「君は何を考えているの?」

よりにもよって、こんなタイミングで。
情報屋の冷ややかな態度にもラッセルは、微動だにせず、逆を返せば平静過ぎる。
浮世離れた空気に疑問を抱いている様子で、言う。

「たまには学校に行ったらどうかって」

「……確かに『僕』は言ったよ。でも急にどうして?」

「どう……?」

「あれは皮肉のつもりだったんだよ。君が幸せな世界よりも現実を選ぶ理由なんて無い。
 それとも……学校に行かなきゃ駄目って『罪悪感』を覚えたのかな」

ラッセルは無表情で首を横に振る。
マスターの予想外極まりない行動は、ナーサリー・ライムこと情報屋も顔をしかめるほど。
彼の心の内でも困惑が明確で、スノーホワイトが『魔法』で読み取っていた。
何より。
学校――年代を予想すれば自ずと『見滝原中学校』を指し示している。

だが、スノーホワイトは……少なくてもセイヴァーが『見滝原中学校』に現れない事を知っている。
彼は吸血鬼だ。
最も危険なのは、現在の時刻。太陽の光が差し込まない間。
固有結界が安全領域。セイヴァー対策でなくとも、固有結界内にラッセルが居るだけでも有利なのだ。
わざわざ外へ出る必要がない。

ラッセルは、聖杯戦争とは関係なく。
個人的な気分で見滝原の街に赴きたい――そういう事だろう。
ならば、分からなくもない。
幾らここがラッセルを満たすモノで溢れ、安全であっても、永遠と居続けたい訳ではないように。

問題はタイミング。
聖杯戦争開始前。
暁美ほむらという『見滝原中学校』に在籍するマスターが、討伐令にかけられる前だったら良い方だろう。


スノーホワイトは冷静に思案する。
まだ、情報屋に対しセイヴァーの弱点・種族を明かしてはいない。
素直に開示しても悪くない面はあるが『セイヴァーが出現する可能性』を仄めかす場合で、状況も変化するのだ。

彼女が行わなければならないのは――
セイヴァー対策の布陣。所謂『セイヴァー包囲網』。
そして、彼女の新たな契約サーヴァントの捜索。
一つ。スノーホワイトは、討伐令目当てで集結する主従たちの捕捉と利用を目論んだ。







セイバーが坑道内に入った時点で、猫たちが騒がしかった。
別に薬物で参っている様子じゃあない。奥から鉄に衝突する衝撃音が喧しく響き続けている。
錯乱気味に一匹の猫が言う。

「マタタビ中毒達の怨霊だニャ! 焼却炉の『内側』から何かが出ようとしているニャンッ!!」

「そ、そんニャもんいる訳ニャいだろう!」

「とにかく焼却炉から逃げるんだよ―――!!」

情報の錯綜は酷いものだったが、少なくとも焼却炉に異常が起きている。
坑道から脱出を図る猫と幾つもすれ違いつつセイバーが発見したのは、へこみを生じさせ、破壊される手前の焼却炉。
うめき声?
あるいは、唸り声に近いモノが聞こえる。
直後、焼却炉から火の粉を巻きあげ、炎を纏い、燃え尽きた筈の黒き獣が飛び出す。

『犬』である。
人を押し倒せるほどの大型犬、に近い形状を炎に包まれたソレは保っている。
されど、大きさは人を優に超える。

三メートル以上を想定できる獣は、焼却炉の番を担当し、足をすくませて放心していた猫に飛びかかろうとする。
セイバーが構えたのは宝具『勇者を支えたもう一つの武具たち』の一つ、弓矢だ。
ただの弓矢じゃあない。
光の魔力が帯びた邪悪を断ちきらんとする輝きを灯った、特別な矢。

艶やかな一直線の軌道を描いて『犬』に放たれた矢は、悪を浄化する正常を放ち
命中したか否か関係なく『犬』は、光によって怯む。

セイバーは『時の勇者』として眼前の『犬』に酷似した邪悪を感じ取った経験がある。
彼の宿敵たる魔王。
それと同じ悪を。
『犬』は恐らく悪の根源による手先に過ぎない。

