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三匹が斬る ◆NXFS1YVsDc



プロジェクト"BATTLE ROYALE"。
計61体のフィギュアによる、たった一つの生存権を賭けた殺し合い。




……そういう物語である、はずなのだが。




「なんだ……ここは……?」


リボルテックヤマグチのアクションフィギュア、新ゲッター1
プロジェクトの被験体として参加させられていたはずの彼だが……
彼が今、目にしている光景は、先程まで彼がいた街――実験場とは、違った。

見渡す限りの、廃墟。

「一体どうなってやがる!?……いや、確かここは」


新ゲッター1は、彼の中に宿る流竜馬の記憶は、この場所を知っている。
見たことがある。原作のあるエピソードで見た光景と、一致する。

「あの時の……ゲッターの、世界なのか」







――新宿。








荒れ果てた街。
そこに無数に転がっている、ゲッターロボの残骸。



そうだ、この光景は見覚えがある。
かつて流竜馬が跳んだ『ゲッターが最終的に行き着く果て』の、可能性の一つといえる世界。

同じだ、オリジナルの流竜馬の経験と。
ゲッター線に取り込まれた人類が、互いに争い食らい合う悪夢のような世界と。
ただ、決定的に違うのは……

「こいつは……このゲッターは」

ここに朽ちているゲッターの残骸は、

「こいつの関節……俺と同じリボルテック製か!?こっちの奴のボディには超合金が使われてるじゃねぇか!」

全てフィギュアであるということ。

「こいつは新世紀合金製の俺じゃねぇか!うおっ、こっちは完全変形ゲッターロボかよ!?ったく、派手にぶっ壊しちまいやがって……
 そしてこっちは……でかいと思ったら、懐かしのジャンボマシンダーか!」

手近な残骸を一通り確認した後、もう一度周囲を見回してみる。
ゲッターが玩具であること以外は、原作第9話『地獄変』での光景と、ことごとく一致していた。

「何なんだここは……あの場面を再現した、ジオラマなのか?随分とこだわって……ッ!?」

ふと、何者かの視線を感じて空を見上げる。
誰だ?ジオラマを作成した人間か?
いや、違う。

空の果て、宇宙の果てにいるその存在を、新ゲッター1は確かに感じ取った。





――ゲッター聖ドラゴン。


――そして、、星をも掴むほど巨大な、皇帝の名を冠するゲッター。





「ばかな……こんなはずは」

こいつらが存在するはずがない。
こいつらが立体化したという話など聞いたことがない。
仮に立体化したところで、地球より巨大なフィギュアなどありえるわけがない。

新ゲッター1は、本能的に感じ取っていた。あの巨大なゲッターが、自分自身であることを。
だとすれば――

「ああ、そういうことかい」

ふいに、背後に気配を感じ取る。
次の瞬間、玩具の残骸を吹き飛ばしながら、地の中から巨大な影が現れる。

「結局、ここでも俺の行き着く先は同じってわけか」

振り返り、目にした物体……それは、新ゲッター1より一回りほど大きなサイズのゲッターだった。

「こいつはプロトゲッター……いや、その設定は俺達の世界だけの話だったな」

そのボディは超合金製。だが、スーパーロボット超合金のラインナップに、確かこいつはまだ加わっていないはずだ。

「だが、何処であろうと何であろうと……俺のやることは変わることはねぇ」

「グ……ォォォォォォォォッ!!!!」

超合金――『超合金魂』の初代ゲッター1が、雄叫びと共にゲッタートマホークを振りかざし、襲い掛かる!
新ゲッター1もまた、自身のゲッタートマホークを掲げ、立ち向かう!

「本当の戦いはここからだ!!いくぜぇぇぇぇぇっ!!!!!」



【ゲッターロボフィギュア バトルロワイアル  第一部 完 】



◇ ◇ ◇













「竜馬ぁッ!!いつまで寝ているつもりだ!!!」

『いい加減に起きやがれッ!!!』












◇ ◇ ◇


『―――ッ!?』

隼人と弁慶の呼ぶ声に、竜馬の意識が覚醒し、現実に引き戻される。
目が覚めた場所は廃墟でも宇宙でもなく、どこかの民家の一室で。
自分の身体はゲッター2の姿で、クレイドルの上で座り込んでいた。

『な、なんだ!?今のは一体……!?』
「ようやくお目覚めか。人工知能のくせに寝過ごした上に寝ぼけるとはな」
『ったく、さっきまでメインで散々暴れておいて、サブに回った途端これだからよ。いい神経してるぜ』

新ゲッターのフィギュアには、複数のAIが搭載されていた。
原作におけるゲッターのパイロット、流竜馬・神隼人・武蔵坊弁慶……それぞれの人格を持った、3つのAIが。
3つの形態にチェンジできるゲッターは、その形態ごとにメインAIも切り替わる。
現在のゲッター2の形態では、メインAIは隼人。竜馬と弁慶はサブに回って控えている状態だ。

阿修羅との戦いの後、ゲッターは近くの民家の中に入って安全な場所を確保。
その後、充電を行うべくクレイドルの上で眠りについていたのだが……
その眠りの中で、ゲッターの中に搭載されている三つのAIの一つである竜馬は、奇妙な夢を見たのだった。

『ちっ、まさかここでまでこの手の夢を見せられるとはな……突っ込み所だらけでいろいろおかしかった気がするが』
「何を言っている、俺達はフィギュアに埋め込まれた人工知能だぞ。夢を見ることなどありえん」
『うるせぇ。それでも見ちまったんだからしょうがねぇだろうが』
『オリジナルの記憶なんじゃないか?死に際に走馬灯見るとか言うアレだろ』
『人を勝手に死にかけにしてんじゃねぇクソ坊主!』

確かに、原作の流竜馬もゲッターの世界の果てに触れたことがあった。
だが、それが原作の記憶そのままかというと、あれは何かが違う。
何より、あの場にいた『自分』は原作の流竜馬でもゲッターロボでもない。
紛れもない今ここにいる自分自身――『リボルテックヤマグチの』新ゲッター1だった。

『ったく、だいたいここじゃ俺達は正真正銘の一心同体なんだぞ。俺が死にかけならお前らだって死にかけだろうが』
『そうだ竜馬、俺達は一心同体だ。だから夢だろうが何だろうが、お前が見たものなら俺達にだって同じものが見えなきゃおかしい』
『それはそうだが……オリジナルの過去の記憶とは微妙に違うし、夢としてもあまりにリアルだったような……』

