Falcon4.0 AF マニュアル

ミッション11:フレームアウト・ランディング(緊急着陸)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 ミッション11:フレームアウト・ランディング(緊急着陸訓練)

 唐突ですが、ひとつ想像してみてください。あるとき任務を無事に終え基地への帰投コースを飛行していると、それまでおせっかいなほどうるさく鳴り響いていた警告音が急に静かになりました。おいなんだよ急にしんみしりやがって、っとふいに心配になって目線をさげてみると、そこでにわかに言葉を失います。どういわけかエンジンが止まっているではないですか。つまりいまや機体はグライダーのように空中を滑空しているだけの状態なのです。途端にまるで心臓がお腹の底に衝き落ちるような激しい緊張感が総身を駆けめぐり、マリアナ海溝よりも深い後悔と絶望がやや手狭な脳みその中を忙しなく往来していきます。ああ何故、燃料の残量にもっと注意を払っておかなかったのか……。もはやパイロットに残された道はベイルアウト(脱出)するか、あるいはこのまま機体と一緒に汚い肉片になり果てるのを待つか、そのどちらか一方しかありません。なんとも悲惨きわまりないです。しかし実際、それは本当の話でしょうか? いえ、もちろんそんなことはありません。実は、もうひとつだけ残された選択肢があります。そのもうひとつの選択肢こそが、フレームアウト・ランディング(Flameout Landing:無動力着陸)なのです。高度などの諸条件にもよりますが、滑空範囲内に飛行場があればF-16はたといエンジンが停止していたとしても着陸を敢行することが可能なのです。

 しばしばジェット機によるこのような無動力着陸は"デッド・スティック・ランディング(dead stick landing)"などと呼ばれますが、これはエンジンが停止したことで操縦翼面を動かす動力が供給されなくなり、操縦不能になるかあるいは操縦桿の操舵力が非常に重くなることに由来しています。しかし、この呼び方はF-16にはふさわしなく、何故といえばF-16を着陸させるためには最低限必要な電力を有していなければならないからです。FLCS(Flight Control System)が操縦翼面を制御するには、油圧/電気サーボ・アクチュエータを作動させる動力が必要となります。フレームアウト・ランディングを行なうために必要となる油圧はEPU(Emergency Power Unit:緊急動力装置)から供給されます。EPUとは、エンジンが故障した際に、電力と油圧を供給する補助動力源のことです。これらのことが何を意味するのかといえば、つまりF-16ではエンジンが停止しても操縦桿がまったく使えなくなるわけではないということです。しかしEPUには駆動時間に制限があるため、なるべく早急に着陸を実施しなければなりません。

 Falcon AFでは非常に正確なフライト・モデルを採用しているため、(本物のジェット機と同じように)フレームアウト(エンジン停止)発生時においても着陸が可能です。では、どうやってこの鉄の塊のような機体を滑空させればいいのでしょうか? 実際のところ両翼は本当に鉄の塊です。そしてこの鉄の翼があるからこそ、落下スピードをいくらか抑えることが(つまり滑空することが)可能なのです。が、あくまでも「いくらか」ですが。

 F-16のDash-1マニュアルには、F-16では7nm滑空している間に5,000フィートずつ高度が下がっていく、と書かれています。しかしこの緊急事態下ではそんな計算をちまちましている暇はないので、そこで大まかにどれだけ遠くまで滑空できるかを確認するには、機体の高度(フィート)を1,000で割って、その数字を滑空できる距離(マイル:なお正確にはノーティカルマイルである)と考えてください。たとえば高度が20,000フィートの場合なら、滑空できる距離は20マイルとなります。しかし、この計算式は迎え角が6度の場合にのみ有効となります。この6度という迎え角は、ギアを格納した状態で、燃料や外部兵装の重量1,000ポンドにつき4ノットを210ノットに加えた速度で飛行すれば確保できます(エンジンが故障した場合は、直ちに外部兵装を投棄してください)。もし暗算が面倒なら、210~220ノットで飛べば良いと覚えておきましょう。そうすればギアを格納した状態で、迎え角が6度近くになります。なお、ギアを下ろした場合は速度を200ノットに変更してください。