「ニャァァアァ………」

残された猫が、生きた心地しない気分で『犬』とセイバーの間をすり抜け、逃げた。
見届けたセイバーが再度、光の矢を構える。
使用時に魔力消費を余儀ないが、効果は明らかだ。

「■■■■■■■■■■■■!!」

言語化不可の吠え声一つ。
セイバーが再度放つ『光の矢』で『犬』は怯みの反応を見せたが、今度ばかりは構わず突進をする。
咄嗟に、セイバーは矢の構えを中断させ。坑道を占領する巨体を誇る『犬』の足元に前転し、攻撃を回避した。

弱点を理解したが、決してセイバーは優位に座していない。
巨体のモンスターとの戦闘経験が豊富であるセイバーには『犬』の攻撃自体は脅威じゃないが。
戦場たる坑道は――狭い。
二足歩行の猫たち専用を前提に作られた場所だからこそ『犬』の巨体は、身動きしにくく感じる。

が、『犬』は炎を纏っている。
取りつかれたか如く、衰えない威力を保ったまま炎はセイバーに襲う。
『犬』が前足をセイバーに振りかざすと。
纏った炎が個別に生きているかの如く、セイバーの盾による防御を無意味にする熱を与えた。

熱はセイバーの体力と気力をじわじわ削る。
ましてや、焼却炉より最近誕生した『犬』と違い、固有結界のモンスターと戦闘を経て。
魔力を消耗したセイバーが、万全の態勢と呼べる状態だろうか。

「ッ!!」

『犬』の大ぶりな上半身の振り被りと炎の猛威は、セイバー側からは狭い坑道で回避が容易でなかった。
広く間合いを取れないセイバーは、前足の直撃で背後に吹き飛ばされる。
宙に放り投げられ、体勢はそのまま。非常に危険な状態だ。
追撃されれば、セイバーに大ダメージは免れない。

寸前。

突撃しようと前のめりになった『犬』の体が歪に停止する。
『犬』の前足と地面を縫い合わせるように、ジッパーが出現していた。
僅かな足止めにでしかない、遅れて現れたブチャラティの援護だったが、セイバーには十分なものだ。

セイバーは着地を上手く出来なかったが、地面に叩きつけられ、即座に俊敏な動作で体を起こす。
起こしただけ十分だ。
彼の手元には、再度弓矢が構えられ。光の魔力を込めた一撃が放たれると。
ジッパーで動きを封じられた『犬』の眉間に吸い込まれた。

「■■■■■■■■■■■■―――――!!」

致命的な一撃。
効果を露わになる様に、邪悪に満ちた『犬』は操り糸が切れたように肢体を崩し、肉となった悪が消失していく。
改めて、ブチャラティが告げる。

「遅れてすまない、セイバー。……敵は倒せたようだな」

対してセイバーも構わない、の意味で反応を見せた。
一方、消失し終えた『犬』を見届け終えると、他の敵対モンスターとは異なり。
残骸代わりに、何かが地面に落ちていた。ブチャラティがソレを手に取る。

「これは……懐中時計か? 止まった状態だが……」

ブチャラティは、アイテムの意味や固有結界に関して、全てを理解した訳じゃあないが。
ただ、先ほどの『犬』に関しては何かが違うと、直感で確信を得ていた。

そして、セイバーもダンジョンめいた固有結界のシュチュエーションから、他にも何かが起きているのではと思い。
『犬』が現れた焼却炉に注目する。
破壊されたせいか、最早本来の機能は成しておらず。
熱は無く、深淵の闇がポッカリ覗かせているかと想像できる。
しかし、現実は異なり、セイバーは奥に全く異なる景色が広がっていたのを発見し、ブチャラティを呼びかけた。
ブチャラティも確認すると、どこか――『部屋』の光景があると分かった。

「向こうへ誘導されている……か」

一種の罠か。
だが、敵の固有結界内で、加えて敵サーヴァントの位置を掴めない以上、手掛かりを探さなくてはならない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。まさしく、そういう状況である。
意を決して、ブチャラティとセイバーは焼却炉内部へ突入した。






