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問・ストーリー ◆ACT//GA03c



 オモチャの幸せは、持ち主に遊んでもらえること。

 それが、明るく責任感が強く時には頑固で、だけどやっぱり頼れるみんなのヒーロー「トイ・ストーリーのウッディ」の信念だ。

 オモチャを大事にしない少年に捕まった時も、飛行場での大ピンチの時も、保育園からの脱出の時だって。
 どんな時もウッディが諦めないのは、同じオモチャの仲間達みんなと一緒に、持ち主のアンディのところへ帰ろうとするためだ。
 ウッディにとってのアンディはただの持ち主じゃない、言葉を交わさなくても通じ合う絆を互いに結んだ、掛け替えのない友達だからだ。
 だからウッディは諦めない。だからウッディは立ち向かう。だからウッディは手を差し伸べる。だからウッディは――


「……それはトイ・ストーリーのウッディだ。じゃ、俺はなんだ? 俺の持ち主は、俺で何して遊ぼうってんだ?」


 綿の代わりに特殊樹脂とメカニックを全身に詰め込んだ「アクションフィギュアのウッディ」は、
 何度繰り返したか分からない独り言をまた呟いて、膝を抱えたまま溜め息を付いた。
 あれから……エウクランテの武装、プレステイルが動かなくなって、茫然自失のままゴミ捨て場のブロックの影に隠れてから随分経った。
 目の前には相も変わらず、全高15センチのウッディにとっては文字通り山のようにそびえる幾重にも積み重なったゴミ袋。
 こうしてゴミに紛れていると、まるで自分が本当にガラクタになってしまったみたいで気が滅入る。
 映画のウッディは、本当にゴミの中に埋もれても諦めなかったのに。

 そうだ。映画のウッディは自分がオモチャであることに誇りを持っていた。
 人間に遊ばれ、人間を楽しませることを心の底から喜んでいた。
 人間のために生き、人間のために尽くすのがオモチャの使命。そう固く信じて、決して疑わなかった。

「もしも俺の持ち主がエウクランテみたいな子を酷い目に会わせたがってるのなら、その通りにするのがオモチャの使命だってのか……?」

 フィギュアのウッディには、それが未だに分からない。
 映画での出来事は、まるで自分自身が体験したかのようにはっきりと思い出せるのに、オモチャの誇りが実感できない。
 ほんの少し前まで、武装神姫の少女エウクランテと話していた時までは自分自身でも疑っていなかったオモチャとしての自分。
 そのアイデンティティをあのロボットのオモチャ、天のゼオライマーは粉々にしてしまった。それも、エウクランテの命ごと。
 命を懸けてウッディを助けたエウクランテの死を、自分をここまで運んだプレステイルの機能停止を通じて実感したあの時の気持ちが忘れられない。


「こんな時、みんなならどうするんだろうなぁ……」


 ウッディは映画での相棒バズ・ライトイヤーを、ジェシーやブルズアイを、スリンキーやミスターポテトヘッド、ハムやレックスのことを思い浮かべた。
 せめてあのオモチャ箱の仲間達が一緒なら、ウッディはゼオライマーの見せたあんな画像なんかに惑わされずに、ヒーローらしくいられるのに。
 誰でもいい。ウッディのことを知っている誰かに、あんなの間違いだ、本当のウッディはヒーローなんだと、背中を押してもらえたら……。


「……ん?」


 そう考えていたウッディは、ふと目の前のゴミ袋の隙間に、何か見覚えのある水色のものが挟まっているのに気が付いた。
 なんだろうと首を傾げ、試しに引っ張ってみる。
 それは筒型をふたつ並べて繋げたような形で、小さな足が二つ生え、筒の太い方は目になっていた。
 一言で言えば、双眼鏡をキャラクターにしたようなオモチャ。それに気付いたウッディの表情から、沈痛の色が瞬く間に抜け落ちていった。


「……レニー!!!」


 アンディのオモチャのひとつ、双眼鏡のレニーじゃないか!

