偽原 光義幕間その1

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dangerousss3

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偽原準決勝幕間SS「事前準備」

―ですが彼らは同時に、『自分たちは誰かに書かれた存在である』という認識を現実に変えた、紅蓮寺様の能力の産物でしかない。
我ら三人の、それぞれの中の人。此度のGKを担う陸猫様、仲間同志様。それらを育むあちらの世界の人類の歴史。魔人のいない世界。ダンゲロス世界を作り上げた架神恭介様。
ふふ、架神恭介。「恭しき」「架空」の「神」――まさに誂えたような名ではございませんか?


「……興味深い、話だな」

ザ・キングオブトワイライト 本試合会場、そこからやや少し離れた街の、小さな旅館の一室。
偽原 光義はここを自らの寝床としていた。
選手用のホテルは、本試合会場の近くにも用意されていたが、わざわざ居所の知られる危険の高い場所に居住まいする必要などない。
偽原はホテルには泊まらず、普段はこの場所で次の試合への作戦を立てていた。

そして今は次なる戦い、準決勝第1試合、廃村での戦いに備えて、対戦相手である黄樺地(きかばじ) セニオの分析に勤しんでいた。
椅子に腰掛け、所有するノートPCにて、セニオの2回戦、古城での戦いを観戦し、次の試合へのヒントが得られないかと探っていたところだったのだが……。

「やはり、聞き逃せん……この話。これを見ている多くの人間は馬鹿馬鹿しい、と思うだろうが」

今、偽原の鑑賞はあるシーンを何度も繰り返しては止まっている。
それは、試合の中盤、遠藤終赤(えんどうしゅうか)が紅蓮寺工藤(ぐれんじくどう)の能力を語る場面。
紅蓮寺の能力が、『この世界が創作された世界である』という認識を他者に強制させるというものである、と語るところである。
会話の内容から類推するに、この世界はダンゲロスSS3という物語の中の世界であり、これを書いている人物が存在するらしい。
それも作者は複数。特に架神恭介、という人物が重要なようだ。

終赤の話は更にエスカレートしていき、その紅蓮寺が認識を強制する、この世界を創作した世界、いわば上位世界の存在は、そもそも紅蓮寺の認識によって作り出されただけの世界である、という話になっていくのだが……。

(まあ、遠藤終赤もどこまでハッタリで語っているのか分からんが……、この紅蓮寺という女の中に、この世界を創作したという世界に関して、確固たる認識があるのは事実だろうな)

そうでなければ、対戦相手が誰かも分からない、この大会において、誰に対しても共通の認識を呼び起こすことなどできない。
魔人能力ゆえ、どんなカラクリかは分からないが、対戦相手が誰であっても、その相手が納得できるような形で、この世界を創造した世界について、認識を強制させることが紅蓮寺工藤にはできるらしい。

それはある意味で、彼の持つ能力、ファントムルージュ・オンデマンドとも似た性質であると言えた。
ファントムルージュ・オンデマンドもまた、それを視聴した相手が誰であっても、精神を破壊し尽くし、生きる気力を根ごそぎ奪うという、いわば相手の精神に強制介入することができる性質を持っている。
「認識の強制」、という面においてはファントムルージュ・オンデマンドと紅蓮寺の能力、『創作の祭典(フィクション・ファンクション)』は確かに似た性質を持っていた。
だが……、

「ファントムルージュによって与えられる認識とは何か、か……」

ファントムルージュの本質。
既にこの大会において4人の対戦相手と2人の協力者、計6人の魔人の精神を粉々に砕いた悪夢。
しかし、そのファントムルージュはとは何か?という問いに対し、偽原は何故か明確にこれだ、と言える解答を、実は未だ持ってはいない。
勿論実際に問われれば、漠然とは答えられるだろう。この7年間、偽原はファントムルージュを見続けた。かつて関西を滅ぼし、己の妻と娘を奪ったその忌まわしい映像を朝も昼も夜も無く見続けてきた。偽原は『この世界の』中においては誰よりもファントムルージュについて知っている。


だが……、いやだからこそ、というべきか。
誰よりもファントムルージュを知るからこそ、その本質について果たして自分はきちんと答えられるのだろうか?という問いが偽原の中にはあった。

もっとも、神について答えられるか?と問われて、すぐにはっきりとした答えを返せる宗教家といすぐにはっきりとした答えを返せる宗教家というのもそうはいないだろう。
だから偽原もその疑問については胸の奥底に押し留めていた。
あるいは、彼がこの大会に参加したのは、その答えを求めて、というのも理由の一つだったのかもしれない。

(しかし、この世界が創作されたものである、という紅蓮寺の認識が真実だったとしたら?)