不味い。そうサリエリが焦りを感じるのは無理もない。
現在、マスターの元へ戻る最中。住宅街の全てが未曾有の恐竜パニックに陥っている状況。
サリエリが感知する限り。
恐竜の司令塔たるサーヴァントが周囲におらず。
元凶を叩く事により、事態を解決する事は叶わないと理解出来たところ。
彼は――マンホールに引き込まれた少女を目撃したのだ。

正しくは、マスターの一人。魔法少女・スノーホワイト。
彼女の魔力は、比較的サーヴァントの感知に引っ掛かりやすいほど、特徴的ではない。
ただ『マスターとして』。並を凌駕する魔力量を誇る。

故に、サリエリはスノーホワイトの補足と彼女に攻撃をしかけた『新手のサーヴァント』の存在を把握した。

(敵はもう一騎いるというのか!)

(マスター!!)

一方。
アパートで身を潜めるジリアンは、現時点では恐竜に捕捉された様子はない。
しかし、着実に恐竜の感染は彼女の居るアパートへ向けられる。
何よりも他の住民たちが騒ぎで目を覚ましたり、明かりをつけて敵に居場所を判明させる反応すら起こす。

恐竜達は軒並み別方角に移動するものと
仲間を増やすべく、民家に侵入するもので別れているが。
ジリアンは念話で答えた。

(あ、アヴェンジャーさんが来るまで隠れています! まだ恐竜たちには気付かれてないようですし……)

(油断はするな! 恐竜使いの他にも、敵が居るのだ!!)

無難に考えればアサシンか、気配遮断の類を持ったサーヴァントが潜伏している。
サリエリは亡霊の使い魔を複数出現。
それを撹乱に用いて、剣の接近や銃の遠距離攻撃を行う。
倒す前提ではないが上手い具合に恐竜らは、使い魔の方へ意識を集中。
サリエリよりも近い距離で『動く』使い魔を優先させていく。

(新手のサーヴァント……?)

そして、ジリアンも相方のサーヴァントから聞かされた存在を警戒するべく、一旦ベランダ側の窓から退避する。
恐竜の鳴き声や喧騒は、あちこちするうえ。
アパートの住民が起床した物音が、ジリアンの部屋まで響いた。
この様子では、時間の問題だろうか。
隠れると宣言するも、都合の良い場所は限られている。質素な室内に置かれたベッドの下なら、ジリアンも入りこめそうだ。

隙間を覗きこみ。何かと視線が合うまでは――思っていた。

「!?」

咄嗟に距離を取ったジリアン。
漆黒の間の視線は消えたように感じる。だが、決して見間違いではない。
口元を手で押さえ、恐竜から悟られない様に必死だった。

間違いなく敵だ。
悪意ある存在……自分と同じ聖杯を狙う者!
サリエリがアパートに到達するまでは、無暗に外へ逃亡は出来ない。
狭いアパートのワンルームなら、強いて洗面所か収納スペースしか身を隠せないが。
最早、令呪でサリエリを呼び寄せる方が賢明では? ジリアンは手の甲に視点をチラリ移す。

令呪の効力は、ジリアンも把握している。
だからこそ、ここぞ――と呼ぶべきタイミングをイマイチ想像しにくく。
危機的状況だが、令呪はここで消耗して良いのか。不安がある。

(ううん、駄目だ。まだ使うには早過ぎる)

多少抵抗を覚えつつも、ジリアンは玄関に駆けて行った。
扉ごしで外の様子を伺おうとした。ひょっとすれば、運良く恐竜と遭遇せずサリエリと合流が叶う。
僅かな希望を信じた。そんな彼女が目にしたのは、窓ガラスにベッタリ張り付く『黒い影』。
人の形をしているような。……形が『何か』を連想させている。

瞬間。
バンッ、ゴンと衝突音が扉に響く。窓ガラスにも『黒い影』をかき消すように新たな存在が形を露わにする。
恐竜だった。
が――あまりに奇妙だが、例の『黒い影』は完全に消えてなかった。
『黒い影』と重なる様に向こう側に、人が変化しただろう中型恐竜の形が、街灯に照らされ輪郭を確かとさせた。

ジリアンはハッとした。
彼女は気付く。『黒い影』の正体は――セイヴァー!
討伐令の写真にあった……あの人物が背を向けて振り返っているような形であると!!