あれは本当に夢だったのか?不可解な疑惑が、竜馬の思考を包み込む。
思考がゲッター線の迷宮へと陥りかける彼に、もう一つの人格が水を差してきた。

「……おい、"新ゲッター1"」
『な、なんだよ。改まって』

隼人――新ゲッター2のメインAIは、あえてモデルとなったロボットの名前で竜馬――新ゲッター1のAIに呼びかけた。

「お前はあくまで新ゲッター1だ。厳密にはそれを模しただけの可動フィギュアだ。
 人格や記憶がオリジナルの流竜馬に忠実に模倣されているが、それ以上でもそれ以下でもない。
 お前がどこまで流竜馬になり切っているかは知らんが……はっきりさせておく。お前は、流竜馬じゃない」
『……ああ、そうだな』
「このフィギュアの身体だってそうだ。内蔵電力で動いているこのボディには、ゲッター線など一切使われてはいない。
 ゲッタービームにしても、ビームの見た目をそれらしく整えただけの、ゲッターとは名ばかりの光線だ。
 つまりここにいる俺達は、ゲッター線というものとは全くの無縁の存在ということになる」
『んなことはわかってるよ。だからどうだってんだ』
「だから、この際ここではっきり言っておく」

一息溜めて、隼人は釘を刺した。


「お前がゲッター線に選ばれてどこかに飛んでいって虚無るような、いつもの展開はあり得ないからな」


ああ、言ってしまったよこの人は。
原作を作品として客観的に見られるからこそできるメタ発言である。

『……何だよいつもの展開ってのは!?』
「言葉の通りだ。うちの原作者のお家芸にしてお約束だろう、そういうラストは」
『何だよ隼人。置いてけぼり食らった原作アニメが気に入らないのか?』

茶化すように、AI弁慶が会話に割り込んでくる。
確かに原作の流竜馬は、最終決戦の後、神隼人と武蔵坊弁慶を置いて、一人ゲッターの世界に旅立っていた。
……気にしてたんだろうか。
そういえば新ゲッターの神隼人は、ゲッターに依怙贔屓されまくる竜馬に微妙に嫉妬してたようなしてなかったような。

「……新ゲッターのアニメに限らず、どうも他のゲッター世界でも置いていかれているような気がする。神隼人はそういう奴だ」
『なんだよそりゃ!他所のゲッターのことなんざ俺が知るか!』
「いいな!やるなよ!絶対やるなよ!」
『うるせぇ!!つーかネタ振りみたいな言い方やめろ!』

なんとも取り留めのない不毛な言い争いを続ける竜馬と隼人を見かね、弁慶は再度、呆れるように間に割り込んだ。

『いい加減にしろ二人とも。隼人、今はそんなこと話してる場合じゃないだろ』
「……そうだったな、行くぞ」
『行くっておい、どこへ行くつもりだ?充電はまだ完了していないみたいだが』
「隣の家だ。お前が眠っている間に、向こうに他のフィギュアの影が見えた」

気を取り直した隼人がそう言うと、ゲッター2の視線を部屋の窓へと向ける。
窓の外には隣の家が、さらにその家の窓が見え、そこから中の様子が確認できた。

『はっきりとは見えなかったが、二人連れだったぜ。しかも片方は女の子っぽかったなぁ……へへっ』
『ヘラヘラしてんじゃねぇ、弁慶。で、接触するつもりか、隼人?電力のほうは大丈夫なんだろうな』
「十分余裕を持てるだけの量は回復している。お前が無謀な戦いをしなければな」
『へいへい』
「それに今後のためにも早いうちに、少しでもコネクションは築いておきたい」

ゲッターロボといえど、ここでは一介の可動フィギュアでしかない。
彼らが今後どう動くにしても、他の参加フィギュアとの接触は避けられなかった。

『さっきの仏像野郎みたいに、問答無用で襲い掛かられるのは御免だぜ?』

開始早々に遭遇しいきなり戦闘する羽目になった、リボルテック阿修羅像のことを思い返す。
一応、阿修羅に対しては彼らなりに友好的に接したつもりだった。
だが戦いの神の意思が宿った阿修羅には、一切の言葉も説得も通用しなかった。
ゲッターにとってあの戦いは、有無を言わさず攻撃を仕掛けられたが故の、已む無い正当防衛でしかない。

「つるんでいる以上は、少なくとも奴のような見境なしというわけではあるまい。話してみる価値はある」
『確かにな……ま、俺としちゃ敵だろうと別に構わねぇけどよ。襲ってくるっていうなら受けて立ってやるまでだ』
『やれやれ。程々にしとけよ、竜馬』

ゲッターロボシリーズの中でも特に凶暴凶悪でバイオレンスな部分の強さを語られやすい新ゲッターロボの面々ではあるが、
だからと言って、彼らは決して見境なしのバーサーカーというわけではない。
人間に一方的に指示されて、はいそうですかと嬉々として殺し合いに乗ることなど断じてありえない。
彼らの性分からすれば、むしろ最も忌み嫌う選択肢とすら言えるだろう。
胸糞悪い殺し合いを強制してくるクソ野郎がいるなら、そいつに真っ向から反発する。彼らのスタンスが揺らぐことなどなかった。
誰であろうと。人間であろうと、神であろうと、そして彼らにとっては――ゲッターであろうと、だ。


◇ ◇ ◇


「本当に行く気ですか、フォーゼさん」

如月千早仮面ライダーフォーゼと遭遇し、しばらく落ち着いてからのこと。
フォーゼは、最初に二人が出会った場所……すなわち、千早がコダールiに襲われていた書斎に戻ろうとしていた。

「弦太朗でいいって言ってるだろ、千早」
「……フォーゼさん、まださっきのロボットが潜んでる可能性が高いんですよ」
「だからこそだ。言っただろ、俺は全てのフィギュアとダチになる男だ。もちろん、アイツともな」
「はっきり言いますけど、あのロボットはそういう話の通じる相手じゃないと思います」

あれから落ち着き、冷静になればなるほど、千早の恐怖は治まるどころか逆に膨らんでいく。
よく生き延びられたものだと。フォーゼが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか。
想像するだけでも全身に嫌な震えが走る。
無機質な人型兵器が明確に自分へと向けてきた――銃口と、本物の殺意と、決して相容れることのありえない狂気。
このバトルロワイアルという異様な空間も含めて、平和な現代日本に住むキャラクターである彼女にとっては、あまりにも重過ぎた。

「千早の言ったようにマジでやばい相手だったら、なおさらだ。
 そいつを放っておいたら、他のフィギュア達に襲い掛かるかもしれないだろ?」
「……一応、そういうことにも考えは回しているんですね」