あの関西で起きた惨劇も、偽原の家族を無残に奪ったあの悲劇も。
この大会でこれまで自らが起こってしまった数々の惨状も。
そして、これから未来に自らによって起こされるであろう……、今はまだそれは口に出せることではないが。
とにかく、そんなある意味で喜劇とも思えるようなこの状況を作り出した存在が、自分たちの別の世界にいるということだ。
そいつは何を思って、あの映画、ファントムルージュをこの世界に作ろうなどとと思ったのか?
その存在ならば、ファントムルージュについて答えられるというのか。
普通の人間にとっては馬鹿馬鹿しいと思えること、しかし今の偽原にとっては看過できない事態である。

(準決勝まで、まだ時間はあるが……)

試合を鑑賞していた本来の目的、黄樺地 セニオ対策は、実のところそのほとんどが既に頭の中で組み上がっている。
これ以上の思索は特に必要ない。後は準決勝まで、準備を進めていくだけである。
現在はまだ準決勝の組み合わせが発表されてから、さほども立っていない。準備期間はまだ数日残されている。
とはいえ、作戦のための備えを十全に整えるにはまだ余裕がある、とまでは言えなかった。

そして偽原が今考えている事は、準決勝を戦うにあたっては特にする必要もない、完全に余分なこと、のはずである。

(だが、やはり直接確かめてみなければならん)

今を置いては肝心の紅蓮寺工藤が姿を消してしまうかもしれない。
偽原は心を決めると、すぐにPCのモニターの画像を、セニオの戦いの映像から切り替え、そして凄まじい勢いでキーボートを操作し、これから行うべき目的のための作業へ取り掛かったのだった。

ザ・キングオブトワイライト、本会場。

紅蓮寺工藤は医務室から出た後、そのまま当てもなく会場内をふらふらしていた。

二回戦、城での戦いの最中、遠藤終赤の推理光線によって撃ち抜かれた彼女は、そのまま大会の治療班によって医務室の棺桶の中へ担ぎ込まれ、今日まで死亡状態であった。
そしてつい先ほど、ワン・ターレンの『死亡確認』を受け、冥府から蘇ったのである。
そして己の敗北を聞かされ、「ヒヒ、ア~~、俺は負けたのかア~~、じゃあなア~~」といって、医務室を後にした。

なんでも二回戦の敗者は裏トーナメントなるものに参加できる資格があるそうだが、今更そんなものに興味はないようである。
そもそも彼女が何を思って、何のためにこの大会に出たのか、それすらも理解している人間がこの世にいるのだろうか。
今の彼女は

(ア~~、たりぃ。オナニーでもして、帰っか)

という感じで漫然と会場内を歩いていた。
そんな時。

「……では、次のニュースです」

機械的な、アナウンサーの音声が耳に届いた。
見れば廊下の端の椅子に一人の大人が腰掛けている。帽子を被り、眼鏡をかけたその男は、ノートPCを広げて、TVのニュースを視聴中のようだ。周りの迷惑を考えていないのか、音が漏れていることにも気づいていない。
紅蓮寺工藤は特に興味もなく存在ばを立ち去ろうとしたが……。

「ネット上にて人気の小説、アンノウンエージェントが実写映画化されることが決定いたしました」


(……アン?)

アンノウンエージェント。
それは他でも無い、紅蓮寺工藤本人が登場している小説の題名である。
紅蓮寺工藤はその小説の作者の魔人能力によって、実体化された、元は架空の人物である。

(あのクソ小説を実写化だァ~~~?物好きなことする奴がいるもんだなァ~~)

自分が登場している小説とはいえ、狂人である紅蓮寺にはあまり愛着というものは無いようだ。
しかし、それでもある程度関心はあるようで、ニュースから流れる情報へ紅蓮寺は耳を傾けた。

「プロデューサーは○倉△一郎氏、脚本は□村S二、という豪華なスタッフとなっており」

(ハァ? おいおい、聞きしに勝るクソスタッフどもじゃねぇか~~。ヒヒ、大丈夫なのかァ~~)

アナウンサーが映画の主要スタッフを述べていくが、どのスタッフもその道の人達には良く知られた、一癖も二癖もある陣容であった。
しかし紅蓮寺は、さほど作品自体の出来栄えやその行く末には全く案ずるところはなく、むしろどんな面白いことになるのか?と心の中でギャラギャラと笑いながらそのニュースに聞き耳を立てていた。
ところが。

「そして、最大の目玉として、」
「あの大女優、ハイパーストロング・AYAMEさんの紅蓮寺工藤役としての出演が決定しました!」


(……ハァ?)


