第一回戦【海水浴場】SSその3

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第一回戦【海水浴場】SSその3

ザ・キングオブトワイライト試合会場から遠く離れた、とある島。
眼前に広がる青い海原。
見渡す限りの白い砂浜。
照りつける常夏の太陽。


珊瑚礁の海に浮かぶ、半径1kmに満たない南国の楽園。
そこが、戦場となる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂浜から少し離れた、海の家内部。
木製のゆったりした小屋に、魔人ヤクザ二人組はいた。


「……んー、とりあえず地の利は俺にありー、ってとこスかね」
「アホウ、気を緩めるな」


砂地迷彩柄のアロハシャツを着た青年・夜魔口砂男の楽観的な考えを、
身長15cmの兄貴分・夜魔口赤帽が咎める。


「わーかってますって。……つっても、相手はマッチョに探偵。
 ……勝てると思うんスけどね」


溜息をつきながら、手にしている瓶の蓋を開け、内容物を飲み干す砂男。
『紅い水』――飲んだ者の肉体を強化する効果を持つ液体である。


「……っかー、毎度のことながら効きますネ、これ」
「効いとるうちに動けよ、戦いながら飲ます余裕はないぞ」
「わかってますって…… つっても、出来るなら海水浴くらいしたいトコですがねー」
「ならさっさとあの筋肉ダルマと探偵の小娘をシバいて来い」
「へいへい……っと、お出ましですよ」


中身を飲み終えた瓶を胸ポケットにしまいこみ、小屋の入り口を見やる砂男。
そこに立っていたのは、羽織袴の少女――『探偵』遠藤終赤だった。


「よくここがわかりましたネ、やっぱ推理の賜物ってヤツですか?」
「推理するまでもありません。砂浜に、ここまで続く足跡が残ってましたから」


砂男の軽口に乗せられまいと、遠藤がいつも以上に鋭い眼光を向ける。


「そりゃまー、ココに来て貰いたかったッスから。
 どの水着が似合うか一緒に相談したかったですしー」


小屋の一角には、貸し水着コーナーと思しきスペースが設けられていた。
色鮮やかな女性用水着の群れを指差しながら、砂男は嬉しそうな笑みを零す。


「……まだ言いますか。拙を愚弄する戯れも、そこまでにして下さい」
「……そっスね。そんじゃ、続きはバトり終わってからってこと……で!」


言い終わるが早いか、砂男が蹴りを繰り出す。明らかに遠藤に届かない――否!
その足下にある“砂”が爆ぜ、遠藤目掛けて散弾の如く飛ぶ!


「『凶器』は、そこだっ!!」


しかし、遠藤は既に探偵の観察眼で見抜いていた。
砂男が無駄口を装って時間を稼ぐ間に積み上げた砂の山――『凶器』。
凶器を指摘し、相手の攻撃を無力化する。探偵術の基礎の一つである!


「あーらら、流石に小細工は通じねっかー……」


砂男は動じることなく、次の攻撃に出る。
右手に携えた棒状の革袋――“ブラックジャック”『シンゲツ』を振り上げて、
遠藤の身体を打ち据えんとばかりに、踏み込んで相手の間合いを崩しにかかる。


「無駄です!」


遠藤が身体を翻し、砂男の右腕目掛け指を突き出す。
そこから桜色の閃光が放たれ、砂男が手にしていた『凶器』が弾け飛ぶ。


「! ……あーあー、俺の『シンゲツ』が……」


革袋の中央に焼け焦げの穴が空き――『凶器』は、その用を為さなくなった。
遠藤は油断なく、指先を砂男に向けたまま、アリバイを固める。


「残念ですが、貴方の『犯行』は――拙には」
「通じない、ってんでしょ?わーかってますって、その為にこっちは『二人』なんだ」


その刹那。緋色の光が、砂男の懐から飛び出す。
遠藤の探偵眼は、それが真紅の刀身――ヤクザドスであることを捉えている。
しかし彼女は、指先を真っ直ぐ向かってくる刃目掛け突きつけ、
『探偵』の流儀に則り『推理』を披露する。


