遠藤終赤幕間その1

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dangerousss3

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肥溜野さんがフリー素材になったので勝手に書かせていただきました。

「いや!あああぁ……う……いや……ぁ、またッ」
『――ビタンッ!』

「ぁ……う……いや……あ、ぁぁぁっ」
『――ビタンッ!』

「や…ぁっ、いつまで……っ」
『――ビタンッ!』

「いつまで、続くの……」

 ビタン、ビタン、と何度も激しい痙攣を起こす女性。
 スーツに締め付けられた胸のヘドバン。豊満のヘヴィ・メタル。
 その観客ならぬ演奏者の肥溜野森長は愉悦の表情を浮かべていた。
「ぐふふふ……どうですか、どうですか、『銘刈』サン、…」懐中電灯代わりの携帯で照らされた女性のヘソ部分。彼はそこを凝視することで能力を使用している。

 ヒーローものにおいて、黒ずくめの全身タイツがアジトにしていそうな廃工場。その一室で、銘刈と呼ばれた女性を相手に、肥溜野はその能力『千年悪夢』を発動させている。
 ヘソを通じて、対象に最悪の敗北を幻視させる、凶悪な精神攻撃。
「や……ぁぁぁっ」肩をおさえる女性。
「何でしたっけ……魔人の大会……ですか。ぐふ、可愛い子がいるなら良いんですけどねェ、そうでないモンとぶつかったら、……嫌じゃあないですか。棄権ですよ。それが駄目ならそもそも参加したくはありませんねェ」彼は『銘刈』に大会の参加者として勧誘されていた。肥溜野に戦闘能力は無い。大金を手にするチャンスとはいえ、痛みを伴うリスク。自分のリビドーを満たせない仕事を積極的に受ける肥溜野ではなかった。

「う……あっ あっ」
「ぐふふ、なかなか時間がかかりますね。素晴らしい」『千年悪夢』は、その対象が『屈服』の言葉を放つことで、ようやく解放されることができる。それは、心からの屈服でなければならない。
 ここで彼女が屈服の言葉を発していれば、肥溜野が大会に参加することは無かっただろう。しかし、彼女の口からその言葉が発されることは『無かった』。
「しかし僕も興味をそそられます、見えてくる幻視の中で、アナタをいじめているこの女性は――」

「興味を持っていただけるとは光栄です」

「おわ!?」肥溜野の後頭部につきつけられた金属筒。思わず携帯を取り落とし、両手を挙げる。そのような状況にありながらも、前方に倒れた女性のヘソは凝視し続ける。「アナタは?」
「銘刈と申します」と背後の女性は言った。「そこに倒れているのは、私がスカウトした私の『代理人』。名を『綿谷』。肥溜野様の能力を警戒して、私のふりをさせ、接触させました」
「ではアナタも豊満なのですね」
「大会勧誘の件ですが」銘刈は続ける。「受けて、頂かないと困ります。現参加者中、精神攻撃能力者の層が薄く、これでは大会の意図した選抜が機能しません」
「はぁそうですか」と、肥溜野。「それじゃあ。僕も、困ります。受けて、頂かないと――」眼を伏せた。「――アナタにも僕の能力を受けて頂かないと、ほら、もう」口元が卑しく歪む。「我慢できない」

「ハァッ……ハァッ」二人の目の前に立ち上がったのは、『代理』と呼ばれた女性、綿谷だ。「うあ……あああああああああああああああっっ!!」

「――この人は銘刈サンを『愛して』いたのに、さっきまで銘刈サンに酷い目に『あわされていた』んです」肥溜野は冷静に告げた。「かぁわいそうに」
「あああああっ!銘刈さん!銘刈さん!ああ……信じていたのにッ!」
 対象にとって最悪の幻視を見せるという『千年悪夢』。
 もはや彼女は、幻視と現実の区別がつかなくなっていた。綿谷はそばに落ちていたガラス片を掴み取ると、二人に向かって駆け出す。

「……っ!」銘刈は肥溜野の上半身を組み伏せると、拳銃を取り出し発砲。

「――あッ」綿谷の肩に銃弾が当たり、ドサリ、と倒れる。
「……何とも浅慮な」銃を片手で構えた銘刈は大きく息をし、肥溜野を取り押さえた。
「ぐふ……ふふふ」
「ああ……あああっ」綿谷は肩をおさえて、泣き叫んでいる。
「ぐふ……。これで、近くにきました」下を向き、綿谷が取り落としたガラス片の反射を視る。「アナタの姿さえ、これで、見えれば……」
「…………」

「ヘソの位置さえわかれば。……能力も、使え――ガファッッ!!」言葉が中断される。「?ァ……が??」肥溜野の顎が銃弾で破壊された。

「大丈夫よ、うちの医者が治してくれるから」肥溜野の両眼を蹴り潰し、ガラス片を踏み砕き、銘刈は言う。
 綿谷に向き直る。「貴女いま、『銘刈さん』って呼んだ?」倒れた彼女に近寄る。「いつもは『プロデューサーさんッ』って呼ばせているのに、おかしいわね……?」
「あ……ぁぁ」
「それに、私の『偶像崇拝(アイドルマスター)』の効果が、こんなに簡単に切れるとは思えない……」綿谷の顎を手に取り、顔を近づける。「頭に針でも埋め込まれた?……あの手芸者か、それとも、別の派閥かしら?」

 かの大災害、パンデミックを引き起こした『魔人』。それを支持し、匿う組織がかつて存在した。綿谷はその組織に所属し、パンデミック事件の片棒を担いだこともあった。事件収束後、綿谷を銘刈が見つけ、情報を引き出そうとしたが、……すでに関連した記憶は人為的に消去されていた。銘刈は彼女を匿い、顔を変えさせ、手足として使うことにした。綿谷の敵はあまりにも多い。

「ぁ……ぅぅう」
 綿谷の精神はまだ完全に壊れてはいない、綿谷が『屈服』の言葉を放つ前に、肥溜野が能力の使用を止めたからだ。しかし、それは綿谷にとって不幸なことだった。
「例の『記憶』のこともあるし。やっぱり、一度、ぜんぶ、壊さなきゃだめね」綿谷の首を指でなぞる銘刈。特殊金属の縄を取り出し、綿谷を縛る。
 悪堕ち――肥溜野の能力を『何度も』使えば、あるいは、失われた情報を、彼女の海馬から引き出せるかもしれない。と、銘刈は考えていた。今回の勧誘の半分は、それが目的だ。
 ――しかし、もういい。綿谷を壊すなら、せめて、自分の手で。「残念。……貴女のことは、愛していたのに、本当に、残念」

 言いながら、かすかに疑問を感じる。あの時、肥溜野はガラス片で背後の銘刈を見ようとした。この暗い工場内。下を向き、真っ先に眼に入るのは懐中電灯代わりの携帯の光だ。角度から考えて、銘刈の姿は肥溜野の影に隠されてどっちみち、見えなかったのではないか……。
「――ああ」


「影が…… ないわ」


 試しに綿谷の姿をライトで照らしてみると、『この世界』で、影はできなかった。


「いや!あああぁ……う……いや……ぁ、またッ」
『――ビタンッ!』

「ぁ……う……いや……あ、ぁぁぁっ」
『――ビタンッ!』

「や…ぁっ、いつまで……っ」
『――ビタンッ!』


「いつまで、続くの……」