【※GK注:このSSは2020/08/10 0:57に投稿されており、遅刻ではありますが、今回明確なペナルティを決めていなかったこともあり掲載しています。つづきを書いていただくこともも可能です。】

Tower




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 ……ある地下深い暗闇の洞窟にはその中だけで人生を送ることを強いられた四人が住んでいました。
 四人の暮らす巨大な洞窟の中では大きな篝火が焚かれていて、そこから炙りだされる残像や自分たちの影が波うつ明暗。それだけが彼らの世界でした。
 ……ある日のことです。洞窟の中の一人が外へと連れ出されたのです。
 彼は初めての見る眩しい太陽の光に眼がくらみ、何も見ることが出来ません。
 しかし、最初は何も見えなかったその眼は次第にもののカタチが解るようになって……やがて彼は本当の世界を目撃しました。
 その偶然の流離は彼に初めての感情を与えます。
 ────外の世界の素晴らしさ。
 優しく駆け巡る風。地上を濡らす雨……。
 そして────自分の住んでいた洞窟の真実を。
 彼はソレを知らない他の仲間たちに哀れみをおぼえました。
 彼は自分の見たものをみんなに伝えるため、彼はまた洞窟に戻っていったのです。


 でも、外の光に慣れてしまった彼の眼は、今度は洞窟の中で全くものが見えなくなっていました。



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 ────(ルート)まで残り▆▇▅▇▃▇▇▅メートル地点。

 三人は降下中のエレベーターの中に居た。
 寿司詰め状態の薊野はせわしなく視線を泳がせていた。

「……こんなのに乗って本当に……だ……だいじょうぶ何ですか!?実はデス・トラップでしたってオチじゃあ…」

「大丈夫なんじゃないかなー?非常停止ボタンも付いてるしーなんなら試しに押して見るー?」

 時折顎を掻きながらカチュア=マノーは欠伸を掻いた。


「まさかホントあるなんて……」

 クリスマス博士はうーん、と腕組みして考え込んでいる。

「だーかーらー!言ったじゃない博士ちゃん!こーんなにでっかい施設をなんだから整備用(メンテナンス)のエレベーターシャフトの一本や二本、ほーらやっぱりあったじゃない!」

 カチュアはえっへん、と大きく胸を張った。
 この世界樹はまるで子供番組の空想科学へと変貌を遂げていく……。
 彼女の異能“常識強制(コモンロー)”は世界樹の法則やこの場所の必要性そのものを否定するようにあらゆる角度から秩序(ルール)を変えさせて方向転換を繰り返している。そのゴールは誰にもわからない。

(もうゴールしてもいいんじゃあないかな……)
 薊野は心の中でそう毒づいていた。

「ところで今何階ですか…?」

「え~と……ゼロが十個以上ある……階!アレ~!?降りる階、間違えちゃったかなぁ?」

「このエレベーター、まさかループしてる……!?」

 ポケットの中でドンダーが狼狽えはじめた。

「違います。これだとあと、えー……10(100)階ですね」


 クリスマス博士の台詞に絶望したポンコツ婦警は膝から力が脱け、その場にへたり込んだ。

「もう、ヤダ。疲れた~喉渇いた~ウンチしたい~お腹空いた~」

「そういえば世界樹(ここ)に来てから、満足に食事はしていませんでしたね」

 三人の会話を遮るように、
 ────ゴトン。突如エレベーターの動きが停まった。

「あれ?停まった」

「そりゃエレベーターなんだから、他にも誰か乗るんだから────アレ?」

 ────巨大な衝撃。これは明らかに何らかの爆発であった。

「なんか怖い映画みたいになってきたぞー」

 ドンダーがそのフワフワな角で薊野を小突いた。

「冗談……」

 薊野の眼はすでに笑っていない。クリスマス博士もだ。

「やっぱり楽しちゃダメなのかなぁ……」

 ポンコツ婦警もようやく眼を覚ましたように笑いを引っ込めて、眉をひそめる。
 懐からは拳銃を西部のガンマンよろしく取り出した。

「この厄介ごと片づけたら飯にしよう」

 チャイムの音と同時にエレベーターのドアが開いた。





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最終更新:2020年08月23日 01:00