千早のフォーゼに対する印象は冷め切っていた。
こんな状況下でも怖気づくことなく戦い、何の疑問も抱かず我が道を進むことができるフォーゼのことが理解できない。
まるで全く違う世界の住人のような……いや事実その通りなのだが。
特撮ヒーローにとっては悪と戦うことが自然なことであり、戦場に身を置くことなど日常茶飯事である。
そんな場馴れした彼とは、根本的な価値観そのものが別物のように感じられた。
同じ人間が生み出したキャラクターではないようにすら思えるほど、遠い世界の存在に見えた。
……もっとも、ヒーローであることを踏まえたとしても、如月弦太朗はかなり斜め上のぶっ飛んだキャラクターではあったのだが。

「千早は、ここで隠れて待っててくれ。すぐに戻ってくる」

そう言い残し、フォーゼは部屋――台所を出ていった。
そして、この場には千早一人が残された。

「……まあ、別に構いませんけど」



青春モード全開で騒がしい彼がいなくなって……一気に、千早の周囲に静寂が戻った。

ふぅ、と大きくため息をついて……今度は心細さが押し寄せてくる。
少し前まで疎むような態度をとっておきながら、少女は自分の我儘さに呆れた。
冷めた対応をとってはいたが、実際の所、彼に対しては決して悪い印象は抱いてはいない。
彼が子供達の憧れであるヒーローを模しているが故に、だろうか。
だからこそ迷わず、自分を見失うことなく走ることのできる彼を、皮肉などではなく純粋に、羨ましいと思えた。
――それに比べて、自分はなんと惨めなのだろう。
オリジナルの如月千早は輝いていた。
自分自身の弱さと向き合い、幾多の困難を乗り越え、トップアイドルの座に上り詰めた。
それはプロデューサーや、765プロの仲間達との絆あってのものだった。
だが、ここにいる自分には何もない。
仲間も絆も持たず、ただ人格だけをコピーされ殺し合いを強要されるだけの存在でしかない。
なんとちっぽけで薄っぺらい存在だ。如月千早を模したが故に受け継いだ彼女の夢も、ここではなんと虚しいことか。
そんな劣等感を噛みしめながら、もう一度、しかし先程とは違った意味を込めて、大きくため息をついた。

そんな物思いに耽る時間を、状況は長くは許してはくれなかった。

静かな空間に、小さな足音が聞こえた。ちょうど、千早の背後からだ。
心臓が止まるかのような驚愕と共に、背筋に寒気が走る……そんな人間のような感覚を、全身の回路が再現する。
その意味から逃避するように、そんな不安を払拭するように……千早は、その音の主に対し声をかけてしまった。

「フォ、フォーゼさん……?戻ってきたんですか?」

いや、違う。戻ってくるには早すぎる。それにあの人ならもっと騒がしいはずだ。
逃げなければ。どこでもいいから隠れなければ。頭ではわかっているはずなのに。
千早は振り返り、その正体を確認する。


「おい、お前もこのバトルロワイアルの被験体にされたフィギュアなのか」


そこに立っていたのは――人型ロボットのフィギュアだった。

白い色を基調とした上半身、その左腕には巨大なドリルが装着されている。

自分のような人間型フィギュアではない。
表情も持たず、ただ無機質に相手を冷たく見据える――

あの、赤い殺戮者と同じ存在。


「―――!?」

そう意識した途端、千早の思考が、恐怖に染め上げられていく。
恐怖は拒絶の意思へと変化する。その意思に呼応するかのように――

左腕に嵌めていたブレスレットが。
何かあった時のためにと、先程フォーゼから渡された、ブレスレットが――

――光った。

光は千早の左腕から飛び出し、刃のような形状に変形する。
光の刃はまるで生き物のように、千早の前にある恐怖の対象――ゲッターロボへと向けて、襲い掛かった。

「――ッ!?」
『うお、危ねぇ!!』

光はゲッター2の頭部のすぐ横を掠めていった。
的を外した光の刃は、その勢いのままに後ろの棚に直撃する。
振動で、その上の食器棚から食器が何枚か滑り落ちた。
床へと落下した食器が派手に割れ、喧しく音を響き渡らせた。

「う、あっ……!」

派手な音が、千早の思考回路にさらなる焦りをもたらす。
千早はバランスを崩し、尻もちをつき……腰を抜かしたのか、そこから動けなくなった。
そんな彼女の拒絶の意思に愚直に従うかのように、光の刃は再び飛び回り、ゲッターを攻め立ててくる。

「おい、やめろ!俺はお前を襲うつもりはない!!」
『駄目だ、あの嬢ちゃん完全にパニクっちまってるぜ』

コダールiに襲われた恐怖が色濃く残っている千早が、パニックに陥るのは無理のないことだった。
これが彼女と同じような人間タイプのフィギュアであれば、こうも取り乱すことはなかったかもしれない。

千早が身に着けていたこのブレスレットの名は『ウルトラブレスレット』。
ULTRA-ACTウルトラマンジャックに付属する武器パーツで、ここでは仮面ライダーフォーゼに与えられた拡張パーツの一つだった。
ウルトラマンジャックの本た……代名詞とも言えるこの武器は、使用者の脳波に反応し様々に変形し、効果を発動する。
槍や盾への変形、他にもピンチの時にふしぎな効果を発動して使用者を助けてくれるらしい。
今発動しているのは、ジャックが最も多用した、ウルトラスパークと呼ばれる形態。
ロケットの形状をした小型ナイフに変形し、そこにエネルギーを纏わせ投擲、光の刃として自在に舞いながら、敵を切り裂く。
その技は、ベムスターを初めとする幾多の凶悪怪獣達を打ち破ってきた。

しかし――





「どうしたんだ、千早!大丈夫か!!」

キッチンに新たな影が現れる。騒ぎを聞きつけたフォーゼが、急遽引き返してきたのだった。

「ッ……フォーゼさん!?」
「おい、そっちのお前……くっ!?」

執拗に襲い掛かる光の刃が、ゲッターのボディを掠めていく。
フォーゼに意図を伝えようにも、ウルトラスパークの執拗な襲撃を前に、言葉が繋がらない。

「お前が何者かはわからねぇが……千早に手を出させはしねぇ!仮面ライダーフォーゼ、タイマン晴らしてもら……」
「危ない、屈め!!」
「……へ!?」

ゲッター2の声に、反射的にフォーゼは身を屈め――

刹那の後に、光の刃が彼の頭のすぐ上を走り抜けた。

「うおわっ!?」
「フォ、フォーゼさん!?」

あと一瞬でも遅れていたら、フォーゼの首はボディから分断されていたことだろう。
しかしウルトラスパークは止まる様子を見せず、木製の床をガリガリと削り跡を残しながら、Uターンして再びフォーゼに襲い掛かる。

「わ、わわわっ!?おっおい、よせ千早!」
「えっ!?えっ!?」

ウルトラスパークを慌てて回避しながら、フォーゼは千早に呼びかける。
だがブレスレットは、もはや千早の意思から外れ、暴走を起こしていた。
目についた手近な標的――味方であるはずのフォーゼにも、見境なく刃を向けたのだ。

確かにウルトラブレスレットは強力な武器である。
あらゆる宇宙怪獣とも互角に戦える、ウルトラシリーズ屈指のチート武器と言われている。
……だが、それはあくまで使いこなせればの話。
原作でこの武器が猛威を振るったのも、それはジャック本人の高い技量と精神力あってこそということを忘れてはならない。

『な、何やってんだ!?あの嬢ちゃん、仲間まで斬っちまうつもりか!』
「いや違う、様子がおかしい……!」

(制御が……できない!?)