 図11-1

 このフレームアウト・ランディングにおいても、グライド・パスの角度が異なる以外は通常の着陸と同様の操作となります。通常の着陸時のグライド・パスは2~3度ですが、フレームアウト・ランディングのグライド・パスは11~17度となります(詳しくは図11-2を参照)。この角度のグライド・パスで飛ぶことにより、アプローチおよび着陸を行なう間の適切な対気速度を維持することが可能となります。推力がない状態で急な角度でアプローチを行なうため、フレアを行なって機体の降下率を和らげるには対気速度を上げる必要があるのです。通常
の着陸時に行なうフレアでは迎え角が約11度でしたが、フレームアウト発生時の着陸で行なうフレアは迎え角が6度となります。これにより速度が約50ノット違ってきますので、ある程度練習を重ねる必要があります。

 図11-2


 トレーニングミッションの概要

 エンジンが停止した状態からの着陸訓練を行います。


 初期コンディション
 ・対気速度 :250ノット
 ・高  度 :10,000フィート(対地高度)
 ・スロットル:アイドル(エンジン停止状態)
 ・環境設定 :翼下増槽、Mk-82爆弾を搭載し燃料不足状態
 ・初期位置 :滑走路の中央線に正対して10マイル離れた位置

 図11-3



 ○ミッションの手順

 このミッションは、滑走路に正対した10nmの地点の高度10,000フィートを飛行している状態からの開始となります。機体は燃料が不足しているため間もなくエンジンが停止する筈です。"CAUTION - CAUTIO"(コーション:注意)という音声が聞こえたら、"Master Caution"(主警告灯:左アイブローパネルの一番上の)ボタンを押して警報を止めます。さらにHUD上には"Fuel"(燃料)警告が表示されます。そして自動的に"WARNIG - WARNING"(ワーニング:警告)という警報が聞こえてくるので、UFC右下の"Drift C/O"のトグルスイッチを下にさげて"WARN RESET"を選択するか、あるいは[ Ctrl + Alt + Shift + W ]を押して警告をリセットします。

 以下の手順に従って着陸を行ってください。

 1.トレーニングミッションの一覧から"11 Flameout Landing"を選択してください。
 2.[ Ctrl + J ]か、あるいはランディングギア状態指示灯のすぐとなりにある"EVER STORES JETTISON"ボタンを押して、外部兵装を全て投棄します(図11-3参照)。
 3.兵装を投棄したらAOA表示計を確認して、迎え角6度(速度約210ノット)で飛行してください。この場合、加速または減速は機体のピッチで調整するしかありません。もし迎え角が大きすぎる(つまり速度が遅すぎる)場合は、機首を押し下げて速度を上げてください。逆に迎え角が小さすぎる(つまり速度が速すぎる)場合は、機首を引き上げて速度を落とします。
 4.水平線上に滑走路を確認したら、グライド・パスに注意しつつ滑走路に向かって速度210ノットで飛行してください。速度210ノットを維持するには、浅く降下する必要があります。降下角11~17度の間で降下すれば、フレームアウト・ランディングを行なうのに充分なエネルギー(高度と速度)を維持することができます。11度のグライド・パスよりも低い高度にいる場合でも、着陸できる可能性はあります。グライドパスが11度よりも小さい場合に着陸可能かどうかは、そのときに吹いている風と、どのくらい11度のグライド・パスより低いかに左右されます。

 では、現在の機体のグライド・パスの角度はどのように判断するのでしょうか? 最良の方法は、HUD上でピッチラインとパスマーカーの位置を確認することです。パスマーカを滑走路の先端付近に重ねれば、ピッチラインからグライドパスの角度を判断できます。たとえば、パスマーカがマイナス5度のピッチラインに合っている場合はグライドパス角は5度となります。図11-4は11度のグライドパスでフレームアウト・ランディングを行なっている様子を示したものです。