(玄関から離れろ!!)

刹那に響いたサリエリの怒声は、念話だけのものだった。
ジリアンが反射的に行動した途端に無数の使い魔達が、扉の前を占領する恐竜に突撃していく。
恐竜は押し倒され、玄関回りを崩壊させながらも再起不能にさせる。
恐る恐るジリアンが様子見するが、倒し伏せられた恐竜が成人男性に戻りつつある光景が広がる。
先ほど見たセイヴァーの影は消失していた。

復讐者の鎧を纏った状態ながら、サリエリは彼女の元へと現れた。
困惑気味にジリアンが問う。

「……アヴェンジャーさん。セイヴァーがいたんじゃ……?」

「セイヴァーだと?」

しばし間を開けた後にサリエリは「いや」と否定した。
サーヴァントの魔力反応を、それこそアサシンのような気配遮断スキルがなければ、確実に見逃す訳がない。
改めてジリアンが破壊された玄関から、外を伺ってみると。
似たような恐竜の侵入跡が住宅街のところどころで目に入る。

「まだボクがマスターだと捕捉されていないなら、良いんですけど……」

「……ならば、あえてマンション方面に向かうべきだろう。ここら一帯の住人の大半は恐竜として移動させられている」

確かに――ジリアンも冷静に状況を整理する。
マンション方面に存在しない方が、『一般人』それと『恐竜化した場合』を考慮すれば。
むしろ違和感を与える結果になるのだ。
上手く紛れこめば、他の主従の捕捉も可能となる筈……ただ。

サリエリとジリアンらに、セイヴァーの影を警戒する意志が芽生えた。






『見滝原』という日本に属する町であるが、西洋ヨーロッパを彷彿させる街並みや美意識が散りばめられている。
ブチャラティ達が至った空間もそうだ。
天井で回転する無数の歯車。装飾に部類されるらしいソレが配置されたリビング。
近代技術の一つで、立体映像が空間に浮かび上がっている。
目を通していけば……どうやら聖杯戦争のウワサに関する資料だ。
彼らが到着した空間――もとい、一つの家を調べれば驚く事実が発覚する。


「ここはッ、暁美ほむらの自宅!?」


寝室の机に置かれていた配達物。宛先をしっかり目を通せば、あの討伐令にかけらた少女の名がある。
まさかとブチャラティはスタンドでジッパーを出現させた。
普通に、床や壁に『いつも通り』能力が露わになるのを目にし、ここが固有結界より外の。
元いた見滝原の街だと認知するブチャラティ。

暁美ほむら
そして、セイヴァーもどうやらここに居ないらしい。

ブチャラティ達が通って来た道も、気付いた頃には消失しており。
ただ、手元には焼却炉の前で拾った『時計』が残った。
彼はセイバーに確認を取らせる。

「セイバー。靴はどうだった? 少なくともこちらに『学生鞄』はなかった」

靴。
外出するなら必要不可欠なもの。
セイバーが目にした限り、学生靴らしい堅苦しいものは無かったと言う。
既に、家を離れたが……どうやら学生の恰好を取れるように、暁美ほむらは装備を整えているらしい。

「あの空間の支配者がセイヴァー? いや、外で協力者を作っていた奴の戦略とは噛み合っていない……」

偶然?
たまたま、この空間へ抜け出しただけなのだろうか。
ブチャラティもこれ以上の考察は不毛だと悟る。情報が少な過ぎる。結論を急いでは駄目だ。
次の問題は、例の空間を放置しておけないが。
再び空間へ侵入するのが困難であり、無暗に探索しても敵サーヴァントを捕捉できない点。
協力者が必要でも、どのような手段で敵を炙りだすべきか。

「それと……暁美ほむらだ。状況を判断するに、見滝原中学へ向かう可能性は高い」

前提の話。
暁美ほむらが討伐令を把握しているか、と考えれば『知らない』方が正解に近いだろう。
主催者側も、わざわざ討伐対象に討伐令を教えるのも……
否、そういう手も無くはないが、しっかり学生セットを持ち出した彼女は、何であれ中学には向かう魂胆だ。