ブレスレットは千早のコントロールを完全に離れていた。
発動の瞬間に千早の抱いた拒絶の念、それに従うままに暴れ続けている。

「千早、ブレスレットを……ウルトラスパークを止めるんだ!!」
「で、でも!?これ、どうすれば止まるの……!?」

使用者の脳波に反応し様々な武器に変形し、効果を発動する。
……言葉にすれば簡単だが、実際に使いこなすとなると全くの別問題だ。
何かの拍子で突然発動し、変形して今まさに飛び回っている光の刃を、すぐに止めることなどできるだろうか?
脳波で制御して動きを停止させろだのどうこうしろなど、そんなイメージをどうやって浮かべられるだろう。
光の国の超技術は、21世紀初頭の平和な日本に生まれた一般人の常識から逸脱しすぎていた。
ぶっつけ本番でブレスレットの仕組みをすぐに理解しものにするには、千早にはあまりにもハードルが高すぎたのだ。
それでなくても、千早は完全に落ち着きを失っている。
例え使い方をマスターできていたとしても、こんな精神状態では十分な制御は不可能だっただろう。

「くっ!駄目、コントロールがきかない……!」
「千早、危ない!避けろ!!」
「え!?」

フォーゼの声に、ブレスレットだけに集中していた千早の意識が、外へと向けられる。
彼女が目にしたのは、暴走するウルトラスパーク。
その進行方向にいるのは――

自分だ。

スパークは、真っ直ぐに千早に向かってきていた。
見境なしの暴走の果てに、ブレスレットはその使用者すらも標的に定めてしまった。
コントロールできない。なら、自分が避けるしかない。
しかし、千早は動けなかった。足が竦み、腰を抜かせたまま、そこから立ち上がることもできなかった。

(あ……)
「千早ッ!!」

フォーゼが焦りを滲ませ叫ぶ。距離的に、彼の助けは間に合わないだろう。
千早にできることは、茫然と迫る刃を眺めることだけ。
迫り来る死を前に、ただ無抵抗を晒すのみ。

(嘘……こんなことで、終わり……?)

ウルトラスパークが、千早の――







千早のいた場所の床を、削り取っていった。







「……え?」

千早は我に返る。
死んでいない。まだ生きている。
何故?いったい何が?
アームのようなものが、彼女の身体を掴んでいた。
視界を上に向ける。

(た……助けて、くれた……?)

先程までの拒絶の対象――ゲッター2だった。

「おい、もしかしてアレをコントロールできないでいるのか!?」
「あ……そ、それは……」

言葉を詰まらせる千早を見て、ゲッターは全てを理解したようだった。
最後まで言い終える前に、彼はフォーゼに向けて叫ぶ。

「そこのお前!話は後だ、一旦こいつを撒くぞ!!」
「え!?あ、おい、待てって!!」

勢いで押し切るような形で一方的に言い放ち、ゲッターは千早を抱えたまま部屋の外へと走り出した。
フォーゼも半ば流される格好で、ゲッターの後を追いかけた。


◇ ◇ ◇


キッチンを出て、居間を抜け、廊下を突っ走り。
背後から迫るウルトラスパークを回避しながら、フィギュア達は玄関へと向かう。
脅威的なスピードと破壊力を併せ持つスパークではあるが、暴走状態ではその性能も持て余しており、
戦闘経験の豊富なゲッターとフォーゼにとってはやり過ごすのは難しくはなかった。
そして、3体のフィギュアは玄関の扉を抜け、家の外へと飛び出し――

「今だ、扉を閉めろ!」
「おっしゃぁ!!」

ゲッター2とフォーゼの二人がかりで、扉を叩きつけるように閉める。
直後――
バリバリバリバリ!!……と、扉を食い破らんかのような勢いで、スパークが扉へと突っ込んでくる音が鳴り響いた。

「うおっ!?」
「鉄製の扉だ、そう簡単に破れはしない」

やがて標的を見失ったのか、扉を削るような音は収まり……
しばらくすると、今度はドタン、バタンと騒々しい音が鳴り響き始めた。
家具が倒れ、小物が落下し、壁に穴を空け……

『何やら夫婦喧嘩でも起こってそうな勢いだなぁ』
『変な例え方してんじゃねぇ。しっかし、厄介な支給パーツもあったもんだぜ』

この民家の玄関のドアが鉄製だったのが幸いした。
いかに強力なウルトラブレスレットといえど数センチの小さなパーツでしかない以上、分厚い鉄の板を乱雑な力任せだけで破ることは難しいだろう。

「あ……その、ありがとうございます……」
「気にするな」

ゲッターに礼を言う千早の態度は、遠慮がちで、どこか怯え気味で、ひどく疲れているようにも見えた。

『ま、こんな物騒なナリじゃ、ビビるのも無理はねぇか』
『そりゃそうだ。やっぱりここは丸っこくて愛嬌もバッチリの俺、ゲッター3で話しかけるべきだったな!』
『何言ってやがる、てめぇを女の前に出したら別の意味で危険だろうが!!』
「竜馬、弁慶。少し黙っていろ」

AIの隼人は、頭の中で漫才を続ける2つのAIを窘めるように黙らせ……ふと、彼に向けられる視線に気付く。

「え……あ、あの」
「……ああ、何でもない。こっちの話だ」

向けられていたのは、千早の面食らったような表情と視線。
どうやらサブAIの発言は、外には聞こえないらしい。

(やれやれ……面倒なことだ)
「俺からも礼を言わせてもらうぜ。千早を助けてくれてありがとな。え、っと……」

もう一体のフィギュア、仮面ライダーフォーゼが話しかけてくる。
こちらは場馴れしているのか、千早とは対照的に堂々としたものだった。

「ゲッター……新ゲッターロボ、だ。
 こっちにはお前達を襲う意図はないし、この殺し合いに付き合うつもりもない」
「そうみたいだな……悪かったな、あんたを誤解しちまってたみたいで」

あまりにもあっさりと言い分を受け入れるフォーゼに、今度はゲッターが面食らう番となった。

「やけに簡単に信じるじゃないか。俺が嘘を言っていたらどうするつもりだ?」
「ここで嘘をつく理由がねぇだろ?あのウルトラブレスレットが俺達を狙ってた間に、あんたはいつでも逃げることはできた。
 けど、それでもあんたは千早を助けてくれた……そうだろ?」
「……」

不意に、家の中から何かが割れるような音が響き、彼らの会話や思考に割り込んでくる。
そういえば、走り抜けた廊下の一角には、花瓶に花が活けてあった。
それが床に落下したのか、あるいはあのブレスレットが直接破壊したか。

「……一応、この家からは離れた方がいいかもしれんな」
『隼人、あの光の刃は放っておいていいいのか?』
『ま、時間が経てばそのうち静まるだろ』
「静まる……?」

ふと、隼人は気づく。
あのウルトラスパークが――ウルトラブレスレットが、何をもって動いているかをだ。
あれが支給されたパーツである以上、特例などを考慮しなければ、その動かし方は原則として同じはずだ。
即ち……使用者の電力を消費することで、動く。

「まさか――!?」



隼人の予感を裏付けるかのように――
突然、千早がその場に倒れこんだ。

「お、おい!?どうしたんだ、千早!?」
「う、ぅ……」

何か傷を受けた様子はない。ただ、急激な衰弱が見て取れた。

「千早、しっかりしろ!?一体何があった!?」
「すみません、急に眩暈が……さっきから、急に内蔵電力の消耗が激しくなって……」

その言葉に、隼人は推測が正しかったことを確信する。

「電力の消耗……やはりか!?」
『おい、どういうことだ隼人!?』
「この子の消耗の原因は……あのウルトラブレスレットとやらだ」

ウルトラブレスレットは、使用者の電力を消費することで効果を発動させる。
これがウルトラランスやウルトラディフェンダーといった手持ち武器への変形であれば、変形に要する電力だけで済むだろう。
だが、ウルトラスパークの場合は話が別だ。この技は発動の際に、常にブレスレット全体にエネルギーを纏わせる。
そのエネルギーの出処もまた、使用者の電力――スパークが発動している間、電力は消費し続けることになる。

「要するに、あのブレスレットがこの娘の電力を吸い続けているということだ。あれを止めない限り、電力の消費は止まることはない」
「な、なんだって!?」
『くそっ、厄介なモン寄越しやがって!!』

千早がウルトラブレスレットを、自分の意思で停止させることができないでいる以上……
ブレスレットは、千早の電力を際限なく吸い続ける。
吸い尽くされて行き着く先は――機能停止だ。

「よし……待ってろ千早!」
「ど、どこ行くんです!?」
「決まってる。あれがお前のコントロールを外れちまってるなら……俺が直接止めるだけだ」

フォーゼは立ち上がる。
同時に、扉の向こうから一際激しく、何かが割れる音が鳴り響いた。
暴れるスパークが、窓ガラスでも割ったようだ。
その暴れようは、家そのものを全壊させるのではないかと思わせるほど騒々しいものだった。

「む、無茶です!あんなのを、どうにかできるわけないじゃないですか!
 あなたも、私も……ただのフィギュアでしかないんですよ!?」
「そいつは、あのブレスレットだって同じだ。だったら、止められないはずがねぇ」
「な、何を……何でそこまで……ヒーロー番組のように、何でも上手くいくわけじゃないんですよ……!?」

こんな自分のために、ヒーローが死地に赴こうとしている。
無意識に自分の殻に閉じ籠り、劣等感の塊になっていた千早には、それが負い目となって心苦しかった。
それでも――

「できる、できないの問題じゃねぇ!友達のピンチを放ってはおけない……それを助けるのに理屈なんかいるかよ!」

彼はそれが当然であるかのように、どこまでも真っ直ぐに言ってみせる。

「チェェェンジ・ゲッタァァァ・ワン!!」

突如、ゲッターが叫び声を上げる。
それと同時に、ゲッター2の姿が変わった。赤を基調としたボディと、2本の角――ゲッター1の姿に。

「え……?この人、急に姿が……」
「よぉ、ロケット頭。俺も手を貸すぜ」

メインAIに切り替わった竜馬が、助太刀を宣言した。

『おい竜馬、何を勝手に……』
『何だよ隼人、いいじゃねぇか。助けるのが反対ってわけでもないんだろ?』
『……まあ確かに、責任の一端は俺達にもある』

突然サブに追いやられ隼人が抗議の声をあげるも、弁慶の言葉に渋々ながら引き下がった。
どの道、彼女を見捨てて去るという選択肢などない。ゲッターに宿る3つの意思は、一致した。

「決まりだな。その娘があれを止められねぇっていうなら、俺達が力ずくで止めるっきゃねぇってわけだ」

そう言うとゲッター1はドアノブの位置まで飛び、身体全体でノブを回して、引っ張る。
フィギュアが通行できる程度に、扉は再び開けられた。

「そういやまだちゃんと聞いてなかったな。お前、名前はなんていうんだ?」
「如月弦太朗……仮面ライダーフォーゼだ!よろしくな、ゲッターロボ!」
「……流竜馬だ」
「え?」
「この形態の時は、竜馬って呼びな、弦太朗。それと、さっきのドリル持った形態の時は隼人っていう。
 あともう一つ形態があるが……まあいいか、どうせ出番もねぇだろうし」
『いや待て、よくねぇだろ!おいってば!!』

弁慶の抗議を無視して、竜馬――新ゲッター1は、フォーゼと共に戦いの扉の奥へと、跳躍する。

「そんじゃ行くとするか!付いて来いよ!!」
「おう!!」


◇ ◇ ◇


ブレスレットの暴れる家の中に再び飛び込むフォーゼとゲッターを、千早は朦朧とする意識の中で見届ける。

やっぱり、あの人達がわからない。
ああも迷いなく死地に飛び込んでいける感覚は、どうしても理解できない。
でも、今あの人達が戦うのは、紛れもなく自分のためだった。
自分を救うために、命を懸けようとしてくれている。
そんな人達に対して、私はいつまで小さなことに拘っているのだろう。

だけど、一つだけ、共感できた点がある。

『できる、できないの問題じゃねぇ!友達のピンチを放ってはおけない……それを助けるのに理屈なんかいるかよ!』

自分のオリジナルである如月千早も、プロデューサーや765プロの仲間達との絆を胸に、前に向かって歩いた。
根っこの部分は、自分達とそう変わりはないのかもしれない。
方向性こそ違えど、同じ人間という生き物が生み出した作品なのだから。

不安と恐怖に苛まれ、周りが見えなくなっていたのかもしれない。
自分だけがただ頑なになって、心を閉ざしていただけで。
自分から、もう少し歩み寄ることを考えるべきだったのか。
最初にフォーゼと出会った時、彼に同行することを決めた時……
彼を羨ましいと――いや、確かに憧れを抱いた時のように。


そう考えると、あの人達に対して、少しだけ安らぎを得られたような気がして。

――なんだか、眠くなってきた。

心地よい睡魔が、急に全身を包み込んでいく。

少女の意識が遠ざかって、そして――


◇ ◇ ◇


書斎。
標的を見失ったウルトラスパークはこの部屋に辿り着き、見境なしに部屋中を荒らし回っていた。
奇しくもそこは、千早とフォーゼが最初に出会った場所。
そして千早を襲った赤いロボットと接触すべく、フォーゼが当初向かうはずだった場所でもある。

「あいつはさっきの……やられちまってるのか!?」

部屋の中に入って、まずフォーゼは驚愕した。
部屋の真ん中に、接触を試みるはずだった赤いロボット・コダールiの残骸が散らばっていたからである。

「あいつ、もしかしてブレスレットにやられて……」
『いや、違うな。頭から肩にかけて吹っ飛ばされている……別の要因で破壊されたと見るべきだ。
 そうなると、他に下手人がいるはずだ……一応周囲にも気を配っておけ、竜馬』
「わかってるよ。弦太朗、ボサッとしてる暇はないぞ!!」
「あ、ああ!」

ウルトラスパークが、ゲッターとフォーゼの存在に気付く。
すぐに2体を標的に定め、その刃で屠らんと襲い掛かってきた。

しかし結論から言うと、歴戦のヒーロー2体の前では、ウルトラブレスレットといえど敵ではなかった。

『かなりの高エネルギーを発しているな。直接受け止めるのは無謀だ、逆にこっちが切り刻まれかねん』

隼人の忠告を受け、2体は遠距離攻撃での撃破を試みた。
ゲッターは自身を囮とし、ウルトラスパークを引きつける。

『かなりのスピードだが、動きは直線的で読みやすい。こんな所で余計なダメージを受けるなよ』
「バカ言え、俺がそんなヘマをするかよ!!」

《 FIRE ON 》

一方フォーゼはファイヤーステイツにチェンジし、ヒーハックガンによる射撃攻撃を仕掛けた。
炎の弾丸が跳ぶ。だがウルトラスパークの纏う強力なエネルギーの前に、炎は弾かれてしまう。
勢いを多少は削げるものの、決定打としては届かない。

「くそっ、しぶとい奴だぜ!!」
「あまり時間はかけられねぇ!弦太朗、同時にぶちかまして一気に黙らせるぞ!!」
「おうッ!!」

ヒーハックガンのスロットにファイヤースイッチを接続し、リミットブレイクが発動される。
ゲッターの腹部から、ビームの発射口が露わになる。

「いくぜ!!ライダァァァ爆熱シュゥゥゥト!!!」
「ゲッタァァァァァァビィィィィィィィム!!!」

二人の強力な一撃が、同時に叩き込まれ――




ウルトラスパークは沈黙した。
纏っていたエネルギーを失い、元のブレスレットの形状に戻って、床へと落ちた。

「ま、ざっとこんなもんよ。たかだかパーツ一個でゲッターを止められるとでも思ったか」
『……言うほど簡単な物でもなかったぞ。同時攻撃の一撃でようやく相殺できたような代物だ。
 もしゲッター単独で挑んでいたら、もっと手こずっていた』
『結局、ゲッタービームでこっちも消耗しちまったしな。ちょっとは考えろって言ってんのに』
「……うるせーよ!」

勝ち誇る竜馬を、隼人と弁慶が窘める。
事実、ウルトラブレスレットの性能は決して油断の出来るものではなかった。
暴走状態ゆえに対処は難しくはなかったものの、もしこれが真っ当に制御され本来の力を完全に発揮していれば、
恐るべきレベルの兵器として、原作同様に猛威をふるったことだろう。

「どうする隼人、二度と作動しないよう完全にぶっ壊しとくか?」
『今後のことを考えるなら、できれば使える武器は少しでも確保しておきたいところだ。ここらに転がっている武器も含めて、な』

ウルトラブレスレットと、そしてコダールiの周囲に散らばる武器パーツを一瞥し、隼人は言った。
そんなゲッターのもとへ、フォーゼが歩み寄ってくる。
消防士のようなファイヤーステイツの赤い姿は、元の白いベースへと戻っていた。

「よう、お疲れさん。なかなかやるじゃねぇか、弦太朗」
「へへっ、俺は全てのフィギュアとダチになる男だ。これくらいで止まってられねぇぜ」
「……全てのフィギュアと、だぁ?」

えらく夢見がちというかぶっ飛んだその発言に、竜馬は露骨に呆れ返った。
しかし、次に続いたフォーゼの言葉は、彼の想像のさらに斜め上を行っていた。

「ああ!そしてゆくゆくは……この殺し合いをやらせている黒幕の人間達とも、友達になる!」
「……はぁ!?何言ってんだお前?」

あまりの宣言に、流石のゲッターのAI達ですらも唖然とする他なかった。

『何なんだこいつ?殺し合いに巻き込まれて、おかしくなってるんじゃないだろうな』
『いや……こいつは本気で言ってやがる』

たった一つの生存権を懸けて、殺意や憎しみ、そして疑心暗鬼も渦巻くことになるであろうこの舞台。
その状況下においてあまりに楽観的な、現実が見えているいない以前の言葉だった。

「全ての、か……つまりその中に、俺達も巻き込もうってわけか」
「まあなっ!」

胸を張って言いながら、フォーゼは拳をゲッターの前へと突き出す。
何かを期待しているようだったが……ゲッターはその拳に目もくれず、フォーゼに背を向けた。

「……生憎だが、そういうお手々繋いで馴れ合うようなノリは、御免だぜ。
 お前が何を考えてようが、俺は自分のやることを変えるつもりはねぇ。
 同じフィギュアだろうが黒幕の人間どもだろうが、俺の邪魔をする奴は誰であろうと容赦なく叩き潰す」

そう言ってのける竜馬に、しかしフォーゼは言い返すことはない。
その理由は――既に双方の意図が通じ合っていたからか。
ゲッターはもう一度、フォーゼに向き直り、言った。

「けどまぁ……そんなバカなことをマジでやるつもりなら、俺もてめぇを否定するつもりはねぇ。
 俺は俺、お前はお前……せいぜい頑張るこった」
「そっか、今はそれだけでも十分だ。けど、いずれあんたも俺のことをダチって呼ばせてやるぜ」

まあ、諦めないんだろうな。こいつはある意味、底抜けだ。
そんなことを思いながら、ゲッターは再び背を向けた。

「……それより早いとこ、あの嬢ちゃんの所に行ってやんな。このブレスレットのせいで疲れちまってるんだろ」
「ああ、行ってくる!」

千早のもとへと戻るべく、フォーゼは玄関へと駆けて行った。
そして、書斎にはゲッター1体だけが残され、静けさが戻った。
やがてゲッターの内部で、沈黙していた二つのサブAIが口を出してくる。

『ああ言った割には機嫌良さそうじゃないか、竜馬?』
「さてな。ダチがどうとかはともかく、ああいうバカは嫌いじゃねぇよ。
 殺し合いに巻き込まれて、変な夢も見て……いよいよ俺までおかしくなっちまったのかもな?」
『お前がそんなタマか。ただ、お前と同レベルのバカが他にもいた……世の中は広いってだけの話だ』
「けっ、言ってろ」

『だがな……あいつの考え方は、ある意味では人間と玩具の関係の真理を突いているかもしれん』

隼人の思わぬ発言に、竜馬と弁慶は驚く。
隼人のフォーゼに対する印象は、意外にも肯定的だった。

「……珍しいな。お前があんなのと同調するなんてよ」
『同調というわけではないが……もし、この殺し合いが全て終わった後のことを考えるなら……
 あいつの言い分も、馬鹿げていると一蹴できる問題ではないだろうな』
「おいおい、まさか人間達に媚びようってんじゃねぇだろうな」
『馬鹿を言え。そもそも媚びて話が通じる奴が、こんなくだらん殺人ゲームなど始めはしない』
『そうそう。そして俺達みたいなろくでなしを呼び出したりしねぇよな』

隼人と弁慶もまた、同様だった。ただ一途に我が道を貫き通す。
結局このゲッターチーム3人の人格は、突き詰めれば皆、似た者同士なのだ。
そして、方向性こそ違えど、恐らくはフォーゼも。

「この殺し合いで人間が何を企んでるか、どうして俺達のような人格をフィギュアに宿したか……理由なんざ知ったことじゃねぇ。
 ただ、俺達の活躍が望みというなら、存分に見せつけるまでだ。
 そして味わわせてやる。フィギュアと、原作の人格の意地と――ゲッターの恐ろしさをな!!」



その時――



「千早ッ!!」



玄関から、フォーゼの声が聞こえた。


「おい、千早!!」


その声色には込められていた。ただならぬ事態が発生した、という意味が。
彼の声を受けて、ゲッターもすぐに玄関へと走る。


「なんだ、どうしたんだ弦太朗の奴!?」
『……まさか!!』

隼人の思考が、一つの可能性に行き着く。
それは、ブレスレットが停止した理由についてだ。
ゲッターとフォーゼの攻撃で、ブレスレットは沈黙したと思っていた。
だが、原因はそうではなかったとしたら?
拡張パーツの使用には、性能や効果に応じて消費電力も変わってくる。
ブレスレットの力は、武器としては極めて強大だった。その分燃費も馬鹿にならないと考えるのが自然だ。
そんな武器が、長時間起動し続けた。
その際に消費される電力が、予想を遥かに上回っていたとしたら。

供給されていた電力が、底を尽いたという可能性。
それはすなわち、最悪の結果――手遅れだったことを意味する。

「弦太朗!!一体何が!?」

玄関の扉を出て、そこでゲッターが見たものは――










「千早が……千早が、どこにもいないんだ!!」









ただ一人、立ち尽くすフォーゼの姿だった。



「なっ……!?」


予想外の展開に、ゲッターは暫し絶句する。

『いなくなっただと……?そんな馬鹿な』

それは隼人の危惧した最悪とは、全く違うものだった。
最悪にこそ至らずとも、しかし同時に、極めて不穏な空気を感じさせる展開でもあった。

「すまねぇ竜馬、千早を探すのを手伝ってくれ!動き回るにしてもそう遠くには行かないはずだ!」
「あ、ああ!わかってる!」

呆然としている暇はない。フォーゼの声に我に返ったゲッターは、彼と共に千早を捜し始める。
だが、隼人は解せない。何故、千早は姿を消したのか。
あの消耗具合で、大きく動き回れるとは到底思えなかった。

『一体どうしちまったんだ千早ちゃんは……そんなに俺達が信用できなかったのかなぁ……』
「さあな。けどだからって、あんな状態で一人にさせられねぇだろ。ったく……どうなってやがる」
『わからん、だが……』

隼人のAIの思考の中に、一つの推測が浮かび上がる。
この場に、第三者が介入したという可能性だ。
一体誰が?あの赤いロボットのフィギュアを破壊した下手人だとしたら、危険だ。
では何の目的で?殺し合いに乗っているなら、その場で破壊しているはずだ。
それとも、消耗した彼女を助けようとして、連れ出したのか?
外にも音が聞こえるほど激しい戦いだった、この場を離れるという選択肢はありえる。
ともかく、その第三者が殺し合いに乗っている側であろうと、自分達同様に良しとしない側であろうと……
どういうスタンスを持っていたとしても、事態が面倒な方向へとこじれていることは確かだ。

『どうも、嫌な流れになってきやがった……』

自分の思考が予測する可能性の中に、確実に暗雲が立ち込めてきているのを、隼人は嫌でも感じさせられた。


【黎明/エリアA(民家・玄関前)】

【新ゲッター1@リボルテック】
【電力残量:30%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、プチマスィーンズ(ハウリン)@武装神姫、ミニギャオス(ギャオス)@リボルテック、ウルトラブレスレット(ウルトラマンジャック)@ULTRA-ACT
    マグナバイザー(仮面ライダートルク)@figma、マーカライトファープ(モゲラ)@リボルテック、コダールi基本パーツ一式@ROBOT魂】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
 基本方針:主催者へ反抗
 1:千早を探す
 2:襲ってくる相手は倒す
※新ゲッター2、新ゲッター3へチェンジできます。

【仮面ライダーフォーゼ@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(モジュール全種)、拡張パーツ×1(確認済)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:すべてのフィギュアとダチになる
 1:千早を探す
※ベース・エレキ・ファイヤー・マグネットの各ステイツにフォームチェンジが可能です。
※コズミックステイツへのチェンジには何らかの条件がある模様です。


◇ ◇ ◇


――彼らのいた家から少し離れた、とある別の民家にて。

その一室に、クレイドルの上で眠る、如月千早の姿があった。
そして彼女の傍らには、一体のフィギュアの姿。

「……なんとか間に合ったか」

figma No.137、テッカマンブレード
彼が、千早を連れだした張本人だった。


彼は阿修羅の最期を看取った後、近辺の住宅街を徘徊していた。
他のフィギュアを、そして阿修羅を殺したであろうゲッターを探して。
そんな時、ある民家から大きな音が聞こえてきた。
人為的に発生した、激しくけたたましい音が。
――戦いの音だ。

ブレードはすぐに音の聞こえた家へと向かった。
まだ始まって間もないにも拘らず、ここまで激しさを感じさせる戦闘を行えるとなると、殺し合いに乗っている輩である可能性が高い。
だとすれば、その危険人物……いやフィギュアは、すぐにでも打ち倒さねばならないだろう。
そう判断して、ブレードが家の前まで辿り着くと……

その家の玄関前には、少女が一人倒れていた。
少女は酷く衰弱していた。外傷はない、ただ内蔵電力だけが極端に消耗しているようだった。
家の中から聞こえる戦いの音は、鳴り止むことなく続いている。
恐らく、少女と無関係ではあるまい。この戦いから、命からがら逃げてきたのだろうか?
そしてその際に使い慣れない武器やパーツを使って、電力を過剰に消耗してしまったのかもしれない。
見た限り、バトルには縁のない非戦闘タイプのフィギュアのようだ。
いずれにしても、目の前で弱っている少女を放置してまで、戦いに臨むことはできなかった。
中で殺し合っている輩も気になるが、今はまずこの少女を助けるのが先決だった。
すぐにでも消費した電力を回復させなければ、命に関わる。一刻の猶予もない。

かくして、ブレードは少女――千早を抱え、彼女を安全な場所まで避難させることを選んだのだった。



「あの家の中で戦っていたのは……もしや件のゲッターロボなのか、それとも……」

千早をクレイドルの上に寝かせ、事態が落ち着きを取り戻してから、ブレードはひとり考える。

ゲッターロボ……曲がりなりにも、一つの作品の主役ロボットだ。
悪しき存在から人類を守って戦った、正義のロボットであることには違いない。
それはあの阿修羅像を破壊した可能性の高い、残虐なゲッターロボにしてもそうだ。
いかに残虐で外道な輩だったとしても、悪に堕ちるとは考えにくい――

ふと、ブレードは疑問を抱く。
ゲッターには、本当に原作のキャラの人格が宿っているのだろうか?と。
乗っているパイロットならともかく、ゲッター自体はただの兵器であるはずだ。
兵器に人格など存在するのか?彼らにとっての原作の人格というのは、何を指すというのか?
疑問はさらに広がっていく。

そもそも――本当に全てのフィギュアに、原作に基づいた人格が与えられているのだろうか?

ロボットタイプに限らず、全てのフィギュアに対して言える疑問だった。
フィギュアに宿された人格が、原作と全く同じであると誰が保証できるだろう?
いや、仮に人格が原作に近づけられていたとしても同じことだ。周囲の環境や条件でその動き方は如何様にも変わる。
それはつまり……原作の情報とそれに基づいた善悪の判定が、全くアテにならないということでもある。

例えば正義のヒーローを模したフィギュアがあったとして、人格まで確実にヒーローのものであると言い切れるのか?
ヒーローの姿を模しただけで、そこに宿っているのは悪しき人格……その可能性を否定できるだろうか?

彼がこうした可能性を考えるに至ったのは、彼自身、既に原作とかけ離れている自覚があるからだ。
確かに人格こそDボゥイのそれを受け継いでいるが、ただそれだけでしかない。
原作におけるDボゥイ――相羽タカヤの物語は、あまりにも壮絶で悲劇的だった。
家族と殺し合い、かけがえのない記憶すらも失い、最後には廃人となって全てを失った。
だが、ここにいるfigmaのテッカマンブレードはどうだ。
オリジナルのこれらの記憶や経験こそ確かにあれど、それらも結局は他人事でしかない。
彼自身には、初めから家族もなければかけがえのない物も何も持ち合わせていない。
悲劇の要因ともいえるものは全て排除され、もはやオリジナルとは全く別の存在と言っても差し支えはなかった。

彼は、オリジナルが背負う全ての悲しみから解放されたテッカマンブレードである。
悲劇的な背景などない。残酷な運命もない。大切なものを失っていく苦しみも存在しない。
失うものなど最初から持っていない。背負う物もなければ……そこから生まれる意志もない。
彼は自由だった。
同時に、残酷なまでに孤独だった。

自分達はフィギュアであり、人間の手で作られた存在である。
人間達の手で、その身体にどんな仕掛けがしてあるかわかったものではない。
全てのフィギュアに同じ条件が与えられている確証はないし、自分の中にも未知の要素が加えられているかもしれない。
……そういう意味では、今目の前で眠っている少女も、無害であると断言できるわけではない。
非戦闘タイプに見えるが実は強大な戦闘力を秘めているかもしれないし、残酷な悪魔のような人格を宿している可能性もある。
疑念を抱き始めればキリはない。
それでも、彼女を助けることを選んだのは……オリジナルの記憶ゆえか。

彼は無意識に、千早に妹の姿を重ね合わせていた。
原作における彼の妹――相羽ミユキの姿を。
あるいは……
背負う物も大切な存在も持ち合わせないフィギュアの彼が、その空虚を埋めるために、千早にその役割を求めたのか。

如月千早は眠り続ける。
フォーゼの、ヒーロー達の見せた姿に、ほんの少しの自信と希望を見出し、ささやかな安堵に包まれながら。
取り巻く環境が大きく変貌していることなど、露とも知らず。
眠っている間に、彼女を中心に事態がこじれ始めていることにも気付かずに。

【黎明/エリアG(民家・居間)】

【テッカマンブレード@figma】
【電力残量:80%】
【装備:テックランサー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、槍(阿修羅)@リボルテック、弓矢(阿修羅)@リボルテック、パニッシャー(ウルフウッド)@リボルテック、三叉矛(海皇ポセイドン)@聖闘士聖衣神話、拡張パーツ×1~2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:殺しあいの打破
 1:少女(千早)を守る
 2:民家の中で戦っていたフィギュアを警戒
 3:ゲッターロボ(阿修羅の破壊者)を倒す

※ゲッターロボの内の一体が殺し合いに乗っていると思っています。
※他のフィギュアの人格が原作通りではない可能性を警戒しています。

【如月千早@figma】
【電力残量:5%(回復中)】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイク・スピーカー・フットモニター・照明機材)、拡張パーツ×1(確認済)】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
 基本方針:私の、したいことは……
 1:フォーゼ、新ゲッターを信用し、共に行動する。


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最終更新:2014年12月16日 01:51