――視線。
視線を感じる。
強烈な、艶めかしい、冷たい、優しい、
包み込むような、甘い、恐ろしい、温かい。
たくさんの視線を感じるが、気配自体は一人のものだ。
あなたは一瞬固まった後、まるで無理やり向かされるようにして振り返る。
「……ああ、失礼いたしました」
振り返った先に居たのは、ネズミのようなシルエットの女性だった。
長い尻尾と大きな耳が生えているが、耳のほうは中が鏡になっている。
自分の姿が写って、少しだけ気味が悪い。
「私、彼我見テイル(かがみている)と申します。
事情がありまして、少々観察させて頂いておりました」
テイルと名乗った女性は、営業スマイルで、営業口調でそう告げる。
「もう少し“観察”させて頂きますので、
どうか暫くの間私の事は居ないものと思ってくださいね」
しれっと言ってのけるが、要は勝手に付いて来ると言うことか。
崩れることの無い笑顔からは、その真意を推察する事もできない。
その笑顔の奥に何が潜むのか、あなたが知る事になるのはもう少し後の話――
「……あなたが……かどうか、見定めないと……」
最終更新:2016年06月21日 05:37