やはり見滝原中学校だ。
暁美ほむらが向かうならば、激しい戦火が自ずと想像できる。


ブチャラティはあらゆる状況の判断で気付かなかったが、停止していた『懐中時計』の針が動き出していた。






情報屋が静かに口を開いた。

「学校の準備どころか、制服だって向こうに置いてきたじゃないか」

「あ……そうだった」

ラッセルも思い出す。
彼が住んでいた場所は固有結界そのものじゃあないし、別々だ。
制服も勉強道具も、食事は……こちら側で用意したもので賄えそうだが。
不敵な表情を浮かべつつも、満更でない様子で情報屋はこう続ける。

「大丈夫、こっちで用意しておくから。……ラッセル、一度家に戻ってみなよ」

そんな事が出来るのか。
驚くラッセルはちっぽけな関心を覚えつつ「うん」と頷く。
しかし、むしろソレだけだった。他に何か、例えば感謝の意を示すなど口にするべき事が欠けていた。


「む? ラッセルか……?」

情報屋の家から出たラッセルは、深夜にも関わらず誰かから声をかけられた。
振り返ると神父の青年・ドグマの姿がある。
不思議そうにラッセルが眺め返す様子に、慌ててドグマも言葉加える。

「トコヤミタウンでの葬儀に時間がかかってしまってな。今日は……色々あったのだ」

色々。
その意味合いも情報量が多い話だ。
ドグマは、ラッセルになんと伝えればいいのか分からないほど、奇妙で鮮明な出来事が起きた。
未だに現実味なく、ドグマも何かに化かされたのではと繰り返し思い耽るほどだ。
迷いを振り払うよう、ドグマは眼前の友人に尋ねる。

「ラッセルは……このような時間にどうしたのだ?」

「ドグマ。僕、明日学校に行くよ」

「学校? おお、そうか。明日は月曜であったな、確か………」


………………………学校?


凄まじい違和感がドグマの中で渦を描いた。
ラッセルの言う『学校』とはなんなのだろうか? そもそも、ラッセルは学校にかよっていただろうか?
この世界に、学校は。

ドグマは深淵を覗きこんだ恐怖を込み上げる。
考えてはならない。何も、これ以上の事を聞いてはならない。
純粋無垢に見つめ返すラッセルと目が合い、ドグマは動揺を隠せず踵返す。

「ならば早く寝た方がよいぞ、ラッセル。私も教会へ戻らなくては」

「うん。おやすみ、ドグマ」

気味悪いほど落ち着いた言葉でラッセルはドグマを見届けた。
彼の様子がおかしい。馬鹿でもないほど誰だって気付く。
分かっていてもラッセルは、深く言及せずに自宅へ戻って見る。

ベッドくらいしか家具らしいものはない空間。
だからこそ、見滝原中学校の制服と学生鞄はベッドの上に置かれた状態だった。
聖杯戦争が始まる前。ラッセルが記憶を取り戻す前には毎日、当たり前のようにこれを着て登校していた。
しかし……
記憶を取り戻した今と話は変わってくる。
むしろ、記憶が戻ってからは夢の世界もとい固有結界で過ごし続けていたのだから。

「ドグマの言う通り、朝になるまで寝ておこう……」






残されたスノーホワイトは『魔法』で知りつつも、情報屋に尋ねる。

「彼の言う学校は見滝原中学校ですよね。行かせるのは危険ではないでしょうか」

「ああ、アレに関しては問題ないさ」

ラッセルを一時的の間、学校に居させるにしても暁美ほむら狙いの主従達が危険なのに変わりは無い。
しかし、情報屋は不敵に嗤う。
理由をスノーホワイトは読み取れなかった。
悩みの反響で聞こえる類ではない事情で、ラッセルに関する支障はないと?