 図11-4

 5.フライトパスが滑走路に正対降下していくように、バンク角を細かく修正してください。
 6.機体の制御を保ちながら[ T ]を押してタワー(管制塔)にコールします。[ 3 ]を押して"Declaring an emergency"(緊急事態を宣言する)を選択して、緊急着陸を行なうことを告げてください。ただし、まずやるべきことは機体を飛ばすことであり、無線連絡はその次です。パイロットが常に心がけておくべきは「ANC」という飛行中の優先順位についての概念です。これは"Aviate, Navigate, Communicate"の頭文字をとったもので、あるいは "Aviate, Navigate, Radiate"という言い方もします。意味は両方とも「飛行、操縦、連絡」であり左から順に優先順位が高くなります。つまり「連絡」するよりも機体を安全に「操縦」するのを優先し、また、うまく操縦するよりもとにかく墜落することなく「飛行」し続けることを優先しろという意味です。タワーにいる管制官はべつに機体を安全に着陸させられるフックを持っているわけでもなく、ただエアコンの効いた部屋でコーヒーでも飲みのみパイロットと(やや同情しつつ)交信しているだけです。機体を飛ばすのはパイロットであり、もし無線連絡する余裕がなければする必要はないのです。
 7.グライドパスの角度を11-17度に保ちながら、パスマーカを滑走路上に合わせ続けてください。対気速度が210~220ノットを超え始めた場合や、あるいは迎え角が6度を下回った場合は、[ Ctrl + Alt + Shift + G ]を押してギアを強制展開してください(レフトコンソール左端にあるフックをひっぱても同様に展開できます)。ただし適切な迎え角を維持できている場合は、高度2,000フィートに降下するまでギアを下ろさないようにしてください。油圧が不足しているため一度ギアを展開させると引き込むことができなくなってしまいます。また、対気速度が速すぎる場合は[ B ]を押してスピードブレーキを開くこともできます。しかし、速度が遅すぎる場合はスピードブレーキを開いてはいけません。
 8.高度500フィートに降下するまでパスマーカを滑走路の先端に合わせ続けてください。高度500フィートに降下した時点でギアが下りてロックされていることを確認します。目標地点(パスマーカ)を滑走路の末端に移してフレアを開始してください。フレームアウト・ランディングの場合は着陸滑走距離は通常より長くなりますが、特に心配する必要はありません。
 9.機体がタッチダウンし、車輪の接地音が聞こえたらガンクロスが10度のピッチラインに重なるように機首をゆっくり引き上げ、機体が空気抵抗(エアロブレーキ)を受けるようにします。F-16は機体が巨大なスピードブレーキとして機能します。滑走路にタッチダウンした時点でパスマーカは当てにならなくなるため、エアロブレーキを受ける際はガンクロスを見てピッチを判断します。速度が約100ノット以下に落ちると、機首は自動的に下がってくる筈です。スロットルがアイドル状態であることを再確認してください。しかし、グライドパスの角度11~17度、対気速度210~220ノットというこの設定がすべてのフレームアウト発生時の着陸に適用できるわけではないので注意しておいてください。

 図11-5

 10.機体を適当なところで停止さてミッションを終了します。


 最後に着陸操作についていくつかのアドバイスを記しておきます:

 ・滑走路がHUD上で迫ってきているにもかかわらず対気速度が落ちている場合は、滑走路にたどり着くことはできません。
 ・360度の旋回を行なうには、高度が約7,000フィート必要です。したがって対地高度が7,000フィートよりも高い場合は、降下しつつ360度旋回してください。
 ・ グライドパスの角度が11-17度よりも大きく、また360度の旋回を行なうには高度が足りない場合は、スピードブレーキを開き、左右にS字ターンを繰り返し行なって適切な11~17度のグライド・パスまで降下してください。
 ・高度や速度とは下降したり減速するのは比較的容易ですが、一方、再上昇したり再加速するというのは力学的に極めて困難です。なので速度と高度には常に余裕をもつようにしてください。速度160ノットで滑走路の始点にたどり着けないのよりも、40ノットで滑走路末端から少し飛び出すほうがまだましです。