 ゼンマイ駆動のよちよち歩きで、めったに口を利かないけれど、その双眼鏡としての機能でウッディやバズを影から支えた名脇役だ。
 トイ・ストーリー3では既に他の家にもらわれていったのか登場しなかったが、まさかこういう形で再会することになるなんて。
 ウッディは感激のあまりレニーを抱き上げ、頬ずりし、そのまま三回転ほどしてからコンクリートの地面に下ろし、話しかけた。

「久しぶりだなレニー! いやフィギュアの俺達が久しぶりっていうのもおかしいか。なんだろ、初めましてぶりだなレニー?」

 自分でもつまらない言い回しと思ったが、案の定というかレニーはピクリとも反応しない。
 相変わらず台詞の少ない奴だなとウッディは感心した。

「どうだい、再会を祝して久々にスタッフミーティングでもやるか? なに二人きりじゃ盛り上がらない? まあそう言うなって。
 えーと本日の議題は、単3電池の管理方法について……ってお前はゼンマイだし今の俺もバッテリー駆動か。じゃあ次は……」

 ウッディは大げさな身振り手振りで、演説するかのように声を張りながら、ちらりとレニーを見た。
 レニーは微動だにしない。ウッディはやれやれと肩をすくめて水色のボディを抱き上げた。

「おいおい、いくら何でもそこまで無愛想なやつだったかレニー? 人に話しかけられたときは……」

 それまで舞い上がっていたウッディは、そこでようやく不審に思った。

 試しに揺さぶってみる。動かない。

 軽く手のひらで叩いてみる。反応がない。

 すぐそばで声を出してみる。何も返ってこない。

 そんなことをしばらく繰り返し、何度も名前を呼び、嫌な予感が確信に代わって、そこでようやく。
 そこでようやく、ウッディは茫然自失の表情でレニーを抱えたまま尻餅を付いた。


「……AIが、入っていないのか」


 この「双眼鏡レニー」は、このゴミ捨て場に落ちてくる時にウッディ自身が知らずに放り出していた、ただの付属パーツだった。
 それに当たり前のように話しかけてしまったのは、ウッディが「トイ・ストーリー」のフィギュアだったからに他ならない。
 無意識のうちに、オモチャはみんな生きているものだと思い込んでしまって……武装神姫の技術が組み込まれた自分達が特別なのだと、気付けなかった。


「俺は心を組み込まれたオモチャで、お前はただのオモチャ。トイ・ストーリーみたいには、いかないんだな……」


 物言わぬ双眼鏡レニーを抱えたまま、ウッディは項垂れた。
 なんでよりにもよって、オモチャのオモチャなんて作ったんだ。もしも人間のオモチャなら、こんなことで悩まずに済んだのに……。



 と。



「――何をひとりでブツブツ言っているのか知りませんが。ひとつお尋ねしてもいいですか」


 自分の世界に沈み切っていたウッディの耳に、聞き慣れない少女の声が聞こえた。

「えっ?」

 とっさに声のする方へと振り返る。
 ただ運の悪いことに、ちょうど両手で抱えていたレニーを覗き込むような形のまま、だ。
 その結果。


「………………????」


 双眼鏡越しのウッディの視界を、ふたつの巨大な何かが埋め尽くした。
 あまりにも拡大されすぎていて何を見ているのか分からなかったウッディは、恐る恐るレニーから顔を離した。

 視界をそっとゆっくり上げる。顔を真っ赤に染めて自分を見下ろしているのは、帽子を被った銀髪の少女フィギュアだ。
 そして双眼鏡レニーの視線は、その顔よりも幾分下を向いていて、つまりウッディがさっきまで除いていたのは。


「……ど、こ、を……!」


 肩をわなわなと震わせる少女の声が、事態を悟ったウッディよりも先に響く。

「あ、いや、違う、これは誤解、誤解だって!」


 ウッディの言葉はまるで届いていない。憤怒の表情の少女の手に、巨大な銃が出現する。
 その先が真っ直ぐウッディの方へ向き、指が迷いのない動きで引き金に掛かって、


「どこを見てるんですかあなたはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「違うんだァァァァァァァァァァァ!!」


 乱射される弾丸がそこら中のゴミ袋に無数の穴を開け、ウッディは平謝りに謝りながら逃げ惑った。



   ▼  ▼  ▼



「……言い分は分かりました」


 数刻の後。

 ウッディは思いつく限りの謝罪の方法を試し、辛うじて彼女(アリサというらしい)の気を鎮めることに成功した。


「それにしても、あなたみたいなフィギュアがいるなんて……不潔です」
「だから違うんだよ……俺はそんなフィギュアじゃ……」
「正直ドン引きです」
「……………………はぁ」


 ただし誤解は全く解けておらず、辛辣なアリサの言葉はただでさえ自分の存在に揺れていたウッディの心に容赦なく突き刺さっていた。
 なんとか身の潔白を証明しようとするウッディにこれ以上の問答は時間の無駄とばかりに背を向け、アリサは問う。


「ただの質問に随分と時間を取られてしまいました。あなた、雪菜=シュネーラインという名前に心当たりは?」
「雪菜? 知らないな。女の子のフィギュアなのか?」
「……………………っ」
「なんで女の子って言っただけでそんな顔するんだよ!?」  
「いかがわしいことを考えていそうだからに決まっているじゃないですか」
「だから誤解だって!」