「残念ですが、貴方の正体――拙には見えました」


指先に輝きが収束する。先程、砂男に撃った些細な推理とは違う、
これまでに与えられた情報を元に組み立てた、綿密な推理。


「夜魔口赤帽。 貴方は――」


「『アキビン』だ」


遠藤終赤の凜とした声が、小屋に響くと同時に。
桜色の推理光線が、赤帽の姿を照らし出す。


身長15cmの体躯、液体を生成する魔人能力、赤いキャップ。
それらの答え――赤帽の真の姿を。


頭部に締められた赤い蓋。
一般的な栄養ドリンクの容量、100mlの茶色い瓶。
ヤクザ特有の凶悪な眼光。
背中のラベルには金色の蛇、そして『赤まむし』の文字。


夜魔口赤帽は――『赤まむしドリンクのアキビン』である。




「よう見破った。 ……じゃがの」


しかし。
そのまま赤帽を貫くはずだった推理光線は、緋いドスの一閃で弾かれる。


そして、その勢いのまま――突き出された遠藤の右手首が、斬り落とされる。


「~~~~~っ!?」


「『ヤクザ』の殺しに、『探偵』の出る幕はない。
 お前さんのような『本格派』なら、尚更な」


『推理』は、当たった。当たっていた。
だが、その推理は――赤帽の『正体』に向けられたもので。
それ故に、推理の本筋から僅かに逸れていた。


「ヤクザが自分の土俵に降りてきてくれたと思うたか? アホウ。
 そう思わせて騙していい気になった奴を食い散らかすのが――ヤクザじゃ」


手首が落ちると同時に、赤帽が着地する。


「……っ、まだです、『推理』は――がっ!?」


手首を失いながらも、赤帽へと向き直る遠藤――だが、その左肩に衝撃が走る。


「……だーから、『二人』だっつってんでしょ」


砂男が、すかさず無防備な背中に『凶器』を振り下ろす。
もう一つの“ブラックジャック”『マンゲツ』――より砂の詰まった、大きな革袋。
先程の『シンゲツ』の十数倍の重量が、遠藤の身体を容赦なく打ち据えたのだ。


普段の遠藤ならば、絶対に犯さない『推理ミス』――!
だがそれも無理はない。『探偵』は、あくまで『推理』する生物だ。
赤帽の言葉通り、『ヤクザ』の闘争、殺しには……真っ直ぐで圧倒的な暴力の前には!
――『推理』するべき余地はないのだから。


「……あーあー、赤帽サン。手首斬ったら着替えに難儀するっしょー」
「じゃかあしい。……とっととバラして、一人仕舞いじゃ」
「へいへ…… っ! 」


砂男が、遠藤を仕留めようと近づいた――その瞬間。
修羅場をくぐった戦闘経験が、危険信号を発する。
慌ててその場に伏せた、その一秒後――


小屋に、“もう一人”の遠藤終赤が飛び込み。
その頭上を鋭い水の刃が通過し、小屋をまるごと――横薙ぎに、切断した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「っハァーッ、ハァーッ…… 何ですか、何なんですか、なんなんなんですかいアレ!」


崩れる間際の海の家から、からがら脱出した砂男と赤帽――そして、二人の遠藤終赤は、
海の家の反対側――椰子の茂る木陰まで逃れていた。


「……尿です。蛭神さんの、男性器から放たれた……」


無傷の遠藤が、息を整えながら語る。


「あのイチモツからなら、納得じゃな……じゃが、逃げ回ってばかりもおれんぞ」
「ですねー。足跡は一応俺の砂で消しましたけど、狭い島だしいずれ追いつかれますネ」
「ワシのドスでも、通るかどうか――さて、どうするかの」


赤帽は、一瞬感じた相手の気配から――易々と殺せそうにないことを感じ取っていた。


「己の男性器を武器に戦う格闘術――拙の探偵術とは、互角と見ました。
 ……通常、ならばの話ですが」
「あー……んじゃその『通常』とやらに戻ればいいんじゃあ」
「拙が手首を斬り落とされた以上、戻ればそのダメージが響くでしょう。
 十全には、結果的に程遠い」


砂男の安易な提案を退けるように、手首のない遠藤が語る。


遠藤終赤の能力『スマート・ポスト・イット』――
物体を自在に二分割する能力で、彼女は予め自身を二つに分けていた。
片方は、夜魔口砂男と赤帽の元に。
もう片方は、蛭神鎖剃の元に。
それぞれが、相手の戦闘術や魔人能力を暴いたところで一旦退き――
一つに戻り、100%の力で『推理』をぶつけて倒す。それが、彼女の戦略だった。


結果的には、それが仇となり――半身は重傷、もう半身も逃げの一手を選ばざるを
得なくなってしまった。


「……赤帽さんの正体に気を取られた時点で、拙は負けていた、ということですね」
「フン。ギブアップは勝手じゃが……ここで逃げ帰るんは許さんぞ」


落ち込みを隠せない遠藤に、赤帽がドスを突きつける。


「あの筋肉ダルマをバラすにゃあ、ワシと砂男だけじゃあ足らん。
 おどれの力、ワシらに預けえや」
「……言ったでしょう。拙は、探偵として」




「ナニイチビットンジャワリャァ!!」


怒声を発したのは、砂男である。
大音声のヤクザスラングに、二人の遠藤は思わず身体を強張らせる。


「……探偵としてとか、そーいう意地はもうどーうでもいいでしょ。
 ブザマだろーが、マヌケだろーが戦ってあがいてこそ、カチコミってもんですぜ」
「……」
「この場で肩並べて共闘した程度で、裏に染まるほどアンタの探偵道とやらは
 ヤワいもんじゃーないでしょ。それは俺が保証します。赤帽サンも。
 ……今ので奴さんも来るでしょうし、覚悟決めて行きましょうや」


