「た、大変だ! 敵襲!! 敵襲ーっ!!」
あなたが拠点で休んでいると、そんな叫び語と共に大きな音が響く。
もともと立地・資源・防壁に恵まれ自警団も傭兵も少なかったためか、人々は成す術も無く逃げ惑っていた。
「ギャハハハハッ! こーいう所は壁破っちまえば後は脆いんだよなァ!!」
しかも悪いことに、拠点を襲撃して来たのは知能を持つゾンビ。
この手のゾンビは異常成長を繰り返し強力な力を得ていることが多く、
事実、このゾンビも通常の20倍はあろうかと言う巨躯を備えていた。
「どこまで逃げても無駄だ無駄ァー! 全員まとめてオレサマの餌になりやがれ!!」
逃げ惑う人々を悠々と追い詰めていくゾンビ。
しかしそんな中、逃げるどころか微動だにしない少女が一人。
広場の中央で座禅を組み、目を瞑って集中している。
「……あァン? 何だコイツ……
その余裕、メイデ――いや、違ェ! 何も感じねェ!
って事はただの人間か? ギャハハハ、無抵抗だからって楽に殺してもらえる訳じゃないんだぜ?」
そう言いながら、ゾンビは少女に手を――
「お゛ッ!?」
――伸ばした瞬間、バチン! と言う大きな音と共に弾かれる。
「な、何だテメェ! いったい何しやがっ……」
「……ああもう、五月蝿いっ」
バチン!
「あばびッ」
ゾンビが少女に顔を近づけた瞬間、その顔が爆ぜた。
上半身を失ったゾンビは、そのまま崩れ落ち動かなくなる。
「全く。折角集中していたと言うのに……あら?」
少女はそこでようやくゾンビの存在に気付き、目をぱちくりとさせる。
「……これは酷い。一体誰がこんな事を」
「あんただよっ!!」
住民たちからの総ツッコミを受け、少女はばつが悪そうにその場を立ち去ろうとする。
「い、いやいやいや! ちょっと待ってくれ!」
「そうよ! あなた人間なんでしょ? さっきのどうやったの!?」
「何にせよ凄いや! ここに残って拠点を守ってよ!」
直後、住民たちから浴びせられた賞賛と期待に、少女は殆ど表情を変えなかったが――
「いえ、その。私は忙しいので。そういうのはちょっと。」
――その無表情から発せられたのは、これ以上無いぐらい淡白なお断りであった。
「忙しいって何だよ!」
「そうよそうよ! 今日だって腕立てと座禅しかしてないじゃない!」
「お願いだよ! この拠点を守って!」
「あー……」
少女はきょろきょろと周囲を見渡し――そして、ふとあなたに目をつける。
「すみません。ただいま修行の旅の途中でして。
故郷を守る為に戻らなければならないのです。
あ、これ弟子です。 ね。 そうですよね?
はい。そういうわけで。ええと。さようなら」
もはやただの逃げ口上であり、住民の返事もあなたの返事も待たなかった。
気付けばなたは、この少女の逃走に巻き込まれ一緒に拠点を脱していた。
「……利用してしまって申し訳ない。
あ、私……タオと申します。では、今後ともよろしく」
聞き間違いだろうか。
確かに逃走のダシにはなったが、この少女――タオとは先ほどまで無関係だった筈だ。
「? どうしました、弟子。いえ、名前を聞いてないので便宜上そう呼びますが。」
なのに、いつから本当にこの人の弟子になったのだろう。
「黙っている、と言うことは特に何も無いのですね。
では往きましょう。この先に美味しい茶屋があるのです」
――どうやら、彼女を止める事はそうそうできないらしい。
最終更新:2016年07月23日 13:47