「プロデューサー○倉氏の発言によりますと、紅蓮寺工藤は原作小説ではあまり人気が無いキャラなのですが、思い切ってAYAME氏に演じてもらうことで大幅なイメージチェンジと人気アップを図りました、とのことです」

(な、なななななな……)

「更にAYAME氏からのコメントです」


男性アナウンサーの音声が可愛らしい、しかしどこか尊大な感じを帯びた女性の声へと切り替わる。


「紅蓮寺さんは原作ではわけの分からない、ちょっと気が狂ったようなキャラなんですが、私はもっと爽やかで、可愛らしい。私なりの紅蓮寺さんを演じたいと思います」
「原作ファンの皆さんにも、こんな紅蓮寺さんもアリかも?って、思ってもらえたら嬉しいです! 応援よろしくお願いしまーす!」

(ふ、ふざ、ふざ、ふざけ………)

――ハイパーストロング・AYAME。
それは2012年頃から頭角を現し、その剛力ぶりでありとあらゆる原作付き実写ドラマや映画作品に出演し、破竹の勢いで創作界を暴れまわった女優である。
原作付き作品における、彼女のあまりの存在感は、遂には原作付き作品の完成度を測る単位として、pg(ピコ剛力)という新たな理論が学会へと提唱されたほどである。

その進撃は留まるところを知らず、2015年の関西、及び関東滅亡の後も彼女は滅びることなく生き続け、それどころか国内にライバルがいなくなったことから、遂には世界的大女優へと躍進を遂げた。
そして、ワールドワイドになったことから、剛力を超えた超力を持つ女優へと変身。それはまさに蛹から蝶へと脱皮するかの如き様相であった。
加えて名前も世界に進むに合わせて英語化され、ハイパーストロング・AYAMEとして進化した。
(超力を直訳するとスーパーパワー・AYAMEだが、語呂が悪いので、こうした意訳的な名前となっている)
2020年の現在では、今や世界中の人間が「次は一体どの物語が彼女の出演によって歪められるか?」と、戦々恐々、喧々諤々、畏れにも近い感情を持って、ただその時を待ち続け、受け入れるだけとなってしまっていた。

「フザケんなァァァーーーーー!!! オレを演じんのがあのクソギャラギャラギャラ(注:自主検閲により変換)女優だァーー!? そいつァ、何の冗談だァァァーーーーーー!!」

あまりの現実を前に、紅蓮寺はノートPCを広げた男を手で乱暴にどけ、そのニュースの映像を凝視した。
そこには。
紅蓮寺工藤役、ハイパーストロング・AYAME という文字と共に、笑顔のAYAMEと紅蓮寺のイラストが並べられた画像が映っていた。
もちろん、二人の人相は全く似つかない、何を思ったらこんなキャスティングになるのか、まったく分からない程、似ていないものである。

「マジじゃねぇかァァァーーーーーーーー!! アアアアアアアアアァァァァーーーーーーー!!」









フ ァ ン ト ム ル ー ジ ュ











「ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒ……な、なんだぁ~~、この、有り得ねえ……なんだぁ、このクソは。剛力とかAYAMEってレベルじゃあ、ねえ」
「か。返してくれ~~。オレを、元の世界へ……。もう、こんな映画は、こんな世界は嫌だァァ……」

ファントムルージュ・オンデマンド。
紅蓮寺工藤が見つめたノートPCの中の悪夢、ハイパーストロング・AYAMEと自分のイラストが並んだ画像は、たちどころにそれを上回る世界最大の悪夢の映画、ファントムルージュの映像へと切り替わった。

(成程、こうした姿を見ると、中々美人ではあるな、この女)
(ハイパーストロング・AYAMEというのは、少しやりすぎたか)

ファントムルージュによって生きる気力を奪われ、廊下の床へと転がる紅蓮寺の傍に立ち尽くすのは、先ほどノートPCでニュースを視聴していた男、眼鏡と帽子で軽く変装してはいるが、まぎれもなく偽原光義である。
彼は紅蓮寺の能力に自らかかるべく、こうして医務室から出てくる彼女を待ち構え、そして対紅蓮時として用意していた、先ほどのニュース映像を周囲に聞こえるように流していたのである。

