぜ」
「雪冤の余地が皆無ですね……」
最後の足掻きとして、落は刀へと手を伸ばす。
刀身には"碑"が残り、折れ曲がっている。
克勝の足に触れた武器は音速で射出されていた。
「闘士としての乃公は証明できたよな?」
「悔しながら、力量だけは認めましょう」
「それじゃあ、乃公の部屋行くか」
「せ、清純派で売ってるので嫌です」
「自信ないのか? 別路線でもキミは売れる! ま、いいだろ。医療チームは待たせとけ」
その夜。
ドロリ湿気った布団の上、克勝は微睡んだ。
瞼の裏に万雷の拍手。
そして、舞台の中心で不敵に笑う男の姿が浮かぶ。
「俺を忘れられなかったか勝利の女神。落をありがとよ。特大のお礼をぶち込んでやる」
それは、久しく体験していない夢見だった。
最終更新:2026年05月01日 18:41