「………外の方ですが」

スノーホワイトは改めて話を続けた。

「中学校に現れると想定する主従の目的は、無難に三つの勢力が現れると思います。
 一つは、討伐令の報酬を目的とする者。私と同じく帰還を望むマスター。
 二つ目は、討伐令を狙った主従を狩る者。聖杯作成を目的とする主従。
 最後は……前者二つを阻止せんとする者です。根本的に聖杯戦争の方針に反対を意を持つ主従」

「君の想定は、分からなくもないかな。一体どれほど中学校に集まるか、不明ではあるけど」

「いいえ。今回の場合、主従の方針事態は重要ではありません。どれほどの数が集中するかです」

「数の集中?」

「はい。私が危険視しているのは、セイヴァー側の戦力が膨れ上がる事です。
 私のバーサーカーだけでなく、他の主従がセイヴァー側に『堕ちる』警戒をしなくてはなりません」

「……ああ。そうか、洗脳能力って奴だね? 君みたいな魔力持ちじゃないマスターに抵抗能力は期待できない」

「はい。しかし、アサシンさんの固有結界を上手く利用すれば、セイヴァーと他主従の接触を回避できます」

一見『セイヴァー包囲網』はスノーホワイトが挙げた三つの勢力図が拮抗し、
包囲網として機能するか怪しい部分のある。心もとない、欠陥まみれの戦況に映りかねないが。
実際、向こうから『手駒となる存在』が火へ飛び込む虫のように。
セイヴァーからすれば、格好の餌だろう。

スノーホワイトも、セイヴァーのカリスマを正確に計れていないが。
彼女のバーサーカーのような厄介者を心酔させる魅了は、確かに存在する訳なのだ。

……と。
ここまでセイヴァーが見滝原中学校に現れる前提で話を進めている彼ら。
セイヴァーが現れずとも、必ず他主従の存在を捕捉出来る筈。
視点を変えれば滑稽な茶番でしかないが、無駄に終わる計画じゃないとスノーホワイトも推測した。

情報屋側も、様々に憶測を立てる。

「残念だけど、暁美ほむらやセイヴァーが現れる保証はないよ」

討伐令抜きに暁美ほむらが現れない可能性があり、肝心のセイヴァーも居ない場合もある。
第一に。情報屋もスノーホワイトを信用しきってはいない。

少なくとも、サーヴァントを呼び出せないスノーホワイトは利用価値がある。
セイヴァー包囲網の形成以外にも、魔力源としても。
問題の時刻。
見滝原中学の通学時間が着実に迫っていた。






スノーホワイトとの会話裏で情報屋が把握していたもの。
ブチャラティたちが固有結界から脱出し、ジリアンを固有結界に引き込みそこねた事。
ラッセルの異変。
それぞれに関する心の声を、スノーホワイトが聞き取れなかったのは単純に。
困った事情でなかったからだろう。

何故?

固有結界に引き込める獲物を取り逃がした。
既に捉えていた獲物が抜け出した。

それが疑念になっておらず、むしろ『悪』を増殖させる一環として利用するなら?


所謂――『発癌』してしまったのだ。


ラッセルが完全に悪意の宝具に影響されつつあるように。
彼と鏡合わせである情報屋ことナーサリー・ライムにも悪意が転移した。
そして最悪だが。
自らが悪が故に、悪を受け入れるというアサシンの側面が為に、無意識な侵食は止められないだろう。
少なくとも病を治せる黄金の精神は、ここに居なくなったのだから。



ナーサリー・ライムの固有結界/月曜日 早朝】

【ラッセル・シーガー@END ROLL】
[状態]魔力消費(小)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(小)就寝
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]日記帳
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと普通にくらす
0.元に戻った? まだ分からない……
1.学校に行ってみる
2.セイヴァー(DIO)に思うところがあるが……
[備考]
※聖杯戦争の情報や討伐令のことも把握していますが、気にせず固有結界で生活を送るつもりです。
※セイヴァー(DIO)のスキルの影響で、彼に対する関心を多少抱いています。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食により罪悪感が一時的に消失しています。
 ラッセル自身はまだ自覚しておりません。