先程の激昂が嘘のような、いつも通りの緩さで。
砂男が、共闘を申し入れる。


「…………」


二人の遠藤終赤は、押し黙り――そして、答えを出す。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ぬおおおーっ! 何故逃げる!そりゃあワシは全裸じゃがなー!」


大声を張り上げ、逞しい筋肉から汗を迸らせる男が一人。
蛭神鎖剃――異形の男性器を持つ格闘家である。
一糸纏わぬ裸体の中央で、雄々しくそそり立つ筋肉の塊が蒸気を発する。


「折角の大会、やっと猛者と戦えるはずが……うう、つまらーんっ!!」


悔しさの余り、陰茎を地面に叩き付ける蛭神。
砂が爆ぜ、近くの椰子が衝撃波で薙ぎ倒されていく。


その直後。
遠くから、ヤクザスラングが響いた。


「むうん、そっちか! 頼む、逃げずに手合わせを……!」


ドシドシと、力強い足取りで声のした方に向かっていく。
やがて、椰子の林を抜けて、海の家と反対側の砂浜に出た蛭神が見たのは――


手首に傷跡のある、“一人”の遠藤終赤であった。


「先程は申し訳ありませんでした――ですが、もう逃げも隠れも致しません。
 『探偵』遠藤終赤、推して参ります!」


「よくぞ申した……有り難い!
 蛇神流格闘術、蛭神鎖剃! いざ、参る!」


砂浜に並び立つ、『探偵』と『格闘家』。
蛭神にとって、待ち望んでいた“対戦相手”の登場に――
その股間の筋塔は、天を衝くほどに張り詰めていた。


遠方で、ぱき、と椰子が折れ軋む。
その音を皮切りに、お互いが構える!




「『犯人』は――」
「ぬおおおおおおっ!」


遠藤が、ゆっくりと右手を挙げ、人差し指を向けようとした瞬間。
蛭神が、間髪入れずに遠藤目掛けて走り込んでくる。
右脚と左脚、そしてその間に位置する第三の脚ともいえる男性器!
三位一体の筋肉調和により、アスリート以上の速度で足場の悪い砂浜を駆ける。
アリバイが、強引に詰められていく――!疾い!


「……!」


遠藤の『推理』が披露されるよりも先に、蛭神の『蛇神鞭』が遠藤の身体を捉える――筈、だった。
――遠藤の目の前の砂地が、突如大きく窪むまでは。


「ぬ、おおおおっ!?」


窪みに右脚を取られ、蛭神が体勢を崩す。
その足下の砂は、さながら蟻地獄のように中央へと流れていく……!
賢明な読者ならもうお気付きだろう。この『砂浜』の砂は。
――正確に言えば、先程までここに『砂浜』などなかった――即ち!
ここの砂全てが、砂男の生み出した砂なのだ!
そしてその砂は、砂男のコントロールによって自在に操ることができる。


「フンッ!」


だが、蛭神もむざむざやられるような格闘家ではない。
股間の怒張をとっさに、砂浜に叩き付け――その勢いで、高く飛び上がる!


「……貴方」


その飛び上がった隙を、遠藤は見逃さず――指を天に向け、頭上の蛭神に向ける。
だが蛭神にとってはこれも想定内。
そのまま逸物へと筋力を集中させ、落下の力も加えた一撃で遠藤を叩かんと狙う!


「ダッ!!」


遠藤の指先から、一際強い推理光線が放たれ――蛭神のペニスを狙う。


……と、同時に!
砂地獄の中央から、紅い液体を勢いよく噴き上げながら――アキビン・赤帽が跳ぶ!


ドスッ!!


「ぬおあああああああああああああああああ!!!!!」


蛭神の肛門――筋力を性器に集中する余り、無防備となっていた粘膜に!
赤帽のヤクザドスが、容赦なく突き刺さる。


そして、遠藤の推理光線が――肛門への衝撃で緩んでしまった蛭神の陰茎を、穿った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……参りました」


泡を吹き悶絶する蛭神の横で、遠藤が赤帽に降参を申し入れた。


「……今なら、おどれの『推理』も当たるかもしれんぞ」
「ご冗談を。拙の、負けです」


そう言い切る遠藤の表情は、心なしか晴れやかだった。


「……もう出てもいいッスかねー……」
そして、砂の中で――砂男は、一人ごちるのだった。








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