巫女服の形状をした
アーティファクトを手に入れたあなた達は、
少し前に拠点にて「夜刀」というメイデンと出会い、それから行動を共にしていた。
「……◯◯さん。少々よろしいでしょうか?」
そんな折、夜刀が突然あなたの手を握り引き寄せる。
近くで改めて見ると、下が丈の短いスカート状になった巫女服が桃色のショートヘアによく似合っている。
あなたに見せる表情や声の雰囲気も柔らかな雰囲気で、まるで甘い香りが漂ってくるよう。
巫女と言うよりも、巫女風アイドルと言った感じだ。
「その、できれば他のメイデンさんの居ない所でお話したくて……大事なお話なので……」
夜刀は、上目遣いであなたを誘い引っ張っていく。
あなたや周囲のメイデンたちがどういう反応をしようと、あなたは結果的に人目のない建物の裏へと連れ込まれる事となる。
(こういう事を止めるようなメイデンが仲間に居たなら、丁度そのメイデンが用事で離れているか、目を盗んで連れ込まれたのかもしれない)
いずれにせよ、今ここにはあなたと夜刀の二人きりだ。
一体どんな『大事な話』が――
「……さーて、そろそろ良いかな?」
――周囲の空気が変わる。
先程の甘えた声とは真逆の低い声。
鋭く据わった目つき、そして今までにない程大きく開いた口。
「ギャハハハハッ!! チョロい、チョロい、チョロ過ぎる!!
大した事ねえなあ。 お前も、お前の周囲のメイデンもよぉーッ!!」
状況が掴めないでいるあなたに、夜刀が飛びかかる。
黒く異形のものに変形した手から伸びた鋭い爪が、あなたの首元を――
「う…… ウギャァァァァッ!?」
――引き裂く事は無かった。
代わりに、みしみしと嫌な音が響く。
「よォ…… テメェ、自分が何やらかしたか“理解”(ワカ)ってんのカ……?」
「て、テメェはぁぁぁっ……!!」
恐る恐る目を開けると、目の前に広がっていたのは異様な光景だった。
あなたに襲いかかって来ていた夜刀が、もう一人――巫女服を来た異形の者に“巻き付かれている”。
そう、もう一人の巫女は、“下半身が蛇”だった。
「あ、が、ぎゃああああっ!!」
「諦めナ……アタイは他人様の名前騙って悪さするようなシャバ僧に情け掛ける程甘くないんだヨ」
先程まで響いていた音が、みしみし、から、ばきばき、と言う音に変わる。
夜刀――いや、恐らく夜刀ではない桃色髪の巫女の抵抗が弱まっていく。
「……んぐ……」
その様子を見て、蛇の巫女はその顔のサイズからは想像できない程大きく口を開き、
両手で両肩を掴み、尻尾から解放しながら桃色髪の巫女の頭を一気に咥え込む。
「ン、グッ、ンググーッ!?」
「んぐ、ん、がっ……」
桃色髪の巫女も最期の力を振り絞り必死に両足をばたつかせるが、
下駄が脱げて地面に落ちた事以外、何ら状況を変化させる事は無かった。
「……ぐ……」
「んぐっ、んぐ」
そして腰のあたりまで飲み込まれた頃。今までのダメージの蓄積か、飲まれて呼吸がままならず窒息したか――
いずれにせよ桃色髪の巫女の抵抗が止まり、その身体はぴくん、ぴくんと痙攣する以外全く動かなくなってしまった。
「……んぐ、はぁっ」
抵抗が無くなって呑みやすくなったのか、蛇の巫女は頭を上に向けそのまま一気に飲み込んでしまった。
蛇状の下半身が、人の形に膨らむ。
「なんだヨ、そんな目で見るんじゃねェ…… 助けてやったんだからヨ。
……ま、コイツの事は忘れナ。 メイデンの振りをして悪さする悪党だからサ。
色々となりすましてたらしいが……アタイの名前使った時点でコイツは、
“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよ…… なんてナ」
蛇の巫女は、自嘲気味に嗤うとあなたに向き直る。
「って“理由”(ワケ)でェ! アタイが本物の夜刀様ってわけヨ!
アンタの事は聞いてるゼ……気合い入ってんだってナ、◯◯のダンナぁ?」
どうやら、目の前の蛇の巫女が本物の“夜刀”だったようだ。
果たして彼女を扱いきれるのだろうか? あなたがそんな不安を抱く抱かないに関わらず、
新たな仲間があなたの度に加わった。
――後から聞いた話によると、偽物の夜刀は
『自らの姿や声を変形させるアーティファクト』を何らかの方法で手に入れた野党だったらしい。
既に何人もの人間が、“彼”によって殺され身ぐるみを剥がれていたようだ。
それだけ、メイデンを得たいと考える人間も多いのだろう。
そこに付け込んだ悪行が、今後も増えるかもしれない――
最終更新:2016年07月22日 22:22