再度の説明となるが、紅蓮寺工藤はアンノウンエージェントという小説に登場する架空のキャラクターが実体化した存在である。
架空のキャラクターにとって最も辛いこととは何か?
それはその存在が本来書かれた作者の意図、自らに込められた可能性を、欠片も残さず歪められた形で世に知らしめられてしまうことではないか?
その辛さ、恐ろしさは、それと全く同じ属性を持ったある映画の事をよく知る偽原だからこそ理解できる。
そして、ハイパーストロング・AYAMEによってキャラクターが演じられるということは、まさにその架空のキャラクターがこの世で最も恐れていた事態、死ぬよりももっと辛いことである。
紅蓮寺工藤がいかな狂人であるとしても、己という存在へのプライドは持っているはずである。ならばその自尊心を粉々に砕く映像を前に目を背けることはできない。

紅蓮寺工藤は二回戦で敗れたが、偽原は一回戦終了時から、次に戦う可能性のある相手と戦った時のシミュレーションを行っていた。この映像はその時に、紅蓮寺対策として既に思いついていたものである。
勿論、実際の試合の時は、これ程容易に相手に映像を見せつけることは難しいだろうし、映像にしても、もっと精巧な物を作るつもりだったが。

(とはいえ、急ごしらえにしては充分だったな。備えあれば、憂いなしだ)
(さて……)

偽原は眼鏡を外し、帽子を上げて倒れる紅蓮寺の目の前へ近づいた。

「紅蓮寺工藤、俺が分かるな」
「て、てめえは……」
「そう、偽原みつよ……」

その瞬間、雷が偽原の頭上を直撃する。
そして瞬く間にこの世界の真実に関する、ありとあらゆる情報が偽原の頭の中に流れ込んでくる。
この世界がダンゲロスSS3というキャンペーンであること、勝者のSSだけが正史となるルール、今自分が行っている行動は作者である人物が掲示板に書きこんでいる幕間SSであること、ダンゲロスのwiki、魔人のいない世界、架神恭介。
そして……。
そして、ファントムルージュのこと。
おおよそ作者が知りうる事は全て偽原の頭の中に流れ込んでくる。

「お、おおお、おおおおおおっ!!」

咆哮。
偽原は顔を天に向け咆哮していた。
その眼から涙がとめどなく溢れる。
完全な放心状態。彼はただただ天にいる何かに向かって叫び続けていた。
放っておけばそのまま何日も天を仰いだ状態でいるのではないか?
それ程今の偽原は異常な状態であった。

「ヒ、ヒヒ、なーにを途方にくれてやがんだぁ~~? あんなクソ下らねえことで」

その偽原に対し、紅蓮寺が声をかける。
偽原はようやく顔を下げ、涙を拭いながら答えた。

「そうか、お前の能力はこれを書いている人間の知ることが伝わるんだな」

紅蓮寺もまた、自らの能力の影響を受けている。
偽原が知った事実をそのまま、紅蓮寺も知ったのだ。

「くだらないこと、そうくだらないことだな。ファントムルージュ、それに……AYAMEか?」

偽原は意地悪い笑みを浮かべ、それに答えた。

「ヒ、ヒヒ、クソだ、ああ、クソくだらねーなァァーーー、アーヒャッハッハァァーーーー!!」
「フハハハハ、ハハハハ、ハーッハッハ!!」

狂った様に笑う紅蓮寺、そして偽原もまた、それに対応するかのように大きな哄笑を上げた。
狂笑、互いに数分続いたが、やがてどちらともなく止まった。

「俺のこと、忘れるな、紅蓮寺工藤」
「ああ、忘れねえさ。あんなクソを見せやがった野郎のことはなァァーー」

この瞬間、偽原と紅蓮寺の間に対戦相手以上の関係が生まれた。
これで偽原は紅蓮寺の能力の影響をずっと受け続けることになる。

(そう、忘れる訳にはいかない)
(この事を知ったままでなければ、俺は次へは進めないらしいからな。業腹なことだが)
(だが、そのためにも今は準備を進めねばな……)

そう、これは余計なこと。偽原にとって、本来はする必要のないことである。
次のセニオとの戦いの行く末はこの後の偽原の努力次第にかかっている。
例えこの世界が、作られたものであったとしても。そこに手を抜くことは許されない。
それはこの世界の作者が寝ていて締め切りまで過ごしても、SSを書き上げることが出来ないのと同じである。

(急がねばな。大分、時間を潰した)

偽原は表情を引き締めると、倒れた紅蓮寺をそのまま抱えて医務室へ運んだ後、本会場を後にしたのだった。

準決勝へ続く。





※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件・女優とは一切関係ありません。