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クロス最終話

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匿名ユーザー

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『あそこの船が見えるか、八雲』
『見えるけど……。なんで急に筆談なのよ』
『プログラムにおいて、参加する生徒の会話は管理者側に盗聴されているという噂を聞いたことがある。
 これから伝えることは、絶対に聞かれたくないものでな』
『あなた、私に何をやらせる気なの?』
『お前の異能はたしか、「境界を操る程度の能力」だったな?
 それを応用すれば、物体を遠くに転送することも出来る。それで間違いはないか?』
『ええ。でも遠くっていっても、まだ不完全な私の力じゃ1㎞がせいぜいよ。
 それに飛ばせる物体の大きさも、無理して人間一人分ってところだし』
『充分だ。それだけあれば、俺をあの船に送り込めるだろう』
『はい? ごめん、言ってる意味がわからないんだけど』
『あの船は軍のものだ。それがプログラム会場であるこの島の周りをうろついているということは、管理者たちはあの船を拠点にしていると考えて間違いないだろう。
 あそこにいる連中を片づければ、少なくとも今回のプログラムは中止に追い込めるわけだ』
『正気? 相手はプロの軍人よ? それも一人や二人じゃない。
 体操界で「マットの白い豹」とまで呼ばれてるあなたの運動能力は私も認めるけど、一人で乗りこんだところでどうなるっていうのよ。
 無駄死にするだけだわ』
『そうかも知れない。だが、俺はやる。こんな非道な行いが目の前で行われているのを、見過ごすわけにはいかないんだ。
 成功すればみんなが傷つくことなく帰れる。失敗しても俺一人が死ぬだけ。
 悪い賭けではないと思うがな』
『止めても無駄のようね。わかったわ、あなたに付き合ってあげる。けど、失敗しても私を恨まないでよ?』
『ああ、恩に着る』


◇ ◇ ◇


「八雲、おい、聞いておるのか?」
「え? ああ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしていて……。
 何せ、あの極限状況から解放されたばかりですので」
「むう、そうか。まあ、それも仕方あるまい」

ここは大東亜軍所属中型船舶・七十一型船、通称「ナイスボート」の船内。
本土へと向かっているこの船の中で、紫は今回の件の責任者である東方不敗と対面していた。

「ではもう一度言おう。貴様にはプログラム優勝者の特権として、一生涯の生活が保障される。
 ただし、他県への転校とプログラムに関する一切の情報を漏洩しないことが義務である。
 異論はないな?」
「ええ、ありません」
「よろしい。ところで八雲よ、一つ訊きたいことがあるのだが……」
「なんでしょうか」
「この船に乗りこんできたとき、貴様は支給されたカバンを持っていなかったな。どこにやった?」
「ああ、あれですか? もう必要ないようでしたので、適当なところに投げ捨ててきてしまいましたが。
 何せか弱い私にとっては、けっこうな重さで……。持ち歩くだけでも一苦労でしたの」

東方不敗の質問に対し、紫は悪びれずにそう答える。

「なんだと? あれもただではないというのに……。まあいい、死体を片づけに行くときに回収すればいいだけの話だからな」

眉間にしわを寄せつつも、東方不敗は紫の行動をとがめることはしなかった。

「さて、こちらから伝えることはもうないはずだが……。そちらから聞きたいことはあるか?」
「そうですわね……。聞きたいことというか、言っておきたいことなら」
「なんだ? 言ってみるがいい」
「ごきげんよう」
「何?」

紫の言葉の真意がわからず、戸惑う東方不敗。直後、彼の耳に爆音が届く。

「なんだ! いったい何が起きた!」
「おじさま、私が支給された武器がなんだったかご存じですか?」
「たしか、プラスチック爆弾……まさか!」
「ええ、私の能力でこの船のエンジンに放り込ませていただきました。
 もちろん、私の分の救命ボートは確保済みですわ」
「なぜだ! 貴様は優勝したのだぞ! これから先、政府の保護の元に安定した生活が約束されているというのに……。
 なぜそれをかなぐり捨てるような真似をする!」
「ごめんですわ……そんな不自由な自由」

真摯な顔つきで、紫は東方不敗の言葉を切り捨てる。

「これは私なりのけじめ……。自分が生き残るために見殺しにした、クラスメイトたちへの償いです。
 この船に来るまでに、さんざん悩みました。そして決めたんです。
 やはりみんなの屍の上で幸せに暮らしたところで、それは本当の幸福ではない。
 こんな愚かなプログラム、なくしてしまおうと。
 これから私は、政府に敵対する道を生きていくでしょう。このふざけた制度が消滅する、その日まで。
 それではおじさま、改めてごきげんよう」
「ふざけるなあ!」

怒号と共に、東方不敗は紫に殴りかかる。だがその拳が到達するより早く、紫の姿は次元の隙間へと消えていった。


◇ ◇ ◇


その後大東亜軍の必死の捜索にもかかわらず、紫が発見されることはなかった。
表向きは外部勢力のテロとして公表されたこの事件は、政府及び軍の内部ではプログラム開始以来最大の失態として語り継がれていくことになる。
そして、20年の時が流れた。

その年、大東亜共和国は建国以来最大と言っていいほどの危機に陥っていた。
政府の要人が前触れもなく突然消え失せ、後日死体となって発見されるという怪事件が連続して発生したのだ。
政府は当初、この事件を隠蔽しようとした。だが国家の中心人物が次々殺されているとなれば、いかに独裁国家と言えども隠し通せるものではなかった。
世間で「神隠し殺人」と呼ばれるようになったこの事件は、政府の威信を急激に低下させた。
そうなればもともと、国民を抑圧してきた国家である。各地で現政権を打破するための運動が起き、その熱狂は止まることなく広がっていく。
中枢となるべき人材を失った政府にとって、国民の叛乱は手に余る事態であった。
こうして大東亜共和国という国家の屋台骨が揺らぐ中、今日も一人の要人が姿を消した。


◇ ◇ ◇


家具もインテリアも何一つなく、明かりは裸電球一つだけ。そんな殺風景な部屋に、その男は転がされていた。
拘束も何もされていないが、男に逃げようとする意志はまったく感じられなかった。
彼の脳内は恐怖に埋め尽くされ、抵抗などまったく考えられぬ状態に陥っているのだ。
やがて部屋の扉が開けられ、二人の女性が中へと足を踏み入れた。

「た、頼む! 殺さないでくれ! 金なら言うだけ出すから!
 私は死にたくない! ようやく権力をつかんだばかりなんだ!
 これまでやられた連中みたいに、無惨に殺されるのはいやだぁぁぁぁぁ!!」

二人を見るや否や、男は恥も外聞もなく命乞いを始める。
その姿に、女性たちは二人揃って溜め息を漏らした。

「いちおう、白黒はっきりさせましょうか?」
「必要ないわ、映姫。あなたの力を使うまでもない。どう考えてもこの男はクズよ。
 こんなやつにかける時間が惜しい。さっさと始末してしまいましょう」

背後の女性の申し出を断ると、前の女性は心底うんざりした表情で拳銃を取り出した。
それを目にした男は、さらに表情を青ざめさせる。

「やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇ!! あんたら、いったい何者なんだ!
 何が目的でこんなことを!!」
「何者? そうねえ、どうせだから冥土の土産に教えてあげる」

残酷な笑みを浮かべながら、女は言う。

「神隠しの主犯、八雲紫よ。地獄でお仲間に教えてあげなさいな」

そして、銃声が響いた。


【クロススレ人気キャラバトルロワイアル 完】


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