【アサシン(ナーサリー・ライム)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:固有結界を維持しつつ、聖杯作成を行う
1.ラッセルを学校に行かせてみる。
2.セイヴァー(DIO)を侵入させないようにするが……倒すのは……
3.見滝原中学に関してはまだ様子見。
4.スノーホワイトに関しては、半信半疑。
[備考]
※セイヴァー(DIO)の真名および『漆黒の頂きに君臨する王』を把握しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』によって固有結界が支配されると理解しました。
※現在、新都心と繁華街にのみ結界の『入口』を解放しています。
※ブチャラティ&セイバー(リンク)の主従を確認しました。
※マスターのスノーホワイトと彼女のサーヴァントの情報を把握しました。
※ジリアン&アヴェンジャー(サリエリ)の主従を確認しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食が進行しつつあり、固有結界内部や能力に影響がありますが。
 現時点でナーサリー・ライム自身に自覚症状はありません。



スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]魔力消費(小)、魔法少女に変身中、プク・プックの洗脳
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]『ルーラ』
[道具]『四次元袋』
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得。全てはプク様の為に
1.再契約するサーヴァントを見極める。
2.セイヴァーとの契約は最悪の場合のみにしておく。
3.見滝原中学で発生するだろうセイヴァー包囲網を利用する。
[備考]
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)への魔力供給を最低限抑えています。
※ブチャラティ組、マシュ組の動向を把握しました。
※セイヴァー(DIO)が吸血鬼であることを知っています。
※セイヴァー狙いで見滝原中学に向かうつもりはありません。
※現在、プク・プックの洗脳は継続されています。
※ラッセル組を把握し、アサシン(ナーサリー)のステータスを把握しました。
※対魔力のランク次第で彼女の『魔法』が通用しにくいサーヴァントがいます。



【B-3 暁美ほむら自宅周辺/月曜日 早朝】

ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]懐中時計?
[所持金]数十万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打破
0.見滝原中学か……
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.出来れば協力者が欲しい
3.セイヴァーとの接触
4.アヤ・エイジアの殺害は阻止したい
5.どこかに居るであろうディアボロへの警戒
[備考]
※固有結界のサーヴァントが魂食いを行っていると疑っています。
※セイヴァー(DIO)とジョルノの関係性を感じ取っています。
※ウワサの内容から時間泥棒がディアボロではないかと睨んでいます。
リンクから時を静止させる存在が居る事を把握しております。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の影響で発生したモンスターがドロップした懐中時計を持っています。
 何かに反応し、針は動いています。効力や影響は後述の書き手様にお任せします。
※ほむらの自宅を把握しました。彼女が見滝原中学へ通学すると推測してます。


【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(中)、肉体ダメージ(小)
[ソウルジェム]無
[装備]『時を超える退魔の剣(マスターソード)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティの方針に従う
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.見滝原に響く時の音が気になる。
[備考]
※杳馬が『天国への階段』を阻止する時の音が聞こえていますが
 確証のない情報の為、マスターのブチャラティには打ち明かしてません。
※ブチャラティからディアボロに関する情報を把握しています。
※時に関する能力の発動を認識しております。




【E-5 住宅街/月曜日 早朝】

ジリアン・リットナー@被虐のノエル】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]中学生が生活できるほどの仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、ノエルの復讐を止める
0.マンション方面へ向かう。
1.普通を装って、マスターであること隠し通す。
2.見滝原中学には通学する予定
3.さっきのは……セイヴァー?
[備考]
※ノエル(NPC)はマスターではないと現時点では判断しています。
※攻撃を仕掛けてきたサーヴァントがセイヴァーではないかと疑っています。


【アヴェンジャー(アントニオ・サリエリ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの願いを叶えてはやりたいが……
0.マンション方面へ向かう。
1.悪を引き寄せるサーヴァントへの警戒
[備考]
※ノエル(NPC)はマスターではないと現時点では判断しています
※主催者はゲーム終了後、マスター達を帰還させないのではと考察しています
※マシュとシールダー(ブローディア)、X&バーサーカー(カーズ)の主従を確認しました
※『悪』を引き寄せる宝具を持つサーヴァントがいると分かりました。
 その宝具の影響で、宝具やスキルの威力が低下するようです。
※マスターであるスノーホワイトの存在を把握しました。
最終更新:2018年10月09日 11:44