安曇 優(あずみ すぐる)。
霧崎水明、式部人見の大学時代の仲間で、人見の恋人だった男性。
彼等3人は、日本各地に残る風習や伝統、言い伝え。
そういったものと人々の生の営みとの関連性などを議論しあったり、一緒にフィールドワークに出かけたりした友人だった。
流行り神2最終話「流行り神」の舞台となる常世島。
その島が「死者が蘇るという言い伝えが残る島である」という情報も、元々はその頃の安曇が文献で調べてきた物。
安曇にはたった一人の肉親で、難病を抱え、ずっと闘病生活を送っていた妹がいた。
なんとか妹を治療したいと色々手を尽くしていた安曇だったが、容態は一向によくはならず、
遂には余命幾許(いくばく)もないと医者に宣告される程に悪化してしまう。
その頃の安曇の取り乱しようは、水明、人見が見ていていたたまれなくなる程だった。
そんなある日、安曇は突然妹を病院から連れ出し、一緒に行方不明となる。
「一つだけ方法があるかもしれない。
俺はそれに賭けてみようと思う」
電話でそう人見に言い残して。
悪い予感に襲われた二人は懸命に安曇の行方を捜したが、彼はそのままぱったり消息を絶ってしまった。
その後しばらくして、水明は人見から「安曇は自分のせいで死んだ」と伝えられ、背中に負った傷跡を見せられる。
そこにあったのは重度の火傷にも似た、しかし火傷とは違う原因不明の傷跡。
どういった経緯で人見が安曇の死を知ったのか、そしてその傷を負ったのか。
水明は現在まで聞かされていないし、詮索もしていない。(「流行り神1」の段階まででは)
他ならぬ人見が「死んだ」というのだから確かなのだろう。水明はそう信じ込んだ。
安曇がすがった方法とは、常世島の死者復活の伝承。
島に伝わる死者復活の伝承を断片的にではあるが耳にしていた安曇は妹と共に常世島に向かい、
研究書を著した医者のいる青山医院を訪ねた。
その医者の死者復活伝承への見解は以下のようなものだった。
「常世島特有の風土病によって仮死状態に陥った者が、人の臓器から抽出した薬を飲む事で蘇生する。
その独自の治療法が語り継がれる内に、人の臓器を集めれば死者を復活させる事が出来る、という伝承に変化していった。
故に神がかり的な死者の蘇生などはあり得ない」
だが、妹を失いたくない一念で、既に正気とは言えない状態だった安曇は
「風土病に感染し、仮死状態に陥れば妹の体を蝕む病巣もまた、活動を停止する。
そこで改めて仮死状態から蘇生させれば病を克服して妹は助かるのではないか」
そう考えてしまい、医院で亡くなったばかりの患者から臓器を奪って姿を消す。
それから数日後、安曇の行方を捜しに来た人見が島を訪れ、その医者まで行きついた。
そこで安曇がやろうとしている事を知った人見は話を聞き終えるとすぐに彼を探しに向かった。
廃墟となっていたホテル別館(元々病院だった)の手術室。
人見が到着した時、そこに居たのは絶望に打ちのめされた安曇と冷たくなった妹の遺体だった。
妹を風土病に感染させ蘇生させようとした安曇だったが、薬を飲ませてみても妹は生き返らず、
その処置を行う途中で彼もまた風土病に感染してしまっていたのだ。
医者から風土病特有の症状を聞いていた人見は、安曇の様子を見てすぐに感染している事に気付き、
その場にあった薬の残りを彼に飲ませた。
――薬には理性も記憶も失ってしまう副作用が出る可能性がある――
人見はその事実を知りながらも、そして己のエゴとは知りながらも、
「別人のようになってもいい。生きてさえいれば、それもいつか治せるかもしれない」
そんな思いで、薬を彼に飲ませた。
結局、安曇は蘇生はしたが、薬の副作用の為にまるで獣のように暴れ、人見に襲い掛かった。
そこから先の事は人見自身もはっきりとは覚えていない。
何が原因で背中に傷を負ったのかも分からないが、気が付けば周囲が火の海となっていた。
暴れ狂っていた安曇は炎に包まれていて、人見は彼が死んだものと思い込んだまま気を失った。
意識を取り戻した時、人見は青山医院にいた。
その瞬間から人見の中には後悔の念が渦巻いていた。
自分が安曇を蘇らせなければ彼は二度も死ぬ事はなかった、と。
人の命を人が救うなどただのエゴなんだ、と。
それを忘れないように、戒めとして、人見は背中に負った傷を治そうとも整形しようともしなかった。
この事件が起こるまでは明るく屈託なく笑っていた人見だったが、
事件以降は罪悪感から別人のように冷たくなり、人を寄せ付けなくなっていた。
それでも現在では純也や水明達との人間関係の為か、その気持ちにも整理がつき始めているようだ。
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