 もう完全に変態フィギュアだと思われてしまっている。これじゃまるでゼオライマーが見せた画像のままだ。
 ああいう風にだけはなりたくないと思っていたのに、現実は残酷過ぎる。


「分かりました、もう結構です。私は先を急ぎますので」
「先? その雪菜って子に何かあるのか?」
「あいにくケダモノを案内する気はありません。くれぐれも付いてこないでくださいね!」

 最後までツンドラのように冷たい言葉のまま、アリサはマンションの階段の方へ走っていってしまった。
 取り残されたウッディは、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった。


「……なあレニー、俺の役割ってこういうのか?」


 双眼鏡に話しかけるが、当然返事はない。
 ウッディはそのまましばらく突っ立ったままの姿勢でぼんやりしていたが、ふと我に返ると頭をぶんぶんと振った。


「やめだやめだ! そんなわけあるか! 誰かが困ってるかも知れないんなら、助けにいくのが『ウッディ』だ!」


 着いて来られたらあのアリサって子はさぞかし嫌な顔をするだろうが、それでも彼女が困っているのなら何とかしたい。
 雪菜というフィギュアを探しているのなら手伝ってやろう。もし危ない目にあっているなら助けてやろう。
 ウッディならそうする。そうするのがウッディだ。ウッディならそうしなきゃいけないはずだ。

 だって映画の中のウッディは、決して仲間を見捨てない。
 だから仲間を見捨てなければ、映画の中のウッディになれるかもしれない。

 本当に彼女を助けたいのか、それとも彼女を助けることで自分を証明したいのか。
 自分でも何が何だか分からなくなりながら、ウッディはレニーを拾い上げ、慌てて走り出した。


【深夜/エリアL(マンション昇降口そば)】

【ウッディ@リボルテック】
【電力残量:85%】
【装備:双眼鏡レニー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイク)、ヂェリカン@武装神姫×4、プレステイル@武装神姫、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:全身に大小の傷。熱によって各部変形】
【思考・行動】
 基本方針:映画のウッディのようになりたい。
 1:アリサの力になりたい
 2:あわよくば誤解も解きたい


   ▼  ▼  ▼


(まったく、とんだ時間の無駄遣いでした!)

 アリサは憤慨しながら、階段を一段ずつ跳躍して登っていった。

 一刻を争うかもしれない時に、よりにもよってあんなフィギュアに出会うとは。
 確かにアリサの服装は相当際どいし、このスケールのフィギュアにしてはかなり胸は大きいが、それでも不愉快なものは不愉快だ。
 あんなフィギュアのことはさっさと忘れてしまおうと、無理やりに思考を切り替えていく。


(雪菜……あの双子座のサガが洗脳したという少女。いったい何のフィギュアなのでしょうか)


 移動中にネットツールで検索してみたのだが、どうも雪菜=シュネーラインとはフィギュア素体の名前らしく、いまいち要領を得ない。
 少なくともアーマーガールズプロジェクトに分類される、MS少女と呼ばれる存在ではあるらしいのだが。

 一方、双子座のサガの情報はすぐに手に入った。なるほど、『双子座』と呼ばれるだけのことはある。
 善と悪、二人のサガがあの体の中に同居していて、悪のサガが雪菜を洗脳したということか。

(まだ信用したわけじゃありません。もしかしたら、悪の心のままで私を騙していたのかもしれない。それでも……)

 アリサは階段を登りながら唇を噛み締めた。

(……私の前で誰かが死ぬなんて、もうごめんです。あんな思いは、もう二度としたくない……!)


 目の前で両親を失ったのも、錯乱して同じ部隊のリンドウを撃とうとしたのも、自分ではなく「本物のアリサ・アミエーラ」だ。
 それでも、自分のそばで犠牲を出すなんて真っ平だった。
 雪菜も、マンションにいるというフィギュア達も、死なせてたまるものか。
 アリサは神機のグリップを強く強く握り込んだ。

 神を喰らうもの(ゴッドイーター)は、人を喰らうものを討つためにいる。
 人を討つためにいるのではないのだから。


【深夜/エリアL(マンション1階・階段部)】


アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts】
【電力残量:65%】
【装備:神機銃形態】
【所持品:クレイドル、神機、拡張パーツ×2(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
 基本方針:マンションの3階に向かう。
 1:サガの伝言をマンション組に伝える。
 2:サガのことはまだ信じ切れない。
 3:ウッディのことは忘れたい。



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最終更新:2014年07月08日 01:14