 ○戦闘機にまつわる体験談

 F-5という戦闘機には双発のエンジンとそれぞれのエンジン用の火災警告灯が装備されており、エンジン内の温度が制御不能になるとこの警告灯が点灯します。普通の生活をしているうちはそんな深刻な緊急事態を目にすることをないでしょう。むしろ是非ともお目にかかりたくありません。

 このエンジン火災についてもCAP(Critical Action Procedures:緊急行動手順)が存在しており、手順は次の通りです:
 ・スロットルをアイドルにする
 ・アイドル状態でも火災警告灯が消えない場合は、スロットルを停止の位置に入れる(エンジンを切る)
 ・それでも依然消灯しない場合は、速やかに脱出する

 あれはどんよりとした曇りの日でした。しかし編隊を組みながら雲を抜けて10,000フィート上空へと飛び出ると、そこは当然ながらすっかり晴れわたっていました。そしてその日は先導機の側方1.5マイルを飛行しながら、トリムを調整したり目視によるチェックを一通り行って、機体が全て完璧な状態であることを確認しました。しかしそこで、ふと私は「全てが完璧だと思われるときほど、どこかしらに問題があるものだ。だからそういう時こそ、もう一度念入りにチェックをしなおすべきだ」というかつての教官に言われた言葉を思い出したのです。

 そしてコクピットのなかをぐるっと見回してみると、不意に怪しげな赤いライトが視界に飛び込んできました。私は驚きながら目線を素早く機外に走らせ、そしてまた機内に戻してから思わず唖然としてしまいました。その点灯しているライトは、左エンジンの「火災警告灯」だったのです。

 私は早速CAPの行程をなぞって、スロットルをアイドルに戻してみました――けれど依然として警告灯は消えず、やむなくスロットルを引き戻してエンジンを完全に停止させることでやっと消灯しました。そして手早くエンジンの停止措置を済ませ、無線に向かって「火災発生のため左エンジン停止。これより緊急帰投する」とコールして急遽針路を基地への帰還コースに向けました。

 それ以後警告灯は消えていましたし、またもう一機のエンジンは健全なようだったので、私はそれほど焦りは感じていませんでした。あとはTACANをチェックしながら45マイルほど離れた基地に戻るだけです。パスマーカで降下率を計算して「まったく今日は最悪な一日だ」などと笑いながらチェックリストを確認しつつ雲の下にでると、そこからはIMC(Instrument Meteorological Conditions:計器気象状態)のため計器飛行で一路基地を目指しました。

 が、不幸にもそこで再び不意なトラブルが起きました。どういうことか右エンジンの火災警告灯がちかちか点滅しはじめたのです。これにはさすがにびっくりして、抑えがたいほどアドレナリンがナイアガラの瀑布もかくやという勢いで頭の中を氾濫しました。が、こういう非常時こそ落ちつかなけれなりません。しかし無情にも警告灯のちかつきが止むことはありませんでした。もしかして警告灯を見間違えて、違う方のエンジンを止めてしまったのではかろうか……? 私はいよいよ狼狽してしまいました。

 そろりそろりと右エンジンのスロットルを下げていくと、エンジン回転数が85%のところでライトは消灯しました。また油圧系にも問題が起きていましたが、警告灯の反応に注意しつつスロットル操作を制限して、それでやっとのことで無事に基地まで帰還することができました。一時は本当に死ぬかと思いましたが、なんとか生きて帰ってこれたのは不幸中の幸いとしかいいようがありません。

 後の調査でわかったことですが、どうやら警告灯の回路の不調がこの事件の原因だったそうです。つまり警告灯が故障していたといわけです。いくらかの仲間たちはこれを笑い話として扱いますが、実際の体験者である私としては本当にシャレにならないできごとでした。













m
 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー